LWのサイゼリヤ

ミラノ風ドリア300円

22/1/9 2021年10~12月消費コンテンツ

2021年10~12月消費コンテンツ

この3ヶ月はアニメや映画を見る時間をほぼ全て統計学かネットワーク科学に回していたのでまとめます。
まだ結構読書を続けたい気分だが、これが一過性のブームなのかアニメや映画から卒業するときが来てしまったのかは不明。なんか冬アニメ始まってることに気付いてなかったのでもうダメかもしれない。

メディア別リスト

アニメ(短編115話)

ホロぐら(短編アニメ・1~115話)

漫画(40冊)

バトゥーキ(1~10巻)
僕のヒーローアカデミア(1~30巻)

書籍(17冊)

宇宙の眼
家屋と妄想の精神病理
不完全性定理とは何か

統計学関連>
日本統計学会公式認定 統計検定1級対応 統計学
日本統計学会公式認定 統計検定1級公式問題集(2012~2013, 2014~2015, 2018~2019)
現代数理統計学の基礎
やさしい実験計画法
東京大学工学教程 確率・統計Ⅱ

<ネットワーク科学関連>
観光客の哲学
「複雑ネットワーク」とは何か
私たちはどうつながっているのか
歴史は「べき乗則」で動く
スモールワールド・ネットワーク
新ネットワーク思考
複雑ネットワーク:基礎から応用まで
ネットワーク科学

 

良かった順リスト

人生に残るコンテンツ

ホロぐら(短編アニメ)

消費して良かったコンテンツ

僕のヒーローアカデミア(1~30巻)
宇宙の眼
バトゥーキ(1~10巻)
新ネットワーク思考

消費して損はなかったコンテンツ

スモールワールド・ネットワーク
ネットワーク科学
観光客の哲学
歴史は「べき乗則」で動く
家屋と妄想の精神病理
不完全性定理とは何か

たまに思い出すかもしれないくらいのコンテンツ

「複雑ネットワーク」とは何か
現代数理統計学の基礎
東京大学工学教程 確率・統計Ⅱ
複雑ネットワーク:基礎から応用まで
私たちはどうつながっているのか
やさしい実験計画法
日本統計学会公式認定 統計検定1級対応 統計学
日本統計学会公式認定 統計検定1級公式問題集(2012~2013, 2014~2015, 2018~2019)

以降の人生でもう一度関わるかどうか怪しいコンテンツ

(特になし)

 

ピックアップ

ホロぐら(短編アニメ)

好きすぎアニメ。

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最近Twitterでホロライブに普通にハマっているのでホロぐらを評価するのはホロ贔屓じゃね?と思われるかもしれないが、それは原因と結果が逆である。ホロライブにハマっているからホロぐらが面白いのではなく、ホロぐらが面白いことがホロライブにハマった主な要因の一つになっている。

あまり知らない人もいると思うので軽く説明を書くと、『ホロぐら』はホロライブの運営会社が作っているホロライブのVtuberが登場する短編3Dアニメ。Youtubeで全話公開されているが、公式が作成している再生リスト(→)は何故か厳選セレクション扱いで抜けがあるため、有志がまとめた再生リスト(→)を参照した方がよい。
また、『ホロぐら』ではアニメーターが作った映像にVtuberが声を当てているだけで、アドリブやモーキャプは用いられていない。キャラがVtuberである意味はそれほどなく、あくまでもキャラIPとしてVtuberキャラクターを流用した3Dアニメに過ぎない。

定期的に言っているが俺は『ギャラクシーエンジェル』がかなり好きで、未だに毎期とりあえずギャラクシーエンジェルみたいなアニメを探している。具体的に言うと複数の可愛い女の子がけっこう勢いのあるコメディをワチャワチャやる美少女ギャグアニメが好きということなのだが、ホロぐらがそこに完全にバチっとハマってしまった。正直ホロぐらでアニメ欲がかなり満たされてしまうので深夜アニメモチベが下がっているというのはある。
特に3Dモデルの出来が有り得ないくらい良い。深夜アニメでよく見るのっぺりしたモデルから何ランクか上の水準、しかも全身がよく動くしデフォルメにも強い。もうここが美少女3Dモデルの到達点のような気がしてくる。作画技術的なことはよくわからないが、何故ここまで美少女モデリングがいきなり進化しているのか知っている人がいれば教えてほしい。

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(↑皆よく出来ているが特に白銀ノエルと常闇トワのモデルが頭一つ抜けている気がする)

内容も85点くらいの話をコンスタントに出し続けており、ズバ抜けて面白い回は特にないが外れ回も特にない(ただ、なんとなく第99話あたりから微妙に面白さが上がっているような気がする)。一応他より面白い気がする第101話を紹介用に貼っておく。

youtu.be

どれか1つでも見て面白い人は全部面白いだろうし、どれか1つでも見て面白くない人は全部面白くないと思う。俺は全部めっちゃ面白い。

補足408:新しいキャラクターとしてのVtuberのメディア展開についてはこのブログでも何度か取り上げたし、特に3DアニメとしてはVtuberの新しいコンセプトをそのまま活かそうとした『バーチャルさんが見ている』という惨劇について以前に論じた(→)。『バーチャルさん』と比べると、『ホロぐら』はVtuberに特有の魅力を特に活かすことなく作られた派生キャラクターコンテンツである。
また、ホロライブがVtuberを単なるIPとして(既存のキャラクターと同じ水準で)用いている例は『ホロぐら』だけではない。『ホロライブ・オルタナティブ』では

ようこそ、もうひとつのセカイへーー
ホロライブがおくるまた別の可能性――『ホロライブ・オルタナティブ

というキャッチコピーの下で、Vtuberたちが異世界で活躍している姿が描かれるOP風のアニメムービーが作成されている。

www.youtube.com

キャッチコピーの通り、この動画に登場するVtuberは配信しているVtuberとは別個体であることが明示されている。TwitterではVtuberたちも「続きが楽しみだねー」的な他人事スタンスで『ホロライブ・オルタナティブ』を消費者として楽しんでいる(「私が戦ってるところを見てくれたかな?」という自分事スタンスではない)。
こうした展開模様は少なくとも4年近く前に夢見られた黎明期のVtuber批評から見れば敗北でしかない。単に外見と設定を流用しただけのキャラクターIP展開なら誰でもできるわけで、実在人物と対応するアバターとしてのVtuberのユニークネスは完全に抹消されている。また、そうやって派生コンテンツが退化している一方、本編としての動画は何の挑戦もない広義の雑談枠に支配され、オフコラボや訴訟や炎上などの刺激的なリアルを定期的に提供してくれるイラスト付きゲーム実況者のコミュニティに成り果てた。少なくともメインストリームにおいては陳腐への二極化が留まるところを知らない。
ただ、この流れを憂う必要を俺はもう感じない。シンプルにどうでもよくなったからこうして補足に回している。誰が何を言ったところで『ホロライブ・オルタナティブ』も『ホロぐら』もエンタメとしてめっちゃ楽しんでるし、アバターやりたい人は自分でVRChatとかVtuberやってるし、白上フブキさんは萌え萌えなのである。

 

バトゥーキ

嘘喰い』作者の新作。嘘喰いはライフタイムベスト級に好きな漫画で、こちらも同じくらい楽しく読んでいる。基本的に絵が上手く、優れた格闘描写は健在。

嘘喰いが暴力と智略を併存させていた一方、バトゥーキではそれほど頭の回らない少女が主人公に置かれて格闘漫画と銘打たれている。基本線としては主人公を含む学生同士が結束して生き抜いていくという、嘘喰いと比べて値踏みのないシンプルな友情と連帯が描かれていることには少し驚く。ただ、それでも「誰かが何かの割を食う」という独特な縁の在り方によって一筋縄ではいかない利害の交錯が描かれるほか、何かあるとすぐに様々な思惑を持つ勢力が入り混じるあたりに単純な格闘では終わらない人間関係がある。

10巻でようやくキャラや組織が大きく増えてきた段階なので続きにも期待。


僕のヒーローアカデミア

相当面白い。正直なところ鬼滅や呪術やチェンソーマンの影に隠れて(特に一定年齢以上の男性オタクの間で)そこまで存在感を示せていない印象があったが、古参として今のジャンプを支えるだけの骨の太さがある。漫画としての完成度がすごい。

まず驚くのは、膨大なキャラと設定によって世界観が隅々まで管理されており、無数の能力と無数の人間がいる社会をきちんと描こうとしていることだ。
個々の能力設定をそれぞれ煮詰めてあるだけの能力バトルはたくさんあるが、それはもう前提として「様々な能力をどう扱うか」という二次的な扱いが異常に上手い。超人社会の中ではそれぞれの人間関係や事件や組織の中で能力が客観的に評価されており、単なる強弱ではない人間評価が綿密に描かれる。
これは「能力同士の相性を考慮する」というこれまた能力バトルの御約束ともかなり違う。各キャラの評価はいわゆる能力、すなわち「超能力としての能力」のみならず、思考法や経歴や性格まで含めた立体的な判断によって行われる。能力バトル的能力などステータスの一部に過ぎず、それを含めた総合的能力が社会の中でどう振る舞うかが常に問題になっている。
そしてこうしてネットワークの中で多角的な目線を受けて定位されるヒーローは現代的な英雄像でもある。一話から物語の前提になる「オールマイトの失効」は「誰か一人が全部解決する」という古臭いヒーローものないし少年漫画に対する明確なアンチテーゼであり、「一人のヒーローに全部やらせるのはもう無理なので連携でカバーする」という現実的で泥臭い戦略が無数の人間の協働を描くための原動力になっている。
もちろん群像劇的に背景や振る舞いが描かれるのはヴィランサイドも同様だ。現代ヒーローものらしく、ヒーローは完全無欠ではないためにそこから零れ落ちるものが常に存在する。ヒーローに救われなかったもの、救えないもの、救われたくないものが一定数いて、彼らがヴィランを組織する。

ただ、これは明らかに少年漫画の限界なのだが、少年であるところの主人公陣営がそうした世界のあり様に対してナイーブすぎるという点が優れた主題に対して決定的なボトルネックになっている。「ヒーローアカデミア」に所属する主人公たち少年少女はいつまでも「いわゆるヒーロー」になることばかりを考えていて、それが取り落としてきた事態を描いている世界設定及びヴィランと全く対応していない。どう見てもヴィラン側と社会状況が現代ヒーローにアップデートされているのに、主人公たち側が古典ヒーローから脱していないという非対称がある。
その象徴的な点として、トゥワイスが結局ヴィランとして死亡したことがある。トゥワイスは概ね善人でありながらもヒーローに救われたくない者であり、ヴィラン側にのみ生きる希望を見出していた。積極的にヴィランでありたい善人は皆を助けたいというナイーブなヒーロー観では絶対に救えない。トゥワイスをどう処理するのかと思っていたら、ホークスが汚れ役を全て引き受ける形でトゥワイスを殺害して終了した。これに限ったことでもなく、クリティカルなシーンでは主人公たち少年ではなく大人のヒーローたちが泥を被って事態を収拾することが多く、作者自身が設定した世界の複雑さと少年漫画の無垢さの折り合いが付いていないように感じることが多い。
その直後に出久が暴走した死柄木に対して「助けを求めてた」と一方的に判断したのは露悪的ですらある。そうやって上から目線で救うべきものを判断することがヒーローの問題としてヴィランとの軋轢を生んできたはずなのだが、未だにオールマイトに憧れる出久は一方的な独善から抜け出せない。

こうした主人公サイドの噛み合わなさはこれから主題化するのか、一貫して露悪的に描かれるのか、あまり自覚されていないのか、作者としてはヒーロー側の葛藤を描いているつもりなのか、いずれにしてもまだ途中なので続きを楽しみにしている。

 

宇宙の眼

なかなか面白かった。
パラレルワールドが超越的な存在ではなくかなり卑俗で個人的な妄想から引き起こされるのが良い。事故に巻き込まれて不本意ながらも構成された老若男女のコミュニティの中で、誰しもが一片の歪みとそれを実現しようとする渇きを持っている。各人を一皮むいた下にあるステータスはカルト狂信者・潔癖症患者・共産主義者陰謀論者など、誰もが狂気を孕んだ集まりなのである。
誰か一人の異常性によって他の全員がパラレルワールドに巻き込まれるたび、巻き込まれた人々は結託して異常者をボコボコにして解決を図る。そうするとまた結託していたはずの別の誰かが妄想を起動してパラレルワールドを展開し、今度はさっきボコった異常者も一緒に対抗してくれる(他人の妄想には興味が無く、有害なだけであるため)。
皆が皆素朴に病んでいて、持ち回りで異常を発動するたびに他の全員が腕力でどうにかしていく。各人の異常性は撃退はされるが治療はされないために恐らく温存されているのが良い。そのあたりは恐らくエンタメ小説であるためにあまり深く掘り下げなかっただけなのだろうが、登場人物たちがスピーディーに狂人になって解決されずに単に撃退されていくのは気持ちよかった。パラレルワールドでは誰もが狂っていて治療はできない。

補足409:大学入学当初にインテリらしく海外文学を嗜もうと思って有名どころの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』や『レッド・ドラゴン』を読んだが、全然面白くなかったので「海外文学ってこんなもんかー」と思って趣味にするのをやめ、それ以降は一切読もうとしなかった。多分あそこが人生の分岐点で、あのタイミングで『宇宙の眼』や『発狂した宇宙』を手に取っていたら今の趣味も少なからず変わったものになっていただろう。

 

統計学関連書籍

下記参照。統計検定がまあまあ面白かったのでまた何か資格を取ろうと思っているが、他の活動時間を食い潰してオーバーキルしすぎるのも良くはない気がするので、次は勉強時間に制限を付けたい(有利すぎるからハンデが必要)。

saize-lw.hatenablog.com

 

ネットワーク科学関連書籍

下記参照。ネットワーク科学は汎用性が高い上に身近なので暇なとき勉強する題材としてはけっこうお勧めできる。
今まさに東京がヤバくなりつつある感染症の蔓延条件とか、複数のカテゴリに分かれたオタクコミュニティの組成とか、バズるコンテンツの条件とか、色々な話題に派生しやすい。

saize-lw.hatenablog.com

saize-lw.hatenablog.com

 

生産コンテンツ

ゲーミング自殺、16連射ハルマゲドン

趣味で書いている小説の進捗報告です(前回分→)。10~12月は概ね第十一章「鏖殺教室」と第十二章「よくわかる古典魔法」を完了しました。遂に30万字を超えて終わりが見えてきた。
Picrewの「可愛い女を作るめーかー」(→)というやつがかなり良くて、今までのキャラ紹介を改めて画像付きで置きます(新キャラ紹介はお休み)。萌えキャラがいてなんぼの百合萌えラノベなのでキャラクターのビジュアルがあるのは大きい。ようやく紹介文に魂が入ったような気がする。

字数

247058字→305014字

各章進捗

第一章 完全自殺マニュアル【99%】
第二章 拡散性トロンマーシー【99%】
第三章 サイバイガール【99%】
第四章 上を向いて叫ぼう【99%】
第五章 聖なる知己殺し【99%】
第六章 ほとんど宗教的なIF【99%】
第七章 ハッピーピープル【99%】
第八章 いまいち燃えない私【90%】
第九章 白い蛆ら【99%】
第十章 MOMOチャレンジ一年生【99%】
第十一章 鏖殺教室【99%】
第十二章 よくわかる古典魔法【80%】
第十三章 別に発狂してない宇宙【1%】
第十四章 パラノイアエスケープ【1%】

キャラ紹介① 彼方ちゃん

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主人公の女の子です。
長身で切れ目で冷静で男口調、アークナイツにいそうな感じのかっこいい系JKです。ノースリーブの制服とホットパンツの上にトレンチコートとローラーブレードを着用しています。
頭脳も容姿も全体的にスペックが高いですが、特に身体能力は人外の域に達しています。リンゴどころかカボチャすらも素手で粉砕し、スパイクを履けば壁を垂直に駆け上がり、ヤクザキックで厚い鉄板を蹴破ることも容易です。それでいて脳筋というわけでもなく、暴力を自覚的に振るう方です。

闘争に足が生えて歩き出したような戦闘民族であり、対人ゲームが大大大好きです。VRバトルロイヤルゲームのプロゲーマーでもあり、日本トップクラスのユース選手です。持ち前のフィジカルを活かして相手を叩き潰すことを好みます。
彼女のゲーム好きは単なるデジタルゲーム好きに留まらず、あらゆる人生の問題を勝ち負けを決めるゲームとみなしている節があります。そしてその際、強者が弱者を蹂躙することを当然の権利と見做していることは彼女の悪癖の中でも最悪のものです。すなわち彼女は完全な自己責任論者であり、政治的にはネオリベラリストです。
とはいえ雑魚狩りは全く好まず、常に自分より強い敵を探しています。一番嫌いなものは弱すぎる敵、一番好きなものは強すぎる敵です。自己研鑽を愛し、困難な課題を乗り越えることを何よりの娯楽としています。

しかし、それは裏を返せば一度クリアしてしまったゲームには関心を失うということでもあります。実際、「ゲームに勝利したあとはもはや時間の無駄なのでフィールドから最速で立ち去る」という奇妙な信条を持っています。この信条はVRゲーム内では「勝利した瞬間に自殺する」という奇行に結実し、ゲームファンの間では自殺フェチのマゾヒストと認識されている節があります。

キャラ紹介② 立夏ちゃん

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メインヒロインの女の子です。
彼方と同い年の女子高生ですが、背が低く痩せ型で小さく、愛らしい容姿は小学生のようにも見えます。大きめのパーカーを羽織っており、手先は萌え袖状態です。貧弱な見た目通りに腕力も体力も無いに等しく、五十メートル走れば息切れで倒れ、ジャムの蓋を開けるのにも苦労します。
彼方と二人でタッグチームを組んでVRバトルロイヤルゲームに参加しています。立夏は戦闘を行えないため後方に待機して指示を出し、圧倒的な戦闘力を持つ彼方を適切な戦場に誘導することが仕事です。二人チームのゲームなのに彼方一人しか戦えないことは極めて大きなハンデですが、彼方の怪物じみた身体能力に加えて立夏の卓越した作戦立案能力がその無茶を可能にしています。

左目を中心に顔に咲くアサガオ立夏のトレードマークです。顔を覆う巨大な花が視線を遮るために彼女の表情はかなり読みづらいです。
この花はギミックやアクセサリではなく、自ら茎を目に刺して眼窩内の水分で生花を栽培しています。初めて刺したときに眼球破裂で失明したため、今は義眼です。この「義眼花」に対する彼女の執着には異様なものがあります。自宅の研究スペースでは人間の血や体液までも使って様々な栽培環境の対照実験を行い、理想の花を求めて日夜研究しています。

花に対する関心が高い代わりに人間に対する関心は著しく低く、他者に対する同情や憐憫は皆無です。表面的な物腰が柔らかいのも無関心さの裏返しに過ぎません。そのために弱者を蹂躙することに何ら抵抗がないという点では彼方と一致しています。
ゲーム外ではだいたい彼方にべったりくっ付いており、移動時には背中におぶられていることも多いですが、それは立夏が彼方に依存していることを全く意味しません。立夏は彼方の後ろに隠れることで他人との余計なコミュニケーションを避けたいだけです。それは彼方に対してすら例外ではなく、彼方から自分に向けられる熱烈な好意に対してもまともに取り合うことなくスルーし続けています。

キャラ紹介③ VAISさん

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主人公である彼方の師匠で、怪しいカタコトで喋る長身の外人お姉さんです。黒一色の外套と車掌帽を纏っており、長い金髪がよく映えます。
ただし、彼方とVAISが出会うのは現実世界ではなくVR空間です。VAISはハンドルネームだし外人の容姿もアバターのそれなので、実際にはVAISがどんな人間なのかは誰にもわかりません。

VR空間において、VAISは彼女が『次元鉄道(エルライン)』と呼ぶオリジナル違法MODを使います。
『次元鉄道』とは虹色のレールの上を走る漆黒の超巨大なSL列車であり、上に腰かけたVAISと共に出現したが最後、周囲に甚大で復旧不能な被害を巻き起こします。勝手に敷かれるレールとSLの巨体によってワールドの建造物は問答無用で破壊され、轢殺されたアバターたちのデータと共に全てデリートされます。
これが犯罪相当の悪質なハッキングであることは言うまでもありません。あらゆるセキュリティウォールを踏み潰しながら、VAISは『次元鉄道』に乗っていつでもどこにでも現れます。

VAIS自身は気の良い陽気なアメリカンお姉さんですが、彼方の師匠だけあって彼方よりも戦闘が強いです。そして彼方以上の暴力原理主義者であり、「人生とは暴力と想像力の両輪である」という思想を持つ強火のアナーキストです。
すなわち「想像したことを実現する暴力と、暴力を運用するための想像力の二つさえあれば何でもできる」という確信が彼女の人生哲学です。実際、彼女が『次元鉄道』で何もかも破壊しながら現れるのは、まさしく違法MODを作り出す想像力と、それがもたらす暴力の二つを誇示するために他なりません。

キャラ紹介④ 神威ちゃん

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ヒロインの一人で、巫女のアバターを使うプロゲーマーです。
肩から先がパージされた動きやすい巫女服を着用し、清廉で凛とした雰囲気を纏った長いツインテールの美少女です。落ち着いた丁寧な敬語を使いますが、常に自分の意見をはっきり述べる、融通が利かない堅物です。
タッグチーム式のバトルロイヤルVRゲームに単身で参加するという有り得ないハンデを背負いつつ、国内ユースでは十指に入る強豪として知られています。

神威のプレイスタイルは「病的な可能性フェチ」という評価に集約されます。
神威は「実際に現実化している事態」よりも「可能性として有り得る事態」を突き詰めて考えます。その思考はゲームにおいては優れた予測能力として発現し、実況解説に予知とまで言わしめる超人的な先読みを可能にします。また、どんなに劣勢でも勝ちの可能性を探して粘り続けるため、最後には針に糸を通すような逆転を実現する彼女の戦い方に魅了されるファンも少なくありません。
しかしその一方、怪物揃いのトップ帯においては神威の可能性フェチは勝率を下げる悪癖でもあります。というのも、彼女はほとんど負けが決まっている戦場でもコンマ数パーセント未満の細い細い勝ち筋を探し続けてしまうため、撤退という判断ができないからです。複数チームが入り乱れる長期戦のバトルロイヤルにおいて、「一旦撤退して仕切り直す」という大局的判断を行えないことは極めて重いハンデと言って差し支えありません。

主人公の彼方は神威のことをそこそこ気に入っていますが(強いので)、神威は彼方のことが大嫌いです。それは神威と彼方のゲームの勝敗に対するスタンスが真っ向から対立しているからです。
彼方はゲームの勝敗を絶対的必然として捉えており、たとえ何度繰り返しても勝者は必ず勝つし、敗者は必ず負けると確信しています。敗者が勝っていたかもしれない可能性などあらゆる意味で有り得ません。それは彼方の「勝者が敗者を蹂躙することは当然の権利である」という最悪な思想を構成する前提の一つでもあります。
その一方、神威にとってゲームの勝敗とは無数にある可能性の中でたまたま実現した一つに過ぎません。むしろ「実現しなかったが確かに存在した可能性」の方が彼女の関心事であり、敗者を可能的な勝者と見做して敬意を払います。とはいえ、それは時には極めて押しつけがましい慰めでもあります。実際、神威は自分が倒した相手に数万字に及ぶ長大な検討レポートを送り付ける奇行で知られており、それを綿密な死体蹴りと解釈してショックを受けるプロゲーマーも少なくありません。

キャラ紹介⑤ 樹さん

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若手女性警察官のヒロインです。
婦警の制服をきっちりと纏い、爽やかな敬礼が板に付いた綺麗なお姉さんです。若干身長が低くて可愛らしいところもありますが、正義感の強い市民の味方です。主人公の彼方たちとは顔を合わせる機会が多く、今では通報代わりに個人携帯で連絡を取り合う仲になっています。

樹はゲームには疎いですが、警官として身に付けた護身術に長けています。それは軽い組手ならばフィジカルモンスターの彼方を一応は無力化できる水準に達しており、直接戦闘能力はプロゲーマーにも見劣りしません。よって常に強者を求める彼方は、樹がVRバトルロイヤルゲームに参加することを望んでいます。
しかし、樹は自らの能力を勝敗を競うために使うことには全く関心がありません。模範的な警官である樹は、自分の高い能力は他の人々を守ることに使うべきだと確信しているからです。そして樹にとっては彼方もまた守るべき市民の一人であり、彼方との軽い組手に付き合うことはあっても、本気で戦闘を行うことは有り得ません。

樹は最小不幸社会を志向するタイプの人道家であり、概ね弱者の肩を持つことが彼女にとっての正義です。それが弱者を虐げるものである限り、強者の特権にも暴力の使用にも反対します。この点において、躊躇なく弱者を蹂躙できる彼方とは強く敵対しています。
しかしその一方で、樹は一方的に弱者を保護するパターナリスティックな振る舞いにも否定的です。つまり彼女が最も尊重すべきと考えるのは弱者の自己決定権であり、もちろん愚行権を支持し、本人の納得尽くであれば自殺でさえも容認します。人間の自己決定能力をラディカルに尊ぶという点では彼方と一致しており、その部分的な思想の一致が彼女たちをそれなりに信頼のおける知り合い同士にしています。

キャラ紹介⑥ 此岸さん

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主人公である彼方の実姉です。容姿は彼方とよく似ていてクールな美人です。

彼方が物心付いた頃から病気によって植物状態で、現在は彼方が住んでいる家の隅にある巨大ベッドでずっと眠り続けています。妹の彼方ですら、此岸と会話したことはおろか、目を開けている様子すら一度も見たことがありません。世界的な名医からも治療は不可能だと匙を投げられており、同居している彼方を除けば世界の誰からも忘れ去られた存在です。

しかし、彼方が家に帰ってくると此岸が作った夕食が用意されていることがよくあります。彼方が置いていったゲームを遊んだ痕跡があったり、家中の掃除が済まされていたりもします。それどころか彼女自身が寝ている布団の交換や点滴薬の補充までもが定期的に行われており、寝たきりであるにも関わらず介護は全く必要ありません。更には枕元に置かれた虹色の便箋を通じて簡単な意思疎通を行うことすらできますが、彼方が家にいるときは此岸は常に寝息を立てています。

彼方が見ていないところで此岸が明らかに目覚めて活動していることは一つの医学的な奇跡です。此岸の身体を研究すれば世界中で同じ病気で寝たきりになっている人がたくさん救われるかもしれません。しかし人間全般に関心が低い彼方は「そういうこともあるのだろう」くらいにしか思っておらず、この奇跡に大した興味を持たないまま放置し続けています。今日も彼方は此岸が作ってくれたオムライスを食べますが、彼女がそれをいつどうやって料理したのかは謎のままです。