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19/7/20 グランベルムの感想 転倒したバトルロワイヤル

・グランベルムの感想

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よくあるバトルロワイヤルものだけど主人公のモチベーションがやや面白い。

バトルロワイヤルと言うと複数のキャラクターが戦いを繰り広げる作品ジャンルであり、古くは仮面ライダー龍騎Fate/stay night、最近では少女歌劇などが該当する。これらには共通して「戦いの勝者には多大な権利や栄誉が付与され、キャラクターたちはそれを勝ち取るために戦う」というフォーマットがある。各キャラクターには戦うことで叶えたい願い=負けられない理由が設定されており、夢の達成や挫折を巡る群像劇的な乱戦が見どころになる。

補足177:ほぼ同一視される類似ジャンルとしてデスゲーム系がある。こちらは「生死を賭けたゲームに強制参加させられたキャラクターたちが生き残るためにやむを得ず戦う」というフォーマットを持ち、バトルロワイヤル系と比べた場合、「キャラクターたちに積極的に戦うモチベーションが無い」という部分に最大の違いがある。とはいえこの2つのジャンルははっきり切り分けられるものではなく、どちらも自分のために戦わなければならないという殺伐とした世界観が共通しているし、両方の要素が入っていることもある(例えば、同じゲームに「自ら進んで参加した人」と「強制的に参加させられた人」が混在しているケースなど)。今回はどちらかと言うとキャラクターが積極的に参戦する方、バトルロワイヤル系の方に力点を置いて話している。

現在、こうしたバトルロワイヤルの戦場はリアルにも波及してきている。AKB48のようなファン駆動型アイドルやVtuberがそれに該当する。こうしたコンテンツにおいては投票や投げ銭によって参加キャラクターの「戦闘力」が定義されるため、ユーザーは推しキャラクターを応援することでサバイバルに生き残らせようとするプレイヤーとなる。すなわち、ユーザーはキャラクターを使役することで間接的にバトルロワイヤルに参加するのである。

……的なことがヱクリヲvol.10に書いてあって、これには大筋で同意する。


俺が特に注目したいのは、Vtuberにおいてはバトルロワイヤルの手段と目的の転倒が起きているのではないかということだ。
本来のバトルロワイヤルではとにかくゲームに勝ち残ることが最大の目標であり参加プレイヤー各人の至上命題であったのだが、とりわけ個人Vtuberのモチベーションは勝ち残ることより参加することに力点があるように思われてならない。ねこます氏がいみじくも述べた「やらなければ、はじまらない……」の意識は今も通底しており、Vtuberを始めることで嬉々として戦場に飛び込んでいき、自己プロデュースという形で自らの戦闘力を高めることを趣味とする人々は枚挙に暇がない(俺の好きなVtuberだと鴨見カモミとか)。「戦わなければ生き残れない」は仮面ライダー龍騎のキャッチコピーだが、「戦わなければ死にきれない」くらいの方が肌感覚に合う。
これは直接的に戦うキャラクターだけではなく、投げ銭によって応援することで間接的に戦いを援護するユーザーにとっても同じことだ。彼らのバトルロワイヤルの世界観はシビアなサバイバル闘争ではなく、戦いそれ自体を楽しむコロッセウムのショーイベントだ。バトルロワイヤルのリアルへの移行に際し、本来のバトルロワイヤル作品において消費者が持っていた娯楽的な視点が混入したとも言える。

今言いたいのは、キャラクターにせよユーザーにせよ、開かれた個人的な戦場では本来はバトルロワイヤルの目的であったはずの勝ち残りは後退し、参加自体が前景化するのではないかということ。バトルロワイヤルのフォーマットが身近になったとき、すなわち、アニメで描かれるフィクショナルなゲームや民主主義政治や資本主義企業のようにスケールの大きな事業ではなく、誰もがキャラクターとして参戦できる戦場が表れたとき、それは手段と目的が転倒したアイデンティティ獲得ツールで有り得るのではないかということが最近ずっと気になっていた。

グランベルムの話に戻ろう。
2話で表明された主人公の参戦モチベーションはかなり歪んでいる。1話で戦いに巻き込まれた主人公の満月は2話序盤では「特に戦う理由が無いから」とバトルロワイヤルから降りようとするが、最終的には「他の人には出来ないことを自分がやっている。それって私にとってはすごいこと、何にも代え難いこと」と述べて参加を確定する。満月は個性に欠ける自分にコンプレックスを持っていたのだが、戦いに参加すること自体をアイデンティティ獲得手段として見出しているのだ。バトルロワイヤルものの主人公にありがちなのは道徳心から戦いを止めようとすることだが、満月は真逆だ。嬉々としてバトルロワイヤルに飛び込み、それを自らのアイデンティティの糧にしようとするモチベーションを持っている。勝ち残りには大した興味がなく(「あわよくば」程度)、ここに手段と目的の転倒が見られる。そしてこれはVtuberにおいて見られたように、リアルなバトルロワイヤル状況が顕現したときに発生しうるシチュエーションを示唆している。

あとは、グランベルムの評価はこうした話題を主題化できるかどうかにかかっている。願わくば主人公にそれらしい戦う理由を与えることなく、目的が欠落した空虚なプレイヤーとして描いていってほしいものだ。
ちなみに、2話の時点では他の参加プレイヤーが勝ち残りたい理由は「魔術師としてのアイデンティティを獲得するため」と説明されており、主人公と類似したモチベーションであるように思われた。が、3話では普通に「倒したい相手がいるから」「姉を救うため」などとそれらしい理由(普通のバトルロワイヤル的目標)が続々と現れ始めた。今のところ先行きは暗いと言わざるを得ないが、とりあえず主人公のキャラクターがどう発展していくかを見守っていきたい。