LWのサイゼリヤ

ミラノ風ドリア300円

22/3/12 2022年1~2月消費コンテンツ

2022年1~2月消費コンテンツ

先月と先々月の消費コンテンツです。
少なくとも今年いっぱいくらいはアニメより何かの書籍とか理系学問を優先していそう。結局今期唯一見てたファ美肉も4話くらいで力尽きてしまったしアニメ卒業か?

メディア別リスト

アニメ(12話)

Sonny Boy(全12話)

漫画(26冊)

ザ・ファブル(全22巻)
二月の勝者(11~14巻)

書籍(8冊)

天然知能
黒板の思想
ヒミツのテックガール
たった1日で即戦力になるExcelの教科書
半径1メートルの想像力 サブカル時代の子ども若者
有限性の後で
亡霊のジレンマ
なぜ世界は存在しないのか

映画(2本)

ホームアローン
スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム

 

良かった順リスト

人生に残るコンテンツ

有限性の後で

消費して良かったコンテンツ

スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム
天然知能
亡霊のジレンマ
二月の勝者

消費して損はなかったコンテンツ

なぜ世界は存在しないのか

たまに思い出すかもしれないくらいのコンテンツ

ザ・ファブル
ヒミツのテックガール
半径1メートルの想像力 サブカル時代の子ども若者
ホームアローン
たった1日で即戦力になるExcelの教科書

以降の人生でもう一度関わるかどうか怪しいコンテンツ

Sonny Boy
黒板の思想

 

ピックアップ

有限性の後で

かなり良かった。『虚構世界の存在論』や『分裂病の精神病理』に並んで人生に残る哲学書の一つ。

簡単ではないものの、ギリギリ誰でも読めるレベルの上限くらいだと思う。カントやヒュームについて多少は事前知識がないとやや読みにくいのはあるが、必要な情報は概ね全部ちゃんと書いてあるし、論理展開が明晰で理解を深めるための具体例や想定反論の提示にも富んでいる。一読でスッと理解するのは厳しいにせよ、周回すれば全然読めるくらいの感じと思われる。
訳者の千葉雅也による巻末の訳者解説が非常に親切なのもありがたいところ。密度の高いメイヤスーの文章からエッセンスだけ取り出してとりあえずのレールを敷いてくれるため、そちらとも並行しながら本文を読むことでかなり理解しやすくなる。

元々いわゆる思弁的実在論の先鞭として論旨を軽く紹介されているのは何度も見たことがあり、アバウトには内容を知っていたが、ちゃんと元を読んでみて紹介文ではなく原典に目を通す価値が高い名著だと感じた。
元々この本はいかにも紹介に適したキャッチーな主張を軸としていて、それはタイトルで既に現れている。サブタイトルである「偶然性の必然性」とは、かなり噛み砕いて言えば「あらゆる法則や事象は偶然的であることが必然的である」、すなわち「全ては理由なき偶然の産物であるから今すぐにでも変更される可能性が必然的にある」、具体的に言えば「例えば次の瞬間には大地が崩壊したり人々が芋虫に変身するようなことがあり得る」というような話だ。このスタンド能力っぽい世界観は哲学的な主張としては思考実験を極めた類のもので妥当性の主張には欠ける極北タイプだろうと読む前は思っていた。

しかし実際に元論文を読んでみてわかるのは、その奇抜な主張を擁立する理路にこそ本当の力点があるということだ。「『偶然性の必然性』という主張を必要とする現代の問題」「『偶然性の必然性』という主張を正当化するロジック」「『偶然性の必然性』から演繹される結論」といった周辺文脈がまるで科学論文のように極めて明晰な形で整理されている。よって一番キャッチーな部分だけ拾うのと、全部に目を通して堅実に積み上げられた問題意識と論証が背後にあることを確認するのとでは印象にかなり違いが生じる。

本を要約して解説するブログではないためそれらを詳説するつもりはないが、最も入口になりやすいと思われる、メイヤスーが考える現代哲学の問題点だけ紹介しておこう。メイヤスーは哲学領域においてカント主義があまりにも普及した結果生じた歪みとして以下の二つを挙げている。

・素朴な実在を認めない現代哲学では観察者が生まれる以前の科学的な知識を文字通りに解釈できない。ビッグバンの素朴な実在を認められない以上、ビッグバンには「我々にとって事後的に振り返ればまるで存在するかのように思われる何か」くらいのポジションしか与えることしかできないが、それは「全ては五秒前に完全な形で生まれた」と主張する創造論者と大して変わらないのではないか?
・科学啓蒙が全世界的に進んだにも関わらず、何故か他人の蒙昧な神学的な信仰を真っ向から否定することは全く許されなくなっている。スパモン信者という免罪符が成立してしまうような、過度にリベラルな宗教的風潮はどこから来ているのか?

いずれも高尚な哲学的懸念というよりはかなり地に足の付いたアクチュアルな問題であるように感じるがどうだろうか?
なお同じくロジカルなスタイルから突飛でキャッチーな主張に辿り着く哲学者として反出生主義のディヴィッド・ベネターを取り上げたことがあるが、ベネターは実存的な問題には無関心な素振りしか見せないのとは対照的に、突飛な主張とアクチュアルな問題意識が接合しているのがメイヤスーの魅力的なところだ。それは『亡霊のジレンマ』における神義論でもよく現れている。

『有限性の後で』はサイゼミでも軽く取り上げる予定なので、またそのときに何か書くかもしれない。ちなみに次回のサイゼミはあの「みそは入ってませんけど」のみそ氏がP≠NP予想や暗号理論について解説してくれるらしいので、その前座くらいになりそう。

 

亡霊のジレンマ

『有限性の後で』のファンディスク。
『有限性の後で』から派生する発展的なトピックを全六章で扱っており、『亡霊のジレンマ』から読んでも全然わからないので、あっちを先に読むのがマスト。個人的には三章と四章が面白かった(たぶん淫夢と同じで四章が一番人気そう)。

三章ではタイトルにもなっている「亡霊のジレンマ」を扱っている(ちなみに「亡霊のジレンマ」を扱っているのは三章だけで他の章は全く違う話)。真の喪と正義の実現について論じる中で「非業の死を遂げた死者が全員復活して正義が果たされる」(は?)という突飛な主張が繰り広げられ、これは一見すると月刊ムー並のトンデモ話ではあるが、その背後には神義論のジレンマを解消するロジックがあって消去法的にこれしかないという道が選ばれている過程はやはり『有限性の後で』と同じだ。

四章では『有限性の後で』の主張を文学に応用する戦略について論じている。個人的にメイヤスーへの好感度が一番上がったのはこの章で、めちゃめちゃ感じるところがあった。というのも、俺は哲学的な理論を見るとすぐ何らかのテーマとかスタンド的な能力としてエンタメに落とし込むにはどうすればいいのかをとりあえず考える癖があり、その結果が創作活動であったりする。だから新しく思弁的唯物論を立ち上げたメイヤスー自身がまさしくそれをやっているのはかなりウケた。「特殊なタイプのSFを書けばよいのでは?」とか「多分こんな感じじゃね?」と色々案を出しながら試行錯誤しているのはオタクの雑談みたいな感じでかなりよい。

 

なぜ世界は存在しないのか

以前にも読んだが再読。
メイヤスーは面白過ぎたが、メイヤスー以外の思弁的実在論(ガブリエルとかハーマンとか)は別に全然面白くなかったような記憶があって、「他の勢力も今読むと実はそのくらい面白いのか、それともメイヤスーが突出していて他は別に面白くないのか」を確かめるために読んだ。
結論から言えば、やはり『なぜ世界は存在しないのか』は大して面白くないし多分メイヤスーだけが突出している。

過去に読んだときに比べれば多少は面白くは感じたが、論証が弱すぎるという印象はどうにも拭えない。
「どうして実在や事実との接触を主張するのか」というカント以来のクリティカルな点に対して、結局は「だって実在してるだろ?」と肩をすくめるだけで議論らしきことは何もしておらず、仮想敵とする構築主義に反論できているとも思えない。
事あるごとに最近のテレビドラマや映画のタイトルを挙げて絡めてくるところに大衆への配慮とすり寄りがあり、メイヤスーの緻密な議論に比べると見劣りするというか同じ土俵で書かれた本ではないだろう。著者のガブリエルはこの本を専門書ではなく一般書として書いている点は考慮しなければフェアではないかもしれず、別の論文などを当たればもっとちゃんと書いてあるのかもしれない。

一応、説得力を一旦脇に置くのであれば頷けるところも多い。「世界は存在しない(にも関わらず対象は実在する)」という主張は限りなく地に足が付いており、「とりあえず体感にはめっちゃ合っている」という意味では一定の価値がある。というのは、「絶対的世界像を否定しつつも実体のない相対主義も回避する」という姿勢は実践的な意味では有益だろうということだ。
根拠の論証を差っ引いた代わりに「世界は存在しないことにすれば様々な活動はこんな風に有用ですよ」と紹介する応用パートは充実しており読み応えがある。「自然科学は唯物論に陥らなければ有益、芸術は存在の背後に目を向けさせる点で有益、宗教は無限後退する文脈を捉えようとするときに有益」という具合である。

ちなみに巻末に付いている用語辞典には最大の評価を与えたい。単語の定義を短文で単刀直入に与えているのが素晴らしい。単語の定義を緩く取って意味を多重化したり、最悪の場合は誰も定義を説明できないような単語で文章を書くようなスタイルには(理系出身ゆえ)個人的にかなり忌避感があり、明晰を目指すスタイルをいつでもリスペクトしている。

 

スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム

かなり面白かった。

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』を見るために見始めたがガチの名作(しかし『ノー・ウェイ・ホーム』は『ファー・フロム・ホーム』を何段も超えてくることになる……)。

ネタバレ回避のため追記に飛ばす。

 

天然知能

なかなか面白かった。郡司ペギオ幸夫先生の講義は大学で最も印象に残った講義の一つだったので、いつか著書をいくつか読もうと思っていてようやく読んだ。

アバウトに言えば天然知能とは「文脈の不確定性と自己言及の不可能性ゆえに、文脈や対象を一意に指定することはできないので常にズレが生じるよね」というような事態をポジティブに捉えたものだ。「実は言語と意味はそんなにきっちり対応してない」みたいな話はポスト構造主義でよくある話ではあるが、ポジティブな描像を図式的に与えているのが良い。ハーマンの四方対象みたいな図だなと思ったら中できちんと紹介されていた。

天然知能的な事態が色々な領域で見出されることが紹介されており、どれも結構面白いが、個人的にはジョンサールが提起したいわゆる「中国語の部屋」についての新解釈がなかなか良かった。
中国語の部屋」は元バージョンでは「中国語の意味を理解している中国人」と「中国語を理解していないが完璧な入出力リストを持つアメリカ人」が少なくとも対外的には同じであることが主張されるが、郡司ペギオ幸夫先生によれば、それでも天然知能を持つ人間は機械的な入出力リストとは全然違うのである。
というのも、実際には部屋に幽閉されて退屈しているアメリカ人はボーっとしてたまに出す中国語をちょっと間違えたりするわけで、その過程で「ミスってこれ出したとき相手のリアクションがやばかったな」とか「ミスったけど問題なかったっぽいからほとんど同じ意味なのでは」とか色々学んでいくことができる。これは確かにいかにもありそうな気がするし、実際、アイヌに最初に上陸した人はそんな感じでアイヌ語を学んだとも聞く。実証的な真偽はともかくとして、文脈や対象がきっちり運用されないことによってアップデートされる知能の挙動を示す話としてよく出来ている面白い話だ。

あと、あとがきもなかなか味わい深かった。本当はもっとカッチリした形式で既存の哲学理論を紹介した上で問題点と改善点を解説するという論文のような中身だったらしいが、レビュワーから反対されてもっと身近な例を示していく内容に大改修されたらしい。それは英断。
ただしその過程で省略された「トリレンマの代数的表現」とは、恐らくまさに俺が講義で聞いて感銘を受けた自由意志と局所性と決定論の行列表現の話だろう。それは是非きちんとした形で読みたかったが、どこか別の場所で論文とかになっているかもしれない。

 

ザ・ファブル

流行っているので読んだ。若干は面白かった。

小島編・宇津保編・山岡編の三編があるが話としてはかなり単純で、どれも「悪いやつが出現する→ミサキに手を出す→ファブルが救出する」というスーパーマリオシリーズのような流れを無限に繰り返しているだけだ。エピソードごとに悪の形は変化しており、素朴に典型悪を目指そうとした小島、ファブルに個人的な恨みを持つ宇津保、劇的な死に場所を求めている山岡というバリエーションはあるが、一貫したテーマのようなものは特に感じられない。

一番面白かったのは裏社会ものとコメディもののバランス管理・ヘイト管理に腐心しているところだ。人の死やヤクザを扱うのでコメディというほど軽くはないが、ウシジマ君やシマウマほど重くなってしまっては困るので、寄り過ぎないように描写のバランスを取らなければならない。
例えば宇津保編で貝沼が勝手に死ぬところはかなり上手くやっていた。貝沼がボコられて死ぬとファブルが身近な隣人を守れなかったことになってしまうのだが、かといってファブルが貝沼を救ってしまっても貝沼はミサキと違ってあまりにもカスすぎるので読者はすっきりしない。なんか勝手に死ぬという落としどころは最も妥当な線である。

 

半径1メートルの想像力 サブカル時代の子ども若者

大学教授が書いたサブカル本。特に面白くはなかった。

現代社会の子供」「承認欲求」「キャラ作り」「教室空間のカースト」「コミュニケーションとストレス」といった単語を用いて適当に作文を書けと言われて手癖で書くような内容から特に逸脱しておらず、当たり前すぎてインサイトがあまりない。サブカル要素についても『まどマギ』や『エヴァ』が引用されつつ、大塚英志の「自然主義的リアリズム」とか、伊藤剛の「キャラ」とか、土井隆義の「キャラ」とか、御用達ボキャブラリーが乱舞する。

とはいえ別にサブカル語りをやりたくて書いているわけではなく、社会学的なエビデンスとして子供へのアンケート結果を分析して逐一明示しているところは流石に職業学者である。あくまでもこうしたアンケート結果をよりよく解釈するためのサンプルとして、代表例ないし寓話としてサブカル作品の知見を借りてみようというスタンスがある。それを裏付ける「自己決定を迫られる自己という構造は『エヴァ』の解釈には有効な枠組みを提供してくれるが、実際には強迫的に自己決定が迫られたとしても、やり過ごしたり、スルーしたりすることもできる」という記述はけっこういい。一見するとコテコテのサブカル本だが、実際の事態を現実的に捉えようとする姿勢は一貫している。

 

二月の勝者(11~14巻)

相変わらず面白い。

やはり極度の緊張状態の中で子供と親と塾が利害衝突しながら人生を決める戦いを繰り広げるという受験の基本構図がドキュメンタリー風によく描かれている。受験の二月が近付くにつれてリアリティ漫画としての性格も加速しており、保護者への説明会で一話を使い切っていたのは笑った。
ただエピソードがワンパターンなのは目につく。概ね「自己決定したい子供とそれを認められない過保護な親の対立」というテーマの中で子供が成長して良かったねという話が多すぎるが、ざっくり子育てとはそういうものなので仕方ないのかもしれない。

10巻以降の流れとしてそろそろ主人公の無料塾への参加が本格的にフィーチャーされ始め、「子供を救いたい」というキャラが立ってきたのは良かった。今までは塾講師というロールに徹するキャラだったが、一段上の目的意識が提示されてその中に位置づけ直されたことでぐっとキャラの立体感が出てきた。
特にクリパのエピソードはよく出来ている。子供の環境に応じて臨機応変に年相応の体験を提供するという主人公のスタンスを綺麗に提示しているし、受験漫画としては「塾通いをするような子供はなんだかんだ親が教育熱心で総じて恵まれている」という点から教育格差問題にもタッチしてテーマを広げているだろう。

 

Sonny Boy

先にお題箱回で感想を書いてしまったが面白くはなかった。

saize-lw.hatenablog.com

中盤まではけっこう良かったです。当初は漂流もののセオリー通りに元の世界に帰ろうとしていたのに、「自分が戻るべきオリジナルがある」というナイーブな前提が破壊され、「漂流していない自分」に戻ることはできず、どこまでも「漂流している自分」としてやっていかなければならないというのが中盤までの話ですよね。この『漂流教室』的なお約束を逆手に取ったねじ曲がった実存と本質の提示の仕方にはかなり感心しました。

ただし良かったのはそこまでです。後半の話を最大限好意的に見れば、「人生とはオリジナルに復帰できるような収まりの良い物語である」という夢は中盤のどんでん返しで破壊されたため、後半戦では全体をまとめ上げる物語的な文脈は存在せず、それぞれがまとまりなく個々に傷付いたり戦ったりしながら自分を生きていくしかないという見方は可能です。つまり面白くないこと自体をコンセプチュアルに評価するというアクロバティックは不可能ではありませんが、「エンドレスエイト」が試みとしては面白いけどアニメとしては面白くないものを8話も流されるのが普通にきつかったのと同じで、Sonny boyも試みが面白いだけの面白くない話を6話くらい見させられたことに疲弊しました。

 

生産コンテンツ

ゲーミング自殺、16連射ハルマゲドン

趣味で書いている小説の進捗報告です(前回分→)。
1~2月は概ね第十三章「神っぽいか?」・第十四章「別に発狂してない宇宙」・第十五章「パラノイアエスケープ」を完了しました。二章増えました。

ちなみに小説はGitHubで管理してます。

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ネットに上げておくとノートPCがぶっ壊れたときの保険になるのと、暇なときにスマホから読めるのが大きいです。電車乗ってるときとかに、ジャンププラスとかを開くのと同じノリでGitHubを開いて自分で書いたものを自分で読んで暇潰ししていることはよくあります。

もちろん他のクラウドサービスと違ってGitHubならではの利点も色々あって、やはり一番は差分が勝手に出ること。

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前回から更新した行は赤から緑に置き換わる形で差分がハイライトされており、どこをどう直したかがすぐわかるようになっています。本来はソースコードの差分を検知する機能が日本語でも普通に動作します。
あとGoogleDriveとかで手動管理するのに比べて、GitHubは自動的に版を定義して勝手にブランチを繋いでくれるのが楽です。「ゲーマゲ_ver42.txt」みたいにファイル名を弄る必要もなく、txtファイルのドラッグ&ドロップだけで全てを自動管理できます。

字数

305014字→329125字

各章進捗

第一章 完全自殺マニュアル【99%】
第二章 拡散性トロンマーシー【99%】
第三章 サイバイガール【99%】
第四章 上を向いて叫ぼう【99%】
第五章 聖なる知己殺し【99%】
第六章 ほとんど宗教的なIF【99%】
第七章 ハッピーピープル【99%】
第八章 いまいち燃えない私【90%】
第九章 白い蛆ら【99%】
第十章 モモチャレンジ一年生【99%】
第十一章 鏖殺教室【99%】
第十二章 よくわかる古典魔法【99%】
第十三章 神っぽいか?【99%】
第十四章 別に発狂してない宇宙【99%】
第十五章 パラノイアエスケープ【80%】
第十六章 世界の有機構成【1%】

キャラ紹介⑦ 白花ちゃん

※キャラ作りに使っている「可愛い女メーカー」のURLを貼ろうとしたら限定公開になってしまっていたので略……

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女子高生プロゲーマーのヒロインです。長身で人形のように整った容姿、ダウナーかつ神秘的な雰囲気を纏う美人で、妹と組んでVRバトルロイヤルゲームに参加しています。

モデルのような外見とジャイアントキリングを連打する実績に反して、白花にはスポンサーが付くことがありません。長所を補って余りあるほどに対人能力が終わっているからです。プロゲーマー界屈指の変人である白花はインタビューを受けるたびに意味不明な受け答えで場の空気を終わらせ、不慣れな新人インタビュアーはテンパらされた挙句に泣き出してしまう程です。

可能ならば白花を避けて通りたいのはインタビュアーだけではなく、ほとんどのゲーマーにとっても同様です。白花の戦い方にはリスク管理という概念が無く、処理しなければ自分も相手も即死するようなフルリスクノーリターンの手を躊躇なく打つため、白花と交戦するのはゲームを強制的にくじ引きに変更させられるようなものです。不幸にも白花と交戦してしまったゲーマーは口を揃えて「こんなのゲームじゃない」と吐き捨てます。

主人公の彼方にとっても白花は理解不能な存在で、少なくともゲーム中はなるべく関わりたくないと思っています。
しかしそれでも彼方は白花に一目置いているし、可能ならば距離を縮めたいと思っている本当に数少ない理解者予備軍の一人です。何故なら、どんなやり方であれ白花が他の誰にも真似できない戦い方でそれなりの勝率を維持していることは、彼方にとっては敬意を払うに値する偉業だからです。
実は発言内容が終わっていることを除けば白花はわりと饒舌かつ友好的でもあるため、白花の極めて狭い交友関係の中では彼方は親友と言っても差し支えありません。

―――――――――――――――――――――

ファー・フロム・ホームのネタバレ回避続き。

ミステリオがヒーローではなくヴィランだったというのがこの映画の全てだが、俺はネタばらしシーンまで普通に騙されていた(この辺の勘が鈍いのは映画を楽しみやすくなるので我ながらありがたい)。

ソコヴィア協定あたりからでもヒーローたちが利害が一致しない市民との間で軋轢に苦しむ様子はよく描かれていたが、それでもその時点ではヒーロー自体は確固たる利害主体として存在していることを前提としていた。それが『ファー・フロム・ホーム』ではより現代的な構図として、情報が支配する時代に渦巻くフェイクの中で「ヒーローがそもそも存在しない可能性を排除できるのか」という形にまでアップデートされている。これによって確固たる主体が衝突する政治的な事態とも、自分を見つめ直す実存的な事態とも異なる、「それってフェイクじゃない?」という声が常に付きまとう情報と疑念の中にヒーローが位置付けられる。

この映画の映像技術自体がすごいことでミステリオのキャラクターに説得力が出ているというアクロバティックな構図もすごい。中盤でミステリオがスパイダーマンを翻弄するために凄まじいVRを展開してみせるとき、映画としては凄まじいVFX技術によってスクリーンの前の観客が騙されているわけで、観客もスパイダーマンと共に幻惑の中に巻き込まれてしまうという極めて自己言及的な構図がある。これが潤沢なVFX技術でヒーローを描いてきたMCUそのものに対する「それってフェイクじゃない?」という自己否定としても機能していることは言うまでもない。

エンドゲームが終わって初期面子が卒業し、新ヒーローのスパイダーマンからもう一度ヒーローコンテンツを立て直そうとしているところにこの映画を入れてくるのが天才すぎる。MCUではスパイダーマンはアイアンマンを実質的な師匠としているだけにエレメンタルズとかいう手頃な敵を倒しても『アイアンマン』の焼き直しになるだけではと思っていたが、「そもそも新ヒーローは現代において情報的なフェイク以上のものとして存在できるのか」というヒーローの世代交代を逆手に取った話へと即座にアップデートされている。
MCUを見たのは一年ぶりくらいだが、映像と主題の二点で全く退屈させない凄みをしっかり思い出した。続きにも期待。