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20/5/30 遊戯王5D'sに見るデュエルのマルチタスク化

遊戯王5D'sに見るカードゲームのマルチタスク

132.遊戯王5D'sについて語って欲しい

ストーリーについて言いたいことはあまりないですが、ライディングデュエルは画期的な発明だったと思います。

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ライディングデュエルが優れるのは「デュエルに全く別のアクティビティを組み合わせてマルチタスク化する」という発想を導入したところです。
というのは、カードゲームのルールの中から「ホイールへのライド」という行為を見た場合、それが実現するのは「プレイヤーやゲームボードの物理的な移動」であって、実はゲーム内容そのものとは特に関係がないんですよね。ホイールに乗っていようがいまいがデュエルはできるし、スピードワールド絡みのルールだってスタンディングでも再現できます。そういう、カードゲームと全く関係ないはずのレースをデュエルと同時進行させるという異なるタスクのマルチ化を行ったところに5D’sとライディングデュエルの凄みがあります。

補足298:実際、ライディングデュエルの発想は遊戯王とは関係のない読み切り作品が元になっているらしいですね(ソースはwikipedia)。

「レースとデュエルのマルチタスク」であるところのライディングデュエルによって5D'sが指摘するのは、今までカードゲームのプレイにおいては「移動」という領域が使われずに余っていた事実と、その気になれば「移動」を同時進行できるという可能性です。
それはカードゲームだけではなく卓上ゲーム一般に対して同じことが言えます(ライディングモノポリーやライディングドミニオンも容易に想像できるはずです)。その一方で、サッカーや野球ではホイールの同時使用は不可能です。一応ホイールに乗った状態でサッカーのルールに従うことくらいはできそうですが、それはサッカーとは全く別の競技でしょう。カードゲームが元々のプレイ感覚をかなり保ったままでホイールにライドできるのとは異なります。スポ―ツと卓上ゲームを比較すると、前者は元々身体を使用するゲームである一方、後者は元々頭だけを使用するゲームなので身体が余っているという違いが伺えます。一般化して言えば、頭脳戦をするゲームは軒並みホイールにライド可能です。
ゲームの拡張として見ると、ライディングデュエルのように異種のタスクを組み合わせる方向での拡張は、一つのタスクを深堀りする方向での拡張と対比できます。例えば、5D'sではシンクロシステムが「ゲームシステムを垂直に深堀りする」という役割を果たした一方、ライディングデュエルは「アクティビティを水平に拡張する」という役割を担っています。

こういう水平なやり方でゲームを拡張する方法が優れるのは、ゲームの複雑化や敷居の上昇を避けつつエンタメとしては確実に発展させられる点です。
一般的に言ってカードゲームの面白さと複雑さはトレードオフで、それは頭脳戦という性質上仕方のないことではあります。しかし、ゲームメカニクス内での改善にこだわるのではなく、逆にゲーム外の本質的でない部分に注目してそちらを作り替えるというアプローチも可能なはずです。つまり、「ゲーム中に身体が暇」という特徴に注目してゲーム外でレースを行うということです。これはゲーム内容の複雑化を避けて総合的なゲームプレイを楽しくできるという点で優れたアプローチです。
「ゲーム内容を複雑にしなくても総合的にゲームを楽しくできる」という意味では、ゲームのマルチタスク化は卓上ゲームの興行化とも親和性が高いです。実際、デュエルが持つ「興行」という側面が遊戯王シリーズで初めてクローズアップされた5D'sにおいて、(シンクロ導入でゲームメカニクスを複雑化させつつも)同時進行可能なアクティビティをマルチタスク化するという指針が示されたのは画期的なことです。

そんなライディングデュエルの集大成は最終回のジャックvs遊星です。
あのデュエルってカードゲームとしてはもちろん、工業地帯のレースとしても完成度が高いんですよね。様々な場所を移動して移り変わる背景の中、洞窟を回転したり、亀裂をジャンプしたり、レールが分かれたりして、極論カードゲームをしていなくてもレースアニメとしても成り立つくらいのクオリティがありました。一つのクオリティをひたすら垂直に掘り続けるより、ハイクオリティなもの二つを水平に組み合わせる方が伝わりやすいし面白いよね~というのがあのデュエルから僕が得た教訓です。

さて、後続シリーズの展開としては、ArcVもアクションデュエルによって「デュエルと同時進行する身体作業」という発想を組み込んではいます。しかし、その試みは5D'sを超えてはいないように思います。
というのは、ArcVのアクションデュエルでアクションするのは主にアクションカードを取るときだけだからです。その際、アクションカードはデュエルの攻防に高度に組み込まれてしまっているので、アクションするたびにデュエルが中断してしまいます。常時アクションしているわけではなく、デュエル中に必要になったときに適宜デュエルを中断してアクションを行うというタイムラインになっています。図にすると以下の通りです。

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5D'sは概ねデュエルとライディングが並走して同時進行し続ける一方、ArcVはデュエルとアクションがいちいち切り替わっており、同時に進むわけではありません。「他のことが同時進行できる」というカードゲームの特徴をよりよく活かしているのは5D'sのマルチタスクの方で、切り替えシングルタスクであればバスケや野球でも出来てしまいます(5分ごとにプレイするゲームをバスケと野球で切り替えるというように)。

引き合いに出して申し訳ないですが、昔MtGがやっていた謎企画「マジック×バスケ」もArcV型の切り替えシングルタスク方式でした。一定時間でプレイするゲームがバスケとMtGで切り替わるというルールの特別企画です。

www.youtube.com

チャレンジとしての価値はあると思いますが、見ていて面白くはないですね。最初の一回だけはアイドル的なプロプレイヤーがバスケをしているのがかなり面白いものの、二回目以降はもう何故わざわざゲームを中断しなくてはいけないのかという意味不明さが前面に出てきます。
かといって現実的にはライディングMtGを実現するのはちょっと大変ですが、5D'sは現実ではなくアニメなのでカードゲームの目的地としてマルチタスク化という方向性が有り得ると示した功績は大きいです。

なお、更に後続のシリーズとしては、VRAINSではサーフボードに乗って行うスピードデュエルが実装されています。スピードデュエルは5D'sより悪い点は特にないものの、より良い点も特に見つからず、提案を前に進めてはいません。