LWのサイゼリヤ

ミラノ風ドリア300円

23/8/18 2022年12月消費コンテンツ

2022年12月は無職生活の序盤で、まだ創作活動や資格取得に着手しておらず消費モードだった時期です。1年経ってしまう前に処理していきます。

メディア別リスト

漫画(41冊)

チェンソーマン 第一部(全11巻)
ホテルインヒューマン(1~4巻)
Dr.Stone(全26巻)

書籍(4冊)

裁判傍聴ハンドブック
ベイズの誓い
ファントム空間論
統計のための行列代数

映画(1本)

すずめの戸締まり

アニメ(12話)

ぼっち・ざ・ろっく!(全12話)

 

良かった順リスト

人生に残るコンテンツ

(特になし)

消費して良かったコンテンツ

Dr.Stone
チェンソーマン 第一部

消費して損はなかったコンテンツ

ぼっち・ざ・ろっく!
統計のための行列代数
ファントム空間論

たまに思い出すかもしれないくらいのコンテンツ

裁判傍聴ハンドブック
すずめの戸締まり
ベイズの誓い

以降の人生でもう一度関わるかどうか怪しいコンテンツ

ホテルインヒューマン(1~4巻)

 

ピックアップ

Dr.Stone

面白かった! 新しい上に面白いガチの名作。かなり読んだ方がいい。

まず自然科学の営みが少年漫画の文脈で戦えることに気付いた着眼力と、そのアイデアを実現する舞台や展開を整える技量が凄すぎる。一度言われてみれば確かに、科学におけるトライアンドエラーの精神は少年漫画の美学と結びつくものだ。つまり研究活動における「協働・持続・実績」は、そのまま少年漫画における「友情・努力・勝利」として描かれるポテンシャルがある。

そして「(教科書と睨めっこするお勉強ではなく)泥臭い実験作業としての自然科学」及び、「(魔法使いじみたマッドサイエンティストではなく)泥臭いエキスパートとしての科学者」というイメージはそれほど突飛なものでもなく、むしろ少年漫画の読者を含めて広範に訴求できる射程がある。俺は理系大卒なので大学や企業での研究活動に引き付けて読むことが多かったが、小学校にとっても科学実験教室的なイメージは親しみのあるものだろう(作中でもそのモチーフは多用される)。子供には実験教室的なものとして、大人には研究開発的なものとして、ちょうどよい塩梅でどちらにとっても楽しめるテーマになっている。

補足468:とはいえ、この評がインテリの贔屓目であることは間違いない。世の中には自然科学のイメージが訳の分からん化学式や数字としか結び付かない人も大勢いる。

また主人公が実験科学のエキスパートであることに対応して、様々なキャラが持つ様々な領域での「専門性」が作品全体を貫く一つのキーになっている。主人公が「科学」を専門としているように、「縫製」「航海術」「コンピュータサイエンス」のような他の理論体系、そして「体力」「武術」「軍事」のような身体技能、果ては「メンタリズム」のような対人スキルまで、それぞれの専門性が擬人化されてキャラと一対一で結び付いている。

こうして擁立された専門性をエキサイティングなストーリーに繋げる手口は果てしなく鮮やかだ。作劇自体は「登場人物たちを苦境に追い込んでから個々人の持つスキルで突破する」というごく基本的な技法の繰り返しだが、その突破描写の水準が極めて高い。全てのキャラが自身の専門領域において異様な才覚を発揮することに完全な説得力があることに加えて、その技能に付随する知的能力も高い解像度で設定・描写されていく。

例えば、俺が特に好きなのは自分の死亡が確定した龍水が一瞬で切り替えてここから取れる行動を考えるシーンだ。

彼は航海術の専門家であると同時に船長でもあるため、自分が死亡しても仲間を死守することを前提としている(一般に船長は自分が死ぬとしても最後まで船を降りない義務があるとされる→)。表面的な航海知識だけではなく、行動に係る決断力のような知的能力水準が専門性に対応して緻密に設定されているのは見事。

キャラ単位で言えば、メンタリストのゲンが非常に良いキャラをしていて好きだった(皆そうだと思うが)。ゲンは再現性のある科学とは対極に位置する「小手先の話術」の達人であり、他のキャラとは全く違う角度で困難を切り抜けることによって、科学には留まらない様々なエキスパートの在り方を最もよく体現するキャラだ。

更にこうした専門家たちの活躍を描くための舞台設定として、「世界中の人々が石化している」というファンタジー設定も秀逸。「最終的にクリアすべき問題の強烈な提示」「石化に伴うバックグラウンドが描きやすい」というようなドラマの基礎を成すことは当然として、石化がいわばキャラクターのバンクとして機能するために「いつでもどこでも必要なキャラを必要なだけ供給できる」という立て付けが凄すぎる。船乗りが必要になったら船乗りを蘇生させ、コンピュータが必要になったら技術者を蘇生させればよいという、プロット上での需要と作中での判断を完全に一致させられる。有能な人物を選んで蘇生させているために全員が有能すぎることに対してもエクスキューズがあるし、やりたい物語を強力に推し進めるメソッドが基礎設定のレベルで確立されている。

ただ一応突っ込んでおけば、作中で称揚される近代的な科学精神がナイーブすぎて現代においてはリアリティに欠ける、科学哲学的には必ずしも妥当ではない、本来は障害になるべき政治的な側面が捨象されているなどのツッコミどころもないわけではない。具体的に言えば、各編では必ず「文明や科学や発展を敵視する者」が敵側に回るが、いずれもきちんと科学との折り合いを付けて本来の問題を解決したわけではなく、むしろそれを積極的に放棄して容易に回収できるスケールの問題にすり替えているだけだ。例えば、最初のボスである司が提示した「本当に現代文明は再興されるべきか?(原始文明の方が幸福ではないか?)」というポストモダン的な問いは現代科学にとってクリティカルなはずだが、妹を救うとか救わないとかいう個人的な話に矮小化されて誤魔化されてしまった。同じようなことは何度も起きており、宝島編の対立も独裁とか欺瞞みたいな話で誤魔化され、アメリカ編の対立もホワイマンという共通の敵が登場したことで自然消滅した。

とはいえ、主人公は人類の幸福のために動いているキャラクターではなく一介の科学オタクに過ぎないという描写も誠実になされている。自然科学を少年漫画に落とし込むという本来のメインコンセプトには大成功している以上、些末な犠牲を払ったことは大きな問題ではないだろう。終盤でアメリカ組と和解したあたりから駆け足になりすぎだろとか最後のオチは無理だろとか、他のこともこの際まとめて目を瞑れる。この漫画は読んだ方がいい。

 

裁判傍聴ハンドブック

ふと裁判傍聴がしたくなって図書館から適当に借りたガイド。他にもっと良い本があるかもしれないが、これでとりあえず困らなかったし読んでおいて良かった。

日本では裁判を傍聴する前に本やネットで事前知識を付けておくことが推奨される理由として、憲法第82条によって全裁判が公開制かつ全国民に傍聴の権利が保証されてしまっていることがある。開廷されている裁判には常に自由な傍聴が保証されているため、申込やチケットのような選別システムが存在しないのだ。裁判所に着いたらいつどの法廷でどんな裁判をやっているのかをロビーで調べ、建物内を勝手に移動し、法廷に勝手に入って傍聴を勝手に開始する必要がある。何もシステム化されていないので全てを自分でやる必要があり、事前にムーブを軽く調べておいた方がスムーズに進む。

準備して傍聴した裁判はかなり面白かった。人が罪を犯す人生のクライマックスが滔々と説明されるので普通に消費コンテンツとしてかなり優れており、特に家族などが証人として召集される裁判では背景事情も込みで楽しめる。

裁判傍聴

また、裁判はドラマのように激論が交わされるわけではないらしく、概ね事件内容を確認したあとは裁判長が被告に正論パンチの説教を食らわせる流れになる。「窃盗をすると誰かが困るとは思いませんでしたか?」「思いました……」「申し訳ないと思っていますか?」「思っています……」という大人が大人にガチの説教を食らっている光景を見られるのは裁判所だけだ(割とどこでも見られるという説もある)。

そういう口先だけで済むやり取りに何の意味があるんだろうと昔は思っていたが、今はもう大人になったのでわかる。「内心では更生しているが振る舞いが未知数のやつ」よりは「内心では更生していなくても振る舞いだけは直っているやつ」の方が社会にとってマシなのだ。表面的に申し訳ないフリをして表面的に謝罪しているだけで社会は円滑に回るし、事件を起こした直後に反省ムーブをしているかどうかが量刑を左右するのも当然である。

 

ベイズの誓い

ベイズ統計学数学書ではなくかなりライトな一般人向け。

この手の軽いベイズ本はいまどき無数に出ており、これの説明が特に優れているという感じでもない。内容的に深くもなく、応用として因果モデルやMCMCにも触れてはいるが、数式的には全く踏み込まずにそういうのもあると示す程度に留まる。一応この本だけの魅力として、犬のベイジーとの対話形式で進む会話はけっこう面白い。

後半に突然シンギュラリティの話を始めるのは眉唾感がある。作者が突然思想をぶち上げているような印象しか受けないが、どうせそんなに厳密な本でもないので、ちょっとくらいフカしておいた方がアベレージ読者にとっては得るものがあるのかもしれない。読んでもいいが読まなくてもいい本。

 

すずめの戸締まり

ぜんぜん面白くなかった! 見終わってシアターから出たときに「これが1800円かあ……」という本音が口から漏れた。それ以来、近年高騰気味の映画料金を高く感じるようになってしまい、映画館で映画を見る頻度が若干下がった。

やりたい話や作りたい画は伝わってくるし魂は感じるが、どうも上手くまとまっておらず下振れしてる新海誠。あと主人公が女子高生だから皆よくしてくれてノープラン突発旅が上手くいくみたいな流れを若干厳しく感じるようになってきたことに俺自身の加齢を感じる。

素朴に設定レベルの話として、文字通りに要石である要石の設定が納得できなさすぎる。全ての元凶の猫があんだけ煽ってきてた癖に重要なシーンでは物分かり良くなっているのを「気紛れは神の本質」じゃあないんだよ。主人公が男の子を救う話と震災を乗り越える話をやりたかったのはわかるが、その二つを結び付ける要石設定が機能していないためどうにもならない。ミミズのビジュアルとか突発ドライブみたいな局所的な画は流石にけっこう良かったのが辛うじての救い。

補足469:とはいえ、この作品における天災は明らかに現実の東北大震災を表象している以上、「気紛れは神の本質」というフレーズは一蹴するには惜しいポテンシャルを秘めてはいる(常に制作者の制御下にあるフィクションの災害とは異なり、現実の災害は明らかに気紛れに発生するからだ)。むしろあえて不条理にも思えるこの台詞を採用したことから現実の震災やケアについての建設的な読みを引き出すことは難しい作業ではないが、俺はあまり関心がないので他の誰かに任せたい。

 

ファントム空間論

学生時代に軽く読んだ本を改めて読み直した。元々は『分裂病の精神病理』あたりに所収されていた論を再編纂したもの。医学書だが医学の事前知識は特に必要ないため、門外漢でもスタンド能力とかラノベ設定的なものを記した娯楽本として楽しめる。

ちゃんと臨床をやっている精神科医がロジックベースで書いている珍しい立ち位置の分裂病の本で、薬学や生化学の話は一切出てこないが、かといって現代思想界隈でのいわゆる「スキゾ」の文脈でもない。実際の症状において患者の論理レイヤーでどのような事態が起きているのか、様々な症状を説明できる論理構造についての探求が平易な文章で綴られている。

なぜかWikipediaにかなり詳しい解説があるが(→)、元書籍の方が具体例にも富んでいて親切なので、素直に書籍をあたった方が理解しやすいと思う。結局のところ「ABパターン」と「錯覚運動」の二論が骨子であり、ごく簡単に言えば分裂病患者の世界認識において転倒しているパターンの一般化と、そこから生じる主観的な効果について扱っている。

 

チェンソーマン

面白かった。

キャラ描写とか見開きイラストとか引きの強さみたいな、悪く言えば小手先の、良く言えば表現の上手さがズバ抜けているためにそれだけで牽引できている不思議な作品。逆に言えばメインストーリーそのものは無理やり感があるし記憶に残るところも薄いが、だからこそキャラが自由に動けるところもあってそこはトレードオフなのだろう。曖昧なストーリーと傑出した描写が頂点に達したのが闇の悪魔戦で、そこだけでも読む価値がある。

 

統計のための行列代数

上下巻で分厚い線形代数数学書

本来は必要なとき必要な項目を確認する辞書的な本であって通読する本ではない気もするが、他にやることがないタイミングで他にやることがあれば読まないような本を読もうと思ってしばらく読んでいた。途中でFPの勉強とか他にやることが浮上したため、読んだのは第九章の途中くらいまで。何故か固有値などのメジャーな話が下巻の終盤に配置されていてそこまでたどり着けなかった。

線形代数の教科書は世の中に数多あるが、「統計のための」と冠されているだけあって統計で使う項目に理論を絞る配慮が感じられるのは嬉しいところ。例えば、一般的な教科書ではエルミート行列である項目が全て(実)対称行列になっている。俺は一応物理系の出身ではあるが、電磁気学量子力学よりはコンピュータサイエンスがメインだったので複素数とはあまり親しくない。

ボリュームは多いものの、説明自体は丁寧で難しくない。飛躍もほとんどなく、丁寧に読めば誰でも理解できる易しさで書かれている。ただ定理と証明を連ねるクラシカルな数学書のスタイルではあって、合目的的には書かれていないのが泣きどころ。章の始まりに統計のどこどこに関連する話です……という簡単な用途がざっくり付してある程度だ。

また堅い数学書では標準的なスタイルではあるが、定理の需要や帰結に関する「気持ち」の説明は多くない。膨大な情報量に圧し潰されないように、結局のところキーになっている定理はどこでどこを理解すればあとは演繹できるか……というような噛み砕きと重みづけの作業は自分で補う必要がある。

 

ぼっち・ざ・ろっく

まあ面白かった。萌えキャラとしては店長が一番好きで加齢を感じる。単独記事参照。

saize-lw.hatenablog.com