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20/10/13 プライムデーセールでKindle端末を買うべきか?

0.プライムセールでKindle端末が安い!

現在進行形で開催されているプライムデーセール(~10/14)で各種Kindle端末が大幅に割引されているらしい。

俺が3万円で買ったKindle Oasisが今なら2万円で買えてしまうのだ。

192.Twitterkindle oasisの購入を検討されているのを見ました。もし購入されたのであれば、レビューして欲しいです。

193.Kindle端末のレビュー、セール終わるまでに書いて欲しい(ブログじゃなくてツイートで小出しでも良いので😭)

お題箱に投書も来ていたので、セールが終わる前に俺の私見によるKindle端末の使用感を取り急ぎ書いておこうと思う。

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1.長所

1-1.薄くて軽い

元々、俺がKindle端末の導入を決めた理由は旅行に持っていく本が嵩張るからだった。
基本的に俺の旅はかなり適当で帰りの日程や道程を決めずにスタートするので、1週間程度の放浪を見越すと5冊以上詰め込んだ本が旅行鞄のスペースを大きく圧迫することになる。

補足340:現地で本を調達するという手もあるが、地方の本屋の質はピンキリだ。雑誌やホリエモンの本しか流通していない地域を引いたときに詰むリスクが大きいし、そうでなくても5年以上前に出版された大して有名でもない本を入手できる確率は低い。

実際Kindle端末は薄くて軽く、ノート一冊より簡単に持ち運べる。この前の北海道旅もKindleのおかげで快適に過ごせたし、最大の目的は問題なく達成された。

1-2.片手で読める

Kindle端末は片手で持てるサイズ・重さであり、ページ捲りもスマホ操作のように親指で出来る。読書において本を中空に保持する労力と紙を捲る労力が削減される効果は予想以上に大きい。

俺はKindle端末を買うまで紙の本を不便だと思うことは特に無かったのだが、いまや紙の本を読むのは洗濯板で服を洗うのと同種の、長期的に見れば確実に淘汰されていくべき営みだと言わざるを得ない。紙の読書にかかっている労力の半分くらいは物理的な労力だ。
なるほど確かに紙の本でも新書サイズなら片手で保持できるが、結局ページを捲る際には両手を使う必要があるのだ。この捲る指の有無という違いは大きい。

読書が完全に片手で完結することにより、読書の自由度は大きく上がる。
まず、もう片方の手で家事や雑事をしながらでも本を読めるのでマルチタスクが非常に楽になる。俺は基本的に食事や掃除や料理をしている間も時間が勿体なく同時進行で本を読んでいるのでこれは嬉しいところ。
また、姿勢の縛りからも解放される。紙の本を読んでいる間はIT企業の社長がインタビューを受けているときのように両手を手前で抱えるような体勢しか取れないが、Kindleは机に片肘を付いて昼寝する姿勢でも読める。

なお、Kindle Oasisモデルではページ捲り用の物理ボタンが付いており、片手で読書するのが更に楽になる。指を乗せたボタンをぽちっと押し込むだけでページを捲れるのは、いちいち親指を上げてタップするのよりもかなり楽だ。

1-3.暗所でも読める

Kindle端末のスクリーンにはバックライトが付いており、光量を自動調節してくれるので暗所でも問題なく読める。俺は夜の新宿中央公園や駅員がいないド田舎のホームでも本を読むので、その際にいちいち灯りを探さなくてもよいのが思ったよりも便利だった。
更に言えば、俺は家の中でも二宮金次郎のように紙から目を離さずに移動していることが多く、夜でもいちいちライトを付けなくても済むのがありがたい。

1-4.紙っぽいスクリーン

これは紙の本に対する優位性ではなく他のタブレット端末に対する優位性だ。

Amazonが売っている電子書籍用の端末はKindle端末かFire端末の二択となる。FireはKindleよりも汎用性が高く他のアプリも色々入れられるのだが、スクリーンが液晶なので数時間読書していると目が疲れる欠点がある。正直に言うと俺は液晶で数時間読書したことがないので知らないが、皆疲れるって言ってるし多分疲れるんだろう。

Kindleは紙っぽい質感を再現した独特のスクリーンになっており(電子ペーパーってやつ? 違ったらすまん)、紙を見るのと全く同じ感覚で読めるので目が疲れることは全くなかった。このスクリーンの感じは現物を見ないとわからないので電気屋で実際に見た方がいい。

1-5.電池の保ちがいい

これも紙ではなくFireなどの競合端末に対する優位点(逆に紙と比較すると電池の制約があるのは欠点となる)。
Fire端末はせいぜい普通のスマホくらいしか保たないが、Kindle端末は読書用に機能をセーブしているおかげで数週間は保つ。俺の旅行中は本の有無が活動の生命線なので、充電が切れて詰むことがほぼほぼ無いのは大きい評価点だった。

ただし、公式で「数週間保つ」と豪語しているのは恐らく一ページも読まずに放っておいたときの話であり、普通に使っていると1日で25%くらいは削れる。充電切れまで使ったことはまだ無いが、恐らく連続使用は4日程度が限界だと思われる。いまどき旅行先でも5日も充電ができない環境に置かれることは考えにくいが、ヤバい僻地に行くときは紙の書籍と比べて充電切れのリスクが大きなデメリットになり得る。

1-6.そのままメモが取れる

Kindle端末は申し訳程度にハイライト機能やメモ機能が付いており、いちいち他のノートを開かなくても内容をまとめたり疑問点を書き留めたりしておける。Kindle端末上で取ったメモはブラウザ上でも閲覧でき、後で内容を確認するときに便利。

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これは俺が旅行中に取った『ミシェル・フーコー』のメモだが、ハイライトとメモが並んでいるのを見て「だいたいこんな話だったな」と思い出せるのはまあまあ便利ではある。

ただ、詳しくは後述するがKindle端末のタッチパネルはレスポンスが最悪なので、長々としたメモを入力するのには向かない。特に機能上の制約があるわけではないが、入力がしんどすぎて書けて一・二行くらいだと思う。Kindle端末上で内容まとめを完結させるのはまず無理だろう。
俺は紙の本を読むときも大量に付箋紙を用意しておいてメモ代わりにベタベタ貼っておいて後でそれを見て内容をまとめ直すので、正直なところメモ機能はあってもなくてもそれほど変わらないような気もしている。

1-7.長所まとめ

紙の本に対して優位が取れるのは、軽い点、片手で読める点、暗所で読める点。Fire端末に対して優位が取れるのは、スクリーンが紙っぽい点、電池の保ちが良い点。

紙の本に対する優位性は電子媒体全般に言えることであり、わざわざKindle端末を買う際に重要なのはFire端末(他のタブレット系端末全般)に対する優位点だろう。
スマホKindleアプリ入れればええやん的な意見に対しては、スクリーンの特殊さと電池の保ちが良いという2ポイントで反論できるというわけだ(ということは、液晶でも目が疲れず電気をいつでも確保できる人にとっては、この時点でKindle端末を導入するモチベーションがゼロになる)。

2.短所

2-1.高い

まず本体価格がべらぼうに高い。
Kindle端末は本当に読書以外の機能を持たないので、本来は無料のはずの読書にゲームが数本買えるくらいの金を払うのは率直に意味不明だ。「唯一無二の品だから仕方ない」と納得できるタイプの商品というわけでもなく、Fire端末なら5千円とかで買えるので相対的に見ても普通に高い。

初期投資がある程度高いことを許容しても、ランニングコストも高い。Kindleで本を読むにはいちいち本を購入する必要があるからだ。
俺は普段は基本的に図書館で無料読書、図書館に無い場合でもAmazonマーケットプレイスで一番安い中古本を買うような暮らしをしているので、本を読むたびに金が減るというのはかなり強めの行動時デバフがかかっているような感覚になる。

所詮は本の値段なのでどんな本でも買って買えないことはないのだが、むしろ買おうと思えば買えてしまう値段がワンタッチで決済できるというのが性質が悪い。タップした次の瞬間には読めるので面白そうな本をサブスク読み放題みたいな感覚でついタップしてしまうのだが、そのたびに1500円とかが飛んでいるのが恐怖だ。俺の金銭感覚では気付けば数千円が飛んでいるという金の使い方は許容できない。

2-2.レスポンスが悪い

はっきり言って、Kindle端末スクリーンのレスポンス性能は世の中に数多あるタッチスクリーンの中でも最低レベルだ。居酒屋の注文端末がこのレスポンス性能だったら即潰れる。
遷移は全画面書き換えのみでスクロールはできず、書き換えにも僅かにディレイが生じる。スマホTwitterを見るようにシュッシュッシュとスクロールしていく感じとは全く違う。とはいえ、紙の本でもページは常に全画面更新であり、かつ物理的に捲る時間というディレイがかかっているので、少なくとも紙の本と比べれば特別に不便な感じはしない。

ただ、紙の本ならば重要なページや定義が書いてあるページに指を挟んでおいて疑似的に複数のページを展開しておくような使い方ができる。つまり物理媒体の強みとしてページ移動が身体感覚の次元でできるという強みがあるのだが、それがKindleでは難しい。もちろん目次やブックマークやシークバーを使ってページを大きくジャンプする機能はあるものの、数ページを跨ぐ移動はどうしても紙よりは遅くなる。アクセスの悪さはハイライト機能などを駆使して重要な部分を保存することでフォローしていく感じになる。

こうした取り回しの悪さがどれだけ響くかは読む本による。
恐らく最も快適なのは小説で、よほど叙述トリックの効いた小説でもない限りは単線的に捲っていくだけなので全く問題なく読めるだろう(俺は小説を読まないが)。小説以外でも基本的に進めば戻らない本は困ることはあまりない。
逆に、ページを行ったり戻ったりする本をKindleで読むのは難しい。何度も同じ記述を再読しなければ理解できない難読書、高度に演繹的な論理展開を行うため定義や命題の確認が必要な数学書、異なるページを見比べる必要がある技術書などはKindleで読むのには向かない。Kindle端末で『論理哲学論考』は読めない。
というか、重厚な本に腰を据えて取り組むときに「端末が軽い」とか「暗所でも読める」とかいうKindle端末のメリットが活きるとも思えないので、そういうときは普通に紙で読めばよろしい。

いずれにせよ、Kindleスクリーンのレスポンスは驚くほど悪い、というか普段注文端末とかタブレットで使うタッチパネルと根本的に別種のそれなので、購入前に電気屋で実物を触って確認しておくことを強く推奨する。
ちなみに、Oasisは上位モデルだけあって他のモデルよりレスポンスが早い。公式サイトなどではあまり強調されないが、俺がわざわざ他のモデルより3倍近い価格のOasisを買った決定打はレスポンススピードだった。

2-3.品揃えが貧弱

Kindle端末は本当にKindle専用端末なので他の電子書籍販売サイトから書籍を買うことはできないが、Kindleストアの品揃えは決して良くない。
こればかりは読書傾向にもよると思うので一概には言えないが、俺が買う前に読もうと思っていた本は20%くらいしか置いていなかった。『有限性の後で』も『物語の構造分析』もない。ボードリヤールで言えば、昔流行って最近新装版も出た『消費社会の神話と構造』はあるが、それよりはマイナーな『象徴交換と死』『シミュラークルとシミュレーション』は無いくらいの感じだ。
ちなみにプライム会員なら無料で読めるPrime Readingや月額サブスクで読み放題のKindle Unlimitedもあるが、そちらは輪をかけて品揃えが悪く自費出版も多いため、あってないようなサービスと言ってもそこまで怒られないと思う。

読みたい本を検索しても基本的に無いので、興味のあるカテゴリーから面白そうな本を掬って読むようなスタイルになる。それはそれで読みたい本がそれなりに見つかり、「どこを探しても読みたい本がない」というほど終わっているわけではないのは救いだ。まあ、Kindle端末で読む本が全く尽きてしまうような事態はこの先もまず起こらないだろう。

2-4.短所まとめ

高い・UIが悪い・品揃えが貧弱という、読書に臨むにあたってかなりヤバい短所が三拍子で揃っている。なお、高い点は紙に対する劣位点、レスポンスが悪い点はFire端末に対する劣位点、品揃えが良くない点は両方に対する劣位点となる。

3.総括

冷静に考えると短所が割と厳しいため、基本的に現状で紙や他の電子媒体で満足しているなら別にKindle端末を買う必要はないはずだ。単純計算で長所の合計が短所の合計を上回ることはあまりないような気がする。
俺の場合は「楽に携帯できて電池が保ちいつでもどこでも読める旅行用アイテム」という一点突破の利便性が噛み合ったので非常に満足しているが、Kindle端末でないとダメというシーンはそのくらい限定されるということでもある。日常的な読書としては相変わらず図書館で本を借りる生活をしているし、旅行以外でKindleを使うのはたまたまセールで面白そうな本が売っていたり図書館に置いていない本を求めるときくらいだ。
基本的にKindle端末を買ったからといって読書を全てKindleに移行させることはできず、読みたい本やシチュエーションに応じて併用していくのがベターなように思う。

また、短所の中でも特に「品揃えが貧弱」というポイントは致命的だ。他の短所と違って慣れによってクリアされず、Kindle端末での読書スタンスそのものを規定してしまう。具体的に言えば、読む本の決定権が自分ではなくKindleストアにあるという設定を受け入れられるかどうかだ。
恐らく、普段からあまり読書をせず、たまにこれと決めた本を読むだけの人にはKindle端末はあまり向かない。日常的に読書をしており、何でもいいからとりあえず常に何かを読み続けるようなスタンスの人には向いていると思う。
割とネガキャン寄りになったが、俺個人としては良い買い物をしたと満足している(サンクコストバイアスではない!)。

いずれにせよ、Kindle端末はかなり特殊な端末なので、よくあるタブレットの亜種と思って買うと恐らく期待と違う商品を手にすることになる。プライムデーセールで購入ボタンを押す前に電気屋で実物を触っておくことを、何度でも強く勧める。