ラノベ熱再燃
上の記事で書いた通り、『死亡遊戯で飯を食う。』が面白かったのでラノベ熱が再燃している。
去年末にもラノベを100冊近く読んだりはしていたが、それは遠い昔に作ってしまった積ん読の清算であって別にハマっていたわけではなかった。むしろ「これが人生最後のラノベか……」と思っており、もう気に入った数冊だけ残して全て駿河屋に売却してしまった。
ところが、空けたはずの棚に再びラノベの群れが復活してきている。最近は漫画も電子書籍で済ませるようになって久しいが、ラノベはリアル本屋に行って面白そうなものを探しているので物理書籍がリスポーンしている。目を付けた特定の本を買うのではなく色々探すのなら、リアル店舗が一番強い。
そもそもコンテンツにハマっているムーブをすること自体もだいぶ久しぶりだ。『死亡遊戯』三巻特典のシチュエーションボイスを入手するために「特典目当てでオタクショップを回る」というやつを何年ぶりかにやった。昔はゲームにしてもソフマップやワンダーグーで色々と店舗特典を吟味していたものだが、何も見ずに近所のGEOで買うようになって久しい。まだ戦えるか?
最近の女性主人公ラノベを読んだ所感
少し前に10年前のラノベ所感をまとめたので、その続編として最近のラノベ所感も書いておく。ちなみに俺が女性主人公の作品しか読まないのは今も変わっていない。
女性主人公に優しい時代が来た
まず、ありがたいことに女性主人公ラノベは当時より遥かに探しやすくなっている。
昔より絶対数が増えたし、書籍の裏や帯に書いてあるあらすじで性別が隠されなくなった。いまどき女性主人公を期待して購入する読者は一部の好事家だけではないはずで(要出典)、その情報を伝達することが正しくあらすじの役割に含められている気がする。個人的に恋愛ラノベは好みではないので「恋愛メインではないが女性主人公ではあるもの(≒露骨な百合推しではないもの、百合要素以外の売りがあるもの)」という面倒臭い探し方をするが、それでもかなりヒットする。
とはいえ、女性主人公の作品は処女作や新人賞受賞作に強く偏る傾向は未だ明確にあるように感じる。言い換えると、経験を積んだ二作目以降の作家はわざわざあえて女性主人公を選択しないようだ。これは明らかに言い過ぎだが、コンスタントに新作を出す男性向け古参ベテランのうち、女性主人公を好む作家は入間人間くらいしかいないようにも感じている(長編シリーズではなく数巻完結や単発の作品もよく出すので数が目立つという事情もあるだろうが)。
また、上の記事に詳しく書いたが、20~10年前のオタク界隈では同性愛は明確にギャグ描写の一種であり、「そっちのケ」というワードで揶揄われるのが当たり前だった。しかし現在のラノベではその手の嘲笑は完全に払拭されているようだ。
女性同士が過剰に仲が良い描写に前置きやエクスキューズが不要になった、「まさかそっちのケが」と茶々を入れるキャラが消滅した。ただこれはラノベが果敢にも政治的に正しい方向に舵を切ったというわけでは全くなく、単に世界の流れだろう。あらゆる領域において人権意識のアップデートがあり、それがオタク界にも流れてきて、その一部であるラノベのテキストも無事に追随した。メインカルチャー万歳!
ワンヒロインラブコメって何
女性主人公以外は読んでいないので無駄に主語を大きくするのは気が引けるが、書店で棚を漁って色々な作品のあらすじに目を通しているうちに「今はこんな感じなんだ」と思うところは色々あった。
その中でも最大の驚きとして、かつて「複数ヒロインのご都合ハーレムもの」があったはずの枠に「ワンヒロインの御都合ラブコメもの」という未知のジャンルが収まっていることがある。「(クラス一の人気者|コスプレイヤー|隣りの席|学園のマドンナ|在日ロシア人) の (クラスメイト|義妹|お隣さん|アーリャさん) が (告白してきた|ぐいぐい来る|同棲する|時々ボソッとロシア語でデレる)」というような正規表現でタイトルが生成される、DLsiteの同人音声みてえな作品が無限にある。「ヒロインを一人に絞っている」「ファンタジー要素はほぼない」「クラスルームか自宅が主な舞台」「妄想丸出し」などの共通点がいくつもあり、明らかに一つのジャンルを構成している。
コテコテの異世界ものは専門のレーベルが引き受けているため全体としては実はそこまでは目立たないのに対して、この「ワンヒロインもの」は多くのレーベルから凄まじい数が出ている。ちゃんと数えたわけではないが、たぶん明確な「売れ線」として現代ラノベの最大勢力を成しているのではないかと思う。俺は一冊も読んでいないのでこれが何なのか全くわからない。ハーレムは流石にファンタジーすぎてオタクすぎるからもうちょいワンチャンありそうな、地に足の付いた都合の良さに移ってきたみたいな感じなのか?
最近の女性主人公ラノベレビュー
読んだラノベの感想を書く。ラノベってアニメより感想を書く人が少ないから最近出たラノベの感想を書いたときのバリューが相対的に高い感じがするけどどう? ちなみに加齢の影響で2020年以降くらいは全て最近扱いになっている。
HTMLを使った折り畳みを習得したので、ネタバレを含む部分は折り畳んでおく(参考→■)。
デスゲームのネクストステージ
単発で書いた記事を冒頭に載せたのでそちら参照。俺的には中学生以来の第二次ラノベブームの嚆矢となった記念すべき作品。流行れ!
異様に作画のよいコミック版もあります(新規用の導線)。
このビジュアルで26歳設定なの良すぎ
人々からの想いを力に変える権能で戦い続け、魔王を打ち倒した聖女アリス。しかし彼女は無実の罪を着せられ、強大な魔物が溢れる難攻不落の迷宮へと追放されてしまう。絶体絶命のアリスだったが、迷宮の中で「異世界と繋がる鏡」を発見。生き物以外は行き来可能な鏡を通して、異世界――現代日本でレストランを営む青年・誠に美味しいご飯をもらったり現代の娯楽を教えてもらったりと交流を深めていく。そして助けてもらったお礼のため動画配信で収益化を目指すことになるが、動画がバズった途端に莫大な力がアリスに流れ込んできて……!?
「聖女」兼「配信者」のアリスがバズって戦う異文化交流コメディ、配信開始!
「異世界×動画配信」という、なさそうでもなくありそうなモチーフでそれ以上の捻りもないが、まあええやんという感じで楽しめた。「バズれアリス」っていうタイトルめっちゃよくない?
「既存のテンプレートを用いて想像の範囲を出ない話をしっかり書く」というタイプの異世界ものは多いが、驚きが無い代わりに最低保証があるのはそれはそれで強力だ。10年前にはたまに見たような、「この話って何も起きなかったけど、俺がこれを読むという行為に何の意味があったんだ?」という虚無が生まれないのは素直に良いことだと思う。
冒頭でカジュアルに追放を食らっている主人公の聖女アリスを見て、やはりこの追放というフォーマットの異常なまでの強さを再認識する。「主人公可哀想→主人公良かったね」という王道を往く流れを一瞬で作れてしまう、主人公は可愛い女の子だし。ただ主人公だけは追放もののテンプレートを使ったおかげでキャラを立てられるのに対して、他のキャラは軒並み影が薄くて記憶に残らないという難点はあった(追放もののテンプレートを使っていないので)。
個人的には主人公のアリス(表紙)が謎に26歳でギリギリアラサー設定なのが萌えすぎていいねいいねいいねって感じだった。フィクションで見た目が萌え萌えな萌えキャラなんてなんぼ年いってても困りませんからね(これは嘘、35歳くらいが上限ではある)。若くないのに学校制服着ようとしたりするし、配信中はやたらテンションが上がる設定(配信の才がある)にも痛々しさという文脈が加わってかなりいい感じになっている!
言うほど『でたらめ』か???
「財布? 携帯? ぜんぜん違うよ。私が盗まれたのは――鉛筆さ」仲良しのクラスの女子・奈良芳乃から突如、謎の相談を受けた海鳥東月。だがそれは奇妙奇天烈な事象の始まりに過ぎなかった。海鳥の自宅に現れた謎のネコミミパーカー『でたらめちゃん』。彼女によって引き起こされるトイレの貸し借り、裏切り、脅迫、掴み合いからの一転攻勢、そして全力の命乞い……全てを終えた後、でたらめちゃんは海鳥に告げてくる。「海鳥さん。私と一緒に、嘘を殺してくれませんか?」海鳥は訳も分からぬまま『嘘殺し』に協力することになり!?
第17回MF文庫Jライトノベル新人賞〈最優秀賞〉作は奇妙奇天烈! だけど青春ストーリー?
めちゃめちゃ粗削りな話で、令和でもこんな感じのライトノベルが出るのだという知見に価値がある。なんかもうラノベ業界も煮詰まってそうだし商業的に洗練されたもの、ガチで練られたものか売れ線を掴んだものしかなさそうだなというイメージを勝手に持っていたが、別にそんな練られてないし売れ線でもなさそうだけど勢いはある処女作らしいラノベが出版枠に捻じ込まれていて嬉しい。
やたら傍点を使った抽象的な会話をずっとしているのですごく独特な会話劇かと思って読んでいたが、結局のところこれって変則スタンドバトルというかバディ系能力バトルものですよね?
どのキャラも初手では面白い設定が色々出てきて、独特な台詞回しの中で「こいつ何なの?」という期待を掻き立てられるのだが、最終的には自然消滅してありがちな要素に回収されてしまう。友達Aみたいな感じで影薄く出てきた女が友達の鉛筆を食い始めるマジでヤバい主人公だったところはすごく面白いと思ったが、それ以降は一度も鉛筆食いそうなムーブしないし、でたらめちゃんも「嘘しか吐けん!」とか言ってる割には嘘を吐いてるシーンの方が少ない。キャラの引きを作った上で全然使われないので期待の吐きどころがなく、設定を継ぎ足し増築した末に最終的な図面がない印象。でもそれでいいよ、ラノベだし。
会話劇として期待するのはもう無理だが、嘘をテーマにしたバディ系の能力バトルとしては色々やれそうな設定なので続きも若干気になる、と思ったらもう四巻まで出て完結しているらしい。俺が行ったアニメイトには一巻しかなかったから新刊かと思った。
古き良きTSミリタリー
///第28回電撃小説大賞《銀賞》受賞作///
2041年。人工素体技術――通称《ミミック》が開発され幾数年。
作戦中、不慮の事故により重傷を負ってしまったクリス・アームストロング大尉は、素体化手術を受け前線復帰……と思いきや術後どうも体の調子がおかしい。
鏡に映った自分を見るとそれは白い柔肌にさらさらヘアーの良く似合う――美少女だった!?!!?謀略と怨嗟が蠢く戦火の陰で突如結成された、4体の少女型素体からなる即席部隊。
その名は――『ミミクリー・ガールズ』。
射撃、格闘、潜入。あらゆる分野のスペシャリストである彼女たちに与えられたミッション。それは謎の国際犯罪組織"バル・ベルデ"に狙われた大統領の娘の護衛だった。
クールなティータイムの後は、キュートに作戦開始!
少女に擬態し、世界の巨悪に立ち向かえ――!
女性主人公かと思って買ったらおっさん軍人のTSものだったが、カッコイイおっさんキャラも好きなのでまあ良しとする(「いわゆるラノベ主人公」みたいな男性主人公が苦手なだけで、男性キャラ全てにアレルギーがあるわけではない)。
なんかすごい懐かしい、古き良き電撃文庫らしい一作。2005年とまでは言わないが、2012年くらいの電撃文庫感がある。最近ちょっと見なくなってきたけど、ミリオタと萌えオタを兼任した軍事ものって根強く一定数あったよね。
「おっさんが美少女に」っていうTS自体はもうかなりありふれていて、それ一本で最後まで戦える設定ではないし中盤までは中だるみが辛かったが、
ネタバレ
「気の良い陽気な軍人仲間たちが揃って裏切ってくる」という展開には「おお!」と思ったし一気にエキサイティングになった。古いオタク感覚だと「気の良い陽気なマッチョ味方キャラ」への信頼感ってすごいので、そいつらが手の平返してくるのは全然予想できなかった。更に、最後の最後に披露された「大統領は義体ではなくデザイナーズチャイルド」っていう意趣返しはめちゃめちゃ上手い。ラスボス戦でも義体とアイデンティティの問題を扱っていたし、「どうせ大統領もTSしてておっさんが本体で少女が義体なんだろ?」と思いきや、逆に「少女の方が本体でおっさんが義体」という裏返し。全体的に予想を裏切るのが上手くて、それも含めて古き良きラノベという感じだった。作者新人だけど40代とかじゃない?(邪推)
入学試験で教官を圧倒するやつの銀髪クール美少女主人公ver
伝説の傭兵エインズ・ワーカー。 彼には、拾い育てた娘同然の傭兵少女──シエラという子がいた。 ……なのだが──、「俺は傭兵を引退する」 エインズの突然の引退宣言。 戦場以外の世界を知らないシエラは、エインズの言いつけで王都の学園に単身通うことになる。 傭兵の経歴を隠す生活は窮屈だったが、シエラは孤独な貴族令嬢のアルナと出会い、友情を育む。 しかし王位継承争いにアルナが巻き込まれ、暗殺者の手が迫ったことで事態は一変。アルナを守るため、シエラはエインズ譲りの最強の力を振るうことを決意する。 世間知らずの最強傭兵少女が繰り広げる、ガールズバトルファンタジー! 堂々開幕!!
最強主人公すぎて上手く手加減できずに入学試験で教官を圧倒するやつ……本当にあるんだ!!! なんかこう魔法の高度なやつを無意識にできたり、ヌルっと殺し屋に襲われるも返り討ちにしたり、広告とかでよく見る展開の詰め合わせが楽しめる。
電子媒体で掲載していたのをView数伸びたから物理書籍にしたんだろうという露骨なコマ切れ構成になっており、ごく小さな話を連ねる形で話が進む。これも「既存のテンプレートを用いて想像の範囲を出ない話をしっかり書く」タイプのラノベ(この表現便利)なので意外な面白さとかは特に無いが、主人公が銀髪クール最強美少女主人公でストレスなく進むのは萌えでいいね!
実はこれ系のテンプレ作品で女性主人公のやつってまだアニメになってない気がするのでアニメ化希望です。
続く。