LWのサイゼリヤ

ミラノ風ドリア300円

99/99/99 LWのサイゼリヤにようこそ

オタクのブログです。

/* メモ
トップ記事更新:25/6/22
2020年4月以降の記事は全部載せたがそれ以前の記事は絞っている
人気記事に★マークつけた

*/

■『魔法少女七周忌♡うるかリユニオン』掲載中

あれから七年、皆が魔法を拗らせた。
元魔法少女と元敵幹部が再会するガールミーツガール。

www.alphapolis.co.jp

 

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■創作
魔法少女七周忌♡うるかリユニオン(うるユニ)』あとがき
席には限りがございます!(にはりが)』解説大反省会1大反省会2
ゲーミング自殺、16連射アルマゲドン(ゲーマゲ)』解説
皇白花には蛆が憑いている(すめうじ)』解説
Vだけど、Vじゃない!(VV)』

■サイゼミ
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■理系トピックス
岡留剛『深層学習 生成AIの基礎』感想 ニューラルネットも平成から令和へ!
スピリチュアルに負けないために学び直す量子力学
★タネンバウムの『コンピュータネットワーク』を読んでワンランク上の現代人になった
ソシャゲのデータサイエンスというのはガチャの排出率を考えることではなくて……
ひろゆきと親しむ身近な因果推論
データサイエンティスト業務用リハビリ書籍感想
★データサイエンス系資格だいたい全部取った
データサイエンスエキスパート攻略
『入門 統計的因果推論(Judea Pearl)』メモ
統計検定1級とかいうゲームに勝利した
複雑ネットワーク科学入門書籍の感想
竹村彰通『新装改訂版 現代数理統計学』の感想
ポインタと確定記述、変数名と固有名のアナロジーについて
機械学習入門書籍レビュー

■その他
人生の現在地1/2/
観光地を完全無視して秋田~青森~函館を巡る5泊6日
★美大芸大の卒展巡りにハマったから良かった作品を紹介するぜ
2024年らへんに買ったりして良かった寄りのもの約10選
冬合宿でプレイしたカード・ボードゲーム初見レビュー
ここ最近のデスゲーム系ラノベを10冊読んだ
★東大卒無職のTwitter就活記
カードゲーム『CROSS GEAR』紹介/解説1234
★マジでカードゲーム強い人たちにマジで強くなる方法聞いてきた
2023年買って良かったもの
★「生成AIの『学習』は学術用語だ」ということをそろそろちゃんと説明した方がいい
2023俺が選ぶ歌い手ベスト10
★就活に苦しむインテリの学生に社会の真実を教える
★『粛聖!!ロリ神レクイエム☆』はロリコンソングではありません
中学生ぶりにラノベ熱が再燃したので女性主人公ラノベレビュー12
「入間人間の手口がだいぶわかってきた」って何やねん
1秒もプレイしてないNIKKEキャラデザ真剣評価
重い腰を上げて10年前に積んだ女性主人公ラノベ83冊を崩した1234
AI挿絵付きWeb小説を投稿し始めて2ヶ月経った話
★君はAI創作の最前線にして最底辺「AI拓也」を知っているか
プランナー目線の生成AI妥協論
何故AIにはイラストを発注できないのか?
★小二で全国模試一位を取った男の半生延長戦
人生で初めて歌ってみたに激ハマりしてる話
2021年買ってよかったもの
白上フブキは存在し、かつ、狐であるのか:Vtuberの存在論と意味論延長戦
ゲートルーラーは「本物」かもしれない
表紙が三枚あるノートを特注した話
ロラン・バルト『物語の構造分析』メモ 構造分析vsテクスト分析
プライムデーセールでKindle端末を買うべきか?
『Vだけど、Vじゃない!』:Vtuberはどこにいるのか?
ダブルマスターズドラフト攻略
倫理は永井均しか勝たない
ポストモダニズムから資本主義リアリズムまでの間に何があった!?
『リアリティーショーを批判しているオタクもVTuber見てんじゃん』を受けて
ハッシュタグの氾濫、メタ政治性を巡る闘争
100日後に死ぬワニはなぜ失敗したのか
オタクの中韓コンテンツ張り
『ダンベル何キロ持てる?』を見たオタクが3ヶ月筋トレした結果……
日本興行収入上位映画100本を見た感想
実用系アニメのポテンシャルを評価せよ
ガチャを叩く時代は終わった

25/7/13 社会人プレデター帯では退職間際に人を褒めまくるムーブが強い

退職時のもっと上手いムーブがある

俺が社会人になった頃から既に終身雇用という働き方は過去の遺物で、最近は俺も含めた周囲がもう一度か二度くらいは転職しているような年齢になってきた。

他人の転職話を聞いたり自分の転職を振り返ったりするにつけて思うのは、退職間際のもっと上手いムーブが明確に存在するということだ。
それは最もよく言われるような「立つ鳥跡を濁さず」という類のことではない。つまり共に働いた人々への感謝、現行プロジェクトからの滑らかな離脱、後継担当者への十分な引き継ぎについて考えているのではない。
そういう過去を清算する方向性ではなくて、むしろ逆で、旧職場の資産を未来に繋げていくムーブが強い。具体的に言えば、旧職場の人間関係を退職後のプライベートや仕事において使える人脈にしていくことを目的としたい。
普通に就業していれば、旧職場では周囲と協働してそれなりに高い評価を得ていただろう。新職場に向かうというだけでその評価を全て捨ててしまうのは勿体無い。概ね良好な人間関係は一度学校を出た社会人にとってはダイヤモンドのように貴重なもので、それを増やす機会を逃す手はない。

最も安直な戦略として、日頃から人脈をメンテナンスしておくという考え方もなくはない。つまり働いている内から日常的に声をかけたり飲みに行ったりして、「退職後も付き合うほど仲の良い人を作っておく」という友人戦略もなくはない。
ただ、これはコミュ強ではない我々にとってはややハードルが高い。業務上の人間関係と並行した友人関係を構築・維持するのは大変だし、もっと言えば、退職後に必要になる人脈は距離が近くて親しい同僚というよりは別の部署で別の職能を持っている人である場合の方が多い。
だからもっと妥協して、退職間際にだけちょっと頑張れば次回の接触に繋がるような伏線を張っておきたい。退職から半年〜数年後くらいに連絡してちょっと飲みに行けるくらいが理想的だ。

俺も前職の退職間際にちょっと頑張って接点を作っておいたおかげで、しばらく時間が空いてからも何人か誘って飲みに行って現場の話が聞けたりとぼちぼち機能したりしている。
今のところ現職を退職する予定は全くないが、次があればもっと上手く出来そうだし、人脈を自覚的にメンテナンスしなければならない年齢が来ているということでメモがてら書いておく。

補足592:以下の話は全て同性の社員に対するものを想定している。常識的に考えて、異性の社員と個人的な関係を持とうとするのはやめた方がいい(あなたが女性ならまだいいが、男性ならまずい)。

退職間際に人を褒めまくった方がいい

よほど切羽詰まった職場ではない限り、退職の準備が完全に完了してから実際に最終退勤するまでにはガチでやることがない空白時間が生じることが多い。
その時間が数日か数時間かはわからないが、もう二度と使わない共有フォルダを開いたり閉じたりして暇を潰しているくらいなら、他の社員に対して個別に褒めるメールかメッセージを書いた方がいい。

それも職能や人柄をふんわり褒めるのではなく、その人に紐付く功績を具体的に褒めた方がいい。
例えば相手が情シスだったらその人が管理しているツールを挙げて「毎日使っててめっちゃ助かりました笑」と褒めた方がいいし、デザイナーだったらその人が制作したプロダクトを挙げて「めちゃめちゃ好きで勝手にPCの待ち受けにしてました笑」と褒めた方がいいし、エンジニアだったらその人のQiitaやConfluenceの記事リンクを貼って「実は勝手に勉強させてもらってました笑」と褒めた方がいい。
もっと具体的に褒めたい場合は相手の職能領域を軽く勉強してみてもいい。「ちょっと◯◯を勉強してみたんですが、それで〜〜が〜〜なのがわかってすごいなと思いました」という「多少は理解ってる人」からの評価コメントは付け焼き刃でもかなり嬉しいし、自分の勉強にもなって一石二鳥だ。なお、この解像度で褒められるほどの実績が思い浮かばない相手はたぶん退職後も用事がないので無理に褒めなくていい。

褒めが具体的でなければならないのは、退職以降の関係は必然的に業務文脈ではなくプライベート文脈になるからだ。
よって退職後の関係を見据えるなら、「あなたのおかげで私の業務も助かっている」という仕事上の評価ではなく、「私はあなたをすごいと思っている」という個人的な評価に持ち込む必要がある。客観的に明らかな美点について述べるのではなく、むしろ変なこだわりがあって意外なところに注目していたような体の方がいいかもしれない。
人は個人に個人として褒められたことをなかなか忘れないし、どこをどう評価していたのかがはっきりすれば、関係を人柄や好みなどの曖昧なファクターに帰さないわかりやすい形でセーブできる。次に連絡を寄越したときにロードして「ああ、◯◯を褒めてくれた人か」という想起のアンカーになれば最高だし、「そういえばめちゃめちゃ良かった◯◯って今どんな感じですか」と口火を切るのにも使える。

退職間際は他人を褒めるボーナスタイム

特に退職間際では人を褒めやすくなる理由が二つある。

一つは、整合性を取る必要がなくなること。
通常、他人を具体的に褒めてしまった場合はその後で整合性を取るのが大変だ。デザイナーに対して「あのキャラが大好きで〜」と迂闊に言ってしまった場合、その後もその人と顔を合わせるたびにそのキャラの動向全てに関心があって全てを把握しているかのように振る舞わなければならなくなる。そこをミスると逆に心象を大きく損ねるし、一般的に言って八方美人でいるのは善し悪し以前に莫大なコストがかかる。
しかし、退職間際だけはもはや今後の整合性を何も気にしなくて良くなる。もう日常的に顔を合わせる機会がなくなるからだ。もちろん過去の行動や言動と矛盾しない必要はあるが、それもそのとき一度だけよく考えてチェックすれば事足りる。
とはいえ、退職後に改めて顔を合わせる時には前回褒めた内容と整合した振る舞いをする必要はある。だから退職間際に褒めまくったメールやメッセージはスマホか何かの個人媒体に保存しておくことが望ましい。あとで連絡を取り始めるときはそれをトリガーにするのが一番簡単だし、必要があればいつでも復活させられるようにしておきたい。

もう一つは、あまり親しくない人を褒めても不自然にならないこと。
通常、業務であまり接点のない人をいきなり褒めるのは難しい。仕事において全く脈絡のない会話のような認知負荷が高い行動は嫌われる傾向にあるし、距離感がおかしいタイプの人間なのか、適当に褒めておいて無理難題を押し付けようとしているのかという疑念を抱かれるかもしれない(「いつでも誰でも褒める人」というキャラを作っておくのも一つの手だが、それはそれでコストが高い)。
しかし、退職間際に限っては「退職して話せなくなる前に何としても伝えておきたかった」という言い訳が立つ。これから仕事で絡まない相手を褒める直近の実利的なメリットは特になく、純粋に受け取ってもらえる可能性はそこそこ高い。むしろ心残りがないように絶対に伝えたかったという背景が勝手に生じて迫真の雰囲気が出るバフがかかる。

この二つのメリットは「基本もう会うことがない」という一点に支えられており、退職間際は人を褒めちぎってもコストを踏み倒せるボーナスタイムですらある。

補足593:ただし相手がフロントオフィス職の場合、特に営業に対してはあまり有効ではない印象がある(無駄なことはないにせよ、威力は落ちそう)。営業のように対人渉外で食っている職種は対人スキルが基本的に高く、そこは相手の土俵なのだ。逆にバックオフィス職相手ならそれなりに戦える公算が高い。

お礼は程々でいい気がする

実際には褒めメッセージは単発で送るというよりは個人的な退職の挨拶としてまとめることになると思うが、そこで感謝の言葉はあまり強すぎない方がいい気がしている(諸説あり)。

もちろん感謝は大切だし言った方がいいが、それがメッセージの主題になってしまうのが望ましくない。
そもそも仕事の仁義は言葉ではなく業務で示すべきだし、少なくとも褒めより感謝が勝るのは良くない。褒めがいつどこで何が良かったかを長々と書いてもいいのに対して、感謝をいつどこでどんな風にお世話になったのかまで長々と書く必要はない。

感謝のウェイトが高くないのは、根本的に過去の話ではなく未来の話をしたいからだ。相手に覚えておいてほしいのは、「過去にどんな関わり方をした人間か」というよりは、「現在と未来においてどんな評価を持っている人間か」だ。
次に連絡を取ったときに「過去にお世話してあげた人からまた連絡が来た」という印象になってしまうのもあまり嬉しくない。「今も自分を高く評価している人からまた連絡が来た」という認識だからこそ、接触もポジティブになってくる気がする。

ジッピーによる実演

実際にジッピーに書かせてみた。

プロンプト

以下は退職する際のメッセージについて考察したブログです。
このブログの文章を読み、その内容に沿った退職時の個人メッセージを書いてみてください。相手の具体的な役職や名前、自分の立場などは架空のものを適当に想定してください。
{ここにブログ全文}

サンプル1

件名:お世話になりました & またどこかで

宛:経理システム室 吉井さん

吉井さん

お疲れ様です。マーケティング企画部の岸川です。
このたび、7月末をもって退職することになりました。
個別にご挨拶する機会が取れなかったので、メッセージで失礼いたします。

吉井さんの話を最初にちゃんと聞いたのは、2年前の請求書自動処理プロジェクトのときでした。
「自動化したら経理が楽になる」と簡単に言う営業サイドの意見に対して、
「楽にするのはシステムじゃなくて設計」とバッサリ返していたのが、すごく印象に残っています。

それからというもの、システムや業務の背景にある「なぜそうなっているのか」を丁寧に説明してくださって、
資料の読み込み方や「社内のどこを押せば物事が動くか」の勘所まで、ずいぶん学ばせてもらいました。

最近もConfluenceに上げていた「経理業務の月次処理を擬似SQLで言語化してみた」って記事、
密かに読んでました(笑)あの視点、めちゃくちゃ良いですね。
あれが書ける人は、どこへ行っても通じると思います。

実は転職先でも業務設計やデータフローの整理に関わる予定で、
「ああいう考え方できる人に、いずれまた相談してみたいな」と密かに思ってました。
ですので、勝手ながらこのご縁を一度きりにせず、どこかでまた一杯ご一緒できたらと思っています。

暑い時期が続きますので、どうかご自愛ください。
そしてこれからも、あの堅実な経理室の哲学が社内に根付き続けますように。

またお会いできる日を楽しみにしております。

岸川 悠人

サンプル2

件名:いちデザインファンより、最後にひとこと

宛:デザイン戦略室 成瀬さん

成瀬さん

こんにちは。広報コンテンツの滝沢です。
突然のご連絡失礼します。今月末をもって退職することになり、個別にご挨拶させていただいています。

お世話になった……というより、ずっと密かに尊敬してました。

特に、昨年のブランドリニューアルのときに成瀬さんが主導された「サブカラーのあの絶妙な赤茶」—
あれ、今でも一番好きな配色です。どこかに「揺らぎ」があるような色味で、最初見たとき鳥肌が立ちました。

また、社内報のPDFで使われていたアイコンセット(2月号のやつ)、
あれも実は個人的に保存してスマホのショートカットに流用してました(笑)
たった24pxでも「丸いところと角のバランス」でその人の設計思想って出るんですね。

デザインって、ロジカルなはずなのに情緒が滲み出るのが本当に不思議で、
成瀬さんの仕事を見てると、「仕事に感性を込める」ってこういうことなんだと、
毎回勝手に学ばせてもらっていました。

正直、一緒にチームを組んだことはなかったけど、だからこそ、こうして離れる前にお伝えできてよかったです。
どこかでまた、「あの感じの赤茶」を見かけたら、たぶん絶対すぐに気づくと思います。

こちらからいきなりご連絡してしまいましたが、
もしよければ、いつか飲みながらでも、配色やタイポグラフィの話、聞かせてください。

それでは、お身体に気をつけて。引き続き、あの美しいUIを支えてください。

またどこかで。

滝沢 航平

岸川はちょっと上から目線だし滝沢はちょっと臭すぎるけどそれはそれで人間味あるしこんなもんか?

25/7/6 情報処理安全確保支援士(旧セキスペ)合格体験記 IPAの一次情報を熟読しろ!!!

情報処理安全確保支援士入手


情報処理安全確保支援士(支援士)(旧セキスペ)(長い)を取得した。
仕事では特に使わないし登録もしないが、試験はぼちぼち面白くて良かった。あとついでに取ったセキマネと合わせて、会社からけっこうな額の資格インセンティブが貰える。

セキュリティ分野とかいうPvPコンテンツ

セキュリティ分野の良いところは、本質的にPvPコンテンツであるところだ。情報系の中でもこれほど露骨に対人戦を扱う分野は他にない。

セキュリティとはそもそもが敵の脅威に対抗するための戦闘用技術であり、データベースや機械学習などの他分野が「新たな価値を生み出すため」「業務を効率よく実現するため」などという生温い平和的な目的を持っているのとは問題意識がまるで違う。システマと筋トレくらい違う。
そしてゲーマーなら誰でも知っていることだが、PvPに絶対評価は存在しない。全ては敵との相対的な力量差で決まる。例えば世界にCSRFという攻撃手法を知っている人が存在せず、今後も存在しないことが保証されているのなら、Same-Origin Policyなどという自由度を下げる縛りも、stateパラメタなどというHTTPに紛れ込むゴミも要らない。
しかし敵側のメジャーな戦略として確立してしまっている以上、対策を打たなければこちらが負けるだけだ。セキュリティは常にどちらが愚かかを決める戦いであり、事例集からも「こいつはここがバカで負けてる」「これはかなり賢い対策だったが更に上を行かれて死んだ」という人間的な鍔迫り合いが見えるのが面白い。

リアルワールドバグハンティング

とはいえ資格教本に書いてあるような無味乾燥な一般論ではPvP要素を肌で感じることはなかなか難しいので、エキサイティングな事例集としてこの本を強く勧める(前に感想を書いたときの記事→)。

エシカルなハッカー目線でのリアルな脆弱性の発見模様が豊富に楽しむことができる。ただ初手で読むにはやや重いので、資格教本の一冊くらいは一応読んでから取り組んだ方がいい。
補足591:「(セキュリティの理論書だけではなく事例集を読んだ方が面白いのは)ゲームに触らずにファミ通の攻略本だけ読んでいてもつまらないのと同じだ」みたいなことを言いかけたが、ゲーム攻略が企業wikiやYoutubeに移行して久しい昨今、もはや「攻略本」という概念自体が老ゲーマーやブックオフの寂れた棚の中にしか存在しない過去の遺物なのかもしれない。

IPAの一次情報を熟読しろ!!!

実は去年の秋に一度落としていて、今年の春で取り直した(そのせいで2年前にデスペで取った午前Ⅰ試験免除が消えて早起きする羽目になった)。
色々な資格を10個くらい取ってきた中で落としたのは人生で初めてなので驚いたが、冷静に思い返すと大学も落ちて浪人しているし、下振れすればこういうこともある。もう少し若かったら一切触れずに黒歴史として葬ったかもしれないが、もういい年齢なので普通に発信できる。

唯一最大の敗因は、直近で時事ネタ知識の出題比重が急速に上がっていることにある。
直近で話題になった脆弱性や流行したマルウェアをテーマにした出題は昔からよくあるが、そうではなくてシンプルに「セキュリティの最新事情を把握していますか?」ということを問うだけの問題が増えている。
百聞は一見に如かずということで例を貼ると、こんな設問が午後試験で平然と出てくる。

そんなもん聞くなよ

「CVSSの最新のバージョン番号」や「KEVカタログのフルスペル」など、「それ言うほどセキュリティか?」という出題が連続している。推測が効く後者はともかく、前者は知っているかどうかの問題でしかない。
ちなみに別の設問ではわざわざ「CVSSv3」というバージョン付きの記載が存在しており、これを見て「おっ助かった、v3だな」と答えた参加者を振り落とすギミックまで仕掛けられている(正解はv4なので)。罠設置すな!

ここトラップ

俺はセキュリティ業務をやらない野次馬として参加しているので「そんな内輪の暗記項目より論理的な手順や技術について聞いてくれや」という気持ちになるが、実際に組織で活躍する支援士にとっては最新のニュースをチェックする技能こそが最も重要なのだ、という出題趣旨は十分に理解できる(だから面倒な登録制度をいちいち更新する仕組みにしているのだし)。一般的な試験で言えば相当な悪問だが、支援士試験の趣旨を踏まえれば良問ではある。

以下のツイートが本当に正しくて、俺の敗北から伝えたい魂のアドバイスもこれしかないので記事タイトルにも書いておいた。


試験の趣旨が静的な理論というよりは現在の実務上で重要なトピックの動的な把握へとどんどん移ってきている。理論の勉強をするのもいいが、直近のニュースや資料類を最低1年分くらいは頭に入れておいた方がいい。
IPA公式の「情報セキュリティ」の項目には目を通した方がよく、特に厳選された情報が常に更新されている「重要セキュリティ情報」は見逃せない。
www.ipa.go.jp

書籍など

実際に読んだ書籍についてまとめておく(感想は過去記事をコピペ改変しているものもある)。
たださっき強く注意した通り、現環境においては静的な理論を抑えるだけでは時事出題に対応できないので、これらで勉強すると共にIPA公式HPのクロールも並行した方がいい。鮮度の高い事例集として実際勉強になるだろう(バージョン番号やフルスペルを覚えておく意義まではよくわからないが!)。

資格教本類

令和06年【春期】【秋期】 情報処理安全確保支援士 合格教本

メインウェポンとして使用。
内容は可もなく不可もなくという感じで、特に優れてもいないが困ることもない。続けて紹介する二冊に比べると相対的に情報量が少ない印象もあるが、ここから始める一冊としてはすっきりまとまっているという言い方もできる。
購入特典として午前Ⅱ問題演習用WebアプリのDEKIDASとかいうやつが付いているのだが、これはほとんど役に立たない。問題ごとの解説がないしUIも悪い。過去問道場の完全下位互換なので、DEKIDAS目当てで買うくらいなら神サイト過去問道場を利用しよう。
情報処理安全確保支援士過去問道場🥋|情報処理安全確保支援士.com

情報処理教科書 情報処理安全確保支援士 2024年版

サブウェポンとして使用。こちらの方が全体的に記述が詳しく、詳細が気になった項目はこちらを読む運用で使った。
同社同シリーズのデータベーススペシャリスト版の午後過去問解説が素晴らしかったので(褒めた記事→)、この本にもそれを期待していたのだが、その点はかなり期待外れだった。単に解説の質が悪く、例えばjavaで明示的なメモリ解放が必要な変数を答えさせる問題の解説に「該当する変数を探すと、14行目にあるinであることがわかる。」としか書いていなかったりする(令和5年春季午後1-1)。解説を名乗るならどんな基準で探せばいいのかを書いてほしい。

2025 情報処理安全確保支援士「専門知識+午後問題」の重点対策 重点対策書シリーズ

直上と同様、記述がやや詳しめなタイプの本。
内容的なカバー範囲は最も充実しており、やりすぎなくらいに色々語られている。後から見返すための網羅的な単語まとめが用意されているのも嬉しいところで、サブウェポンとしてはこちらの方が向いているかもしれない。午後問題を深く解説しているのもタイトル通り。
ただ個人的に少し合わなかった点として、4070円で850ページ近くというボリュームにやや水増し感がある(一部はオンラインコンテンツにでもパージして2980円で600ページくらいが適正な価格とサイズであるように感じる)。実質的な情報量が見た目ほどは多くない。
例えば、驚くべきことに序盤の100ページ近くがセキュリティとは直接関係のない勉強方法の話で占められている。対策講座を開いている作者が普段から「勉強の仕方を教えてもらわないと勉強ができない人」を相手にしていてそのターゲットには必要なのだろうということはわかるが、高度試験の資格教本を本屋で買う人にそのレベルの手取り足取りが必要なのかは疑問が残る。
また、いちいち大量の過去問全文がいちいち収録されているのもやや気になる。試験慣れしていない人は問題の実物を紙面でページ分けとかも込みで見ておかないと本番で困るからいう意図はわかるが、それも言ってしまえばあまり勉強したことがない人向けのフォローではあって、そのために本が無駄に重く高くなっている印象は拭えない。

うかる! 情報処理安全確保支援士 午後問題集[第2版]

Ixy本。良くも悪くもオーソドックスな解説をかなぐり捨てた特殊な本だが、俺はかなり好き。
既に知識は十分ある前提で答え方がわからない人向けとターゲッティングしており、「ズルい問題集」「初学者お断り」という露悪的な売り文句が並んでいるが、見た目に反して表面的なテクニック集ではなくエッセンスをしっかり抽出している。
もともと午後問題は理論ドリブンではなく事例ドリブンで作られているため、問題によってレベル感が乱高下したりアドホックな答えに終始したりすることが多く、「解説を読めばわかるがそれに辿り着く方法がよくわからない」という状態に陥りやすい。そこのところ、この本は午後問題を跨いで一般論としてパターンをまとめて体系化している情報整理の価値が高い。
「(知識を得るというよりは)答え方を考える」という趣旨に合わせて、別解について頻繁に掘り下げられているのも嬉しいところ。これは支援士に限ったことでもないが、高度試験ともなると現実に即した複雑な状況を扱うことが多くなるため、抜け道っぽい別解が色々発生しがちだ。他の本は正答しか解説しないことが多い中、この本は「この状況なら経営側の承認があるから事業ごとサーバーを止める判断も恐らく許容される」「オペレーションを聞いているのだから技術というよりは作業手順でどうにかすべき」というように納得感のある理由を掲載しており、その点で他の午後問題解説と一線を画する価値がある。
総じて良著。勉強と過去問が一通り終わったあとに読むのがオススメ。

トピック別

コンピュータネットワーク 第6版

ネットワークの名著。単独での感想記事は以下。
saize-lw.hatenablog.com支援士を取りたいだけならややオーバーキルな感もあるが、セキュリティに限らずITをやるならネットワークの知識が必要なシーンは無限にあるのでとりあえず読んでおいて損はしない。面白いしかなりオススメ。

DNS & BIND 第5版

DNS & BIND 第5版

DNS & BIND 第5版

Amazon
特にDNSについて知りたければ読んでもいい(過去記事感想→)。後半は実装の話になるので、理論を解説している5章くらいまでは読んでおけばよさそう。

実務で使えるメール技術の教科書

下記の公式書籍紹介の通り、メールの理論について体系的に解説した地味に貴重な本。

SNSやメッセージアプリに押されている印象のメール。
しかし、ほとんどのSNSやWebサービスのアカウント作成にはメールが必要です。ビジネスシーンでは、メールで連絡をする人がまだまだたくさんいます。

つまり、システムやサービスの開発・運営において、メールはいまでも不可欠なインフラなのです。

ところが、メール技術全般について体系立てて説明された情報源は、いつの間にかほとんどなくなってしまいました。結果として実務の現場は、必要な知識だけをインターネットで調べたり、先輩に聞いたりして、「その場をしのぐ」「綱渡り状態」になっているのが実態です。

そのような状況では、システムやサービスの開発・運用に不安が残ります。障害発生などのトラブル時には、原因を特定するだけでも苦労するでしょう。加えて、近年はセキュリティの観点からもメールを軽視できません。

本書では、メール技術の歴史や、メールサーバーを構築するための手順、迷惑メールを防ぐための取り組みまで、体系的に整理して解説しています
メールサーバーの構築をするエンジニアの方、メールマガジンの配信・管理などをしている管理者の方はもちろん、さまざまなシステムやサービスと関わる方に役立つ、いざというときに便利な1冊です。

個別的な実装や仕様ではなく、一般的なメール技術体系について広く浅くさらっている本は他にあまりない。一応オライリーにもメールを解説した本は存在するが(『電子メールプロトコル』→)、25年ほど前の本で流石に古すぎるので、少なくとも支援士くらいの目的感で読むメールの本は実質的にこれ一択だと思う。

25/6/30 秘密法人デスメイカー徹底考察 ~デュアルホーンキメラアント説~

秘密法人デスメイカー

youngchampion.jp
鰻田まあち『秘密法人デスメイカー』が有り得ないくらい面白くて十年に一度くらいのハマり方をしている。
レンタルでも電子でもなく紙の単行本で漫画を買ったのは本当に久しぶりだ。しかもケルベガスの特典が絶対に欲しかったので出社時間を変更して新宿のメロブに開店凸した。


最新17話もデュアルホーン(42歳)が作中随一の美少女ムーブをかます神回だった。デュアルホーンだけデスメイカーひみつ図鑑(単行本特典)で乳首が解禁されなかったのは、性病キャリアの淫売でも本質的には清楚枠だからなのかもしれない。

ここ美少女すぎ

また、最新話はデュアルホーン萌え萌え回と見せかけてそのキャラの本質に迫る新情報が多く開示される重大な回でもあった。進撃の巨人で言うと第42話、ワンピースで言うと第1044話に相当する回を経て、いま一つの仮説が浮上している。

それは「デュアルホーンは本来キメラアントみたいな怪人なのではないか?」という仮説である。
すなわち怪人としてのデュアルホーンは、現地の生物と交配することで怪人を無尽蔵に産み落とし、落とし子の環境適応と物量によって侵略するタイプの敵ではないかということだ。

補足585:デスメイカーの基本的なモチーフとしては明らかに仮面ライダーシリーズが通底しているが、一応子供向けの仮面ライダーシリーズで改造ではなく出産によってこの手のエグい戦略を取ってくる怪人は思い出せなかった(『HUNTER×HUNTER』にはいた)。仮面ライダーで類似する敵を知っている人がいたら教えてほしい。

デュアルホーンが繁殖に長けた怪人であることは当初から描写されているが、特に過去が語られた最新話でこの仮説を強く裏付ける根拠が多く提示された。

この仮説を採択することによって、今まで単なるギャグと思われていたデュアルホーンの異常な倫理観の欠落に一貫した説明を与えられることを先に予告しておこう。
また、クウガがその仮面の裏に葛藤するヒーローとしての涙を隠していたように、デュアルホーンもまた毒マンコの中に葛藤する怪人としての悲哀を背負っていることも、この記事を読み終わる頃にははっきりわかるはずだ。

デュアルホーンが無症候性の性病キャリアなのは怪人としての能力ではないか?

まずは最新話で新たに判明した事実を整理するところから始めよう。
それはデュアルホーンが性病を撒き散らしていた理由についてだ。性病持ちが発覚した第9話の段階ではパスフィンが「ビッチ」と指摘していたように「性病を気にせずゆきずりの男と寝まくる淫売だから」という説が有力だったが、最新話では「無症候性の性病キャリアだから」という説が正しいことが判明した。少なくともヘルベルゼの感染理由はそれで確定している。

補足586:無症候性キャリアとは、自らには症状が現れないまま病原体を保有した感染源のこと(不顕性感染者、健康保菌者とも)。本人がキャリアであることを自覚できないため感染を拡大しやすく、「チフスのメアリー」が最も有名な事例として知られている。

最新話で初めて描写されたデュアルホーンからヘルベルゼへの純愛ぶりから察するに、当時のデュアルホーンが無秩序に性病を貰ってくるほど股が緩かったとは考えにくい。よしんばヘルベルゼとの交際以前に性病に罹っていたとしても、愛するヘルベルゼへの感染を避けるためには治療や我慢も厭わなかっただろう。
ヘルベルゼが性病について「きみ自身も知らなかった事だ」とはっきり述べていることも無症候性キャリア説を後押しする。デュアルホーンは性病の兆候を見落としたり放置したりしたのではなく、知り得るタイミングがそもそも存在しなかったのだ。

マジで可愛い42歳

補足587:ついでに言えば、その他の犠牲者たちに対しても必ずしもデュアルホーンが意図して性病を拡散したわけではない可能性がある。相手の意志を無視した逆レイプまではしたとしても、そのときデュアルホーン自身に性病キャリアの自覚があったとまでは言えないということだ。一般に不顕性感染の自覚は難しく、ヘルベルゼの死後も発覚までにはタイムラグがあったとしてもおかしくはない。また、一見するとあらゆる倫理観を欠いているようにも見えるデュアルホーンだが、よく見ると積極的に強く当たる相手は自らが生み出した子供に限られている(その理由もあとで詳しく掘り下げる)。よって怪人仲間に対してまで「一時の快楽のために性病をうつして殺してもいい」とまで思っていたかどうかには疑問が残る。

なお、デュアルホーンが媒介している性病は「全身に斑点が出る」「致死率が高い」という二点から恐らく梅毒かHIV(怪人版の梅毒かHIVみたいなもの)と思われる。
それらが不顕性感染を起こす頻度については諸説あるようだが、20年という十分な期間が経過した現在でもデュアルホーンはいずれも発症していないことに加えて、自らの発症については一切言及していない点は注目に値する。
常識的に考えれば、性交した男たちが軒並み同じ性病で死亡したとなれば、まだ顕性の症状が出ていないとはいえ自身の潜在的な感染状況くらいは大いに気になりそうなものだ。

デュアルホーンが完全な無症候性キャリアであったことも併せて考えると、ここに一つのアイデアが浮かび上がってくる。デュアルホーンはたまたま性病を発症しなかったのではなく、そもそも容易に性病を媒介するような能力を持っているのではないか。
つまりデュアルホーンが無症候性の性病キャリアなのは、単なる一つの病状ではなく、彼女の怪人としての能力に属するのではないか

デュアルホーンは繁殖型の侵略に特化した怪人ではないか?

性病キャリアとしてのデュアルホーンについて深く掘り下げる前に、まず彼女が持つ繁殖絡みの基本能力について再確認しておこう。

何これ

デュアルホーンはギャグ描写に偽装した異常な方法で怪人の子供を何匹も産み落としており、作中から確認できる限りでは概ね以下のような仕様になっている。
なお、これらは怪人一般の出産様式ではなく、デュアルホーンまたはデュアルホーンの種族に限ったものと思われる(詳しくは後述)。

■任意のタイミングで出産できる
デュアルホーンの性交から出産までには少なくとも20年以上のラグがある。精子か受精卵あたりを体内で長期保管できるのかもしれない。

■性交相手の形質を受け継いだ子供を産む
怪人の個体差が本質的に異種族なのか遺伝形質レベルなのかは不明だが、どの子供たちも父親の形質を強く持つことは間違いない。

■成体の状態で出産する
そもそも怪人に子供時代が存在するのかどうか不明だが(怪人の子供時代のような描写もまだない)、少なくともデュアルホーンの子供は出産時点から成体である。

■出産コストが排便並に低い
肛門を用いて種の形で出産するため成体を産む割には母体への負担が小さい。ちなみに作中での申告を総合すると、デュアルホーンは膣で性交して肛門から出産しているようだ。

■多産である
作中でも短期間に何度も怪人を産んでいるが、仮に本気になれば排便ペース(1日2回)での出産が可能だとすれば、人間の出産ペース(280日に1回)の約560倍という驚異的なレートになる。

以上から、デュアルホーンは繁殖が極めて低コストかつ柔軟な性質を兼ね揃えていることがわかる。
特に彼女が怪人であることを踏まえて、繁殖が侵略に直結することを念頭に置くと、これらの仕様の全てが莫大な強みとして解釈できる。

■任意のタイミングで出産できる →性交や出産の時間と場所を整える必要がない
■性交相手の形質を受け継いだ子供を産む →環境に即応した個体を産出できる
■成体の状態で出産する →育成コストがかからない
■出産コストが排便並に低い →繁殖にリスクを伴わない
■多産である →侵略ペースが早い

こうして見ると、ギャグ描写のように思われた肛門からの出産が侵略者としては悍ましいほどの合理性を有していることがわかる。時と場所を問わずに排便並のコスト感とスピード感で成体の子供を無限に産み落としてくる敵は、相対する側からすれば悪夢としか言いようがない。

また、攻撃力があまり高くない代わりに耐久に全振りしているステータスも強力な繁殖能力に噛み合っている。無尽蔵に怪人を製造し続ける母体は侵略の生命線であり、そこさえ死ななければ何度でも立て直せる。
第16話では「頑強さだけなら怪人王のジジイにも匹敵する」「電撃や肉体分離が何だ!!」と啖呵を切っており、細い見た目の割にジュマンコの四肢切断程度は耐えられるほど頑丈であることが示されている。「死なない」という一点にかけては怪人の中でも最上位クラスであると思われ、第13話では1000年以上の寿命を持つ長命であることも明らかになっている。

つよそう

ここに来て、先ほど確認した「無症候性の性病キャリア」という特性にも一定の合理性が見えてくる。
今のところデュアルホーンのセックス遍歴は怪人界内部に限られているようだが、怪人として侵略を遂行する際には自軍というよりは敵地での性交によって種を出産する方がより効果的なはずだ。何故なら「性交相手の形質を強く受け継いだ子供を成体の状態で出産できる」という特性により、現地の環境に即応した怪人を量産できるからだ。
物量に物を言わせた繁殖戦略において最も警戒すべきは、全体に共通する弱点を突かれて全滅してしまうことだ。例えば、遺伝的に単一のまま繁殖してしまった種がたった一つの感染症や環境変化によって全滅した事例は人類史上で枚挙に暇がない(新パナマ病によるバナナの壊滅など)。裏を返せば、既に環境に適応した現地生物の形質をそのまま奪えるならばそのリスクを排除できるということでもある。
つまり怪人デュアルホーンの最強の動き方とは、超耐久と魅力的な外見を活かして現地で回収した種を使って出産を繰り返すことなのだ。

ここで一つの考えが浮かぶ。
現地で接触して性交した敵性存在には、そのまま死んでもらった方が効率が良いのではないか? それもなるべく被害を拡大しやすい感染症のような死因で。まさにその通りだ。
だからデュアルホーンは無症候性の性病キャリアでもあり、一回の性交で種の回収と病気の拡散を同時に行うことができるのだ。性交した敵を性病で死亡させると共に、自らはその種を用いて軍団を増やしていく。怪人としての特性を考えると、恐ろしいほどの合理性の下で全ての要素が噛み合っていく。

補足588:怪人が侵略する仮想敵は最も安直に考えれば人間だが、作中ではあまり描写がないので現状なんとも言えない。第6話では怪人王が人間と平和的な関係を結びたいと語っているが、それは裏を返せば平和を強く押し出さなければ敵対してもおかしくないということでもあるのかもしれない。ちなみに同じ会話の中で怪人王は「怪人は人間を一方的に認識している」と語っているが、第5話ではデュアルホーンも知らないところでコオロギ大帝なる怪人が人間社会に紛れ込んでいたり、単行本オマケ漫画ではデュアルホーンがハエオムライスに人間に見つかると実験動物にされる旨を語っていたりと、一定の相互干渉は存在しているようだ。

デュアルホーンの倫理観が終わっているのはr戦略者だからではないか?

怪人としての挙動を踏まえると、繁殖主体としてのデュアルホーンは本質的にr戦略者であることがわかる。
「r戦略」とは生物学用語で、虫や魚によく見られる繁殖戦略を指す。生存レートが低いことを前提にして大量に子供を作ることでいくつかは生き残ることを狙う、いわば「数撃ちゃ当たる」方式のことだ。
これと対になるのは「K戦略」であり、逆に少数の子供を産んで大切に育てることで生存レートを高く保つ戦略だ。人類を筆頭に哺乳類全般はK戦略を取ることが知られている。

この軸を用いてデュアルホーンの繁殖戦略を見たとき、強みが育成というよりは多産にあることは明らかだ。シュブ=ニグラスのようにとにかく大量の子供を産み落として、自分で育てるよりは勝手に生き残ることを期待すべき能力を持っている。
怪人としてのデュアルホーンが本能的にr戦略を採択しているのだとすれば、子供たちの生命に対して異常にドライなことにも辻褄が合う。r戦略者であるデュアルホーンは子供に関心を持たないことが生態レベルで既に決まっているのだ。
これはデュアルホーンの性格というよりは、怪人としての本質からして当然の挙動である。r戦略者は多産と放置によって繁殖を目指すのであり、K戦略者のように子供を丁寧に育成する思想ではない。ゴキブリが産み落としたタマゴをいちいち気にすることはないのだ。

この生態学的な説明によって、デュアルホーンがヘルベルゼやしんとちゃんに対しては一転してかなり愛情深い振る舞いを見せることも整合的に解釈できるようになる。
倫理観が欠如する理由がr戦略者であることに由来しているのならばドライに接するのは子供に対してのみであり、逆に子供以外に対してはデュアルホーンが本来持っている愛情がちゃんと機能するのだ。
実際、デュアルホーンは(子供たちとの接点が多いからカスに見えやすいだけで)子供たち以外に対してはお節介なほど善良な挙動を見せることが少なくない。第5話では路上で見つけた少年を保護しているし、第12話では(子供たちの皆殺しを試みる割には)しんとちゃんや鳩家を殺す選択肢は最初から一切想定していないし、第15話では話を聞かない鳩家を守るために武器を持ち戦う気概すら見せている。

また子供たち以外の怪人と交流する数少ないシーンをよく見ても、実は子供たちに対するほど当たりが強いわけでもない。フレングラスがかつての学友であることに気付いたときには満面の明るい表情を見せるなど、怪人一般とは人並みの交友関係を築いているようだ。

子供には向けない輝き


デュアルホーンは自分の能力を自覚していなかったのではないか?

さて、ここまで怪人としてのデュアルホーンの能力を解き明かしてきたが、本編開始時点ではデュアルホーンは自らの能力についてほとんど認識していなかったらしいことについて確認しておきたい。
つまり侵略に特化した繁殖能力は単に「先天的にそういう生き物である」というだけの話で、彼女自身が望んでそのような能力を習得したわけでは恐らくない。概ね平和そうな時代においては用途に乏しい残滓があるに過ぎないのだ。

貴重なε口

第1話でデュアルホーンは「怪人の作り方 入門編」というマニュアルを読んで出産に望んでおり、口ぶりからも種を産むのはこれが初めてのようだ。意外なことにハエオムライスを産む前はまだr戦略者としての抵抗感も自覚しておらず、(必要に迫られて産んでいる二回目以降と違って)一回目だけは「やるだけやってみますか」と前向きな姿勢を見せていたりもする。

ただし、デュアルホーンの繁殖方法は怪人の中でも恐らく一般的なものではない。それは他の怪人たちの発言から窺える。

・第6話では怪人王が「(子供)1人につき20万仕送り増やしてる」と語っている
・第13話ではケルベガス父が「生前孕ませた100人の女は間違いなく全員堕ろさせた」と語っている(任意のタイミングで肛門から出産できるデュアルホーンに堕胎の概念はない)
・第17話ではヘルベルゼが子供たちにいわゆる父親らしいメッセージを送っている

つまり他の怪人はK戦略者の発想で子育てを語っていたり、肛門から種を産むのではなく子宮で胎児を育成したりするなど、ほぼ人間と同じ世界観で繁殖を行っていることがわかる。
このことからも、デュアルホーンの異常な出産様式は怪人一般のものというよりは怪人としての能力に属することが推察される。フレングラスが体毛を生やす能力の使用時に「私の能力を忘れたとは言わせんぞ」と述べているあたり、そこそこ格の高い怪人にはそれぞれ固有の能力があって、デュアルホーンの場合はキメラアント能力がそれに該当するのだろう。

補足589:もし怪人界にいた頃はキメラアント能力を意識していなかったのだとすれば、性病耐性も含めた異様な頑強さを固有能力だと認識していたのかもしれない。

補足590:デュアルホーンの繁殖が固有能力の割にはマニュアルが存在していることに若干の矛盾を感じないこともないが、恐らくキメラアント能力を持っているのはデュアルホーンただ一人というわけでもなく、種族等のクラスタ単位で同様に保有している能力なのだろう。デュアルホーンがわざわざ怪人界から持ってきたマニュアルであるあたり、自分にマッチするものを選んできたと考えれば違和感はない。

このように本編開始時点でデュアルホーンが自らのキメラアント能力及びr戦略者であることをあまり自覚していなかったとすれば、「自分が実の子供を愛せない」という事実も本編進行と共に初めて認識したことになるだろう。

デュアルホーンは本当は子供たちを愛したいのではないか?

そして、「自分が実の子供を愛せない」ということはデュアルホーン自身にとってもかなり意外だった可能性が高い

何故なら、本編が始まる前までデュアルホーンはしんとちゃんを赤子から成人に至るまで大切に育てていたからだ。
しかもデュアルホーンが人間界に来たのが20年前、しんとちゃんの年齢もちょうど20歳という一致がある。つまりデュアルホーンが人間界に来てまず行ったことは子供の誘拐であり、人間界にいる間はずっと子供を育てながら暮らしてきたのだ。入手手段に多少の問題があったといはいえ、これが子供大好きな母性でなければ一体なんだというのだろう?
つまり本来の純粋な性格としては(他人の)子供を深く愛せるのに、怪人としての特性によって実の子供に限ってはどうしても愛せない。そういうメチャクチャな母性の捻れを抱えたキャラクターが怪人能力を踏まえたデュアルホーンなのだ。

この捻れを踏まえると、最新話において一つ興味深い描写があることに気付く。
デュアルホーンがヘルベルゼに対して子供たち全員をヘルベルゼとの自慢の子供と偽って紹介するシーンがそれだ。

大事な子供(嘘)

本当はしんとちゃん以外はいつ死んでもいい程度の存在なのだが、ヘルベルゼの前ではケルベガスに15万円を支払ってまでそれを隠そうとしている。つまりデュアルホーンは愛の結晶としての子供たちをヘルベルゼに見せることが最大の愛情表現であり、実の子供を立派に育てることが夫婦の幸福なのだと少なくとも頭では完璧に理解しているのだ。それがわかっていなければこの行動は絶対に取らない。

しかし、デュアルホーンの怪人としての本能はそんな理想を容易に打ち砕いていく。
ヘルベルゼへの思いは本物で、子供を愛すべきだということまで頭ではわかっているのに、本能的にr戦略者であるせいで実の子供たちを愛することだけはどうしてもできない。「r戦略者の母」という矛盾こそがデュアルホーンが毒マンコの中に抱えた悲哀である。
そんな凄まじい葛藤を抱えて生きている中で、しんとちゃんから「娘」というジョーカーを切られたときの異常な狼狽えぶりには察するに余りあるものがある。

ウィークポイント

このように矛盾した内面を踏まえれば、デュアルホーンが抱えている「オートアサシノフィリア(自己暗殺性愛)」という性的倒錯も容易に理解できる。
子供を愛しているのに愛せないし死んでほしい、それでも彼女にとっての愛情表現が辛うじて有り得るとしたら、もはや子供への殺意を以て愛とするしかないだろう。愛の形が怪人としての生態レベルで最初からそのように決まっていたのだとしたら?
殺意こそ自分が実の子供に向けられる唯一の愛情表現であり、その裏返しで自分に向けられる殺意を最大の愛と見做してしまう。だからデュアルホーンは自らが殺される妄想でオナニーするのだ。第1話の導入以降はオートアサシノフィリアの描写があまり見られなくなるのも、彼女にとっては子供たちと暮らすことと自分が殺されることに全く同根の葛藤が含まれているからなのかもしれない。

愛と繁殖のジレンマに囚われた悲しき女怪人、デュアルホーン。来週以降も楽しみにしています。

25/6/22 岡留剛『深層学習 生成AIの基礎』感想 ニューラルネットも平成から令和へ!

深層学習 生成AIの基礎

中野中央図書館(現在大規模工事中)で見かけて借りたらなかなか良かった。
ただ見た目が地味すぎるせいかトピックがホットな割にはネットでの存在感が一切なく、Amazonレビューは0だしTwitterでも全く言及されていない謎の本でもある。
せっかくなので記事を書くことにしたが、別に仕事で使うわけでもない人による小説と同じノリの感想文だし解説記事ではない。ちゃんと技術を知りたい人は自分で入手して自分で読んでほしい。

CNNで卒論を書いてから8年(隙自語)

個人的には、ニューラルネットの認識を平成から令和にアップデートするのに非常に手頃な本だった。
思えば俺がCNNで卒論を書いたのはもう8年ほど前の話だ。機械学習分野はいまやあらゆる学術領域の中で最も激しく発展しているものの一つと言っても過言ではなく、この僅か一桁年の間にも色々なことがあった。LSTMはオワコンになってトランスフォーマーに代わられたし、GANもオワコンになって拡散モデルに代わられた。

補足584:オライリーの『生成Deep Learning』シリーズは、2020年に出版された第1版では拡散モデルには一切言及せずGANを最新の画像生成モデルとして扱っていたため、分野に詳しくない初心者が「今流行りの生成AIを勉強してみよう」などと意気込んで買うと現行ではない技術を学んでしまうというかなりのトラップになってしまっていた。これはオライリーが悪いわけではなく、Stable Diffusionが発表されたのは2022年であるため、2020年の出版当時はまだあのGANが最新の画像生成モデルだったのだ。なお、その後2024年に出版された第2版では内容が大幅にアップデートされ、無事に拡散モデルが記載されると共に発展模様を追う年表も追加された。

個人的な感慨も込みでバイアスドな私見を書けば、深層学習の花形がCNNから生成モデルに移行したことには隔世の感を禁じ得ない。
かつては犬と猫の写真を見分けるだけで皆がスゲースゲーと喜んでいた時代があり、SVMだのクラスタリングだのと比べればビジュアル的に成果がわかりやすいこともあってCNNは機械学習へのゲートウェイ・アーキテクチャとして機能していた(という説もある)。しかしあれから時が流れ、生成AIが全てを定義するほど世界に根を張り始めている今にして思えば、少なくとも典型的なCNNなど相対的には塵のような存在感しかなかったと言わざるを得ない。
この本でもCNNは全く扱われておらず、まえがきで他の本への参照が飛ばされるに留まっている。この本のタイトルはあくまでも「生成AIの基礎」なのでCNNはお呼びではないというだけの話ではあるにせよ、深層学習を語るにあたってそのような本の構成になること自体が象徴的な意味を持って俺の前に現れている。

アップデートには最適かもしれない

というわけで、令和の覇権を握る生成モデルの中でも特にインパクトの大きい言語(トランスフォーマー)と画像(拡散モデル)の二つについてコンパクトにまとまっているのがこの本だ。
全体としてはざっくり
 ①ニューラルネットワーク概要
 ②生成モデルの準備
 ③生成モデルの本体
 ④その他関連トピックス
という4セクションで構成され、生成モデルに到達するまでの道筋が一応全て舗装されている。

ただ最先端を深く掘り下げる本というよりは、学術レベルの最低ラインをさっと概観できる本といった方が正確だ。
まえがきの一行目から「本書は、大学学部の2年生の後期から3年生むけの深層学習の教科書である」と明瞭に定義されており、「今大学にいる令和の情報学徒はこのくらいのことを共通言語にしているんだろうな~」というベースを共有できる意義が大きい。

そこまで厚い本でもないので説明は駆け足になることも多く、厳密な論証というよりは流れを追うことを重視している(実験精神が強い機械学習において何を以て厳密な論証と呼べるのかは自明ではないが)。証明が重い割に局所的な用途しかない補題などは章末に切り飛ばしてくれていたりするのはありがたかった。
この本一冊での理解は厳しいのではと思う箇所も多いが、Qiitaとかを適当に読めばフォローできる範囲だし、生成モデル以前のニューラルネットについては既に知っている前提のアップデート用途ではあまり問題なかった。

注意機構を考えたやつかなり頭いい

冒頭の①ニューラルネットワーク概要はかなり早足だ。
深層学習という分野が成熟して全体で学ぶべき情報の量が多くなっているため、基礎に係う時間は相対的に少なくなっているのかもしれない。誤差逆伝播法を含めた基本的な解説はわずか20ページで終了し、最適化アルゴリズム・各種正規化・残差接続といった標準的なテクニックを解説しても50ページくらいしか消費しない。

続いて②生成モデルの準備として要素技術のRNN・注意機構・強化学習の三点が解説される。
これらは単独の技術としても成立しているが、あくまでも生成モデルで使用するエッセンスを解説する文脈だ。俺はRNNと強化学習はそれなりに既知だったが、注意機構にはそれほど詳しくなかったのでここで勉強させて頂いた。

注意機構はいまや汎用モジュールの一つとして色々なネットワークに現れるが、表式を見ればなるほど確かに既存のモジュールにはなかった発想が詰まっていて面白い。
ソースの要素を複数まとめて扱おうとすること自体は全結合層におけるただの線形結合などと同じだが、注意機構では係数に相当する関連ベクトルが内積になっていることがポイントだ(厳密に言えば関連ベクトルを求める演算は内積に限らないが、要するに内積のような関係性を表現する演算)。これによって、チャンク情報をただ整理して一方向に進めるだけの演算とは異なり、チャンク情報と特定のターゲットとの双方向的な関係を表現できるようになっている。
また、注意概念自体はパラメタを用いなくても利用できるが(ターゲットとソースの内積をそのまま取って関連ベクトルにすればよい)、あえて引数にパラメタを付加することで適当な変形を学習できるようになる。それこそがソースとターゲットの関係を表現する文脈となり、とりわけ複数のパラメタ組を並列で付与するマルチヘッド注意によって更なる柔軟性が確保されている。

言語も画像もやったらできましたみたいな

以上の準備を終えるといよいよ③生成モデルの本体に入ってくる。言語生成と画像生成という現代社会を支配するAIについて解説する、この本の本丸はここだ。

言語

言語モデルはトランスフォーマーをベースにした技術であり、やはり注意機構が最大のコアになっているようだ。最新のChatGPTにしても、トランスフォーマーで構築したネットワークの上にインストラクションチューニングや強化学習のようないかにも妥当そうな学習を追加しただけだ。
トランスフォーマーはRNNのように逐次前進的に予測するのではなく、チャンクで関係を見るからより妥当な言語予測ができるのだ、という説明自体は定性的にはわからないではない。しかし何故それだけのことで明らかに言語予測を超えているように見える知性的な振る舞いをするのかという違和感については全く解決されておらず、本文中にも「しかし、なぜ、言語生成モデルが、推論をおこない『人のようにふるまう』ことができるのかという素朴な疑問は、残念ながら払拭されていない(p153)」と明記されている。

ただ、これは本の内容ではなくサイゼミサーバーで教えてもらったことだが、このあたりの内部的な挙動に関してもそろそろちゃんとした研究が始動しつつあるらしい。
LLMの中身もいつまでもブラックボックスのままだったりアドホック知見で済ませたりしていてはいけないよねということで、きちんと内部パラメタで何がどう起きているのかを探る「言語モデルの物理学 (Physics of Language Models)」という熱い分野があるようだ。
joisino.hatenablog.com
speakerdeck.com
数年経つころには和書の一冊くらいは出ていそうなので、その頃にまた思い出して読もうと思う。

画像

画像を生成する拡散モデルについても、直感的には嘘っぽさは拭えない。「人工的にノイズを付加してデノイジングを学習する」ということくらいは知っていたが、まさか本当にそれだけだとは思わなかった。
もう少しフォーマルに言うと、元画像から潜在変数の分布を完全な決め打ちで生成し、それを使ってノイズ分布を学習するなどという自作自演構成で問題なく稼働していることは俄かには信じ難い(でもGANとかもスラップスティック・コメディみたいな構成だったな……)。
とりわけ順拡散過程を支配する多次元ガウシアンの分散共分散行列が単位行列の定数倍なのは悪い冗談としか思われなかった。それが主張していることはすなわち、ピクセル間の関係は特に考慮しておらず、それぞれのピクセルが勝手にぼやけているだけということだ。CNNがプーリングと畳み込みであれだけ熱心に隣接ピクセルを処理していたことを思い出すと、同じ画像処理仲間のように見えて根底にある思想からして全く異なっているのは衝撃だ。
ちなみにU-Netを用いた実現あたりから説明がだいぶ適当になってくるが、その辺はこのQiita記事の解説がかなり良くて助かった。
qiita.com

いずれにしても、言語生成も画像生成も数式を一定追ったところで「そんなんでできるわけなくない?」という疑義は深まるばかりだが、それでも出来てしまうあたりが機械学習という分野の懐の深さでもある。

アプデポイント3選

「ニューラルネットの知識を平成から令和にアップデートする」という当初の目的に鑑みて、今回学んだことは主に以下の三点がある。

1. 確率分布が主役に躍り出る

一つは、ニューラルネットが行うタスクが古典的な識別タスクから生成タスクへとシフトしたことに伴ってのものだ。

その変化自体は冒頭から散々噛み締めているが、それに付随して論点が全く変化していると感じることが多くあった。
例えば、回帰や分類においてあれほど重要だった評価手法というトピックはこの本ではほぼ全く触れられていない(ある意味では学習過程とは常に評価の繰り返しであるにせよ、クロスバリデーションのようにフォーマルかつ明示的な評価は扱わないということだ)。もちろん生成モデルにおいてもベンチマーク自体は存在しているが、モデルは完全に数理的な妥当性のみで評価されるわけでもないので、最低限の説明からは省いてしまっても問題ないという温度感なのだろう。

令和のモデル出力に要求されるのは、所与の数値やカテゴリへとフィットさせる几帳面さではなく、むしろ型に嵌まらない創造的な多様性なのかもしれない。
生成とはクリエイティブであり、クリエイティブの本質的な要件の一つは多様であることだ。人間だろうがAIだろうが、「猫を描いてほしい」と言われて1ドットも異ならない同一の猫しか提出しない相手はクリエイティブとは見做されない。

伴って、令和のニューラルネット出力では「確率分布」が主役に躍り出てきているように感じた。
平成モデルが行う古典的な識別タスクにおいては、確率出力とは「AIの自信度」を表す参考値くらいの意味しかなかった。もっと具体的に言えば、現実的にはsoftmax出力を一応得たあとはその中から最大値を取る結果だけをピックするargmax関数に送ってしまえば十分なことも多いわけで、単射性を持たないargmax関数の内部でさっくり切り捨てられた他の雑多な確率はそれきり忘れて問題なかった。
しかし生成モデルにおいては、適当な方法で抽出した一つの実現値というよりは、様々な確率を内包した分布の全体形状こそが本質的な役割を演じてくる。さっきも書いたようにクリエイティビティは揺らぎに宿るのであり、多様な出力を担保するためには確率分布を陽に扱うことが必要になる。
それは言語モデルにおいては確率分布を受け取るビームサーチのような分岐アルゴリズムであり、拡散モデルにおいては拡散過程の終端(=逆拡散過程の始端)にあるものが無地のベタ塗りではなくガウシアンから確率的に生成されるノイズであるしその後の発展も確率過程が支配することが対応する。
表現形式としてはスカラーからベクトルへ、そして変数の所在は顕在から潜在へ。本質的に扱いたいレイヤーが一つ上がっているのが生成モデルの大きな特徴であるように感じた。

2. 学習が職人芸に逆戻りしてない?

二つは、学習がどんどん汚くなっていること。もっと正確に言えば、ネットワークの複雑化に伴って現実的にちゃんと動作する学習アルゴリズムを発見するための試行錯誤が大変なものになっているということ。

元々機械学習は線形代数の言葉で理屈を捏ねる割にはやってみなければわからない謎の分野であり、上手く動くかは神のみぞ知るから人が出来るのは祈りしかないみたいな節は確かにあった。ハイパラチューニングだのデータオーギュメンテーションだのモデルアンサンブルだのとかいう黒魔術が交錯する呪術的な世界観は、テクノロジーの高度化に伴って浄化されるどころかより混迷を深めているように思われる。

特に拡散モデルの学習は極めて汚く、正直に白状すると俺は途中で「これを読んで理解する意味はさすがにないだろ」と思って投げた。最初から直に尤度を扱うことを放棄して変分上界に照準を定めるスタートからしてやや不穏だが、案の定それも上手くいかずに再パラメタ化を繰り返すことになる。
行き詰まるたびに横道を探してなんとかして動くものを作り上げる営みを数学的に汚いと見るか工学的に美しいと見るかは個々人の感性によるだろうが、少なくともお魚さんが「ゼロから作るDeep Learning」などと生温いことを皆に言って回れる時代は終わったようだ、というのは一つの学びであった。

3. あれもこれもニューラルネット

三つは、ニューラルネットの使い道がどんどん広がっていること。

とはいえ、ここで言う「広がっている」のニュアンスは若干難しい。
ニューラルネットが少なくとも漸近的にはあらゆる関数形を表現できることは以前から周知の事実であり、数値に落とし込める物事の関係を表現するタスクでさえあれば、(学習さえなんとかできれば!)理論上は何でもできることも誰でも知っているからだ。
とはいえ、かつて典型と言われていたネットワークアーキテクチャを超えて、実際に色々と知らない用途が大小提示されてくるのはそれがいよいよ本格的に実っているということでもある。もう少し具体的に言えば、ニューラルネットワークの使い道の広がり方には二つあるように思われる。

一つは、単に入出力として扱える対象を増やしていくこと。
結局入れて出すものが数値であればなんでもできるのがニューラルネットワークだ。個々の入力を処理するというよりは複数の入力間の関係を見ることで同一性判定にも使えるし、別のネットワークの入出力そのものを教師データとしてしまえば知識蒸留にも使えるし、演算機構自体をモジュールと見做してネットワークで表現してしまってもいいし、オワコンかと思われたGANに至ってはワッサースタインとかいう奥義を得て最適輸送問題のソルバーに転生したりしているらしい。この辺りは④その他関連トピックスで色々紹介されていて面白かった。

もう一つは、特徴量空間という概念の芳醇化だ。
この物言いが何を意味しているのかをクリアに説明するのはやや難しい。特徴量空間は元より人間には解釈できない事柄を処理するための領域として存在している節があり、メタに扱うこととベタに理解することが全く等価ではないからだ。とはいえ、識別モデルのように単なる入出力を検分するのではなく、内部で概念を弄りたい生成モデルにとっては有益なメディウムを意識することこそが重要だよね、という文章は一読して意味のわからないものではないだろう。
思えばこうした手つきの在り方は、ハンムラビ法典のように受けたものをそのまま返すだけのオートエンコーダの隠された有用性によって既に示唆されていたが、「概念演算」などというゼロ年代アニメの能力者のようなコンセプトを持つword2vecに継承され、いまや画像と文章を同一空間に乗せてシンプルに人智のカテゴリを越境するCLIPまでもが現れた。こうなるとあらゆる形式及び概念を同一の空間上に載せるというポップSF的な発想が誰の頭にも浮かんでくるだろうし、それもすぐに出てくるか、もしくはもう既にあるのかもしれない。

まとめ:よかったね

久しぶりに深層学習の本を一冊読んで、令和のニューラルネットワークの勘所とアップデートポイントがけっこう掴めて良かった。別にこの本でなくても良かったかもしれないが、この本でもよいのでとりあえずオススメできる。

25/6/16 人生の現在地2:結婚した方がいい可能性はあるが!

前回
saize-lw.hatenablog.com

前回のあらすじ:仕事は辿り着くべき場所に辿り着いた。
少なくとも向こう10年くらいはこのまま働くと思うし仕事については一旦いいとして、余った人生考慮リソースによって結婚という選択肢が認識され始めている。

消極的な理由は色々あるが!

結婚を検討し始めた理由は三つある。

一つ、既婚者が多い職場に転職したこと。
データサイエンティストという職業柄もあって、部署は全員が同世代の理系男性というかなり均質性の高い空間だが、住む世界の違いを最も感じるのは皆当たり前に結婚していることだ(正確に言えば、一人だけ独身仲間がいるが)。
今まで高校の友達にせよ大学の友達にせよそれ以外の友達にせよ、結婚しない男たちとばかりつるんできた。俺が認識している限りでコミュニティの既婚者率が1/4を超えることはなかったと思うし、少なくとも独身が過半を占める環境で生きてきたことは間違いない。
ただそれは別に反結婚の思想が共有されてそうなっていたわけではなく、そうなっているからそうなっているというだけの話だ。だからただ結婚属性に囲まれただけでそれを身近に感じてくるという、オセロ盤に迷い込んだ風見鶏のような状況がある。

二つ、世間でよく言われることは大抵は大筋で正しいのだとわかってきたこと。
なんだかんだで、マジョリティがよく言うことはそれなりに正しい傾向があるということをこの年齢になってようやく痛感し始めた(ちなみにここで言う「正しい」というのは「倫理的な判断や主張として正しい」という意味ではなく、「幸福になれる蓋然性を高めるのでアドバイスとして正しい」という意味)。
学校には行った方がいいし、学校を出たら働いた方がいいし、もっと言えば学歴は高い方がいいし、大企業には入った方がいい(ここまでは理由付きで理解している)。
そして結婚もした方がいいことになっているので、多分した方がいい可能性が高いと思う。俺はその理由を理解できていないが、結婚しようがしまいが数年後に理解するタイミングが来る予感がある。

三つ、デッドラインが迫ってきたこと。
現実的にはこれが一番大きい。いまちょうど平均初婚年齢を超えたくらいの年齢になった。厄介なことに、結婚とは必要になったときには入手できない可能性があるタイプのアプリケーションだ。
俺はもう少し二十代半ば過ぎくらいの感じでいたかったが、誰にでも無慈悲に平等に過ぎていくのが時間の良いところでも悪いところでもある({TODO:ここに相対論を絡めた反語的な警句を挿入})。

積極的な理由はない

念のためにこのあたりで注釈を挟んでおくと、ここまでの話は具体的な相手がいてその人と結婚するか否かを決めかねている話ではない。
結婚可能な相手がまだ存在しない状態で一般論について考えているだけだ。量子コンピュータの高度なアルゴリズム開発に近い。

そしてその前提で、上に挙げた理由はいずれも「少なくとも結婚すべきでないことはない」程度の消極的な外堀りでしかなく、「結婚すべきである」という結論に進むパワーがない。
周りが結婚しているからといって結婚しなければならないことにはならないし、世間が結婚すべきという理由をまだ全く理解していないし、デッドラインが迫っていることは判断の内容自体には関与しない。

積極的なメリットがまだ何も発見できていない、というのはやや粗い表現だ。
正確に言えば、結婚のメリットはいくつか思い付くが、結婚相手には可能で男友達には不可能なことがまだ一つも見つかっていない。
ちなみにその中には性欲も含まれているが、それは俺がゲイセックスコミュニティに所属しているという意味ではなく、誤解を招かないように少し後で改めて書く。

全体的にたぶん順序を間違えているのだと思うが、それを解決する手段がない(リスクを払ってまでそれをやる動機がない)。
本質が普遍抽象にあるか個別具体にあるかは物事によりけりだが、人間関係は明らかに後者だと俺は思う。
少なくとも個々の人生から見る限り、人間関係の一般論とは個別経験を集約したものでしかない。最大公約数的な仮想のペルソナを一つ想定することと見知った誰か一人の顔を想起することは全く違うし、重要な決定であればあるほど自分を納得させられるのは過去の経験に裏打ちされた決断だけで、歴史上の統計的に正しい判断はあまり役に立たない。
だから一般論として結婚すべきか否かを確定してから特定の相手を見つけるのではなく、特定の相手と結婚すべきか否かを勘案してからそれを調整すべきなのだとわかっている。
しかし今まで異性と接触しない人生を送ってきたせいでその素材が本当に全くなく、だからこの話はここから先がもうない。

性欲蛾物故割れた

そんなわけで残りはチンチンの話しかしないので別に読まなくていいが、性欲という最強のエンジンが死亡して久しいことも積極要因の崩壊に寄与しているのは間違いない。

結論から言うと、もう二次元でしか勃起しなくなった。それも精神的な意味というよりは物質的な意味で(勃起マルクス主義)。
つまり「オタクならイラストでシコれ」みたいなスタンスの話をしているのではなく、ミソジニー諸兄やポップ左派のように現実の性行為の問題点について何事か物申したいのでもなく、もっとシンプルに下半身を司る報酬系が破壊されてしまった。
脳内物質のモニタリングとかをやると「こいつの哀れな脳はもう二次元でしか勃起しないようですね(CV:浅木式)」みたいな結果がふつうに出ると思う。そういう危機的な状態にある。
さっき「性欲に関しても結婚相手に可能で男友達に不可能なことはない」と言ったが、それはいずれも性欲の対象にならないのでその点での優位性も特にないという意味だ。

データサイエンティストらしく直近の射精データを分析すると、2024年の射精のうち二次元で抜いた割合は95.8%だったのに対し、2025年半期時点では98.0%にまで増加している。
つまり三次元射精率は元々4.2%しかなかったのが更に2.0%にまで半減したことになり、変化が線形であることを仮定すると2026年には全てが二次元の射精になっていると推定される。
ちなみに繁殖が難しいことで知られるジャイアントパンダは発情期が1年のうち1週間程度しかないとも言われており(諸説あり)、その発情レートは7/365≒1.9%であるから2025年時点での俺の三次元射精率とほぼ同一の水準となる。だから何だよ。

古のネットで「童貞のまま三十歳になると魔法使いになる」と言われていたのは今にして思えば冗談でも何でもなかった(最新の研究では修羅になるという説もある)。やはり多くの人が言うことは大抵は大筋で正しいのだ。
なんかギリギリ二十歳くらいまでは、美少女イラストは現実の女体の表象であって、フェイクとまでは言わないにせよ二次的な模倣品であるという認識をしていたような記憶がある。ただ二十歳を超えると少なくとも同程度のリアリティを備えるようになってきて、今となってはもはや完全に独立した別カテゴリーの存在物かつ二次元の方にしか勃起しない状態になった。
つまり三次元の女体vs二次元の女体という二項対立は、二十代までは本物vsコピーという関係にあったが、二十代からは本物vs本物となり、三十歳からは本物のスイカvs本物の女体みたいな感じになった。

ここから入れる保険あるか? 生命保険以外で。

25/6/15 人生の現在地1:Twitter就活から一年経ちました

ブログらしいブログいけるか?

少し前にお題箱回答を廃止したこともあり、いわゆるブログっぽいもっと取り留めのない記事を書こうと思い始めた。

補足583:当初は「なぜ取り留めのないことを書くのか」「『人生の現在地』という謎のタイトルは何か」について書こうとしていたが、思ったより語るべきことが多岐に渡って収拾がつかなくなった。人の考えは変わりゆくし多様であることや、かつて理解できなかった物事への理解や、学生の頃に嫌っていた大人になっている理由や、歴史ではなく経験に学ぶ人生についてや、左派的理念的な言説から距離を置きがちになった理由などが。
加齢の影響で考えるようになった物事は、だいたい経験から起こるためにあまり演繹的ではない構造で連関しがちで、線形にしか進まない文章媒体と相性が悪い(飲み屋の方が向いている、などと考えるあたりがマジでジジイっぽい)。だから「1」と銘打った割には続きがあるかどうかもわからないが、一旦もっと具体的な事柄から書くことにした。

今は去年の六月に再就職してからちょうど一年経ったタイミングでもある。Twitter就活したからにはその後の報告もした方がいいような気はずっとしていたので、その積み残しを処理するところから取り留めのない話を始めたい。

なお一年前のTwitter就活については以下の記事を参照。
saize-lw.hatenablog.com

仕事は順調スギスギ

とはいえ、仕事は順調すぎてわざわざ書くことがあまりない。
実は再就職から半年経ったあたりでも何かインターネットへの報告文書を書こうと思ったのだが、そのときも順調すぎて書くことがないと思ってやめたのだった。

業務良し、環境良し、給与良し、人良し、キャリア良し、在宅勤務良し。年収は1年で100万近く上がるし何故か休みが年160日くらいある。
評価を構成する全項目が軒並み「5. とても良い」であり、「ここがGOODポイント」みたいな次元ですらなく全てが自明に良いので逆に語ることがない。これがTwitter就活のパワーか。
会社でも「一年働いてみて実際どう?」的なことをぼちぼち聞かれるが、「こういう質問って中途目線での改善調査を兼ねていそうだし、全肯定するのも嘘っぽいから何か一つくらいは無理やり悪いところを挙げた方がいいだろうと内心思っているが、それでもなお全部良い」みたいな返答をしている。

これも謎のTwitter就活男にDMを送ってくれた現同僚のおかげであることを思うと本当に頭が上がらない。
事象を見れば利害が一致しただけではあるが、因果で見れば人生の恩人ランキングでかなりの上位、少なくとも五本の指には入る。彼は俺のリファラルに成功したインセンティブを会社からウン十万貰っているはずだが、それはそれとしていずれ彼が結婚することなどがあれば俺もウン十万包もうと思っている(ちなみに転職エージェントとかで中途求人をやると1人につき軽く100万円くらいは仲介料を持っていかれるので、Twitterから無料で人材を釣ってきた社員に数十万の褒美を払う程度なら会社的には全然安い)。

なお語ることがないと言いつつ、仕事が順調ですというだけの文章をあえてネットに放流することにはそれなりに強い意味を見出してもいる。
ネットの仕事に関する言説は明らかにネガティブ方向にバイアスがかかっており、若い頃に愚かにもそれを鵜呑みにして少なくないQoLを失った自覚があるからだ。今は過去の自分を救うためにあえて巨大な主語で言おう、普通の会社員は普通に仕事を楽しんでいると。

ソシャゲ業界を横目で見てはいる

ただ強いて言えば、思うところが二つある気もしてきたのでそれも公平のために書いておく。

一点目は職場までの距離。今は週1~2くらいで出社しているが、ドアツードアで乗り換えが必要かつ三十分近くかかるのはややダルい。
しかしそれはいつまでも実家にいる俺が全て悪いので、そろそろ職場の近くに引っ越せというだけの話だ。最近実家のメンバーも加齢が進んできてトイレのバッティング頻度が明らかに上がっている気がするし、今年か来年くらいにはいよいよ一人暮らしを始めるべきかもしれない(決意する割には腰が重い)。

二点目はエンタメ業界との距離。エンタメ業界(特にソシャゲ)に戻りたい気持ちが全くないと言えば嘘になるが、様々なトレードオフを乗り越えてまでプラマイプラスになるとはあまり思えないのが現状だ。
結局俺が一番好きなソシャゲは海の向こうで作られているし、俺は美少女やガチャやログデータのような部分要素が好きなだけでソシャゲというものを総体で好きかと言われるとかなり怪しいし、俺はマスよりニッチを好むのでビジネスじゃなくて趣味でエンタメをやれば良いとも思う(それが今も趣味で書いているラノベでもある)。
ただ、「ゲームプランナー」という肩書をかなり気に入っていたことだけは誤魔化せない事実だ。今の「データサイエンティスト」も相当かっこいい方だが、「ゲームプランナー」の方が僅差で勝つ気がする。皆はどう思う?

攻守共に最強の有能カルチャー

今の会社はカルチャー的にもフィットしていると感じるが、一番ありがたいのは、本質的には「社員が有能である」という信頼が所与になっていることだと思う。
これは自己肯定感とか相互尊重のような気持ちや雰囲気について言いたいのではない。この前提を置けるかどうかが働きやすさに直結するのだな、ということを俺はこの一年で痛感した。
いま本質的に有能なインテリの学生に対して一つだけ魂のアドバイスができるなら、「構成員が有能という前提がある組織に行け」に集約されそうだ。

これは実際の制度について述べているわけではなく、思想を表現した比喩に過ぎないことを前置きしておくが、例えば、俺は前職の頃から「仕事中はオフィスでいつでも昼寝ができるべきだろう」と思っていた。頭のエネルギーを使い切ったときに形だけモニターに向かってもしょうがないわけで、三十分くらい昼寝してチャージした方が一日の総アウトプットは明らかに増える。
ただ迂闊に昼寝できるソファーを置くと一日中寝ていて何もしない社員が出現することも懸念されるため、そのリスクをリターンが上回らない限りは仕事中の昼寝は禁止せざるを得ないのも理解できる。
しかし逆に言えば、自分で自分の昼寝を管理して勝手にバリューを出せる自律的な人材を集めている自信があるのなら、昼寝用のソファーを置いてもよいし、むしろ置いた方がいい。
そしてこのソファーこそが働きやすさなのだ。それは明示的な制度というよりは暗黙の運用であることも多いが、昼寝した方がパフォーマンスが出る人はソファーがたくさん置いてある会社に行くべきだ。何をしてもいいときに結果が出せる人は、結果を出すなら何をしてもいい組織にいた方がいい。

もちろんこれは明らかに諸刃の刃でもある。寝そべり民が入社した瞬間に全てが崩壊して色々な規則を作らざるを得なくなるため、そこはもう人事の目利きでカットするしかない。
だから働きやすさは採用人事のおかげでもあり、出社するたびにいつもありがとうと人事部に向かって礼拝している(念のために書くが、これは盛りである)。

公安9課が一番かっこいいんだから

業務内容としては、当初の希望通りにゼネラリスト寄りのデータサイエンティストをやっている。
Twitter就活の折にも「統計検定1級取ってるし数学はけっこうできるけど、元々エンジニアに興味なくて企画職になったわけだし、数理とかコーディングに完全特化するよりはビジネス側のハンドリングについても口を出す感じのデータサイエンティストがいい」みたいなことを言っていたが、まさにそのポジションがあってそこに収まった。

マネージャーが「攻殻機動隊の公安9課みたいな部署にしたいね」などと言っているのを当初は「何言ってんねん(確かにそうですね)」と応じていたが、一年経つとかなり同意できる。
各メンバーが勝手に磨き上げたスペシャルな技能を持っていて、お互いに密に協力するわけではないが、定常タスクというよりは自由度の高い攻性の遊撃によって大小様々な事件をクリアする少数精鋭の集団が一番かっこよくないか?

理想の職場

「確かにこの個人プレー感は公安9課っぽいな」と思ったことは色々あるが、業務と関係ない範囲で一つ書くと、専門職なので一応週一でやっていた勉強会にあまり需要がなくて遂に完全に解体されてしまったことがある。
というのも、どうせ皆必要なことは自分で論文や書籍を探してきて勝手に勉強するし、一人では専門書を読めない人もいないので、勉強会で読む書籍が決まらないのだ(「そんなん勝手に読めばよくない?」で終わってしまう)。俺も勝手に読むサイドだから全然構わないが、それでやっていける人が極少数であることも知っているし、Twitterの変なやつをリファラルで通している割にはそういう種族を上手く集めてきて局所最適解に到達しているのはやはり偉い。

ちなみに集団を象徴する画像を比較したとき、麦わらの一味は公安9課と描き方が対極で面白い。

逆公安9課

公安9課は表面的には似たような黒い服を着て並んでいる割にはポーズがまちまちで、横を向いてるやつすらいて統一感を欠いている。しかし麦わらの一味は服装が違う割には同じマークを付けて同じポーズを取ることで却って強い協調が表現される。
これはどちらが良いというわけではなく向き不向きの話だが、それだけに「公安9課と麦わらの一味どっちが好き?」ということはもし学生の読者がいたらちょっと考えておくと良いことがあるかもしれない(でもこんなブログを読んでいるやつはほとんど前者そう)。

少し脱線した。漫画をダシにして組織論などを語り始めるのはオタクジジイの典型的な末路だ。
ただ、オタク文化がいよいよ浸透した現代において、メッセージを象徴的に伝える媒体がそれらになるのは自然な顛末ではある。世代感やコミュニティ特性が出るのは選択する作品のチョイスだけで、その振る舞い自体は一般的と言ってもいい……かどうかはまだ自信がない。言うてネットで事あるごとになんかの漫画のコマ貼ってんのマジで激ジジイだけじゃないか?

二重脱線から今度こそ戻ると、今はそんなポジションでデータサイエンス周りを全部やっている。事業側のMTGに参戦するし、分析も設計から実行までやるし、コーディングしてモデルを実装するし、必要なら論文を読んで数学もやる。
未経験業種・職種ではあるので数学以外にも色々できるかどうかは懸念していたが、なんかやれば全部できるので全然問題なかった。エンジニア経験はないけどCSの学位は持ってるからコーディングもやろうと思えばできるし、数学の話を噛み砕いて伝えるのにはサイゼミをやっていた経験が、他部署にも向けたデータサイエンス絡みのドキュメント作りにはこのブログを書いていた経験が活きる。
あまり目的もなく適当にやっていた活動が後から伏線回収されるのは、単に今便利なだけではなく過去を利確できるので二重に美味しい。何でもいいから何かを真面目にやっておくとどこかで活きるシステムが人生にはある気がする。

まとめ:よかったね

以上、そんな感じでTwitter転職は完全に成功して今は仕事がかなり楽しい。一年前に就活ツイートをリツイートしてくれたTwitterの皆さんに改めてお礼申し上げます。
仕事が楽しいので友達にもすぐ仕事の話を聞こうとしてウザがられているが、俺は浪人留年中退無職で時空が歪んでいて今が社会人3~4年目くらいの一番楽しい時期なので多少は見逃してほしい。
多分もう少ししたらちょっと落ち着いてこの記事も「そういう時期だったんだな」という感情になると思う。そういう変化を予見するようになったことが「人生の現在地」という暫定留保的なタイトルを付けた理由でもある。

意外と語ることあったな。

25/5/11 2025年2~3月消費・生産コンテンツ

メディア別リスト

書籍(8冊)

新版 量子論の基礎
量子の不可解な偶然
リアルワールドバグハンティング
DNS & BIND 第5版
実務で使える メール技術の教科書
DTOPIA
ゲーテはすべてを言った
コンピュータネットワーク

良かった順リスト

人生に残るコンテンツ

コンピュータネットワーク

消費して良かったコンテンツ

リアルワールドバグハンティング
新版 量子論の基礎
量子の不可解な偶然

消費して損はなかったコンテンツ

DNS & BIND 第5版
実務で使える メール技術の教科書
ゲーテはすべてを言った
DTOPIA

たまに思い出すかもしれないくらいのコンテンツ

(特になし)

以降の人生でもう一度関わるかどうか怪しいコンテンツ

(特になし)

ピックアップ

コンピュータネットワーク

類稀な良著。体系的な知見とはこういうものを言う。
個人的にも人生で色々触れてきた情報系の知識が収斂していく感じで熱かった。
saize-lw.hatenablog.com 

新版 量子論の基礎・量子の不可解な偶然

いずれも良著。以下に書いた。
saize-lw.hatenablog.com 

リアルワールドバグハンティング

かなり面白かった。
世の中には「(エシカルな)ハッカーが発見した脆弱性をレポーティングするとバウンティを貰える報酬プログラム」なるものが存在し、そこで実際にバウンティを獲得した実例を紹介することでセキュリティについて解説する本。

セキュリティ本は世の中に数多あるが、これは脆弱性に取り組む主体がウェブエンジニアではなくハッカー側なのがポイント。全てがハッカー目線で解説されると共に、読者も当然のようにハッカーで想定されている。
例えば豊富な事例にはいちいち教訓が付与されているが、そこで語られるのは「一見すると安全そうなサイトでも諦めずに粘り強くセキュリティホールを探し続けましょう」のようなハッカー目線でのマインドである。「クエリストリングを使う時にはここに気をつけよう」みたいな実装目線の記述が一切ないのが新鮮で面白く読みやすい。

難易度もそこまで高くなく、多少の情報学への心得があればエンジニアでなくても読める。ただネットワークの基礎的な知識は必要なので、「ブラウザがふつうに色々表示するときはサーバにHTTPリクエストを送って受け取ったレスポンスを表示している」くらいのことはわかっていた方がよい。

防衛側ではなく攻略側の話なので、スタレの銀狼みたいなハッカーキャラがやっていることが人間的な次元でかなり深く理解できたのが良かった。

これ何してんの問題

ハッキングとは、結局のところ誰かが作ったシステムが提供するインターフェイスから内部挙動を悪用する話だ。システムが利用者に対してサービスを行うには、ほとんどの場合でインターフェースが必要になる。それは大枠ではHTTPなどのプロトコル自体だし、細かく見ればログインや遷移に必要な入力パラメタでもある。それらを介して受け取ったリクエストを内部で処理してレスポンスを返すのがウェブ上の対話的なシステムの流れだ。
だがインターフェースとは、その定義上、大なり小なりシステムの内部に干渉できるルートでもある。つまりインターフェースから受け取った情報に応じて何らかの処理を行うということは、視点を逆にすれば、何らかの処理を行わせるためにインターフェースを利用できるということでもある。
内部処理の詳細は公開されていないブラックボックスであるにせよ、攻撃者が「だいたいこんなことをしているのだろう」と処理内容を予測できれば有効な攻撃を逆算で組み立てられる。こうして不可避に提供しなければならない窓口から、攻撃者が実装者の想定を越えていくことでハッキングが成功する。

この流れは対人ゲームとそう変わらない。結局のところ人が作ったものを人がどう攻略するかという話で、相手がどのような戦略までを想定しているかをこちらで想定し、その想定外を突きに行くというゲームにおける一般的なプロセスがある。細かい実現技術はjavascriptだったりSQLだったりphpだったり色々あるにせよ、セキュリティ上の攻防はそういう読み合いで出来ている。

DNS & BIND 第5版

DNS & BIND 第5版

DNS & BIND 第5版

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DNSというかFQDNが微妙によくわからなくなったので読んだ。
別に自分で実装するわけではないので後半のBIND部分(DNSの実装技術)はあまり読んでいない。これに限らず、オライリーの厚い本は具体的なプロダクトや設定手順に興味がなくても歴史や理論を概観する最初の1/3くらいだけ読んでおくと有用なことが多い。

結局、FQDNは当たり前のようにホスト名とドメイン名を跨いで濫用されているということが全ての混乱の元だった気がする。冷静に考えると普通にわかりにくすぎる。
例えばserver.example.comというFQDNがあったとして、これはホスト名としてもドメイン名としても解釈できる。つまりホスト名としての解釈は「ドメインexample.comに所属するホストserver」だが、そのホスト自体がサブドメインとして機能して配下に別のホストを持っている場合(例えばhost1.server.example.comが存在する場合)、server.example.comはドメイン名という解釈になる。どちらを指しているかは文脈によるし、あまり厳密に区別せずに緩く両方を指しているケースもある(サブドメインを統括するものとしてホストを指すニュアンスなど)。

DNSが構成する木構造を考えるとこれらが全く違うものを指していることがよりわかりやすくなる。ホストはノードであるのに対し、ドメインは部分木であり、論理的に指している集合が全く違う。
百歩譲って常にあるノードが配下の部分木全てを統括しているようなシステムしかこの世にないのであればギリギリ問題にならないが、実際のところ、DNSサーバーを用いてドメインの管理を行うゾーン概念においては全くそうではない。ゾーンは部分木全てを包括しているとは限らず、下流のあるノードから先をまた別のゾーンに分譲して残った中間部分みたいな形になることも少なくない。
このあたりがちゃんとわかってよかったと言えばよかった。

DTOPIA

DTOPIA

DTOPIA

Amazon
最新の芥川賞受賞作その一。いつものブロッコリーマンの読書会で読んだ。
芥川賞の中では面白い方だが、前半の面白さに反して後半が別にという感じですごく勿体なかった。

序盤は明確に良かった。タイトルにもなっているDTOPIAという恋愛リアリティーショーは非常にエキサイティングで面白い。
いきなりファックバトルを繰り広げたり現代的なネット配信消費文化に合わせて時系列をシャッフルしたり、見せ方や展開に工夫があって飽きずに読み進められる。時折挿入される「私はリベラルな事柄についてよく考えています」というポーズは人文系の典型的な内輪ネタとして芥川賞での標準装備になっているが、それも『東京都同情塔』のようにベタにテーマになるわけでもなく、恋愛バトルを左右するトリッキーな飛び道具として組み込まれてエンタメ要素を盛り上げていたと思う。

また珍しい二人称形式の小説でもあり、そのギミックも含めてここからどう運ぶのかと楽しみにしていると、なんかいきなり金玉の切除からノワール編が始まってDTOPIAに戻ってこなくなってしまう。
ノワール編が長い割にはどうでもよくてよくなかった。文章としてのクオリティは高いと思うし、アイデンティティ探しの渦中にいる若者たちの生き様について紋切り型にならないように一定のリアリティや葛藤を組み込んでいることは評価できる。ただなんかそもそもの話が何か起きそうで何も起きない割には着地点がなくていまいちどうともならない。バケモンみたいな金玉カットマンの怪物性をもっと掘り下げてエンタメにすればよかったくない?

という、マジョリティの安直な要求を牽制する構造があることは分かっている。つまりエンタメ志向の読者が持つキャラクターへのステレオタイプな期待自体がマイノリティの多様性を抑圧する暴力であり、そういう読者への期待に応えないこと自体がアイデンティティ小説としての価値を生むというロジックはわかる。だが、それを承知した上でなおこちらにはそのゲームに乗る理由がない。
だから俺は「頑張ってて偉いね、でも小説としては面白くないね」と言わなければならない……おれがきみらの敵だ!

これはシンプルに価値観の衝突であって別にどちらが悪いという話でもないが(という言い方はさりげなく自分が悪くないことを主張していてかなり狡い)、「面白くしない合理性があるからといって面白いことにはならない」という点は動かない。
特に前半戦の恋愛バトルはエンタメとして非常に面白かっただけに、そのポテンシャルが実らなかったことを勿体なく感じる。すぐにメタゲームを始めてしまってベタな面白さへの梯子を外す、芥川賞というか人文インテリの悪いところが出ている。

ゲーテはすべてを言った

最新の芥川賞受賞作その二。いつものブロッコリーマンの読書会で読んだ。
俺はこっちの方が面白かった。ベースになってるインテリの世界が割とあるあるネタというか、ありそう感で構成されていてスイスイ読めるのと、全体の構成も上手くオチも綺麗。芥川賞では『バリ山行』と並んで最も好きな作品の一つ。

まあ雑学が披露され続けるのが鼻につくのは確かだしそれを雑学小説と批判する向きもわかるが、インテリは鼻につくものなのでそれはもう仕方ない。学術的な事柄とか理屈っぽい事柄とかだから何だよみたいな事柄を全部面白いと思っていて、いちいちそれを通貨にして流通させなければ気が済まないのだ。

芥川賞にしては珍しいことに、最大のキーアイテムであるゲーテ疑惑の引用句について「どこから来てどこへ行くのか」という顛末を最後までちゃんと処理しているのが良かった(芥川賞は人間の実存にしか興味がないため、主人公が内的に一皮剥けたりしたことで終わってしまって外的な事件を解決せず放置することが多い)。
序盤は主人公がスレていない学者らしく引用句を運命的なアイテムとみなして過度にロマンティックな世界観の下でアカデミア流儀での探求を進めていくのだが、それが行き詰まってくると彼氏だの娘だのという俗っぽい要素が出てくるようになり、伴ってインターネット検索や製造元への問い合わせなどのもっと現実的な探索方針にスライドしていく。それと同時に「引用という行為をどう扱うか」というより抽象的な話題についてもアカデミックなスタンスから日常的な見え方へとスライドしていく構成はお見事。

途中からドイツに飛んだりして都合の良い三文小説っぽく展開していくのも明らかに意図された構成だ。温度感が移り変わっていく中で我々が言葉をどう使うのか、言った言われたというよりは言うか言わないかじゃんという話にもなってきて、最後にサザエさんみたいなテンションで皆が引っくり返って終わるところまで綺麗にまとまっている。

感想:「芥川賞はもう良くない?」からの直木賞の時代へ

今回の二作を読んで「芥川賞はもう良くない?」と思った。

さっきも少し触れたが、芥川賞は人間の実存の話しかしないことがわかったからだ。
非常に乱暴に言うと、ほとんどの小説は「外部で起こる事件」と「主人公の内面の変化」がセットになっていると思うのだが、芥川賞では後者にしか関心がない。主人公が自分の中で落とし所を見つけるなり結論を出すなりするのが最終目的で、事件の方はそのエンジンにすぎないため、主人公が満足するとなんか良かったねという感じになって事件の方は投げっぱなしで終わりがちだ。
これは純粋に好みの問題だが、俺は普通に事件の顛末の方が気になるので「お前の満足はどうでもいいからこの事件はどうなったん?」と思うことが多くてたぶん普通に相性が悪い。これも誰かに怒られそうな乱暴な区分だが、なんか「人間を描きたい純文学派閥 vs イベントを描きたいエンタメ派閥」みたいな大きな価値観の相違があって、芥川賞は前者なのに対して俺は後者なのだ。

文学に詳しいブロッコリーマン曰く、それには制度的・歴史的な経緯もけっこう絡んでいるらしい。例えば芥川賞は中編小説向けの賞なので大きな事件を描き切るほどの尺が取れなかったり、文学の黎明期に誰かがどこかで「人間が描けていない」という批判を受けたことに対するトラウマが今も尾を引いたりしているようだ(という俺の知ったことではない事情がある)。

特に今回の二作を読んでいるときにこの辺りのギャップを強く感じた。
まず『DTOPIA』はあれだけ面白そうなゲームからスタートしたにも関わらず途中から知らんやつのアイデンティティの話に移行してゲームは中断されてしまった。逆に『ゲーテはすべてを言った』の方は事件を最後まできちんと追っているので俺は高く評価したのだが、冷静に考えるとそれはエンタメとしては最低条件というか、「作中の事件がちゃんと解決されているから」というのを高評価の要因にするのはなんか違くない?(not for meなものを無理に読んでいるんじゃない?)ということを自覚するきっかけになった。

ともかく俺は「芥川賞から吸えるものは全部吸ったし多分合ってないからもういいかな」と思って、「直木賞の方がエンタメ寄りらしいから直木賞にせん?」と読書会に申請したのが受理された。実はもう直木賞の名作『テスカトリポカ』の読書会を4月末にやったのだが、これは本当に面白く、確かに直木賞の方が向いているっぽいという学びを得た(『テスカトリポカ』の感想は4月の消費コンテンツとして書く)。

生産コンテンツ:不死者八人のデスゲーム

創作クラスタに所属してないからTwitterでの進捗報告とかは全然してないけど、去年の秋くらいからほぼ毎日ペースでずっと次のラノベを書き続けている。進捗は今15万字くらい埋まってて、完成はちょうど20万字くらいだと思う。

去年再就職したあたりで「創作を健全で持続可能な趣味とする」という目標を立てたが、これはかなり派手にしくじっており、あまり健全ではない精神状態で毎日書く羽目になっている(創作を中断する選択肢はないので精神が良くない状態で必死の進捗が生まれ続けている)。
今にして思えば「一年に一本は二十万字前後くらいの長編を書く」という目標の立て方があまり良くなかった。俺には元々「一度立てた目標は絶対に達成しようとする」という特性があり、これは概ねメリット寄りの能力として受験や資格や仕事などを支える基盤になってきたが、その反面「目標を達成するまでは強い強迫観念を抱え続ける」という強烈なデメリットと裏表になっている(だから軽率に目標を立てることを禁じており、年始に一年の目標を立てたりもしない)。
今回は「一年に一本」とかいうクソアバウトなスパンで目標を立ててしまったため、一日作業すれば一日早く終わる、目標達成が確実になると囁く亡霊の追い立てに一年中責められ続けており、空き時間がすぐに「創作をしていない時間」になってしまうのがかなり精神に悪い。次の一年は「この月はここまで、この週はここまで」みたいなもっと細切れの目標にした方がいい。

そんな感じで焦燥感に追われながら書いている「不死者八人がデスゲームをやる話(タイトル未定)」をよろしくお願いします。
残りで怒涛のオリキャラ紹介をします。こいつらと一緒に苦しんでいる。ちょっとキャラクターシート作るの億劫になってきたんだけどヘッダーくらいでいい?(NovelAI v4)

参加者① 【ゲーマー女子】三途(サンズ)

「ウチに任せといてよ」「それはそう!」

主人公。不死者。死亡した瞬間にリスポーンする。
明るく、騒がしく、鬱陶しい。基本的にコミュニケーションがインターネットで対人距離がバグっているが、わりと博愛主義で悪意がないので大抵の相手とは仲良くなれる。
デスゲームに対しても「どうせ死なないし面白そうだから」というモチベーションで能天気に参加している。

参加者② 【地雷系】萌え様

「あたしはどうでもいいけどー」「そんなことなくない?」

不死者。死亡後に錠剤を服用することで蘇生できる。
可愛く着飾った服とは裏腹にだいぶ死んだ目をしており、ダウナーで甘ったるく語尾の伸びた話し方をする。不死を活かしてメンヘラと心中してあげる慈善事業を行っていたことがある。
参加者の中でもいち早く真相に到達し、他の不死者たちを煽りながらデスゲームを楽しんでいる。

参加者③ 【吸血鬼】ヴァンヒール

「それは妾に言っているので?」「死んだらコトだわ、なんて」

不死者。生命を無限に持つので死亡しない。
常に上から目線で高飛車だが、他人を見下すことは高い矜持の現れでもある。貴族的な振る舞いに徹し、冷たい物言いが多い割には意外と面倒見が良かったりする。
不死者の中でも屈指の戦力を持つ。初対面の三途曰くTierSキャラ、腐れ縁のHEAVEN曰く災害に近い存在。

参加者④ 【バトルシスター】HEAVEN

「わたくしで宜しければ」「視野が狭いですね」

不死者。自身の肉体を無胚受胎することで死を免れる。
宇宙の熱的死を避けるために自らを人類の擁護者と位置付けている。物腰が柔らかく誰に対しても丁寧な敬語を用いるが、デスゲーム開始前からヴァンヒールを敵視している。
聖職者らしい視座の高さを持ち、今回巻き込まれたデスゲームの本質的な善悪を見極めようとしている。

参加者⑤ 【帯刀軍人】泥夢(デイム)

「我に頼る可きでは無い筈」「其れは少し後だ」

不死者。致命傷が死亡に至る前に高速で治癒再生する。
金属のブーツで固い音を立てながら歩き、厚く着込んだ軍服からは血と泥の臭いがする。威圧的な外見に加えて表情に乏しいため無口に見えるが、実はけっこうよく喋る。
不死者としての勝負の在り方については一家言あり、デスゲームの最中にも自らの思想を研いでいる。

参加者⑥ 【少女名探偵】シャルリロ

「事件解決は僕の仕事です」「嫌いじゃないですよ」

不死者。死亡時に謎の大きな手が出現して新しい自分自身を再配置する。
他の不死者たちにお姉さん属性が多い中、小柄で中学生くらいに見えるので三途に可愛がられている。概ね冷静で合理的な分析を行うが、見た目年齢相応の幼さが出ることもある。
探偵という職能に誇りを持っており、デスゲームに潜む謎を解き明かすことを目指す。

参加者⑦ 【奇術師】遊道楽(ユドラ)

「遊道楽にかかれば一網打尽である!」「これは君へのサービス無料」

不死者。自らが死亡するイベントを事後的に奇術扱いとして死ななかったことにできる。
常に舞台上にいるような芝居がかった口調で話し、ハイテンションで声もでかい。同じトリックを扱う職業である探偵のシャルリロと仲が良く、新人不死者の三途に対してもフランクに接する。
デスゲームも自らが主演する舞台の一つと見做して張り切っている。

参加者⑧ 【継ぎ接ぎ】ゾンちゃん

「俺様もう眠いぜ、です」「何言ってますぜ?」

不死者。どんな致命傷を負っても見た目さえそれっぽく修復できれば復活する。
小さな身体に無数の継ぎ痕があって痛々しいが、本人は特に気にしていない様子。外見に反して異常な怪力を持ち、親指と人差し指だけでステンレスを粉状に擦り潰せる。
猫のように気ままで何を考えているのかわからないが、デスゲームに対してはそれなりに前向きな姿勢を見せる。