LWのサイゼリヤ

ミラノ風ドリア300円

23/7/13 『席には限りがございます! (にはりが)』解説 面白かった頃の魔法少女育成計画を俺が書く

『席には限りがございます!』完結

www.alphapolis.co.jp

5月頃からアルファポリスに掲載していた『席には限りがございます!  ~トラックに轢かれてチート能力を手に入れた私たちは異世界転移を目指して殺し合います~(にはりが)』というラノベが完結しました。

最初に言っておくと、『にはりが』は本当に面白いです。今まではやや衒学的で人を選ぶ話を書いていたのですが、今回は「普通に面白い話を書こう」と思って普通に面白い話を書いたので普通に面白いです。ありがたいことに、普通に面白いことを裏付ける神読者神感想も多く届いています。

面白い。文章がめちゃくちゃ読みやすい。キャラクターたちの行動が素で頭良すぎる。作品を「理」が支配している。異世界転移の3枠をかけたバトルロワイヤルをするなら転生後の生活を見越してスローライフ派の能力者同士で組むべきだとか、転移者を管理する上位存在がdiscordで情報共有をして転生候補者間の情報格差をなくすとか、かなり「ぽい」。
LWのサイゼリヤ(LWさんのブログです)で展開される作品感想の面白さがそのまま小説の面白さに繋がってる。ブログによると「普通に面白い話を書こうと思って普通に面白い話を書きました」とのこと。作品を読んで批評するのと同じロジックで、しかもそれに耐えうる作品を書くこともできるんだ……と思った。

2023年5月29日~6月4日|延井の日記

この記事では執筆経緯について書きますが、ネタバレをほぼ含んでいないので、『にはりが』をまだ読んでいない人やこれから読む予定の人でも読んで大丈夫です。気になったら本編を読んでくれると嬉しいです(ただし代わりにこの記事には『魔法少女育成計画』のネタバレが多く含まれます)。

 

目標:面白かった頃の『魔法少女育成計画』を俺が書く

『にはりが』を書き始めたのは今年の3月頃ですが、その前にまずは普通に面白い話の参考にするために女性主人公ライトノベルをざっくり100冊くらい読みました。過去記事で全ての感想をまとめています。

saize-lw.hatenablog.com

読んだラノベの中で突出して面白かったのが『魔法少女育成計画』です。個人的な好みとして同じくらい面白く感じたものは全部で4作品ありましたが、趣味を度外視しても普遍的に通用する面白さを持っていると思ったのは『魔法少女育成計画』のみでした。

ただ『魔法少女育成計画』はバトルロイヤル作品としてスタートしましたが、ファンタジー戦争路線に舵を切っていくにつれて少なくとも当初の面白さは失われていった感じはあります。だから「面白かった頃の『魔法少女育成計画』を俺が書く」という目標を立て、同コンセプトのバトルロイヤルものを書くことに決めました。分量も合わせることにして、『魔法少女育成計画』が概算でざっくり178000字くらいだったので全文字数を千の位まで揃えています。

また、『魔法少女育成計画』のフォロワー作品として『マジカル†デスゲーム』というつまらないライトノベルが出版されていたのも非常にありがたかったです。表面的な設定をほぼ全て流用していながら面白くないため、何をするとつまらなくなるのかを理解する上でとても役に立ちました。

あとは『魔法少女育成計画』が面白い理由を分析し、面白さを担保している設定上の論理的なポイントや、キャラクターを管理している構造を一般化した形で抽出できれば普通に面白い話が書けるはずです。面白いものが面白い理由を掘り下げる訓練はゲームプランナー時代にやったので働いていて良かったと思いました。

補足466:ちなみに面白いものが何故面白いのかを検討する上でいわゆる批評はあまり役に立ちません。批評は別に面白さを言語化する目的の営みではないからです。

 

設定分析:『魔法少女育成計画』は何が面白かったのか

魔法少女育成計画』は能力バトルロイヤル作品であり、最も粗い粒度でのコンセプトは「大勢のキャラクターが殺し合う群像劇」です。

今知りたいのはこのコンセプトの作品を面白くするには何がポイントになるのかです。面白ポイントの言語化はもう過去の俺がしてくれているので、やや長いですが過去記事から『魔法少女育成計画』の感想を引用します。

一作目(無印)の完成度が傑出しており、群像劇能力バトルデスゲーム作品の完成形の一つと言ってもいい。

やはり「魔法少女を半分に減らすポン」という立て付けがよく出来ている。一人生き残り型のデスゲームではないので徒党を組む協調インセンティブがあるが、一人蹴落とし型のデスゲームではないので殺せそうなところから殺していく対立インセンティブもあり、これによって色々なキャラが相互の信条に応じて交渉や闘争を行うようになる。

そうやって十六人もの魔法少女が参加するデスゲームでありながら、各キャラが非常によく立っていて性格や関係のバリエーションが豊富。同じバトルマニア系の魔法少女でも正々堂々いくか不意打ちを許容するか、利己主義の魔法少女でも常に貫徹できるかいざとなると怖気づいてしまうか等の違いがきちんと解像度高く設定されている。

こうしたデスゲーム参加キャラのバリエーションを担保している要石は、「どんな人間でも魔法少女になれる(魔法少女は変身前の外見や年齢や性別を全く保持しない)」という魔法少女の変身ギミックを逆手に取った設定だ。この設定によって、変身後はおしなべて美しい魔法少女だとしても、変身前は男子高校生や女子小学生など色々な人間像を扱えるようになる。例えば一般人を虐殺する最もヤバい魔法少女「カラミティ・メアリ」の変身前は子供を虐待しているアル中主婦だが、この造形は単に女子高生の萌えキャラである限りは年齢的に不可能なものだ。

このおかげで「一人に一つ固有の魔法」というベタな能力バトル用の設定にもキャラがしっかり結び付いて立体的な味わいが出てくる。魔法少女のデスゲームでありながら本質的には様々な人生を背負った一般人が殺し合う二重性にこそ優れたフォーマット上の技巧があり、この工夫は商業的な都合でビジュアル的には女子高生前後の美少女をメインキャラクターにせざるを得ない萌えコンテンツの抜け道としても優れている。

また、スピーディーにデスゲームを進めるペース配分も凄い。具体的に言えば、そこまで厚くない280ページの文庫本一冊に16人が参加するバトルロイヤルが収まっている。単純に16で割っても一人あたり僅か18ページしかなく、この分量で世界観設定や物語進行まできちんとこなしているのがあまりにも不思議で一度分解して研究してみた(この研究成果は今は書かないが、いずれ自分の創作に活かされるかもしれない)。

22/2/11 重い腰を上げて10年前に積んだ女性主人公ラノベ83冊を崩した【4/4】 - LWのサイゼリヤ

まず設定上での要点としては、主に以下の三点があることがわかります。

  1. 対立だけではなく協調も描かれている
  2. 戦闘職ではない一般人が戦っている
  3. 能力バトルに用いる能力自体は簡素である

これらについて面白さをもっと掘り下げていきますが、ここで重要な注意として「取り換えの利く表面的な設定」と「取り換えの利かない本質的な合目的性」は明確に異なっていることを意識しておく必要があります。

例えば「なぜ戦闘職ではない一般人が戦うのか」という疑問に対して、「この作品のバトルロイヤルは一般人から魔法少女を選抜する試験だから」という答えは的外れです。そういう表面的な設定上の理由は別に何でも良くて、「たまたま妖精が一般人を選んだから」とか「そもそもこの世界には戦闘職が存在しないから」でも面白さには影響しません。

正しい答えは「バトルロイヤルに参加するキャラクターの多様性を担保したいから」です。動機やスタンスが様々な一般人同士を戦わせることにより、キャラクターが相互作用する組み合わせや展開のバリエーションがいくつも自然発生することになります。これがもし職業として軍事的な戦闘を行うキャラクター同士であれば、似通った職業意識に基づいた似た戦いが繰り広げられるはずです(それが悪いと言っているわけではなく、その場合は『魔法少女育成計画』から感じた元々の面白さは消えてしまうということです)。

一般人を参加させる本質的な目的が「バリエーションの担保」であることを踏まえると、可能な設定の範囲もそれを実現する限りにおいて制約されます。例えば一般人を参加させるにしても、「複数の一般人を洗脳して軍人と戦わせるバトルロイヤル」という設定はこの要件を満たしません。そうではなく、一般人がそれぞれ自らの意志で戦いに参加するようなフォーマットを考える必要があります。

このように取り換えの利かない本質的な合目的性を取り出すことを意識しつつ、それぞれについて「このポイントを抑えると何故面白くなるのか」や「このポイントに従って話を面白くするための論理的な要件は何か」をもう少し掘り下げていきます。

 

1. 対立だけではなく協調も描かれている

対立だけではなく協調も描かれる理由は、それがキャラクター自身の考え方やキャラクター同士の関係性を密に描写することに貢献するからです。

バトルロイヤル状況においては殺し合いは自明に行われるためにキャラ同士の差異が生まれにくい一方で、助け合いはリスクを取りつつ相手を選んで打算的に行うより複雑な営みです。「このキャラクターはどんな相手となら協調したいと考えるのか」「このキャラクターは協調に対してどのようなスタンスを持っているのか」等を描くことで、キャラクターの描写がより深くなることが期待できます。

また、キャラ単独ではなくストーリーラインに対しても展開が単調になることを避ける効果があります。敵対以外に協調という軸が発生することでキャラクターが取れる行動の選択肢が広がり、バトルロイヤル状況下でキャラクター同士が殺し合うことには意外性がありませんが、手を組むことには意外性があります。

故に、この面白さを活かすためには協調は外部的な力によって強いられていないことが望ましいことがわかります。例えば「組み分けバッジ」みたいなものが配られて強制的にチームを組まされるという設定では、協調はキャラクターが自発的に行うものではなくなってしまうため、キャラクターの内面を掘り下げるのにはあまり貢献しません(それが悪いと言っているわけではなく、その場合は『魔法少女育成計画』から感じた元々の面白さは消えてしまうということです)。

本質的な目的を達成するには複雑な条件を規定せずに単に「複数人が生き残る」という設定であれば十分であり、実際、『魔法少女育成計画』では「半分に減らすポン」という有名なキャッチフレーズによって半分は生き残る=半分とは協力できるという前提が最初からキャラクター全員に共有されています。

これを受けて『にはりが』でも「誰でもいいから勝ち残りは三人まで」という数量的な上限だけを設け、更に「生き残ったキャラクター同士は全員同じ異世界に転移する」という長期的な利害関係を提示することで各キャラクターが誰と組むべきかを熟考するモチベーションを与えています。

 

2. 戦闘職ではない一般人が戦っている

このポイントはさっき例としての説明で大方書いてしまいましたが、一般人が戦う設定は本質的には展開や性格のバリエーションを担保するために存在しています。

実際、『魔法少女育成計画』では参加者が一般人であるために倫理観も多様であり、魔法少女の能力を私利私欲に使ったり市民を虐殺したりするキャラクターが存在することがバトルロイヤルをよりエキサイティングにしています。そして表面的な設定レベルでは「バトルロイヤルは一般人から魔法少女を選抜する試験である」という設定が一般人の参加を肯定するようになっています。

『にはりが』でも「所定の条件を満たしてトラックに轢かれると誰でも異世界転移できる」というルールを設け、かつキャラクター全員を異世界転移希望者にすることで一般人が各々の個を出して戦う状況を作っています。「一般人が巻き込まれているのではなく自らの強い意志で参加している」ということがこの面白さを担保するコアであるため、全員が異世界転移のために自殺するシーンを冒頭で描くことでそれぞれ強い意志を持っていることを強調します。

 

3. 能力バトルに用いる能力自体は簡素である

魔法少女育成計画』の能力設定は昨今の能力バトルの中ではシンプルな方であり、「手裏剣を投げれば百発百中だよ」「困っている人の心の声が聞こえるよ」といった一文で表現される程度のものになっています。伴ってバトル内容も能力バトルにしてはあっさりしており、ガッツリ長く戦うというよりは不意打ちで沈めたり普通に能力が通って殺害を通したりすることが多いです。

能力が簡素であること自体が面白さであるわけではないですが、これによって設定上の複雑さを抑えてキャラクターに力点を寄せる効果が見込めます。というのも、『魔法少女育成計画』ではバトルロイヤル参加者が16人も存在しており、その上で各人の能力まで難解だとあまりにも情報量が多くなりすぎるということです。バトルが劇的に見えるポイントを能力相性などのロジカルな部分に寄せるより、キャラクター自身の動機や関係性に持たせることは一般人同士のバトルを描く魅力とも一貫します。

『にはりが』でもあまり能力が難解にならないように配慮し、各人の能力は『蘇生』『龍変化』などの一単語だけで表現できるものに揃えました。能力内容自体も異世界転移ものにありがちなチート能力にすることによって、「確かに異世界転移ものってこんな感じのやつよくあるよね」と更に認知負荷を下げる狙いがあります。

 

描写分析:『魔法少女育成計画』はどうやってキャラクター情報を管理していたのか

設定レベルのポイントはわかったので、次に描写レベルのポイントを検討します。

引用した感想でも書いた通り、『魔法少女育成計画』は280ページの文庫本一冊に魔法少女16人が登場する割にはどのキャラも解像度が高いという描写密度が脅威的です。この「膨大なキャラクターの情報量をどう管理しているのか」という疑問を解き明かすため、情報量の配分に注目してキャラクターの登場模様を調べたものが以下の表です。

キャラクター登場表

上から下に向かって物語が進行しており、各キャラクターが各シーンでどのように登場しているかをまとめています(全体版→魔法少女育成計画 キャラ登場まとめ - Google スプレッドシート)。

「キャラクターが何をしたのか」や「キャラクター同士の関係がどう変わったのか」というプロットレベルの具体的な内容は全て捨象し、「いつどのように登場したのか」だけをまとめています。今は話の筋に関心があるわけではなく、単にキャラクターを描写する情報が量的にどのように管理されているかを調べたいからです。

補足467:ウラジーミル・プロップの物語構造分析のような、キャラクターの行為や役割をまとめるタイプの分析ではないということです。

キャラクターの登場ごとに割り振っているアルファベットの意味は以下の通りです。どのくらいの存在感で現れるかに注目して分類しています。

  • AP(Appearence:登場)
    実際にそのキャラクターが登場するシーンです。平均的な情報量を持ちます。
  • BG(Background:バックグラウンド)
    そのキャラクターの過去や生い立ちやモチベーションが語られるシーンです。最も情報量が多くなる登場方法です。
  • RM(Rumor:噂)
    そのキャラクター本人は登場しないが、噂される等によって間接的に登場するシーンです。本人が登場してはいるが顔見せ程度で著しく存在感が薄いシーンもAPではなくRMに分類します。概ね情報量が少ない登場です。
  • D(Dead:死亡)
    キャラクターの死亡シーンです。死と同時にバックグラウンドが語られることでBGを兼ねることも多いです。BGと同じかそれ以上の情報量を持ちますが、キャラあたり最大一回までしか使えません。

例えば、以下の登場表の一部を用いて冒頭でのキャラクター情報量を読み取ってみます。

キャラクター登場表(一部)

まず主人公のスノーホワイトは0章シーン2でAPが割り振られている、つまりプロローグのかなり早い段階で登場していることがわかります。その後も1章シーン5のBGでバックグラウンドを早めに開示し、未登場シーンでも何度かRMで噂されており、主人公らしく冒頭では充実した情報量で描かれていることが伺えます。準主人公であるリップルや主人公の相方であるラピュセルもスノーホワイトと似通った挙動をしています。

もう少し登場が遅い他のサブキャラクターについては、例えばスイムスイムは2章中盤からAPが大きく増えており、冒頭では登場しなかった代わりに2章から主役級として立ち回っていることが伺えます。カラミティメアリはAPに比べてRMが多いという特徴的な挙動をしており、本人が登場する代わりに誰かに噂される形で間接的な存在感を示しています。ルーラは2章シーン5がD、つまりそこで死亡していますが、この死が劇的に見えるように死ぬ前までにはバックグラウンドを開示しています。

このように全キャラ16人分について全編を通じて登場がどのように管理されているかを精査することで各キャラクターの立ち位置に対応した描き方を把握すると同時に、全体としては以下のようなポイントがあることがわかりました。

 

1. 生存キャラには章ごとにAPを概ね均等に振る

基本的には、生存キャラには概ね均等にAPが割り振られます。つまり大勢のキャラクターを描写するために各キャラを平等に出していくのが自然な基本方針です。

各キャラは完全に独立して登場するわけではなく、いくつかの派閥を組んでいるため、実際には派閥ごとにカメラの焦点を当てていく運用になります。また、特に主人公格であるスノーホワイトリップルについてはバトルなどで陽に活躍しない章であっても日常的なシーンが定期的に挿入されるようになっており、章ごとの描写情報量を下げすぎないように管理されていることがわかります。

ねむりんとマジカロイド44は例外的にAPが少ないですが、彼女らはチュートリアルとしてゲームルールを示したり他のキャラの引き立て役に徹したりするという明確な役割が与えられています。

 

2. 序盤から終盤までBGを概ね均等に配置する

バックグラウンド開示は最もディープにそのキャラの本質を提示できる必殺技のようなイベントです。必須ではないにせよ、なるべく多くのキャラにその機会を与えることが望ましいでしょう。

ただしキャラクター単位ではなく物語進行上で見たとき、「序盤から終盤までBGが概ね均等に配置されている」というのはキャラクター登場表を作って初めて気付いた重大なポイントです。つまり、バックグラウンドを開示するタイミングはキャラによって異なり、序盤・中盤・終盤に広く分散しているということです。逆に言えば、「最初に全キャラがバックグラウンドをバーッと公開してキャラを固めてからストーリーを進めていく」という手順では全くありません。

これはバックグラウンドの開示はそのキャラにとって重要であるだけではなく、キャラクター小説として面白くなりやすいポイントなので、集中を避けて全体にバラしておくことで読者を飽きさせることなくストーリーを展開し続ける工夫として理解できます。

また、実はバックグラウンドの開示方法にはそれほど定まったルールがなく、割といつでも開示することができます。もちろん重要な活躍シーンでここぞという情報を開示してもいいですが、日常的な何気ないところで開示しても凡庸なシーンの味付けになりますし、死に際にようやく秘密や生い立ちを明かすのでも劇的になります。

ただし最も重要なポイントとして、実際にBGを均等に配分するためにはキャラ造形の段階からそれを考慮しておく必要があります。つまり「BGを均等に配分する」ということは「終盤の方でBGを明かすキャラが何人か必須である」ということでもあって、そのキャラは終盤まで背景を秘匿しておくだけの合理性があるような設定を持っている必要があります。

実際、『魔法少女育成計画』では参加者として紛れ込んでいたクラムベリーが「実は黒幕である」というバックグラウンドを終盤に開示しているほか、スイムスイムは「ムーブがサイコすぎる割に実は小学生だった」という衝撃的な背景が最後の最後で死亡と同時に明かされるようにそもそものキャラが造形されています。

 

3. APやBGを振れないタイミングではRMで補ってバランスを取る

物語の進行上、APやBGを与えられないタイミングでは代わりにそのキャラにRMを付与することが有効です。つまり、登場しないしバックグラウンドも明かせないキャラでも、「他のキャラに噂させる」という形で一定の存在感を担保することができます。

例えばさっきも書いたように序盤ではスノーホワイトが登場回数を増やしすぎずに主人公らしい存在感を出すためによく他のキャラから噂されているほか、「街の暗部に潜む恐ろしい敵」というキャラであるカラミティ・メアリも中盤までは積極的に登場せず悪名が轟いていることが噂される形で捉え難い悪の気配を漂わせています。

 

以上の知見を踏まえ、『魔法少女育成計画』を模して『にはりが』でもキャラクター登場表シートを作成しています(が、それはいつ誰が死ぬかも全部書いてあるネタバレの塊なので今は貼りません)。

キャラクター登場表に従って全てのプロットと設定を制作したため、キャラや能力を先に考えてから登場シーンを作るのではなく、登場シーンを先に割り振ってからそのように動けるキャラや能力を考えて当てはめていくという手順でした。「この段階で自分のバックグラウンドを開示するキャラが一人必要 → このシーンで新情報が意味を持つような状況を作る → そこで活躍できる能力と性格を持つキャラを考える」みたいな感じです。

この逆算パズルを三日くらいかけて全部解いてからようやく一文字目を書き始めたので、書いている間にキャラや展開を考える必要がほとんどなくひたすら打ち込むだけの作業でした。

 

オマケ:AIイラスト活用工程

オマケとして、AIイラストを用いてキャラクター紹介シートと表紙イラストを制作した作業内容についても書きます。

AIのイラスト自体についての話に比べてAIイラストを作品に使う話はそれ程多くないので、(AIイラスト自体を作ってみたい人ではなく)AIイラストを使って何かコンテンツを作ってみたい人の参考になれば幸いです。

イラストAIはnijijourneyを使っています。前回使ったNovelAIは相対的にもうクオリティが低くなっているし、ローカルでマージをやるほどのモチベは無いのでどうしようかな~と思っていたところ、試しに触ってみたnijijourneyが凄まじいクオリティだったのでそのまま使いました。

 

キャラクター紹介シート

『にはりが』はバトルロイヤルものであるためにキャラクターの人数が多いです。読者が各キャラのイメージをビジュアル付きで固めるための補助輪が欲しかったので、キャラクター紹介シートを全キャラ分作成しています。ライトノベル書籍だと表紙を捲ったところにあるキャラクター一覧みたいなやつです。

キャラクター紹介シート

以下では作業手順について書いていきます。

 

1. キャラ原案を作る

地味に大事な作業です。別にこれにきっちり合わせる必要は無いですが、AIの出力に振り回されないように最初にコンセプトや印象はどういう感じのキャラを作るつもりなのかを言語化して自分で簡単なラフも描いておいた方が良いです。

特に髪色や服装などについては全キャラで被りが発生しないように考慮する必要があって、差別化の方向性も一旦全キャラ分を軽く考えてから始めた方がいいです。

 

2. AIにイラストを何点か出してもらって検討

一番楽しいところです。nijijourneyは優秀なので破綻したイラストを出すことがかなり少なく、色々見比べながらキャラ原案ラフに最もマッチしているものを回収します。

 

3. 足りないところは自分で描く

nijijourneyに出してもらったイラストは端が見切れていることも多いのでGIMPを使って自分で描き足します。イラストの教育を受けたことは一切ありませんがこのくらいは数分あれば何とかなります。

僕は導入が面倒だったので人力で済ませてしまいましたが、最近はPhotoshopにも足りない部分を勝手に補う「AI塗りつぶし機能」とかがあるらしいですし、イラストの続きを補完するタイプの生成AIを使ってもよいと思います。

 

4. アップスケール処理

AIに頼んで解像度を上げてもらいます。僕はwaifu2x-caffeを使っていますが、多分stable diffusion web uiのパッケージとかにもあると思うので何でもいいです。

 

5. 透過処理

透過処理もAIにやってもらおうと思ってstable-diffusion-webui-rembgを導入したのですが、イマイチ性能が悪くてあんまり綺麗に切り抜いてくれないので、結局はほとんど全て人力で切り抜きました。

これもGIMPでパスの使い方を覚えれば誰でも出来るのでそんなに難しくないですし、人力でやらなくても探せばもっと性能の良い切り抜きAIがあると思います。

 

6. シートのデザインを検討

これでキャラ透過素材が確保できたので、素材を使ったキャラクター紹介シートをGIMPで制作します。このために本を10冊くらい読んでデザインの勉強をしました。とはいえ素人につき複数色を使うのは難易度が高すぎるため白黒ベースにしています。

何度かTwitterに上げてフォロワーの意見を聞きつつ調整して最終的なフォーマットを固めました。ベースのシートデザインを一度作ってしまえばテンプレート化して他のキャラにも使えます。

 

7. 完成!

あとはこの流れを全15キャラ分繰り返します。

 

表紙イラスト

1. イラスト作成

表紙イラストもAIにいくつか出してもらって検討します。綺麗だけどうっすら不穏な感じにしたくて、「夜×都市×不安定なポーズ」のコンセプトで主人公のイラストをいくつか作りました。

最終的には、本来AIが苦手な落下構図をあえて選びました。AIは通常とは異なる位置に身体パーツを置く構図が非常に苦手で、すぐに足が複数本あったりめちゃめちゃに骨が折れているイラストを出力するのですが(上の4案でも右から2番目のものは足が大量にあって凄いことになっています)、頑張れば全然いけるよという気持ちです。

最終的に使ったものも足首の角度がおかしいですが、トリミングで女の子を上に寄せて落下をイメージした構図にすれば足が隠れるので使えるようになります。

 

2. ロゴ発注

AIで代替できないタイトルロゴのみ、ココナラでコタツラボ様(→)に発注しました。

たぶん僕はかなりちゃんと発注する方で、テーマ・ターゲット・コンセプト・NGテイスト・参考ロゴなどを記載した数ページの依頼票資料を作成してやり取りします。

 

3.表紙イラスト完成

ロゴが納品されたら表紙イラストに合成して完成です。イイネ!

 

最後に改めて、そんな経緯で制作された『にはりが』を気になったらお読みいただければ幸いです。

www.alphapolis.co.jp

読者感想アンケートを実施しているのと、サイゼミ外伝みたいな感じで御感想をお聞かせ頂く会を後日やる予定なので、その辺りで得た諸々の反省点等をまとめたネタバレ込みの記事はまた後日に書きます。