LWのサイゼリヤ

ミラノ風ドリア300円

23/9/29 2023年3月消費コンテンツ

メディア別リスト

漫画(8冊)

逃げ上手の若君(1~8巻)

書籍(4冊)

日本教について
アルファ・システムサーガ
エロマンガ・スタディーズ
映画はもうすぐ百歳になる

映画(2本)

シン・仮面ライダー
地獄の逃避行

アニメ(24話)

お兄ちゃんはおしまい!(全12話)
アキバ冥土戦争(全12話)

 

良かった順リスト

人生に残るコンテンツ

(特になし)

消費して良かったコンテンツ

地獄の逃避行
逃げ上手の若君(1~8巻)
日本教について
アルファ・システムサーガ
エロマンガ・スタディーズ

消費して損はなかったコンテンツ

アキバ冥土戦争
映画はもうすぐ百歳になる
シン・仮面ライダー

たまに思い出すかもしれないくらいのコンテンツ

お兄ちゃんはおしまい!

以降の人生でもう一度関わるかどうか怪しいコンテンツ

(特になし)

 

ピックアップ

アキバ冥土戦争

なかなか面白かった。

「メイドカルチャーでヤクザカルチャーやったらオモロくない?」というだけの話だが、シリアスな事務所で萌え萌えキュンとか言ってる絵面はそれだけで割と面白く、最低保証が高めに担保されているのは嬉しいところ。

冒頭では常識人っぽい主人公が異常な世界の有様にツッコミを入れていく立ち回りかと思われたが、すぐにその見方は勘違いであることが発覚する。ヤクザとメイドが融合していること自体は、主人公の認識では特におかしなことではないらしい。つまりメイド+ヤクザというギャップに驚いていたわけでは別になく、単にヤクザにビビっていただけだ。よって主人公がヤクザ界隈に適応した中盤以降は、ツッコミ不在で常識が狂った世界に視聴者がツッコむボケ倒しの芸風となる。

メイドから入ったもののヤクザに染まってしまった主人公が、再びメイドの矜持を取り戻す終盤の展開はかなり良かった。たぶん冥土戦争におけるメイド職とは我々の世界で言うところのテキヤ稼業みたいなもので、本来は素人さんから金を巻き上げるシノギでしかないのだが、脅すのではなく楽しさを提供するサービス業としての側面も確かにあって、主人公はそっちにドはまりして射的の経営に本気になってしまったヤクザみたいな立ち位置なのだろう。そういう副業にプライドを持ってしまった主人公がヤクザとして撃たれながらもメイドとして芯を通すライブシーンは、一見するとギャグではあるがクライマックスにふさわしい輝きがあった。

視聴者からすると、これは文法のせめぎ合いでもある。ヤクザとメイドという二つの文脈はシュールギャグという形で統合されていながらも、真に命が絡むシリアスなシーンでは真っ向から衝突することによってどっちつかずの主人公に強い葛藤を提供していた。最終的には「抗争をどちらの文法で収拾するのか」というところにこの作品最大の論点があり、主人公以外は全員ヤクザの文法で振る舞うのだが、主人公だけは抵抗してメイドの文法で事態の収拾を試みるというコンテクストの戦いがある。かなりアクロバティックではあるが、冒頭で提示された主人公のメイドへの憧れを最終話のヤバイ状況の中ではっきり提示する王道で一貫したテーマを持っている。新しいしよく出来ている面白いアニメだった。

ちなみに、萌えのカリカチュアである割には(であるからこそ?)萌えるキャラが一人もいないのは意図したものだろうか。普通に萌えキャラがいた方が見やすかった気はするが、そうはいっても萌えキャラの重力というのはあまりにも強すぎるものだから、本当に人気一強の萌えキャラを出してしまうと「単なる萌えメイドアニメ」になってしまう。ベタな萌えアニメになってしまうとマズいのは、萌え(メイド)の文法自体を巡るメタな戦いが見えなくなってしまうことだ。それを避けるため、あえてギリギリで萌えないラインを攻めていたとしたら、その手腕には感服する。

 

逃げ上手の若君

前にも二巻くらいまで読んだ気もするが、アニメ化記念で無料になっていたので読んだ。元々ネウロの大ファンだが、期待を裏切らない面白さ。

タイトルにもある「逃げる」というテーマ自体、他でまだあまり扱われていない割には十分に魅力的なテーマなので無理に捻らなくても新しく面白くなる。『ネウロ』の「犯罪(の可能性)」や『暗殺教室』の「(教師の)暗殺」もそうだったが、まだ誰もやっていないから直球で新しい上に面白い最強の邪道テーマを発掘してくる最初の着眼点が凄い。テーマ選定で勝っている。

主人公は困難をクリアする典型的なクエスト方式で成長していくが、ギャグ的には「卑怯」と言われつつも実際に卑怯であるシーンがほぼないのもよく出来ている。ただ逃走が素早いだけで真に仲間を危険に晒したり誇りを傷付けるシーンがなく、嫌われない主人公を描けている。

露骨なショタ美少年ぶりが光る主人公とは対照的に、他のキャラクターがおっさんだらけでビジュアル的には全く魅力がないのにキャラ付けでだけでなんとかしてしまえるのが驚異的。頭に文字が出るおっさんとか絵面が地味すぎるのにムーブだけでキャラが立っている。特におっさんたちをかっこよく見せる演出の工夫として、ボスとエンカウントしたときの演出がめちゃめちゃいい。ああいうゲーム的な反復フォーマットかなり好き。

 

日本教について

1970年代のベストセラー。「ユダヤ人作者が日本人について語る」という体だが、実際には作者とされるユダヤ人は架空の人物で、訳者の日本人が全部書いていたことが後世で発覚したやべえ本。

Twitterで言えば「ここがおかしいよニッポン!」とか言ってバズってる外人アカウントを運営しているのが日本人だったという、SNSどころかネットすらなかった五十年近く前からカスの外人騙りが存在していたのが味わい深い。特に本田勝一との公開書簡討論では慇懃無礼な日本語で煽り倒すカスのレスバを繰り広げているのがかなり面白い。こいつこんだけオラオラでレスバしてる割にユダヤ人のフリしてるの面の皮が厚いってレベルじゃないぜ。

とはいえ、流行っただけあって「日本人の精神構造を(ユダヤ人が)分析した」と称する内容自体はぼちぼち面白い。

例えば日本人の実践的な論理構造として「天秤の論理」を掲げており、実際に力を持つ「実体語」とは別に、それとバランスを取る分銅として実際には力を持たない言説である「空体語」が必要であるとする。確かに野党的な言説は常に必要とされるが、それは分銅としてバランスを取るためにだけあるのであって、実際に野党が実行者となった場合には色々なものがめちゃくちゃになることがある。決して実行されないが、しかし必要とされる空疎な言葉というのははっきりあるのであって、知識人にはそういうものを提供する役割がある。

ただこれに限ったことでもないが、全体的に主語は「日本人」というよりは「知識人層」の方が適切なような気もする。当時は一般人が意見を発信するチャンネルがなかったから、言論の場における日本人とは知的階級の高い公人とイコールだったのかもしれない。

他にも色々と面白いことは言っていて、日本人は「お前のお前」という形で自己を定位するから天皇が必要なのだとか(大澤真幸もそんなことを言っていた)、日本人は実際の理よりもとにかく集会を開くことが大事なのだとか(そこで横着して拗れ切った三里塚闘争のことだ)、日本人は対物関係を気にしないから古代ギリシャ以来の西洋哲学は馴染まないのだとか、日本の二者関係においては責任は認めることによって却って免責されるのだとか、「まあ言われてみればそんな気もするな」みたいなことが当時の時事問題を絡めて色々と語られる。

とはいえ、全体的に眉唾なエッセイの域は出ないことは留意しておいた方がいい。日本人の論理は歴史的に規定されたものであるという主張を一応してみているが、根拠は全くない。鵜呑みにさえしなければかなり面白い一冊。

 

アルファ・システムサーガ

熊本のゲーム会社「アルファ・システム」の全盛期に出された社史。

もうアルファシステムと言われても聞いたことがないゲーマーの方が多いかもしれない。今は精々サクセスやカイロソフトあたりと並ぶ古参国産中小サードの一角に落ち着いているが、芝村裕吏が猛威を振るっていた全盛期には日本の同人界に覇を唱えていた時代があった。ガンパレード・マーチが流行ったあとにガンパレード・オーケストラで評価が下がる前くらいの時期、と説明して「ああ、あの頃」とわかる人には説明する必要もないのだが。

当時の最強IPであったガンパレの流行模様の振り返りにかなりの紙面が割かれているが、「ほんの20年前ってそんなにネットが未発達だったっけ」という時代感が凄い。当時はSNSなど無かったのでBBSの書き込み件数が盛り上がりの指標になるが、1日100件投稿があったくらいでめっちゃすごいブームという扱いになっている。

そんな風に今と比べればローカルだったオタク界隈という前提ではあるが、当事者としてリアルとネットの過熱を分析する語り口は意外と冷静で読み応えがある。特にガンパレオンリーイベントが何度も開催されて激流行りしていた最中、異常かつ膨大な裏設定が出てきた段階で「裏設定を楽しめる層」と「もう付いていけない層」で分裂してファンがふるいにかけられたという話は相当に面白い。ガンパレは学園軍事キャラゲーかと思いきや、本当は魍魎戦記MADARAのように(この喩えで通じる人もあんまいなくない?)転生を繰り返す長大なサーガのごくごく一部であることが事後的に発覚して、マジで「引く」人が出現したのも頷ける。ちなみにその辺のサーガについてもこの本に色々書いてあるのでヤバい設定の数々を楽しむこともできる。

何にせよ、今読むと「こんだけ流行ったコンテンツも今は昔」という祭りのあとを感じる一冊。芝村裕吏も既にアルファシステムを退社してLOOP8を作っているし、諸行無常

 

エロマンガ・スタディーズ

中高生の頃に買ったやつ。タイトル通りにエロ漫画の教養が学べる真面目な本。今読むなら増補版が出ているのでそっちを買った方がいい。

二部構成で、第一部ではエロ漫画の通史が語られる。全ての源流には手塚治虫がいて、そのカウンターとして劇画があり、ロリコンは少女漫画から発生したというような様々な流れが具体的な作品と共に見通しよく語られていてとても勉強になる。

第二部では巨乳やSMなどの様々な性癖が紹介される。各論的ではあるが、全体として、感情移入する対象や快感を伝える媒体は実は竿役ではなく女性だという主張がそこそこ通底している気がする(オタクの身体より少女の身体になった方がふつうに気持ちいいみたいなことは本田透も言っていた気がする)。例えばでかすぎる巨乳には激しい動きによって発生している快感を物理的に表現できる優位性があるという説明にはなるほどと思った。

個人的に一番気になるのはやはり「萌え」だが、最終的には萌えの核心にはエロスがあるという立場を取っており、苺ましまろを「寸止め」というかなり最悪な単語で表現するのには同意できる。また、この本が出た当初には推しや尊いという言葉は存在しなかったわけだが、それらとエロスが結び付くことはないし、むしろ萌えに対するそれよりも強く拒否されるという点で一つ何か続けられる論があるかもしれない。

 

映画はもうすぐ百歳になる

押井守『トーキング・ヘッド』で引用されているのを知って買ったやつ。

1986年のエッセイ集でだいぶ古い。有名な列車の到着から始まり、映画上で発明されたギミックや技術の歴史を時系列で滔々と語っているので教養として勉強になる。クローズアップの発見、トーキーの発明、カラーの導入などなど。特に面白いと思ったのは、カラー映画が出た当初は「カラーは本当らしくない、シリアスでない」という捻れた評価があったらしいこと。新技術への感性をアプデできない層はいつの時代にもいる。

比較的冷静に語る前半に対し、後半になってくるとダルい映画オタクとしての本領が発揮され始める。マイナーな監督を無限に擦ったり、ゴダールと会った話だの、オススメ映画を聞かれるのがうざいと愚痴る話だのというエッセイはそれはそれで面白い。

 

シン・仮面ライダー

見た直後はめっちゃつまらなかったが、時間が経つと面白かったような気がしてくる謎の映画。

局所的な画が異常に良いせいで脳に保存されるビジュアルが綺麗で、記憶を思い出したときの心象が良いというバグ技を使われている。ハチ怪人が出現するときに商店街で洗脳された人々が徐々に集まってくるところが一番良かった。

基本的には昭和の亡霊な内容。「敵を倒すごとに怪物になってしまうがそれでも戦う」という最も古典的な仮面ライダー像を扱い、「古き良き」を地で行くベタベタな展開を好む。「ところがぎっちょん」「おいでなすったぜ」とかいまどき言わねえよというコテコテの台詞を入れるあたりが特に光る。最後のチョウ怪人が言及するハビタット世界とかもたぶん全然真面目にやってなくて、「特撮の悪役ってこんな感じでよくわからん野望を持ってがちだろ?」とあえてやっている印象。

色々な怪人が出てくる割に、彼らは一つの思想の下に集っているわけではなく皆それぞれに違う自分の目的を達成するために力を与えられたに過ぎない……というところが一つキーなのだと思う。怪人の思想に統一感がないということは、皆がそれぞれに趣味として楽しく怪人をやっているということでもある。仮面ライダー側から見ても、怪人は大きな野望を持つ秘密結社というよりは何となく悪そうな連中の集まりでしかない。そこには理念的な対立があるというよりは「社会に仇なす者はとりあえず排除する」という形式的な正義の虚しさがあり、故に「仮面ライダーもまた個人の趣味で退治をしているに過ぎない」と怪人と裏表であるところが際立ってくる。

 

地獄の逃避行

ナチュラル・ボーン・キラーズ』が割と好きなのでその流れで見たやつ。なかなか面白かった。

父親を殺したカップルが警察から逃げながら出くわした人々を行き当たりばったりに殺していくロード―ムービーだが、終わり方が秀逸。女の方はもう殺しについていけなくなって勝手に離脱するし、男の方も逃げようと思えばまだ逃げられたが自分から車がパンクしたことにして捕まるのがめっちゃ良かった。逃避行が華々しく散ることができるのはフィクションだけの話で、実際には当初のエネルギーも消えていって「もういいよ……」と自然消滅していく。現実そんなもん。

 

お兄ちゃんはおしまい!

いや微妙!!

最初はめちゃめちゃ良かった。生理にまで踏み込んだTSコメディが秀逸で、作画良すぎてとにかく動きを見ているだけで楽しいアニメは久しぶりだった。テンポが遅めなことも全く気にならない。

ただ学校編がつまらなさすぎる。お兄ちゃんのおしまいを見たいのであって、女子中学生の日常系を見たいわけではない。クラスメイトの男子と絡むシーンだけはギリギリTS要素があって耐えていたが、残りはニコニコで見てもなお厳しかった。お兄ちゃんでなくても成り立つ話とまでは言わないし(元はお兄ちゃんであることを踏まえた味わいはないこともないので)、お兄ちゃんが終わった結果として定型化した日常に埋没していく様子として見ることも不可能ではないが、だいぶ無茶がある。

実は漫画版でも「学校回は外れ回がちだな(最近もう学校回しかないので終わったな)」だと思っていたのだが、それをアニメでもなぞる結果となった。