LWのサイゼリヤ

ミラノ風ドリア300円

23/9/28 中学生ぶりにラノベ熱が再燃したので女性主人公ラノベレビュー2

saize-lw.hatenablog.com

の続きです。

最近の女性主人公ラノベレビュー

そういうオタク文化圏もあるんだ

自他共に認めるコミュ障な永遠。誰からも愛される向日葵みたいなリリ。正反対だけどいつも一緒な、大親友の二人にはある秘密が。それは「カプ厨」なこと。
「メルベイユ!」「尊すぎます!」
 今日も放課後の空き教室で、様々なカップリングへの愛と妄想を語リ合う日々。
 そしてリリには、永遠にも言えないもう一つの秘密が――本当は、永遠が好き。
 永遠との語らい、見つめ合い、笑い合う放課後。大好きな人を独り占めできる最高に幸せな時間。のはずが……近頃、続々と乱入者が現れて!? 
 華ざかり。最強に可愛い女子高生の秘密がつまった放課後ガールズラブ

テーマになっている「カプ厨」というのはあまり耳慣れないワードではあるが、女オタクの間では一般用語らしい。

補足481:pixiv百科事典(→)がいわゆる学級会の様相を強く呈していることに加えて、俺個人が普段触れないワードであるという偏狭な判断基準二点によって女オタク文化と決めつけるのはあまり褒められない態度かもしれない。

男オタク的にはあまり見ないが(正確に言えば、「カプ厨」の振る舞いをするオタクはたくさんいてもそれを性質として名指している様子をあまり見ないが)、フィクションのキャラクターとして「カプ厨」が描かれるのであれば、「作中キャラのオタクキャラ」という理解が近い。特に百合系の作品ではもう定番として定着している枠で、最近だと『おにまい』のみよ、遡れば『ゆるゆり』のちとせあたりが源流付近にいるのかもしれない。

そういうキャラが延々とカプ厨として語っている短編仕立ての話で、面白いかどうかというよりは「そういうオタク文化圏があるんだね」という異文化体験に近い。女オタクが妄想を描いたTwitter漫画が600RTくらいされてタイムラインに流れてきたのを読んでいるような感じで、面白くはなかったけど勉強になったので良かった。

 

アイドルもののネクストステージ

突如飛来した隕石により地上は荒廃。人々は新しい国家を建て、闘争や略奪を繰り返していた。
国家間の戦争の手段として「暴力」と置き換えられたのが、少女たち「アイドル」だ。
砂漠で覆われた「砂の国」に、国民からは崇められ、少女たちからは恐れられているアイドルがいる。
技術を高めることだけに関心を持ち、感情はどこかに置いてきてしまったかのような少女・レイン。
最強を誇る彼女の無敗記録はずっと続くはずだった。
だが、感情豊かに歌う少女・ハナによってその記録は止められる。
このハナとの出会いは、レインの胸にこれまで知らなかった感情を芽生えさせ――。

色のない世界で生まれた、少女たちの愛と絆の物語。

気合入ってる! ちゃんと時代に風穴開けようとして編集と一緒に企画練り込んでる感が凄い。明るくラリった女の子に夢と希望とキラキラとか言わせてライブシーンだけ気合入れて作れば国語教科書くらいしか読んだことないオタクに売れるんじゃない?というラブライブの劣化再生産みたいなアイドルコンテンツが無数に作られてきている中で、「もうそろそろ新しい見せ方を考えよう」と一歩先に進む気概を感じる。

「見せ方」だけを新しくやるというのが肝で、称揚されるアイドルの価値はきっちり温存してアイドルものを好む想定読者層へのリーチを外さないようになっているのが上手い。戦争と暴力という逆に張った設定を用いることで真に描きたいアイドルの魅力の方は順張りで強調することに成功している、凡庸なアイドルものと本質的には同じ話を新しい立て付けで実施することで次の境地に達している。

単にアイドルものをやる舞台がたまたま戦場であるというだけの話ではない。練り込まれたファンタジー設定とアイドルものがこなすべき既知の論点が綺麗に一対一対応し、前者をクリアすることで後者がクリアされるように設計されている。例えば、戦争の道具として形式化したアイドルと彼女らを取り巻く軍事的にシビアな国際情勢は、明らかに資本の論理で形骸化したアイドルと彼女らを取り巻く経済的にシビアな事務所を表象している。ネタバレなので詳しくは書けないが、設定レベルでの真相もアイドルものによくあるモチーフと過不足なく対応するので、表面的なファンタジーの解決に留まらない共感を呼び込むことができる。

残念ながら俺はアイドルものには興味がないので面白く感じられなかったが、相当よく出来た作品だしこれから跳ねるポテンシャルを感じる。

 

女子中学生だった頃の記憶が蘇ってくる

かいりきベア監修で大人気楽曲がオリジナルストーリーに!

なんとなく友人と顔を会わせるのがしんどくて、なんとなく教室に居にくい。そんなのよくあるのことのはず。
でもそれは、私にとって大きな問題になった。だってあんなにおかしな出来事に、思い悩んだのだから……。

『求愛性少女症候群』。
不満を抱える十代の女の子には、まるで怪異のような不思議な現象が突然病のようにあらわれるという。
そんなのくだらない噂話だと思っていた。
でも、満たされない日々を過ごす私たちに、それは現実のものとなり――。

「ベノム」「ダーリンダンス」「失敗作少女」。大人気楽曲をキャラクター化した、悩める少女たちの不思議な青春ストーリー開幕!

遂にボカロ原作ラノベ読んでるの中学生すぎる。

タイトルこそ「ベノム」だが、実際には「かいりきベアオールスター」という感じで色々な曲のイメージキャラクター(PVで一枚絵が描いてある人たち)が出てくるのがアベンジャーズ感あって良すぎる。話は面白くはないが、プチ病みしてる女子たちが延々とグチグチ言ってたりちょっとしたことで前向きになってみたりとボカロ曲に求められている若さが過不足なく描かれている。

症候群として広く知られている割には症状が十人十色だったり(表面的な病態が似通った患者を括るのが症候群であって症状がまちまちだったら症候群を構成しなくない?)、その辺の高校が舞台の割にはアニメじみたメイド持ちの高校生がいたり、リアリティのゴチャゴチャ感も中学生向けライトノベルという感じで良い。ボカロ曲が好きなら読む価値あり。

 

主人公の顔が良すぎ

潰れかけの大衆食堂を救うのは、「元」宮廷料理人の転生者!?

元日本人のサーシャは、異世界の宮廷で史上最年少の副料理長として活躍中!

しかし、とある“やらかし”で厨房をクビにされ、流れ着いた先は今にも潰れそうな大衆食堂!?手始めに、醤油の旨味を活かした料理で嫌味な高利貸を黙らせると、屋台でカスタードたっぷりのクレープを出したり、扱いづらいワイバーン肉まで美味しく調理! 

料理好きな転生者と食堂の跡取り娘、崖っぷちだった二人が作る料理は王都でどんどん評判になって――?

何故か大判異世界ラノベは女性主人公が多がちだが、本棚を圧迫するしどうせ同じ話なのであまり買わないことにしている。しかしこれは主人公のキャラデザが良すぎたため銀髪ティーンツリ目主人公の場合は買ってもよい例外ルールが適用されて購入。

既存のテンプレートを用いて想像の範囲を出ない話がしっかり書かれており、超えることも下回ることもない期待通りに楽しめた。やはり転生というフォーマットは強い。主人公が持つ葛藤やスキルを前世の経歴に全て押し付けられるのでわざわざ今の異世界と整合する設定を準備する必要が無いし、そこだけは現代日本から密輸入できるので読者の理解と共感が容易になる。このやり口を最初に考えたやつはかなり頭がいい。

顔が良い主人公が異常にモテるのが良かった。登場する美少女キャラ全員主人公のこと好きやん……

 

良いけどあだしま外伝って最初に書いといてくんね

うちに居候をすることになったのは、隣のクラスの女子だった。ある日いきなり母親と二人で家にやってきて、考えてること分からんし、そのくせ顔はやたら良くてなんかこう……気に食わん。お互い不干渉で、とは思うけどさ。あんた、たまに夜どこに出かけてんの?

 お母さんとあたしは昔から家と住む人がころころ変わり、今度の家は同じ学校の子がいた。料理を作ってもらって、家事も分担して、夜に出かけるあたしを気にしてくれて。でも、夜どこいってんのって言われても、なんて言えばいいんだろう。知り合いに会ってるだけなんだけど。

 ある日突然同居することになった女子高生二人の、淡くてもろいストーリー。

全巻読んだ。初恋相手がやばい美女に取られてやばくなってる負けヒロインの話で、ラブコメというよりはちゃんとした恋愛小説寄り。ネチネチとしつこく繰り返されるノーチャンスで地獄すぎる主人公の描写は頭いくつも抜けてめちゃめちゃ上手く、さすがにベテラン作家。

ネタバレ

ただ三巻もある割には三者の関係はずっと同じ構図のまま全く変化しない。人間関係の話でありながら人間関係に動きがないため、プロットがある物語というよりは同じ状態を色々な描写で楽しむスケッチ的なものという印象も受ける。一応、二巻終わりあたりで初恋相手と美女が血縁関係であったことが判明してそこから主人公が報われるのかと思いきや、別に近親でもいいよねって感じになって全然チャンスなかったのは「動きがない」という意味で意外性のある動きではあった。
結局初恋相手はやばい美女に持ってかれたままこちらを振り向くことは一度もなく、完全に持ってかれて幼児退行するバッドエンドで終了する。やばい美女側もそこまでやってやろうと思っていたわけではなく、ちょっとやりすぎたし全然良くはないんだけど自分が始めた物語だしもうしょうがねえわという誰も幸福になってない感じは明確に良い。主人公にしても最初からずっとノーチャンだったのでいっちょ前に失恋気分に浸れる感じでもなく、そういう「劇的ではなく全体的にうっすら後味の悪いバッドエンド」はかなり良かった(一般的に言って、劇的なバッドエンドより後味の悪いバッドエンドの方が難しくて貴重だ)。
ただ最終巻にかけてあだしま読んでる前提の話になっていき、あとがきで「この本読んでてあだしま読んでない人いないだろ」とはっきり言ってしまっているのには「オイ!」と思うが、言うて俺もあだしまを読んでしまっているので反例がなく強く言いづらい。外伝だからこそきっちり動かさなくても良かったのかもしれず、それが良い感じのバッドエンドに繋がった遠因かもしれなくはある。とはいえ知らないキャラのエピソードゼロみたいな感じで〆られるのに消化不良感はある!