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23/10/3 『粛聖!!ロリ神レクイエム☆』はロリコンソングではありません

『粛聖!!ロリ神レクイエム☆』に萌えているか。現在進行形で燃えている。

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『粛聖!!ロリ神レクイエム☆』が燃えている

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昨日、『粛聖!!ロリ神レクイエム☆』のMVで使用された防犯ブザーのメーカーがその旨をウキウキで拡散した結果、「防犯メーカーがこのような気持ち悪い楽曲に媚びるのはどうかと思う」という至極真っ当な抗議を受けて謝罪と取り下げに至った。記事の「小児性愛コンテンツ」という直球の見出しがまた凄く、令和水準の超火力が放たれている。

このニュースと前後して、バズった『粛聖!!ロリ神レクイエム☆』がTikTokYouTubeショートでも使われるようになった結果、主に「歌詞がキモすぎる」という非難の声が各方面からちらほら上がってきている。非オタクからは「児童を性的な目線で見る歌詞内容は公共の倫理に反する」という正論を浴び、オタクサイドからも「こういう性犯罪的な露悪ノリを外に出すべきではない」「この令和に10年前のニコニコ動画ノリは寒すぎる」として挟撃を受ける厳しい事態になっている。

経緯がどうあれ『粛聖!!ロリ神レクイエム☆』が世間様の目の触れる場所に一度出てしまった以上、それら批判は対外的には全て正しい。つまり小児性愛コンテンツと認識されるのは全く妥当なことで、可能ならあまり人目に付かない場所に退避させた方がお互いにとって幸福かもしれない。

とはいえ、それでもはっきり言わないといけないのは、「そもそも『粛聖!!ロリ神レクイエム☆』はロリコンソングではない」ということだ。つまり、実は『粛聖!!ロリ神レクイエム☆』はロリについて歌った曲でも、ロリコンについて歌った曲でもないのである。「開始0秒で『ロリロリ神降臨』とか歌っている曲が?」と言われそうだが、事実そうなのだ。実際の背景文脈が混迷を極めた内輪ノリであるが故に大きな誤解を受けている現状がある。

先に言っておけば、それは「『粛聖!!ロリ神レクイエム☆』にはロリコンを蔑む歌詞が含まれているから」という表面的な理由ではないし、まして「ネット上のファッションロリコンに実際の小児性愛者は少ないから」などという根拠が怪しい犯罪論でもない。そうではなく、実際の背景を知るためには、この曲を歌っている「しぐれうい(9さい)」というキャラについて知らなければならない。

 

キツいのはロリコンではなく「なりきり」

『粛聖!!ロリ神レクイエム☆』に係る最もよくある勘違いとして、「ロリキャラVtuberが出したオリ曲」というものがある。わざわざ歌い手に「しぐれうい(9さい)」などと書かれているものだから、9歳設定で売ってる女児Vtuberなのだろうと理解するのは無理からぬことだ。

しかしあえてこういう言い方をすれば、「しぐれうい(9さい)」というVtuberは存在しない。「アニメキャラは実在しない」という浅い存在論の詭弁を展開したいのではなく、独立したVtuberとして存在する二次元キャラではない。「しぐれうい(9さい)」は成人女性イラストレーター兼ライバー「しぐれうい」がごっこ遊びとして用いる「キツいなりきり」であるという大前提がまずある。

幸いにもライバーは動画文化なので、その前提は動画を見れば一分で完全に理解できる。下に貼るような「しぐれうい(9さい)」なりきり初期の動画で最も顕著だが、成人女性ライバーであるところの「しぐれうい」は小学生へのなりきりを行うたびに「きっつ」と連呼している。

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動画を見れば明らかな通り、これは「いい年をしてロリキャラを演じている自分がキツい」ないし「いい年をしてロリキャラを演じている自分を喜ぶリスナーがキツい」の意だ。その後も「しぐれうい(9さい)」を演じるたびに「きっつ」という声はたびたび漏れるもので、その「キツさ」が『粛聖!!ロリ神レクイエム☆』においてロリコンを糾弾するサディスティックな内容に繋がっている。

この「キツさ」は「単なるロリコンのキツさ」、つまり10年前に『ロウきゅーぶ』を見て「まったく、小学生は最高だぜ!!」などと絶叫していたオタクの「キツさ」とは異なることに注意してほしい。そうではなく、「しぐれうい(9さい)」の「キツさ」とは、「成人女性ライバーがロリキャラを演じているキツさ」と「ロリキャラを演じるキツイ成人女性ライバーに萌えるファンのキツさ」なのだ。

つまり、これはファンコミュニケーションとして行う「なりきり」のキツさである。キツさは双方向に発生しているのであり、「お前も大概だろ」としぐれうい側に投げ返す正しい読解として以下のようなツイートもある。

故に、『粛聖!!ロリ神レクイエム☆』の歌詞も本来は全てこの文脈の下で読むべきだ。最もキツい歌詞である「ざぁーこ」「助かる~ゥ」「キモキモ」「助かる~ゥ」などという掛け合いも、「メスガキに罵倒されて喜ぶキツいオタク」という表面的な読解は誤読と言わざるを得ない。そうではなく、正確には「メスガキを演じるキツい成人女性と、そのキツさを承知した上で楽しむキツいファン」である。「しぐれうい(9さい)」の本質はキツいなりきりの馴れ合いであり、ロリキャラというモチーフはその通貨として活用されているに過ぎない。

補足482:Vtuber文化にある程度詳しい方は、俺がここまで「成人女性」と連呼していることについて大きな不満があるかもしれない。Vtuberとしての「しぐれうい(9さいじゃない方)」はあくまでも16歳の高校生という設定なのだから、それを無視して演者ベースで年齢を語るのは無粋かつ不適切ではないかということだ。もちろん俺もその事情は重々承知しているし、例えばもしこれがラプラス・ダークネスについての記事であれば常に「589万6789億歳」と書くべきだと思っている。ただ、イラストレーターのようなリアルとの接点を明確に押し出しているVtuberにおいて、「Vtuberキャラクター」と「二次元アバターを使うライバー」の垣根はかなり曖昧だ。しぐれういも16歳のVtuberとしては明らかに整合が取れない発言を行うことが少なくない。そして特にこの記事で取り上げている『粛聖!!ロリ神レクイエム☆』に関連する「しぐれうい(9さい)」周辺においては、明らかに「いい年をした大人が何をやっているのか」という文脈があることを考慮し、Vtuberキャラクターではなくアバター利用ライバーとして解釈した。あえて「Vtuber」ではなく「ライバー」と表記しているのもそのためである。

 

10年前の悪しきロリコン露悪文化

以上を踏まえるならば、『粛聖!!ロリ神レクイエム☆』をロリコンを露悪的に褒め称える10年前の悪しきニコニコ文化のリバイバル」と見るのも誤りに近い。当時「まったく、小学生は最高だぜ!!」と絶叫したオタクは自らが「キモいロリコン」であることを誇っていたが、『粛聖!!ロリ神レクイエム☆』を楽しむオタクは「成人女性ライバーのキモいファン」であることを誇っているに過ぎないからだ。

とはいえ、MV内でニコニコ動画の意匠がふんだんに用いられていることがまた話をややこしくしている。MVでは弾幕を打つ「キツいファン(しつこいようだが、「ロリコンのキツいファン」ではなく「成人女性ライバーのキツいファン」)」が何度も現れるが、そこに描かれているのも「キツいロリコンの俺ら」ではなく「ロリキャラを演じるキツイ成人女性に萌えるキツイ俺ら」という持って回った文脈で読まなければならない。そもそも「ロリキャラを演じるキツイ成人女性に萌えるファンのキツさ」という認識を形成するためには、「ロリキャラとロリコンはそもそもキツい」ということは大前提になっている。古いニコニコ文化をナイーブに懐古しているわけではなく、現在の馴れ合いの糧にするために気持ち悪い文化をあえて掘り起こしているに過ぎない。

実際、これだけニコニコ動画じみたMVでありながら、実際のニコニコ動画へのアップロードはかなり遅れている。YouTubeにMVが投稿されたのは9月10日だが、その6日も後に「よくよく考え」て存在を思い出されてようやく投稿されているのだ。

『粛聖!!ロリ神レクイエム☆』の適正なプラットフォームはあくまでもしぐれういが現在活動するYouTubeであり、少なくとも現在のニコニコ動画との接続は極めて薄い。なお、現在ニコニコ動画での『粛聖!!ロリ神レクイエム☆』の再生数はYouTube再生数の2%程度しかないが、ニコニコ動画自体が完全に凋落している上にVtuber文化をキャッチし損ねたこともあり、数値の比較は難しいところだ。

 

バズによる複雑文脈事故

ここまで、『粛聖!!ロリ神レクイエム☆』は本来はロリコンソングではなく成人女性ライバーのファンソングだということを延々書いてきた。少なくともディープなファン層における当初の力点は「ロリコンのキツさ」ではなく「なりきりのキツさ」にあったと考えるべきだ。

しかし、ここで俺は「だからロリコンソング扱いは的外れだ」という反論を行いたいわけでなければ、ましてや「本来はロリコンソングではないから子供の目に触れる場所でバズっている現状にも問題はない」「元々別にキモくない曲である」などという擁護ができるとも思っていない。

ごくごくローカルな内輪の論理が何であろうが、そんなことは世間様の知ったことではないのである。公共性において大事なのは実際にどうあるかというよりはどう見られるかだ。一度人前に晒されて悪しき影響を及ぼすのであればその結果が全てであるし、株式会社アーテックも迂闊な投稿をする前に顧客感情を考慮すべきだった。部外者にとって、ここまでの説明全ては「オタクがごくローカルにしか通じない内輪の論理を展開している」以上のものにはなり得ない。

とはいえ、もし『粛聖!!ロリ神レクイエム☆』が燃えている背景を正確に把握したい人がいるとすれば、ある時期に頻発した萌え絵の炎上と同じように「本来はオタクの間だけでやるべき悪しきノリが表に出てきてしまった」とだけ見るのは若干的を外していると考える。適切な内輪ノリ圏を脱してしまったという意味では同じだが、その内実に文脈の誤読が絡んでいる。

よって万全を期して正確に述べるのであれば、「キツいロリコンソングが拡散しすぎた」ではなく「あたかもロリコンソングかのように聞こえるキツい内輪ネタが拡散しすぎた」と言うべきである。本来の解釈が適切になされる範囲を超えてコンテクストが通じないところまでリーチしてしまった、バズによる文脈事故が起きているとも言える。

一応最後に言えば、キツさのレベルとしては、ロリキャラへのなりきりで馴れ合ってる界隈の方が、ロリコン露悪文化よりだいぶキツいという説も、ある。