LWのサイゼリヤ

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23/1/4 重い腰を上げて10年前に積んだ女性主人公ラノベ83冊を崩した【1/4】

10年前に積んだラノベの山と向き合う

中高生の頃は貪るように読めるライトノベルだが、成人するあたりから一気に読むのがキツくなることで知られている。

俺もかつて若さに任せてラノベを買いまくったはいいものの、いざ手を付ける前に読むのがキツイ年齢に突入してしまう。それから長きに渡ってシュリンク包装されたままのラノベタワーが部屋の一角を占め続けていた。その占領がどれだけ長かったかと言えば、手つかずのままで大学在学期間がほぼ丸々過ぎ、一度は就職して、それも退職して時間が余ってからようやくその存在を思い出したほどだ。

いい歳をして今更100冊近いラノベを読破するのはフルマラソンにも近い苦行の気配があるが、この無職期間で読まなければもう二度と読むタイミングが訪れないことは確実だ。一念発起した俺は笹の葉ラプソディのように自分の過去と向き合ってラノベタワー崩しへの着手を決めた。

しかしいざ読み始めてみると、思ったよりも遥かにサクサクと読書が進むことに気付く。むしろ手頃なペースで手頃なタスクをやっつけていく感じがかなり気持ちいい。思えば、あまり頭を使わずに読めるラノベほど淡々と読む消化作業に適した小説ジャンルも無い。会社や研究室からの指示がない中で自分で自分の人生の目標を立ててこなしていく必要がある無職期間のリハビリとしてラノベ崩しは最適だったかもしれない。

ラノベを読む時間は1冊あたり30分~2時間くらいだった。作品ごとにページ数というよりは情報密度にかなり差があり、同じ1ページでも薄いラノベなら10秒、濃いラノベなら1分かかる。1日あたりでは休憩も込みで4~5冊程度のペース、のべ半月強ほどで無事に積んでいたラノベを全て読み切ることができた。

補足439:「半月」とは「約15日」のことで『半分の月がのぼる空』のことではない。

読書は新宿御苑に毎日自転車で通ってこなした。朝起きたら今日読むラノベを選んで鞄に詰め込み、自転車で走って新宿御苑に向かい、影になりづらい場所にマットを敷いて読書を開始。昼は近所で果物やサンドイッチを買ってきて食べ、夕方頃に寒くなってきたら図書館に移動して続きを読む。

家の中だと気が散るし健康にも悪いが、無職なので喫茶店に行くのは高い。まだギリギリ暖かい10~11月頃ということもあり、適度に身体を動かして太陽の光を浴びられる模範的な無職の暮らしだったと言えよう。

 

女性主人公と百合がマイナー性癖だった時代

当時ラノベは無差別に買っていたわけではなく、むしろ内容にはかなりの偏りがある。具体的には「女性主人公もの」を選んで買っていた。百合が最も望ましいがヘテロでも許容、恋愛要素なしでも可。

補足440:崩したラノベタワーの中には男性主人公作品もいくつか含まれていた。それらもとりあえず全部読んだため、計100冊くらいは読んだことになる。

今でこそあの機動戦士ガンダムですらも女性主人公で百合をやる時代だが、当時のラノベ界隈では女性主人公と百合の肩身は非常に狭かった。

一迅社アイリスなど積極的にやってくれるレーベルもあるにはあったが、そもそも根本的に女性主人公や百合とは少女文化の延長線上にあるもので、「男性向けの美少女コンテンツで女性主人公や百合をやる」というポジション取りはかなりのニッチに留まっていた。『よくわかる現代魔法』『蒼穹のカルマ』のようにけっこう伸びた女性主人公作品も数える程度にはあるにせよ、電撃、角川スニーカー、富士見ファンタジアのようなメインストリームにおける花形が圧倒的に男性主人公が女性ヒロインにモテまくるハーレム系作品だったことは疑いようもない(それは今もそうかもしれない)。

とはいえ同好の士はどの時代にもいるもので、SNSが貧弱だった当時は2chが界隈を集約する役割を担っていた。俺も2chに存在する女性主人公ラノベスレや百合ラノベスレで情報収集や発信を行っていたものだ。

今ではとても信じられないが、当時の女性主人公or百合ラノベ系スレには商業的な立場が弱いマイナー性癖に特有のルサンチマンがうっすらと渦巻いていた。「あの作品は元々は女性主人公だったのに編集の意向で男性主人公に変更させられた」「あの新刊は編集の意向で当初予定になかった男女恋愛が押し込まれた」という真偽不明の(たぶんいくつかは本当の)噂という形で男性主人公やヘテロ恋愛への怨嗟と被害妄想がよく囁かれていたのだ。令和においては逆にハーレム勢力から「百合のゴリ推しが鬱陶しい」と疎まれるほど強者のポジションに付いたのは隔世の感がある。

そんな時代だったから、女性主人公や百合だからといってそれを押し出して売り出されるとも限らない。むしろあらすじや表紙だけ見ても主人公の性別が判別できないことは全く珍しくなかった。表紙に描いてある女の子が女性主人公なのかそれとも男性主人公に奉仕するヒロインなのか、女性っぽい名前の主人公は本当に女性なのかそれとも「男性なのに女性っぽい名前」というギャグなのか。疑心暗鬼のスレ住民たちは「女性主人公であることが発覚するとメイン購買層に売れなくなるので可能な限り隠蔽している説」を唱え始める有様で、今と違ってTwitter検索もできない以上は他スレの書き込みも漁る情報戦の様相を呈していた。

補足441:例えば『空に欠けた旋律』では、主人公は駒津えーじ氏によって男性にも女性にも見えるショートカットで中性的な絵柄でデザインされている。一人称も「僕」で女性ヒロインに一目惚れしてドロドロに恋愛するので普通に読めば男性にしか見えないのだが、僕っ娘の女性主人公であることがかなり遅れてしれっと発覚するという謎の叙述トリックがかまされていた。

そしてマイナージャンルにはよくあることだが、頑張れば全部追える程度にしか供給がない上に常に飢餓状態であるために基本的に貪欲だ。ライトノベルの定義には昔から喧々諤々の議論があるが、とりあえず表紙にアニメ風のイラストが描いてある小説であればメディアワークス文庫などの微妙な判定の小説も当然チェックされ(参考:メディアワークスラノベか問題(2009年)→)、挙句の果てには表紙イラストがややラノベっぽいレズビアン官能小説まで一応ライトノベル判定されていた。

↑表紙がラノベっぽいレズビアン官能小説の例

 

終わっていた人権感覚

さて、令和の人権感覚は日々素晴らしい速さでアップデートされているが、それは裏を返せば平成の作品というだけで絶望的な人権感覚が散見されるということでもある(かなり最近まで少年漫画では女風呂覗きが定番だったように)。特に基本的に男性に都合の良い世界観を旨とするライトノベル界隈において女性主人公や百合のジェンダー的扱いは非常に適当だったもので、それを象徴するのは「素朴な同性愛忌避」だ。

今では考えられないことだが、当時は「同性愛って気持ち悪いよね、汚いよね、ギャグだよね」というとりあえずの大前提があり、そこから構成されるコメディ描写が頻出していた。リベラルな風潮を逆手に取った露悪的なギャグですらなく、素朴な定番ギャグとして何の疑問もなく発されていた時代があった。

2008年に作成された以下のブログ記事はそんな状況をよくまとめている。

補足442:このブログは15年以上も前から男性向けの女性主人公や百合作品をよく扱っており、当時からよく読ませて頂いていた。他の記事も面白いのでオススメ。

toppoi.blog.fc2.com

このように、あらゆるエンターテイメントにおいて、ふとしたことに「あんた、ひょっとしてソッチの気もあるんじゃないの~?」と茶々を入れて「違うわ~!」と全力で否定したり、女キャラが「あ~んお姉様~! わたくしの愛を受け取ってくださいまし~!」やら「その胸、ちょっと揉ませてみぃ~♪」と迫られて「うぎゃー! 私にそういう趣味はないわー!」と拒否反応を示したりするやりとりは、お決まりの“ギャグ”として定着している。また、同性愛関連の言葉を「そういう」「アッチの」と腫れ物に触るように言う慣習が存在している。驚くことに『百合』を謳っている作品ですらしらっと使われている。「ただのおふざけじゃん」「こんなねたに まじになっちゃって どうするの」と言われるかもしれないけど……。

今読むと当たり前の問題意識だが、2008年の男性オタク文化の中でこれを指摘したのは本当に本当に凄いことなのだ。2008年の2chでは百合スレですらこの見解は先進的すぎてあまり受け入れられず、「なんかよくわからんが思想が強い人のブログ」として煙たがられている節すらあった。公平のために言っておくと、俺も当時はそれほどは問題だとは思っていなかった(マイノリティ配慮というより、あまりにも多用される割に広がりのない定番ギャグなので見飽きたという理由で冷ややかな目で見ていたが)。

補足443:関連して、人権感覚がプリミティブだった当時は「たまたま好きになった相手が同性なのか、それとも性嗜好が同性愛者なのか(百合かレズか論争)」「女性を好きな女性を描くにあたって何らかのファンタジー的要素によって男性要素を挿入する必要はあるか(男性要素論争)」といった議論もよく行われていたが、素朴に多様性が承認される令和になってからめっきり聞かなくなったような気がする。

また、「百合キャラと言えば変態キャラ」だった時代も長い。当時の人権感覚では女性が好きな女性という造形はかなりヘビーな特殊性として認識せざるを得ず、「百合キャラ=女性が好きなキャラ=恋愛脳?=変態キャラ?」みたいな回路によって「常に女性に発情している変態キャラ」が出力されてしまう。古典の有名どころで言えば『超電磁砲』の黒子が典型だが、最近でも『処刑少女の生きる道』のモモあたりにもその遺伝子が残っている。

同性愛を抜きにしても、女性主人公単独での風潮もある。当時ありがちだった女性主人公の造形として「本当は女の子らしくお淑やかに振る舞いたいのに、なんだかんだで強く男っぽい振る舞いをしてしまう」というものがあった(『サムライエイジ』『不完全ナックル』等)。「昔はガキ大将だったけど心機一転して女の子らしく彼氏を作ったりしたい!」→「でもなんかトラブってるの見過ごせなくてボコボコにしちゃう!」→「結局周りから強者扱いされて一目置かれてしまう(´;ω;`)」という流れは一つのテンプレートだ。花形のハーレムものにおいては女性は守られるヒロインである前提があるため、それを延長する形で主人公化が試みられているわけだ。この立て付けは主人公のアンビバレントな葛藤も描きやすく、作劇的な都合も良かったのだろう。

そして女性主人公自身が「変態百合キャラ」であることはあまり多くないが、代わりに「変態紳士」男性キャラがセットになってセクハラ三昧をかまされていることも多かった(『サカサマホウショウジョ』『氷の国のアマリリス』等)。これは王道であるハーレムものでは女性が男性を好きになると決まっているため、ライトノベルにおいて「女性にアプローチする男性像」が貧弱だったことに起因するのではないかと思う。

いずれにせよ「そういう時代だった」ということを別に現代からアナクロに批判するつもりはない。もし令和生まれのオタクがこのブログで取り上げられている平成女性主人公ラノベを読んだら時代錯誤な人権感覚にビックリするかもしれないけど、それはその作品の問題ではなくもう「そういう時代だった」ということだ。

 

読んだ女性主人公ラノベリスト

読んだラノベのリストと評価など。実は読んだことを忘れていただけの既読本もけっこうあったが、とりあえず全部読み直した。

  • 評価
    俺が好きだったか否かの主観評価。5だからといって作品として優れているとは限らないし、他人にオススメできるわけではない。
    5:心に残る
    4:読んで良かった
    3:読んでも良かった
    2:読まなくても良かった
    1:こんなん売らないでほしい
  • 百合:百合要素があれば+、無ければ-。
  • ヘテロヘテロ要素があれば+、無ければ-。

補足444:「百合要素」という言い回しのニュアンスにも時代を感じる。今は制作サイドが「これは百合作品です」と言って押し出してくるので「百合」を作品ジャンルとして定義できるが、制作サイドが明言しなかった当時は百合とは作品ジャンルというよりは作品構成要素の一つに過ぎなかったため、「百合作品」というより「百合要素あり」という言い回しの方がしっくり来たのだ。

No. 書名 著者 出版社 発行月 評価 百合 ヘテロ
1 氷の国のアマリリス 松山剛  ADOKAWA 2013/04 2 - +
2 あまがみエメンタール 瑞智士記  一迅社 2009/03 4 + -
3 あかね色シンフォニア 瑞智士記  一迅社 2009/11 2 + -
4 みすてぃっく・あい 一柳凪  小学館 2007/09 4 + -
5 私たち殺し屋です、本当です、嘘じゃありません、信じてください。 兎月竜之介  集英社 2016/08 2 + -
6 黒百合の園 : わたしたちの秘密 秋目人  KADOKAWA 2013/12 2 - -
7 四人制姉妹百合物帳 石川博品  星海社 2014/12 4 + -
8 おとめ桜の伝説 : 小峰シロの物ノ怪事件簿 くしまちみなと  一二三書房 2012/12 2 - -
9 結成!聖(セント)☆アリア電脳活劇部 御門智  一迅社 2011/11 4 + -
10 サムライエイジ みかづき紅月  徳間書店 2008/06 5 + +
11 サムライエイジ : 乙女たちの初陣っ! みかづき紅月  徳間書店 2008/10 5 + +
12 サムライエイジ : 恋せよ戦乙女たちっ! みかづき紅月  徳間書店 2009/06 5 + +
13 特別時限少女マミミ 斧名田マニマニ  集英社 2014/04 4 + -
14 声優ユニットはじめました。 藤原たすく  小学館 2014/01 1 + -
15 マイノリティ・コア 絶対無敵の女剣士と甘えたがりの機織り娘 みなみケント 泉彩 ポニーキャニオン 2014/07 1 + -
16 乙女革命アヤメの! 志茂文彦  メディアファクトリー 2008/11 2 + -
17 マジカル†デスゲーム1 少女は魔法で嘘をつく うれま庄司  ADOKAWA 2014/03 3 + -
18 マジカル†デスゲーム2 反証のアーギュメント うれま庄司  ADOKAWA 2014/05 2 + -
19 誰よりも優しいあなたのために あきさかあさひ  一迅社 2012/02 2 + -
20 .(period) 瑠璃歩月  一迅社 2008/08 3 + -
21 東京地下廻路(アンダーサーキット) 小林雄次  オーバーラップ 2014/09 2 + +
22 乙女は花に恋をする : 私立カトレア学園 沢城利穂  一迅社 2009/05 2 + -
23 スーパーヒロイン学園 仰木日向  ポニーキャニオン 2014/12 3 + -
24 いらん子クエスト 少女たちの異世界デスゲーム 兎月竜之介  集英社 2015/07 3 - -
25 ウィッチマズルカ (1).魔法、使えますか? 水口敬文  角川書店 2006/07 3 + -
26 ウィッチマズルカ (2). つながる思い 水口敬文  角川書店 2006/11 3 + -
27 えびてん : 綺譚奇譚 SCA自  角川書店 2012/10 3 + -
28 桜色の春をこえて 直井章  アスキー・メディアワークス 2011/11 3 + -
29 彼女は眼鏡holic 上栖綴人  ホビージャパン 2008/07 3 + -
30 不完全ナックル 十階堂一系  ADOKAWA 2012/08 3 - -
31 不完全ナックル2 十階堂一系  ADOKAWA 2012/11 3 - -
32 虹色エイリアン 入間人間  ADOKAWA 2014/11 4 - -
33 世界の終わり、素晴らしき日々より 一二三スイ  ADOKAWA 2012/09 5 + -
34 世界の終わり、素晴らしき日々より2 一二三スイ  ADOKAWA 2013/01 2 + +
35 世界の終わり、素晴らしき日々より3 一二三スイ  ADOKAWA 2013/06 3 + +
36 超次元ゲイム ネプテューヌ おぶ・ざ・ないとめあ? 八木れんたろー  ADOKAWA 2013/08 1 - -
37 ヒマツリ : ガール・ミーツ・火猿 春日部タケル  角川書店 2010/12 2 - +
38 ヒマツリ アイスドール・ウォーズ 春日部タケル  角川書店 2011/04 2 - +
39 サイハテの聖衣 三雲岳斗  ADOKAWA 2011/12 3 - -
40 サイハテの聖衣2 三雲岳斗  ADOKAWA 2012/12 3 - -
41 魔よりも黒くワガママに魔法少女は夢をみる 根木健太  エンターブレイン 2011/03 2 + -
42 魔よりも黒くワガママに魔法少女は夢をみる2 根木健太  ADOKAWA 2011/09 2 + -
43 ワイルドブーケ : 花の咲かないこの世界で 駒尾真子  一迅社 2008/08 3 + -
44 ワイルドブーケ : 想いを綴る花の名は 駒尾真子  一迅社 2009/01 3 + -
45 超次元ゲイムネプテューヌ : TGS炎の二日間 八木れんたろー  メディアファクトリー 2013/05 1 - -
46 塔の町、あたしたちの街 扇智史  エンターブレイン 2007/04 5 + -
47 塔の町、あたしたちの街2 扇智史  エンターブレイン 2008/05 5 + -
48 あるゾンビ少女の災難 I 池端亮  角川書店 2012/07 4 + -
49 あるゾンビ少女の災難 II 池端亮  角川書店 2012/07 4 + -
50 雨の日のアイリス 松山剛  ADOKAWA 2011/05 4 - -
51 ぴぴっと!! 和智正喜  メディアファクトリー 2007/06 3 + -
52 しずるさんと偏屈な死者たち 上遠野浩平  星海社 2013/07 3 + -
53 しずるさんと底無し密室たち 上遠野浩平  星海社 2013/09 3 + -
54 ブギーポップは笑わない 上遠野浩平  ADOKAWA 1998/02 4 - -
55 原点回帰ウォーカーズ 森田季節  メディアファクトリー 2009/01 3 - -
56 原点回帰ウォーカーズ2 森田季節  メディアファクトリー 2009/05 4 + -
57 ノートより安い恋 = The love that is cheaper than a notebook 森田季節  一迅社 2012/04 3 + -
58 あまいゆびさき 宮木 あや子 一迅社 2013/04 3 + -
59 空に欠けた旋律(メロディ) 1 葉月双  ソフトバンククリエイティブ 2012/08 4 + -
60 空に欠けた旋律(メロディ) 2 葉月双  ソフトバンククリエイティブ 2012/12 4 + -
61 空に欠けた旋律(メロディ) 3 葉月双  ソフトバンク クリエイティブ 2013/08 4 + -
62 ストロベリー・パニック!〈1〉 公野櫻子  メディアワークス : 角川書店 2006/03 3 + -
63 ストロベリー・パニック!〈2〉 公野櫻子  メディアワークス : 角川書店 2006/08 3 + -
64 ストロベリー・パニック!〈3〉 公野櫻子  メディアワークス : 角川書店 2006/12 3 + -
65 鹿乃江さんの左手 青谷真未  ポプラ社 2015/01 3 + -
66 OBSTACLEシリーズ 激突のヘクセンナハトI 川上稔  ADOKAWA 2015/08 2 - -
67 よくわかる現代魔法 桜坂洋  集英社 2003/12 3 - +
68 よくわかる現代魔法 : ガーベージコレクター 桜坂洋  集英社 2004/05 3 - +
69 よくわかる現代魔法 : ゴーストスクリプト・フォー・ウィザーズ 桜坂洋  集英社 2004/09 3 - +
70 よくわかる現代魔法 : Jini使い 桜坂洋  集英社 2005/01 3 - +
71 よくわかる現代魔法 : たったひとつじゃない冴えたやりかた 桜坂洋  集英社 2005/05 3 - +
72 よくわかる現代魔法 : Firefox! 桜坂洋  集英社 2009/03 3 - +
73 魔法少女育成計画 遠藤浅蜊  宝島社 2012/06 5 - -
74 魔法少女育成計画restart 遠藤浅蜊  宝島社 2012/11 5 - -
75 魔法少女育成計画restart 遠藤浅蜊  宝島社 2012/12 5 - -
76 魔法少女育成計画episodes 遠藤浅蜊  宝島社 2013/04 4 - -
77 魔法少女育成計画limited 遠藤浅蜊  宝島社 2013/11 4 - -
78 魔法少女育成計画limited 遠藤浅蜊  宝島社 2013/12 4 - -
79 魔法少女育成計画JOKERS 遠藤浅蜊  宝島社 2014/08 2 - -
80 魔法少女育成計画ACES 遠藤浅蜊  宝島社 2015/09 2 - -
81 魔法少女育成計画episodesΦ 遠藤浅蜊  宝島社 2016/04 3 - -
82 魔法少女育成計画16人の日常 遠藤浅蜊  宝島社 2016/10 4 - -
83 魔法少女育成計画QUEENS 遠藤浅蜊  宝島社 2016/12 2 - -
84 先輩と私 森奈津子 徳間書店 2011/05 4 + -

 

女性主人公ラノベレビュー

マイナー古ラノベはどうせ誰も読んでおらずただ感想を書いても共有できない可能性が高いため、皆が手に取りやすいようにあらすじを引用しておいた。

ネタバレ配慮は特にしていないので気になるものは先に読んでほしい。俺も読んだんだからさ……

 

わりとヌルめのハードSF

氷河期が訪れ、全ては氷の下に閉ざされた世界。人類は『白雪姫』という冷凍睡眠施設で眠り続け、そして、それを守るロボットたちが小さな村を形成し、細々と地下での生活を続けていた。 副村長の少女ロボット・アマリリスは崩落事故による『白雪姫』の損傷や、年々パーツが劣化する村人たちのケアに心を砕いていた。再び人と共に歩む未来のために。しかしある時、村長の発した言葉に、彼女と仲間たちは戦慄する。 「──人類は滅亡すべきだと思う」 機械たちの『生き方』を描く感動の物語。

【評価: 2】【百合: -】【ヘテロ: +】

「ロボットは人間を本当に救うべきか否か」というけっこうハードで面白そうなSFの話をしているのだが、なんか事故ったりしてるうちに「救えるなら救えばいいじゃん?」みたいな感じでなあなあになってしまった。強いて擁護するのであれば、結局のところ盲目的に人間を救うことがロボットの存在意義であって、遂行可能性にかかるリスクが特にない限りは倫理的判断を棚上げにして人類を救う様子が描かれていると取れなくもない。

表紙の美少女が主人公だが、一応作中でパーツ換装とかがけっこうしつこく描かれるロボットなのに完全に振り切って人間の美少女にしている割り切りが潔い。概ね理知的な主人公がチャラ男にセクハラされたときのみもう~プンプンみたいなペラいヒロインムーブをするところに時代を感じる。

 

境界知能×お世話係の共依存SM百合

全寮制の小中高一貫校、青嵐女学院。外界から完全に隔離された少女たちの園で、ロリータファッションに身を包む少女・橘地莉子は今日も、ルームメイトである渡会心音の肌に歯を立てる。それは、何年にもわたって続く、二人だけの秘密の「儀式」。奇妙な絆で結ばれた少女たちの向かう果ては……?

【評価: 4】【百合: +】【ヘテロ: -】

全然甘噛みではなく出血死しかけるまで嚙みまくる割とハードな共依存SM百合。

恐らく意図的にメインヒロインのロリキャラが萌えキャラの範疇を超えて境界知能として描かれているのが挑戦的だ。徹底的に精神年齢が低いだけで人間的な魅力はほとんどないが、そういう問題児であるが故に世話係の主人公が母性反応を発動してしまい強めの共依存に陥る話なので、納得感があるし上手く機能している。

共依存解決できて良かったねみたいな終わり方をすると思いきや、結局嚙んでしまう救えないENDも良かった。主人公が自己評価低い割に全方位からモテまくるのも良。

 

DTMものニッチ需要

高校では音楽に関係する部活に入りたいと思ってはいるけれど、楽器経験が何にもないので、具体的なビジョンの特にない茜根(あかね)そな。
しかし、電子音楽研究部――通称DTM部の部長・女郎花祭子(おみなえし・まつりこ)と出会ったことで、DTM(デスクトップミュージック)の世界に足を踏み入れることに。
「楽器が弾けなくても、音楽は創れる!」
DTMに"打ち込む"少女たちの、音楽部活動コメディ!

【評価: 2】【百合: +】【ヘテロ: -】

DTMもの」というマイナーテーマのラノベだが、やたらDTMに詳しいキャラがなんか捲し立てているだけであまり活かしきれていた感じはしない。「DTMオタクスキルでバンドみたいな人の機材トラブルを助ける」という筋立てではあるのだが、別にそれはバンドの人でも出来てしまいそうなのでもっと積極的にDTM音楽で何かする話で良かった気もする。たぶんDTMの描写自体はかなり詳しいのでDTMが好きな人は歴史的書物として楽しめるかもしれない。

マイクのポップガードに美少女が履いてたタイツを使ったら部屋にいい匂いがするとかいう謎の描写がキモくてかなり良かった。

 

ゼロ年代ノベルゲームオタク特攻

冬休みの女子寮には、4人の美術部員しかいなかった。ぼけぼけおっとりの沖本部長に読書魔の天才・三輪先輩、あっぱらぱーの門倉せりか、そして優柔不断な私・久我崎蝶子。私たちはひたすらに戯れる――ピクニックをしたり、チェスをしたり、いっしょにお風呂に入ったり。けれど、蛇行をつづける他愛のないおしゃべりも、ぼんやりとした空想に耽る時間も終わるだろう。なぜなら私は迫られてしまったから――せりかと先輩に。三角関係。私は選ばなければいけない――愛の行方を。
第1回小学館ライトノベル大賞・期待賞受賞作。

【評価: 4】【百合: +】【ヘテロ: -】

これかなり好き。雰囲気が好きな人は相当刺さるタイプのもの。

全体的にぼんやりした夢か現かわからない隔離された世界の中でよくわからん本のよくわからん詩やフレーズが延々と引用され、ほんのり三角関係が生じたり流血沙汰になったりする内省的な手触りが、かなり古めの同人ノベルゲームっぽくて良い。胡乱な話の中にきっちり伏線も引かれているし、地味に主人公がモテまくるのも良い。

 

マジで主人公が雑魚すぎ

「わた、わ、わたた、私はプロの殺し屋だぞ!」 殺し屋少女・ヴィクトリアとシャルロッテは今日も無人鉄道で世界を巡(めぐ)る。 可愛い容姿に不釣り合いな重い拳銃を携(たずさ)えて――。 行く先々で殺しの仕事を請け負う二人だが、なぜかここぞという場で敵(変態紳士)に捕まるドジっ子ヴィクトリア。殺し屋を名乗って敵を脅(おど)すも、その可愛さじゃ信じてもらえず絶対絶命! でも、ピンチの時はシャルロッテが助けてくれると信じてる……! 謎の組織『黒薔薇会(くろばらかい)』の美少女刺客に執拗(しつよう)に粘着質(ねんちゃくしつ)に狙われたりもするけれど、私たち殺し屋少女はプロですから、どんな時でも元気です! 残念カワイイ二人の危険なのにどこかゆる~い旅物語が発車します!!

【評価: 2】【百合: +】【ヘテロ: -】

同作者の『ニーナとうさぎと魔法の戦車』はかなり設定が練られた女性主人公ファンタジーで面白かった記憶があるが、これは一転して小学生レベルの話でビックリしてしまった。

取って付けたような殺し屋百合カップルが毎回やたら自信満々な割に即捕まってけっこう強めの拷問を食らいかけてベショベショになるだけの話で、あらすじで全部説明が済んでしまっている。あまりにもカスカスな一連の流れは逆に面白いと言えば面白いので面白いのかもしれない。

 

真犯人判明したときこいつ誰?って思った

お嬢様ばかりが通う、華百合女子高等学校。華やかな花園のように思えるが、心に闇を抱えた生徒たちが大勢いる。万引き、同性愛、レイプ、殺人……黒く染まった美しい少女たちを生々しく描いていく問題作、登場!

【評価: 2】【百合: -】【ヘテロ: -】

あらすじとは若干手触りが違っていて、言うて「華やかな花園」パートはそんなにないので、水面下の闇というよりは最初からけっこう治安が終わってる女子高を舞台にしたダーク学園ミステリサスペンスみたいな印象だった。確かに万引きやレイプや殺人は起きるが、治安の悪い高校ならまあ起きうる範疇ではある。というかあらすじで同性愛を万引きレイプ殺人と並べて闇扱いしているのはいくら何でもマズいのでは?

文章は稚拙ではないし群像劇だし面白そうな気配はけっこうあるのだが、上がった期待に内容が追い付かない。肝心のギミックが相貌失認とか記憶喪失を使っててセコい上に真相もチープだし、「だから何?」という感情。同じ高校に通う闇を抱えた女子高生しか登場しないためプロフィールが似通っている割に、イラストが表紙の一枚しかないため誰が誰かわからなくなって混乱した。

 

陰毛の有無に六万賭けるタイプのマリみて

有名なお嬢様学校――閖村学園高校には“サロン”と呼ばれる友愛組織が存在する。そこに集う生徒たちは姉妹のように睦み合う。 御厨杜理子、佐用島紗智、時岡有希奈ら上級生をメンバーとし、「森」の図書館の一室でひっそりと活動している高踏的サロン「百合種(ユリシーズ)」への参加を切望する一年生・田北多恵は、サロン入会の条件である“秘密の試験”を受けることになるのだが――!?
石川博品が贈る“青春百合奇譚”

【評価: 4】【百合: +】【ヘテロ: -】

かなり面白かった!

いかにもマリみてっぽい耽美系学園百合風のあらすじは概ね詐欺で、実際には陰毛の有無で大金を賭けたり罰ゲームで剃毛したりする男子校っぽい下品な乱痴気騒ぎがメイン。しかしそれも一貫して下品な話しかないわけではなく、閉鎖的な環境に特有の哀愁とか失恋みたいな本来期待されていたような百合要素も肝心なところではきっちりと良い塩梅で入ってくる。

文章とか台詞回しも巧みだし、順張りと逆張りをアクロバティックに両方きちんとやれるプロの力量を感じる一作。

 

福島県白河市在住者のみ必読

Moe1グランプリ(キャラ部門1位、観光地部門1位)に輝いた小峰シロの戦う姿を描いた物語が登場!
福島県白河市を復興しようという想いの影響で生まれた小峰シロ。観光ボランティアをしていた彼女はある日、人々の活気を奪おうとする物ノ怪の襲撃に遭遇する。この街の活気は妖しげな物ノ怪には奪わせまいとするシロは、おとめ桜の精霊たちの力を借りて妖怪討伐に立ち上がる。強大な物ノ怪たちと戦う乙女の姿を描いた東北ファンタジー!新おとめ桜伝説、はじまります。

【評価: 2】【百合: -】【ヘテロ: -】

平成中期にやたら流行った御当地萌えキャラのノベライズ作品。こんなものまで「女性主人公だから」というだけの理由できっちり購入しているあたりに当時の男性向け女性主人公コンテンツの枯渇ぶりを感じる。

お話自体は小学生向けみたいな感じであまり面白くないが、自治体とか政治も絡んできている以上あまり攻めた話にできなくてやむを得ないところがあるのだろう。なんか御当地要素に関する説明だけ異様に詳しくて地理とか歴史の説明が唐突に長々入ったり、いきなり松平定信が出てきてしかもかなり強キャラだったりするところはいかにも御当地ラノベっぽくてウケた。

三人の美少女精霊が主人公の美少女に取り付くという設定によってちょっと百合ハーレムっぽくなっているのは良かった。同性キャラ同士だとどうしても権力が拮抗して仲良し百合グループにはなっても百合ハーレムにはなりにくいので、明確に一人が突出するギミックは評価できる。

 

エロゲーを作るわよ!!」のやつ

超お嬢様女子校「聖アリア女学院」の2年生で隠れオタク。それが私、与那嶺彩香。進級を機に、お嬢様らしい明るく楽しい青春を取り戻そうとオタク趣味を捨てる決意をした私は、茶華道部へ入部する。ところが部長の琴乃センパイが、いきなり部のリニューアルを宣言。新しい活動内容は…エロゲー開発!?私たち全員、乙女でお嬢様なのに、どうしよう!?ハイテンション・ガールズコメディ、ゲームスタート。

【評価: 4】【百合: +】【ヘテロ: -】

エロゲーを作るわよ!!」を女子高生がやるやつ。見た目に反してかなり良い話だった。

主人公以外はライターも音響もプログラマも一通り都合よく揃っているため、ただオタクなだけで何もクリエイタースキルがない主人公は何をすればいいのかわからず悩むが、最終的に「全体進捗の進行管理をやる」という結論に達したのが非常に良かった。てっきり「オタク知識だけは本物だから適切なアドバイスはできる」みたいなありがちで説得力のない落としどころになるのかと思っていた。

俺がゲームプランナーをやっていたからという超個人的な贔屓があるにせよ、実際のところ進行管理はかなり大事だし誰かがやった方がいい。大抵の類似作品では誰もやっていないことの方が多い気がするが、工数がはっきりしない素人の集まりならなおさらだ。進行管理というジョブは皆にきっちり目を配って柔軟に話をするスキルも求められるため、物事の中心にいるべき女性主人公のポジションとしてもかなり納得できる。

2011年のラノベなのでゲーム全般の説明でソシャゲの概念がまだなかったり、データをクラウドではなく記録媒体で管理していたりするあたりは時代を感じる。

 

ゼロ年代夢女の理想郷

剣の腕には覚えあり。必殺剣も使えるし、不良生徒の成敗だってお手のもの。そんな私―三月弥・十五歳の夢はただひとつ。楚々とした乙女に生まれ変わって男の子と恋をすること。でも、ささやかな私の夢は、憧れのエリート高校・蘇芳学園に入学した初日にもろくも崩れさった。全生徒武器携行OK?入学式から大乱闘!?熱すぎる学園の闘気は、剣を捨てるはずだった私の心を強く揺さぶって…。強すぎる女の子、ダメですか?サムライ少女を書かせたら随一の作者が贈る乙女チック×剣劇アクション始動。

【評価: 5】【百合: +】【ヘテロ: +】

これこれこれ~!!! めちゃめちゃ良かった。

ストーリーは別に面白くないけどゼロ年代夢女の理想が全部詰まってる。夢女が死ぬ前に見る夢の乙女ゲームゼロ年代にしか存在しない謎学園で謎バトルして謎青春する感じが良すぎる。

乙女になりたいけど戦闘能力が高すぎて暴れてしまう主人公が王子様系の先輩にもワイルド系の先輩にも言い寄られつつ、親友の野生児美少女にも懐かれてヘテロも百合もハーレムで欲張れてしまう。主人公はヘテロ寄りのバイくらいの感じで男とくっつきかけることの方が多いが、結局のところどの巻でも最終的には親友百合ルートに行くのも良。

 

魔法少女史を変えていたかもしれない

特別時限少女とは、人の心から取り出した武器で犯罪者を倒す魅惑の魔法少女たち。互いの胸に腕を突っ込み、武器を取り出す際にはとてつもない快感が得られるらしく、非常に官能的な光景となる。銭ゲバ主人公のマミミはその様子をTVで放送して一発金儲けをしようと画策し、自らも特別時限少女になりその内部に入り込むが…!?魔法少女たちの百合的官能イチャラブガチバトル開幕!奇才新人、鮮烈デビュー!!

【評価: 4】【百合: +】【ヘテロ: -】

めちゃめちゃ惜しい!! 数少ない明確に読んだ方がいいラノベ

あらすじと設定は今回読んだラノベたちの中でも頭いくつか抜けていて、批評的な意義も相当大きい。しかも2014年という魔法少女変革期に出ていてワンチャン魔法少女史を変えるポテンシャルがあったのに、残念なことにそうはならなかった。

魔法少女は変身時にとてつもない快感を得て官能的な光景になる」「魔法少女の変身を見世物にして稼ごうとする魔法少女の主人公」ってギャグっぽいけどめちゃめちゃ鋭くて深い設定なのだ。「結局のところオタクは魔法少女を性的に見ているし、制作側もエクスキューズなしで描けるセクシーシーンとして変身を利用している」っていうグロテスクな共犯関係を剔抉した上で、「じゃあ魔法少女って資本主義でエロが受けてるみたいなことでしかないんじゃない?」という身も蓋もない発想をドライブできる露悪的な主人公の造形がブチギレている。

更には「魔法少女システムの都合によって魔法少女は皆孤児で将来が暗い」っていう設定も良くできている。まどマギ以降の魔法少女のダークな雰囲気を受け継ぎつつも、銭ゲバ主人公が「いやそれは金で解決出来るよね?」と強みを活かして魔法少女を救うポジションを取れる構造がしっかり用意されているからだ。

ただそういう優れた部分がクライマックスでは全く捨象されてしまって、結局のところ誰を救うとか救わないとかいうふつうの素朴な魔法少女ものの文法で事態を収拾してしまった。スタートは神がかっていたのに、ゴールを誤って凡百の色物系作品に落ち着いてしまった。

斧名田マニマニ先生、この作品リメイクしませんか? 勿体ないよ~

 

無のラノベ1

声優ユニットは仲良し女子高生4人組!

声優である両親の勧めで天空学園高校・芸能科へと入学した、若きプロ声優・神崎花名。彼女は、入学と同時に学園の理事長が経営する芸能プロダクション「セレスティアル・エンタテインメント(CE)」の声優部門に所属することになる。
 ここ数年、声優マネジメントに力を入れてきたCEは、花名たち高校生声優の所属を機に若手声優を大々的に売り出す計画を立てていた。それはオリジナルTVアニメプロジェクトの中核をなす女子高生4人の声優ユニット『フォーチューン』の結成。
 プロジェクトの成功には、ユニットそのものの成功が不可欠。そのためメンバー同士の親密な関係が必要だと考えたCEは、花名にメンバーたちとの同居の指示を出したのであった――。

 声優ユニットを組むために集められた個性豊かな4人の女子高生声優たちの、ゆるやか学園“声”春ライフの始まりです!!

【評価: 1】【百合: +】【ヘテロ: -】

無のラノベ

アニメの次回予告の掛け合いレベルのちょっとしたテンプレ会話を282ページに渡って延々と見せられるだけで、イベントがマジで何も起きない。あらすじにはプロジェクトの成功を目指す的なことが書いてあるが、何も起きないのでその件も特に何にもならない。

賛否以前にそもそも内容が無いため評価不可能なものにだけ【評価:1】を付けている。ストーリーが存在しないラノベを売ってもいいらしいということを初めて知った。

 

無のラノベ2

凄腕の女剣士ヴェルメリア、優れた魔法使いのロゼ、訳ありな姉妹が配属されたのは第39独立小隊だった。そこにはこれまた訳ありっぽい衛生兵ダイトと、何を考えているのか判らないピエランジェロ隊長の2人しかおらず、部隊と言うのは名ばかりの厄介払い。そんな彼らが命じられたのは派遣した部隊が消息を絶ったアババ砂漠への偵察任務だった。剣と魔法と落ちこぼれたちのファンタジー、ここに開幕。

【評価: 1】【百合: +】【ヘテロ: -】

無のラノベ

姉妹が何となく配属されて何となく命令されて斥候やってちょっと戦って帰るだけの話で、主人公を含むキャラたちが何をしたいのかが特に示されないので評価軸が不明で感想を発生させることができない。この話何だったん?

 

続き

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22/12/24 お題箱回106:PSゲーム、減量期etc

お題箱回106

503.LWさんの思うAI拓也のおすすめを教えてください。
クオリティが高い、発想が斬新、単に笑えた等の基準はお任せします。

書きました! 主に発想の新規性と貢献度で評価しています。

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厳密には人力拓也ですが、個人的な好みでは『普樋の高■生・藍沢柚葉の曰屺 出力日:2022年1月9315日(拓)99:99:99』が一番好きです(→)。AIの特殊な活用状況を鋭い目線で俯瞰して作られたワンランク上の作品で、ノベルゲーム風の演出もいいですね。

 

504.エヴァガ、ワンエグ、リコリコみたいな作品ばかりがもてはやされていて悲しいです。エヴァlain攻殻みたいな作品は二度とみられないんでしょうか?

ざっくり内省的な作品がそんなに好まれなくなっている気配はありますね(ワンエグは別に持て囃されていないのでは?)。

僕自身は内省的なアニメが極めて好きなわけでもないのでそれほど困ってはおらず、あまり探してはいません。同人ゲームとか他メディアではぼちぼちある気もしますが、どうなんでしょうね。

 

505.空白と改行のアンチですか?

これは僕が自分で書いたコードをアップしたときのやつですね。

確かに僕はコードに空白と改行を入れないようにしており、コードはかなり詰まった見た目になります。余計な役物を入れると入れ忘れが発生したとき気持ち悪くなりそうなので、とりあえず全部「入れない」で統一しています。

エディターの自動整形機能を使いなさいよというアドバイスも貰ったのですが、今のところコードを他人から見やすくする動機が無いのでその予定はありません。僕は仕事とかで他人と協働するのでない限り、自然言語の文章と同じでコードは何をどう書いてもいいと思っていますが、そのスタンスには諸説ありそうではあります。

 

506.ハルシオンランチ好きな理由知りたいです

理由は「ギャグが面白いから」ですが(SFやキャラクターの設定もそれ単独というよりはギャグに貢献している限りで面白い)、何故ハルシオンランチの「エグザイルトーメント」とか「かなりえずき」が面白いのかを説明することはけっこう難しいです。突出したセンスがあるとしか言いようがない漫画家が一定数いて、沙村広明もその中の一人です。

これはギャグ一般に言えることですが、ギャグの面白さは「読者が予想していないこと」が必要条件です(十分条件ではない)。逆に言えば細かく体系的に説明できて予測可能なギャグはそんなに面白くありません。「アンジャッシュは勘違いコメディが面白い」くらいの粒度では説明可能でも、ではどのように勘違いが行われてすれ違っていって具体的なパターンにはどのようなものが予想されるか……と分析者が言語化したものを常に裏切っていくからこそのギャグです。

「提出されるまでは誰も予想していなかったのに、一度提出されれば誰でもすぐにその価値がわかる」という構造はギャグと学術研究で共通していて、ギャグ作家って本当に凄いなあ~と最近よく思います。

 

507.売却されるゲームとお手元に残されるゲームに関するツイートでお手持ちのソフトを拝見した際、抱いた感情なのですが、須田ゲー(キラー7、ノーモアヒーローズ、キラーイズデッド)に関する具体的なご感想などをお聞きしたいです。そして話題がすこし変わるのですが、LWさんは世代的に初代プレステ直撃というわけではない印象を受けておりまして、それでも初代プレステのソフトに対する高水準の関心をわたくしのような外野からは感じておりますので、その辺りの経緯のようなものをご説明いただけますと嬉しいです。

この前Twitterにアップしたやつですね。

須田ゲーで一番好きなのは『ノーモアヒーローズ』です。正直ゲームとしては粗が多くて退屈なところもありますが、その欠点を補って余りあるほどキャラクターの描き方が魅力的です。どのキャラがどう良かったみたいなレベルの話ではなくて、「キャラクターは常にこのくらい濃い振る舞いと喋り方をすべきだ」みたいなキャラ立ちの強度に対する基本的な意識は須田ゲーから教わった気がします。

補足437:Switch買ったのにノーモアヒーローズ3遊ぶの忘れてたので今から買いに行きます。

また、世代的に初代プレステ世代ではないというのは非常に正しくて、本当の世代はPS2PS3くらいです。よくわかりましたね。

世代ではない癖に初代プレステのゲームにやたら詳しいのは逆張りオタクだからです。
一番ゲームが楽しい中高生時代に一人だけ逆に張って、PSPでモンハンを遊ぶ同級生を横目にもっぱら一世代前のレトロゲーやレゲーばかりを集めていました。TSUTAYAやヨドバシで最新ゲームを買う代わりにまんだらけハードオフを回って相場の割に安いゲームを見て回るのが楽しみで、学校には同じ趣味の人がいなかったので2chのゲーム系板で情報交換してました。当時ゲームで興奮したのは『ルールオブローズ』がどっかの倉庫から大量出荷されて値崩れしたとか『バーガーバーガー2』が実況の影響で急騰してるとかそんなのばかりです。
おかげで今も部屋にはPSのゲームが100本以上あるのですが、最近はレトロ需要でタイトル問わず全体的にじわじわ値上がり始めており、僕はそれを「年金」と呼んでいます。

 

508.Lwさんのブログを見ていると、オタクという言葉を多様している様に感じます。
そこで質問です。
Lwさんは、オタクという言葉を使用する時、どの様な含みを持たせて使用していますか?
(あまり用いたく無い言葉ではありますが、Lwさんが、ブログの文章において使用する「オタク」の定義と言い換えても良いです。)
文脈によって変化するものだとは思いますが、私の質問に対して何か語る事が可能であるならば、語って頂きたいです。

特定の含みはあまり持たせていません。
文脈によってもニュアンスはまちまちで、「美少女コンテンツが好きな人」「何かにめっちゃ詳しい人」「垢ぬけていない見た目の人」あたりをふらふらとうろついています。ただ特殊な使い方は特にしておらず、普通に読んで意味が取れる用法しかないはずです。

オタクというワードに思い入れがあって大きな含みを託している人はけっこう多いですが、僕はそんなに思い入れがなくて適当にしか使わないというだけです。オタク文化で好まれるコンテンツには関心があっても、オタク共同体がどのようにドライブしているかとか、オタクそれ自体を主題として語ることにはあまり関心がありません。
ただそれは「オタクから距離を置いているから」ではなくむしろ全く逆で、自分を含めて常にオタク的なものしかない世界で生きてきたために、オタクをオタク以外から区別するために必要な「非オタク」を上手く定義できず、あまりにも自明なものを改めて定位してわざわざ語る気力も能力もないというのが真相に近い気がします。

 

509.小学生の頃から学校の勉強は得意でしたか?

得意でした。一番勉強が得意で楽だったのは小学校の頃でした。

小学生の頃は記憶力とか推論力みたいな基礎スペックが中高生くらいのレベルだったので、中学生が小学生の授業に混ざって余裕すぎだろみたいな異世界転生状態でめちゃめちゃ楽でした。

今でもよく覚えている小学二年生の頃のエピソードがあります。
イベントかなんかで同級生の子が黒板に「二人」と書いたとき、覚えたてのルビを「二」の部分に「ふた」と振って

という表記になっていました。

僕は「そのルビを振る意味はない」「そのルビを付けたところでもともと『ふたり』を読める人にしか有効ではない」「漢字が読めない人には『ふたひと』と読まれるので本当にルビが必要な人を助けない」「ルビを振るなら『ふたり』か何も振らない以外は有り得ない」と何度も説得したのですが、「だって『に』じゃなくて『ふた』なんだから正しいじゃん」みたいな感じで全然話が通じませんでした。

この一件は当たり前のことが何故か理解されない不思議エピソードとして頭に記憶されたのですが、後から思い返すと「正しいルビでも読み手の知識によっては機能しないことがある」ということを理解するには「読み手の知識水準を考慮する」というメタ認知能力が必要で、我ながら早熟だったなあ~という自画自賛エピソードに上書きされました。

補足438:しかし当時の僕は「『部分的に正しいルビでも読み手の知識によっては機能しないことがある』という考慮が正しいとしてもクラスメイトの知的水準によっては機能しないことがある」というメタメタ認知までは備えていなかったということでもあります。

しかしそれはただ単に早熟なだけで能力自体が特殊なわけではないため、中高生になると周りに追い付かれてアドバンテージは消滅します。他の人が中高生になるのに合わせて僕も大学レベルとか大学院生レベルにグレードアップしてれば楽だったのですが、残念なことにそれは起こらず、中高生以降は普通に頑張って勉強しないといけない羽目になっています。

 

510.こんにちは。いつも楽しくブログ読ませていただいています。
BOSSの広告戦略、「舐めてんのか」という気持ちも「こういうマーケティングに今後流行ってほしくない」という気持ちもかなり共感できたのですが、すこし気になったことがあるので質問させてください。
私個人は(ウマ娘であれ缶コーヒーであれ)『商材の質や価格やブランドや理念』こそが内実〈コンテンツ〉であって、それら以外のもの『製作者にどれだけ熱意があるかとか、ファンダムではこれまでどんな事件があったかとか』などはあくまで内実の前段階や後段階に付随しているものにすぎない、そうした付随物を訊かれもしないのに製作者がアピールしてくるタイプの広告は気色悪いと思っています(鑑賞者側が付随物に興味を持って調べ始めるのはおおいにアリだと思いますが)。この感覚はLWさんにもある程度同意していただけるのではないかと思っています。
しかし、この感覚は単に私が老害であるから感じることに過ぎなくて、最近のオタクの何割かにとっては『製作者の熱意とかファンダムで起こってきた事件とか』も立派な消費対象〈コンテンツ〉の一部であるのではないでしょうか? もしそうだとしたら、BOSSの広告戦略は『ウマ娘への愛がありすぎて怪文書書いた担当者が昔おってな……事件』というまさしく求められているコンテンツを供給したという意味で正当だとみなさざるを得ないのではないでしょうか?
BOSSの広告戦略が、何割かのオタクを敵にした代わりに何割かのオタクには正当な広告だったとみなせるか、そうでもないか、また、仮に正当だったとしてもそれはそれでオタク全般を舐めている態度だったとみなしうるのか……などについてLWさんのお考えを教えていただけると幸いです。

ありがとうございます。この記事の話ですね。

saize-lw.hatenablog.com

仰っていることで正しいと思います。
「僕は著しく気に入らなかった」と書いている通り、これは僕が気に食わないというレベルを出る話ではありません。舐められてると感じるかどうかや誠実性のラインをどこに引くかは完全に個人依存ですし、客観的に見て正当か否かという基準は存在せず個々人の許容ラインがあるだけです。マジョリティが許容なら商業戦略としては正しいのでしょう。

客観的な証拠がない体感ですが無理に数量っぽいことを書いておくのであれば、僕以外に吹き上がっている人を見ていないですし多分5%くらいのオタクを敵に回した代わりに95%のオタクには有効だったのではないでしょうか。また、僕はウマ娘にはそれほどコミットしていないからオタク文化全体へのフリーライドと解釈しただけで、もしウマ娘の大ファンだった場合は態度を軟化させていた可能性も普通にあります。

 

511.非合法児童ポルノデータセットからAIにより生成された児童ポルノは合法?それとも違法?

僕は法律には詳しくないので参考にしないでほしいですが、著作権にせよ他の違法性にせよ、データセットからそれを学習した機械学習モデルへとステータスが「感染」することは基本無いはずです。データを学習してのモデル作成は統計的な情報解析作業に過ぎず、アイコラ的な「画像の切り貼り」とは明確に異なります。用いたデータセットが非合法である点に力点がある質問だと思いますが、生成モデルの学習元によって判断が異なることはないでしょう。

ちょっと調べたら弁護士の方が似たようなことを論じているツリーを発見したので参考になると思います。

 

512.Lwさんの筋トレの記事に触発され、私も筋トレを初めてから4ヶ月が経過しました。
見て分かる位には筋肉が付いてきたので、減量フェーズに以降したいのですが、筋トレの方法に関しては全てLwさんの記事を参考にしていたので、減量の方法が分からず詰んでいます。
そんな事もあり、Twitterを見ていると減量もしてらっしゃる様に見えたので、Lwさんが実践したその方法をブログに載せて頂けると助かります。

おお! いいですね。

僕はだいたい3ヶ月減量期をやって74kgから68kgまで減らしました(月ごとに74kg→71kg→69kg→68kg)。内容は食事カロリー制限+有酸素運動+PFCバランスで以下のようなレギュレーションを定めていました。

・1日の摂取カロリーは2000kcalまで
・縄跳び1日2000回
・なるべくタンパク質を多く摂るように意識
・なるべく脂質を摂らないように意識

このうち絶対に死守する鉄の掟はカロリー制限だけです。
縄跳びは雨が降ってたらエアロバイクとか筋トレに適当に切り替えましたし、栄養成分については若干気を遣ったくらいでそんなに厳密にはやっていないです。週に2kgの鶏肉を食べつつ、たまに天丼とかラーメンも合計カロリーが2000kcalを超えない範囲で普通に食べてました。

僕個人の経験で言えば、減量に一番有効なのは食事カロリー制限っぽいです。減量を試みた当初の三ヶ月くらいはカロリー制限せず毎日2000回の縄跳びだけをしていたのですが、大して効果がなかったのでカロリー制限との複合に切り替えた瞬間にめきめきと効果が出始めました。

22/12/23 AI挿絵付きWeb小説を投稿し始めて2ヶ月経った話

kivantium.hateblo.jp

adventar.org

創作+機械学習 Advent Calendar 2022の18日目、及び画像生成AI Advent Calendar 2022の23日目です。

~お詫び~
当初は上記二つのAdvent Calendarに

・実際にWeb小説にAIで挿絵を付けてみた話
・イラストAIを用いた作品制作についてプランナーとして思うこと

をそれぞれ分けて投稿する予定だったのですが、内容的にまとめた方が見通しが良かったので一つの記事にまとめてしまいました。禁止されていないとはいえ、結果的にあまり推奨されない重複投稿の形になってしまったことをお詫びします。

一記事に二記事分のコンテンツがあるということで勘弁してもらえれば幸いです。

 

AI挿絵付きWeb小説を投稿し始めて2ヶ月経った話

10月末から趣味の長編Web小説にNovelAIで挿絵を付けながら毎日投稿し続けており、考えていることとか知見について書きます(22/12/18現在75話)。

www.alphapolis.co.jp

ゲームと現実を区別してない最悪ゲーマー女子高生がゲーム気分で異世界を滅ぼして回る終末系百合ライトノベルです。めちゃ面白いのでよろしくお願いします。

表紙のみイラストレーターのえすけー様(@sk_kun)とロゴデザイナーのコタツラボ様(@musical_0327)に発注しており、イラストAIを用いているのは挿絵だけです。表紙イラストは学習や生成には使用しておらず、表紙の発注と挿絵の作成は完全に独立しています(この立て付けになっている理由は後で説明します)。

発注した表紙は以下です。

AI生成した挿絵は以下です。

白髪赤目の女子高生(上側二枚)が表紙にもなっている主人公で、挿絵間でのキャラの同一性を保った状態でコンピュータルームと武器庫での異なるロケーションを描写できています。
下側二枚はもっとシチュエーションが強い挿絵です。燃える森の中で炎の魔法ルーンを発動したり、氷の中でナイフを構えたりする小道具込みでのイラストを文章に合わせて正確に出せています。

自分で考えたシーンに思い通りに挿絵を付けられるのは非常に楽しいですし、一気に華やかになってめちゃめちゃテンションが上がります。創作クラスタオリキャラを持っているタイプのオタクにも参考になれば嬉しいです。

 

イラストAIと創作に対して思うこと

今までにもイラストAIと創作に関する長めの記事をいくつか書いており、挿絵イラスト生成での考え方にも直結しているので軽く要約します。

 

問題意識:素材と作品の間には溝がある

AIイラストと創作について一貫して考えているのは「『イラストAIで一枚絵を出力できる』と『イラストAIで作品を制作できる』の間には深い溝がある」ということです。

2022年12月の現時点はAIイラストが単独で研究されて注目を浴びているフェイズで、AIイラストのコンテストや展覧会が開かれたりしています。しかしそれは黎明期特有のボーナスタイムに過ぎず、中長期的には作品への利用がメインになるはずです。イラストAIがあろうとなかろうと、漫画やアニメより画集を優先して購入するのは相当コアなオタクだけです。
実際にはゲームも漫画もアニメもラノベもイラスト単独で成立しているわけではなく、文章やプログラムや世界観設定などの異なる成果物との融合が前提になります。それを遂行できるイラスト素材を提供できないようであれば、イラストAIは「面白いが実用的ではない趣味の技術」の域を出ることはないでしょう。

よって「実際のところ、AIで制作したイラスト素材は本当に作品に活用できるのか」という問題意識の下で、「イラストAIを作品に用いる上でのボトルネック」や「AIイラストの弱点をディレクションで解決する方法」についての記事を書きました。

 

10月『何故AIにはイラストを発注できないのか?』

saize-lw.hatenablog.com

人間とAIのイラストを比較するチューリングテストが流行った頃に書いた記事です。

冷静に考えれば当たり前のことですが、AIイラストがチューリングテストをパスして「人間と見分けの付かないAIイラストがいくつか出力できる」ことが示されたとして、それは「人間と見分けの付かないAIイラストが任意に出力できる」ことを全く意味しません(単称命題と全称命題の取り違い!)。

そして実際の作品制作においてイラストAIを発注先として扱うためには、企画からのトップダウンで要件に適合する任意のイラストを出力してもらう必要があります。
そのためには(作画技能とは別に)「デザイン技能」というスキルが要求されますが、少なくとも現状のイラストAIはそのスキルを備えていません。よってイラストAIの作品活用には依然としてスキルを持つデザイナーが必要か、デザイン技能を要しない限定的な局面に留まることを指摘しています。

 

11月『プランナー目線の生成AI妥協論』

saize-lw.hatenablog.com

創作+機械学習LT会に参加したときに書いた記事です。実際にAIイラストを作品に用いる際に必ず生じる、「AIイラストは整合性を保てない」という問題へのプランナーポジションからの解決策を論じています。

エンジニアやクリエイターであれば生成モデルを改善したり出力イラストを加筆修正したりすることでその問題を解決できますが、企画側のディレクションでもそれなりの対応が可能です。具体的な方法論としては「AIイラストの不整合が混乱を招かない立て付けや利用法を考える」「AIイラストの弱点を補えるように企画側を曲げる」という考え方のポイントについて紹介しています。

 

12月『君はAI創作の最前線にして最底辺「AI拓也」を知っているか』

saize-lw.hatenablog.com

いわゆる淫夢界隈でのAI利用を紹介した記事です。イラストAIではなく文章AIが主ですが、かなり早い段階からAIを用いた活発な作品制作が行われているコミュニティ模様について論じています。

僕が品位の低下を押してあえてこのネットカルチャーを取り上げたのは、「AIを用いてきちんと完結した一つの作品を仕上げる」という強い作品志向が存在していることが魅力的だったからです。
TwitterやイラストコンテストでのAI利用は一枚絵や短文の素材を作るものだったり、断片の提示に留まっていたりと必ずしも完成した大きな作品を目指しているわけではありません。一方、ニコニコ動画への投稿においては必ず「動画=ページ=作品」であり、始まりから終わりまでの尺を作品単位として完成させることが前提になっていると共に、コメント機能によってそれを作品として鑑賞するフィードバック環境も整っています。

実際、AI拓也界隈においては生成AIのエンタメ活用法が無数に発掘され続けており、それはAIで素材を出して遊ぶだけでは生まれなかった作品志向の成果でもあります。

 

AIで挿絵を付けるまでの経緯

Web小説に生成AIで挿絵を付けるタスクの具体的な内容を説明するため、少しだけその経緯について自分語りします。

小説の本文は2020年4月頃から書き始めて2年ちょっとくらいで30万字くらいのものが完成していました。
せっかく趣味で書いたのできちんとした表紙イラストを付けたいと思い、30ページくらいの企画資料を作って予算10万円でイラストレーターへのメール交渉を開始したのが2022年6月頃です。
ただ1枚で10万円クラスのイラストを描ける高い画力とデザイン力を持ち、個人依頼可能かつ高々1~2ヶ月待ちくらいで仕事を受けられる方は極めて超希少です。Twitterやpixivを1日探して1人見つかるかどうかという世界で、依頼が通らないたびに貴重な残機が減っていく感触は就活を思い出してやや精神が削られる思いでした。少し時間がかかりましたが、最終的には当初の予算で引き受けて頂けるイラストレーターの方に依頼でき、本当に心から感謝しています。

2022年6月時点ではまだ絶望的な性能だったイラストAIに依頼するという選択肢は存在しませんでしたが、もしこの2022年12月の段階で表紙を制作するとしても間違いなくイラストAIではなくプロのイラストレーターに発注します。
理由は10月の記事に詳しく書いた通りで、イラストAIはデザイン技能を持っていないために表紙のようなウェイトの重いイラストを任せるには力不足だからです。イラストAIに描けるのは挿絵までで、表紙を任せるのは荷が重いという認識は今も変わっていません。

2022年10月に発注した表紙イラストを滞りなく納品して頂いて、これで素材は全て揃ったし投稿するぞと思ったタイミングでNovelAIのサービスが始まりました。
ちょうどプランナーの仕事を辞めて時間が余っていたこともあり、新技術と親しむ良い機会だと思ってNovelAIで挿絵を付けていくことにしました。挿絵は表紙とは違って単独で消費されるというよりは文章の補足を行う役割なので、デザイン能力の劣るAIイラストでも問題ないだろうという判断です。

ということで、作業タスクは「人力で書いて完成している30万字程度の文章素材が既にあり、それを1話3000~5000字程度で全90話に分割した各シーンにAIで挿絵を付けていく」です。
AIの利用を前提として制作したのではなくAI出現前から既に完成していた文章素材にAIを合わせることになり、イラストAIを主ではなく副として用いることは「AIイラストを作品に貢献するパーツとして利用できるのか」という問題意識とも噛み合っています。

なおイラスト生成AIとしてはNovelAI以外は使っていません。
他のコード上で動かすモデルも友人に見せてもらったのですが、GPUを使ってもNovelAIより生成がかなり遅かったのと、NovelAIと違ってキャラクターイラストに特化していないためにチューニングが手間そうだったからです。
NovelAIでダメだったら他のモデルを試そうと思っていましたが、現状では特に大きな不満を感じたことはありません。むしろやり込めばやり込むほど表現の幅が広がるという印象です。

 

AI挿絵生成作業

実際の生成作業における方針や流れやテクニックについて共有します。

なお、NovelAIの導入方法や基本的な使い方は省略します。既に優れたガイドがnote等に多くあるのでそちらを参照してください。

 

2ヶ月での上達

まず掲載当初に生成した冒頭3話くらいの挿絵はこんな感じです。

この段階ではとりあえず狙ったビジュアルのキャラが出せれば満足していましたが、表情や背景や動きには乏しく、挿絵というよりは立ち絵に近いものになっています。全体的に塗りが平坦で情報量も少ないです。

対して、しばらく投稿を続けてから生成した挿絵が以下です。

ただキャラを出すだけではなく、戦闘中での表情、動き、背景、使用している武器や魔法等まで含められるようになり表現力が大きく改善されています。

 

全体方針

11月の記事でも触れた通り、AIイラストの「整合を取りにくい」という弱点をカバーして強みを活かすためには妥協的な方針を立てておくことが有効です。具体的には以下のようなことを意識していました。

  • キャラのビジュアルを差別化する
    AIイラストに多少の不整合があっても一発でキャラを弁別できるように、キャラのビジュアルを可能な限り差別化します。具体的には、同時に登場するキャラはなるべく髪色が被らないようにしたり、キャラを象徴する特徴的なアクセサリを付与したりします。
  • 挿絵で新情報を出さない
    不整合を起こしやすいAIイラストは情報としての信頼度が低いため、新情報は必ず挿絵ではなく文章の方で出すことにします。挿絵を見なくても問題なく読めることが望ましく、特に挿絵で伏線を張るのは厳禁です。例えば挿絵で指が6本あったとして、それがAIの不整合なのか伏線なのかは読者には判別できず、仮に伏線だったとしても納得感よりモヤモヤ感が勝るからです。
  • 整合性より見栄えを重視する
    「ちょっとだけ内容と整合しないけどとても綺麗なイラスト」と「内容と完全に整合しているがやや見栄えの悪いイラスト」の二択になった場合は前者を取ります(内容を大きく逸脱して混乱を生まない範囲で)。AIイラストに期待しているのは補足的なビジュアルの賑やかしであり、高い説明能力ではありません。
  • 加筆修正はしない
    スキル的には少しだけなら加筆修正が出来ないこともなくもないですが、今回はイラストAIだけでどこまで戦えるのかを体験する実験的な意味合いも大きいので加筆修正は無しにしています。ただし加筆の上でのimage to imageは行います。
  • 工数の節約も意識する
    「もっと良いのが出せるはず」というガチャ連打沼にハマって工数をかけすぎないように「まあこれでいいかな」という妥協判断を大切にします。そもそも生成AIの強みは質より量であり、100点のイラストを追求するよりも70~80点くらいのイラストを高速で出力するのが発注先としての優位性だからです。

実際の作業手順は以下の通りです。

  1. text to image
  2. 必要ならimage to image
  3. 必要なら文章を書き換えて合わせる

それぞれ順に説明します。

 

1.text to image

NovelAIにはtext to imageとimage to imageがありますが、まずはtext to imageで済ませることを目標にします。text to imageだけで済むならそれに越したことなく、それでは無理そうな場合にようやく重い腰を上げてimage to imageの利用を検討するということです。
理由は手間とクオリティです。text to imageの方が基本的にクオリティが高い上に早い、つまりimage to imageを使うと手間がかかる割にはクオリティが上がるわけでもありません。

 

3D人体モデルはイマイチ

「image to imageが見た目ほど有能ではない」ということが最初に発覚したのは3D人体モデリングソフトの利用を検討したときです。

3D人体モデルのキャプをimage to imageに食わせれば狙ったポーズが出せることを発見して「これで全部済むじゃん」と盛り上がっていたのですが、結局のところ実用レベルではないことが判明して挿絵にも一度も使っていません。

例えば、これは主人公が崖からの投身を試みるシーンの挿絵案です。

左から順に

  1. image to imageの元にする3D人体モデル
  2. 3D人体モデルからimage to imageで作成した挿絵
  3. text to imageのみで作成した挿絵(実際に使用)

です。

真ん中のイラストが何だか動きに乏しくてもんにょりしている一方、右側のAIに任せたイラストの方が下からのあおりになっていて立体感と動きがあり、女の子も可愛いです。よく見ればそもそもそこまでポーズを正確にトレースしてくれているわけでもなく、物理的に正確なだけの3Dモデルを提示したことによって却ってイラストらしい遠近を考慮した外連味が出なくなる悪影響の方が大きいことが伺えます。

AI活用派のイラストレーターがよくやっているように最初から完成形に近いイラストを自作してimage to imageの素材にできる場合は別として、雑な素材でポーズやアイテムを伝えるためだけにimage to imageを用いるのは基本的に上手くいかないことの方が多く、素材を用意する工数も考えるとあまり有望なやり方ではありません。

 

基本プロンプト

text to imageではだいたい以下のような構成のプロンプトを使っています。

{{masterpiece}},{{best quality}},illustration,{{1girl}},beautiful detailed girl,beautiful detailed eyes,Depth of field,8k wallpaper,white hair,long hair,red eyes, {{black_sailor_collar}},{{black_serafuku}},{{white_trench_coat}},{{short_shorts}},shoes,{{{{{{thinking}}}}}},dirty room,dark room,sword,gun,bullet,weapon,scorch mark,clutter,dust,armoury,very close to viewer,squatting

  1. クオリティ絡みの単語
    元素法典とかでよく頭についてるやつです。もっとワードを増やして"ultra-detailed"や"beautiful detailed effect"や"extremely detailed CG unity 8k wallpaper"を入れている人も多いですが、目的が挿絵につきリッチさより正確さや自由度の方が欲しいため、このくらいまで削ったところに落ち着きました。「そもそも根本的に何か方向性が違う気がする」みたいなときはだいたいこの辺のワードを弄ると解決します。
  2. キャラ情報の単語
    出すキャラごとの特徴を指定します。基本的にキャラごとに固定ですが、上半身だけのイラストや顔アップを出す場合は不要な下半身の情報を削ったりします。
  3. その他表情やシーンを指定する単語
    背景、表情、ポーズ、構図などを指定します。一番弄る枠です。danbooruタグに無い単語でも大元の言語モデルが割と何でも解釈していい感じに出してくれるっぽいので、とにかく思い付いたものを書きまくってから上手くいってなさそうな単語を削るというやり方が上手くいきやすいです。

ネガティブプロンプトは元素法典からの流用です。

longbody, lowres, bad anatomy, bad hands, missing fingers, pubic hair,extra digit, fewer digits, cropped, worst quality, low quality

あまり弄らないですが、「黒い帽子だが魔女ではない」というとき"witch hat"を加えたり、「セクシーな印象にしたくないので口紅は要らない」というとき"lips"を加えたり適宜調整します。

Stepsは28、Scaleは6がベースです。Scaleは5~8くらいの範囲で弄り、デフォの11はダイナミックなイラストが出にくいので滅多に使いません。

あとはいい感じのイラストが出るプロンプトになるまで微調整しながら回します。体感的にはだいたい5クリック、粘っても10クリック以内にワンチャンありそうなイラストが出なければたぶん無理なのでプロンプトを書き換えた方がいいです。

 

使う挿絵の選別

いい感じのイラストを出してくれるプロンプトが出来たら、それを何度も回したりVariationsを使ったり出たイラストをそのままimage to imageにかけたりして候補を10個くらい出します。

この挿絵だと以下のような案を複数出してこの中から選んでいます。

ここは主人公がラリって嘔吐寸前になってるシーンで、一番余裕がなさそうで限界感のある右下を採用しました。

 

2.必要ならimage to image

どうやってもtext to imageでは生成できない要素が欲しい場合や、特定の場所に細かい要素を加えたい場合などはimage to imageを行います。

左から順に

  1. text to imageで作った元素材イラスト
  2. 元素材イラストに適当な花の素材を載せたもの
  3. 花の素材ごとimage to imageしてならしたもの

です。このキャラは左目から直接花が生えているのですが、「目に花が生えている」に一番近いタグ"flower over eye"はtext to imageでは機能しなかったのでimage to imageを使っています。
この手の要素を追加するimage to imageにはかなり再現性があり、上手く出ずに困ることはあまりありません。Strenghは0.1~0.4、Noiseは0.05~0.2程度で適宜調整します。

またimage to imageで面白かったのが、人体を損壊する挿絵ではネガティブプロンプトにデフォルトのbad anatomyが入っていると上手くいかないケースです。
この主人公が四肢切断されるシーンでは、まず血まみれで倒れているイラストをtext to imageで生成し(←)、人力の加筆修正で腕を削ったあとにimage to imageして四肢切断された挿絵を出しています(→)。

この際にbad anatomyをネガティブに指定しているとAIが腕を生やそうとして綺麗に出ないので、事前に削除しておく必要があります。

 

3.必要なら文章を書き換えて合わせる

AIイラストをFIXしたあと、大抵はそれに合わせて地の文を書き換えます。理由は11月の記事に書いた通りで、AIイラストは文章描写と整合するイラストを出すことが難しいために逆に文章側を寄せるのが有効だからです。

ざっくり分けて、AIイラストに近付けるための文章を追加するパターンと、AIイラストに合わせて文章を改変するパターンがあります。

 

文章を追加する

 彼方は持ってきた木刀をイツキに投げてよこした。中身が詰まった木材を彼方が削り出したもので、それなりの重量があるがイツキは片手で軽くキャッチする。

元はこの文章に対して生成した画像をイラストに使っているのが以下の箇所です。

木刀を受け取っただけではなく、イラストに合わせて構えている描写を追加することで挿絵への誘導がスムーズになります。

 

文章を改変する

 確かに死体は畑の隅の方に無造作に積み上げられていた。刻まれた腕や足や目玉が、収穫された果実のように堆積している。いくら目立たない場所とはいえ、これだけのものを見逃すことは普段の彼方なら有り得ない。
 しかし死体は始めからそう運命づけられていたかのように、そのくらい自然に茶色い土の上で鎮座していた

元はこの文章に対して生成した画像をイラストに使っているのが以下の箇所です。

当初の想定では刻まれた死体が地面に積まれていたのですが、AIイラストを受けて死体は地中に埋められていることにしています。
「畑の上に積み上がったバラバラ死体」というイラストはAIには難易度が高く、どうしてもゾンビや負傷しているだけの人間が出てしまうので、代わりにそこそこ綺麗に出る血痕に文章を合わせる方向に修正しました。

AIイラストに合わせて軽く書き換えるだけというと簡単そうですが、実際の作業としてはそれなりにコツが必要です。
生成の傾向を見て頑張れば出そうなものと頑張っても出なさそうなものを予測し、目当てのイラストが出るまで生成を粘るのと文章を書き換えるのはどちらが早そうか、妥協するとして対応箇所は妥協してもよいテキストか、というような許容ラインと作業対象を動的に都度都度判断する必要があるからです。
どうしても望むシーンが出ないのであれば、挿絵は少し違うシーンにするという判断もアリです。

 

複数キャラが出ない問題

どうしても出来なかったこととして「特定の複数キャラを出す挿絵」があります。
text to imageでもimage to imageでもすぐに複数の特徴が混ざってしまって上手くいきません。何度もガチャし続ければ出ないことは無いと思いますが、工数的に現実的ではないと判断して概ね諦めています。

最近プロンプト内の単語が作用している領域を可視化するやつ(アテンション機構みたいなやつ)をたまに見るので、その逆でプロンプトの作用領域を指定できるモデルとかあれば何とかできそうな気がします。もうあったら教えてください。

一応、唯一安定出力できる裏技ケースを一つだけ発見しました。

「双子とかで外見が著しく似ているキャラ」なら出ます。

 

さいごに

挿絵生成のススメ

オリキャラをAI生成するのは本当に楽しいです。

やる前は作業量が膨大過ぎて無理だろと思っていたのですが、いざ始めて見ると自分のキャラクターたちが自由に動き回っているのは楽しくて全く苦になりません。慣れ次第でキャラのビジュアルを保ったままで色々な背景や表情やポーズをかなり自由に指定できるようになります。

生成AIが登場する前にキャラメーカーを使って作っていたオリキャラたちとNovelAIで作ったキャラクターの比較が以下です。ビジュアルを引き継いで綺麗にアクションさせることが出来ています。

既にキャラクター小説を書いている方はもちろん、Twitterでよく見る「AIでオリキャラ(うちの子)の立ち絵や一枚絵を作っているが小説を書く気はない」という方も「挿絵」を作ってみるのはとてもオススメです。具体的で尖ったシチュエーションを細かく想定して挿絵を出力してみると、今まで見えなかったキャラの一面が見えてくるからです。

例えば「夜に暗い教室で魔法が通じない敵に追い詰められて泣きそうになってる」とか「仲間が殺されて血の海の中で決意を新たにしている」とか、それっぽいエモそうなシーンだけ考えれば十分です(イラストを出すだけなのでその状況に至る物語は考えなくてもいいです)。納得いく挿絵まで調整しているうちに「このキャラってこんな表情するんだ!」とか「この子は魔法使うときこういう感じかも」とか「このキレ方はしないな」とかどんどん理解が深まっていきます。

 

コンテスト優勝だけが正義じゃない

今のAIイラスト界は「コンテストで優勝する」「pixivで評価される」「TwitterでRTされる」タイプのイラストがやや過大に評価される傾向があるように感じます。そうしたイラストは「一目で注目を引ける」ことが評価基準となるため、インパクトの強い色彩や構図が採用されたり、エフェクトや小物の情報量が多い華美なイラストが志向されたりする傾向にあります。

しかし、「一目で注目を引ける」は無数にあるイラストの評価基準の一つに過ぎません。イラストには様々な用途が存在し、使い道次第で評価基準も変わってきます。
確かにパッケージや広告等でコンバージョンを稼ぐために使うイラストなら「一目で注目を引く」が最優先要件になりますが、既に購入・閲覧されている作品内で用いるイラストが「一目で注目を引く」必要はそれほどありません。例えば2Dアクションゲームで背景に置いておくだけのイラストに目を引き付ける凝ったエフェクトが施されていたらユーザーが混乱しますし、ノベルゲームの立ち絵が目を引き付けるべきかどうかはキャラ設定や物語に応じて判断すべき部分でしょう。

身も蓋もないことを言ってしまえば、少なくとも現状で本当に「一目で注目を引くイラスト」が欲しいなら時間と工数が許す限り普通にプロのデザイナー・イラストレーターに依頼すべきです。実際、僕は「表紙のように一目でのインパクトが要求されるイラストはAIには荷が重いのでプロのイラストレーターに発注する」「挿絵のようにインパクトが不要で大量に欲しいイラストはAIで作成する」という使い分けが最も妥当だと判断してそうしています。

もちろん今は「人間が強い分野でこそAIがバリューを出せたら凄いよね」というモチベーションでチャレンジされているフェイズであることは理解していますし、コンテストで優勝するAIイラストにも大きな価値と関心があります。
ただコンテストでの評価基準はイラストの用途全てをカバーする要件では全くないし、イラストAIを作品に用いるにあたっては異なる要件が生じる方が普通であることや、イラストAIの最も素朴な強みはむしろ逆で「そこそこ程度のイラストの大量生産」であることは留意しておいても良いと思います。

 

 

最後に改めてかなり面白い全話AI挿絵付きWeb小説『ゲーミング自殺、16連射アルマゲドン』をよろしくお願いします。

www.alphapolis.co.jp

22/12/9 君はAI創作の最前線にして最底辺「AI拓也」を知っているか

そろそろAI拓也について誰かが語らなければなりません。この貧乏くじは僕が引きます。

AI創作の最前線にして最底辺

まず薄いオブラートに包んで言えば、「AI拓也」とは「ニコニコ動画において拓也という人物をテーマにAIを用いて制作された動画作品」の総称です。
衰退甚だしい現代ニコニコ動画において、AI拓也がメインコンテンツの一つであることは疑いようのない事実です。ランキングの右の方に常に陣取り、10万再生越えの殿堂入り動画が100本近く存在するほか、1年以上に渡ってたくさんの投稿者が新しい動画を毎日投稿する盛り上がりを維持しています。

そしてAI拓也は名前の通りAIを活用した創作コンテンツでもあります(主に文章AI、特にAIのべりすと)。AIのべりすとが稼働を始めた2021年11月頃というかなり早い段階からジャンルが成立しており、今では1000本近い動画が閲覧可能な、国内でも数少ない創作AI動画作品の宝庫です。
ニコニコらしいクリエイティビティが発揮された作品には目を見張るものがあり、AIによる基本的な執筆支援はもちろんのこと、AIとの執筆セッションのエンタメ化、AIをテーマにしたメタフィクション、音MAD路線やイラストAIとの融合など様々な実験的アイデアが日々試みられています。
ニコニコ特有のコメント機能によって手法や表現が秒単位かつ自然言語で評価されるフィードバック環境も整っており、投稿者と視聴者が一体となって相互参照やハイコンテクスト化を繰り返しながら凄まじいスピードで発展し続けるプレイグラウンドとして機能しています。
総じて、今後本格化していくであろう生成AIをエンタメ作品制作に活用する流れにおいて、AI拓也での試みの数々は重要な参考点になることを確信しています。

ただしAI拓也はいわゆる淫夢コンテンツの派生であるために無視できない難点を二つ抱えています。

  • 実在人物をモチーフにした人権侵害コンテンツであること
  • 肛門性交や食糞や飲精や薬物使用のようなやや人を選ぶ描写が多いこと

これらはあまりにも致命的であり、これだけ可能性に満ち溢れたカルチャーであるにも関わらずニコニコ外部への露出が絶望的である理由、誰も紹介したがらない理由もここにあります。

とはいえ、古くから日本のサブカルチャーを発展させてきた原動力が著作権侵害であることは誰もが知る歴史的事実です。モラルを持たない勢力がその制約なき消化能力故にいち早く新しい文化や技術を取り込むことはむしろ飛躍の典型であり、ただそのアングラさ故にAI拓也が誰にも省みられることなく歴史の狭間に消えていくのであればそれは人類の文化的損失と言わざるを得ません。今までAI拓也をリアルタイムで全て追ってきた者としてAI拓也が示してきた創作AIのエンタメ活用可能性を記録することがこの記事の目的です。

現状AI拓也はネットカルチャーにありがちな超ハイコンテクスト状態になっているのでしばらく注意点や事前知識や歴史について説明しますが、AI創作における技巧そのものを知るだけなら必須ではありません。ネット文化に関心が薄い人は「AI拓也傑作選」まで飛ばしてもいいです。

 

AI拓也と淫夢の相違点

(※淫夢に詳しくない人はこの節は飛ばしてもいいです)

淫夢民は「拓也ってKBTITのことね」「要するに野獣先輩の仲間ね」と早合点するかもしれませんが、その認識はかなり時代遅れと言わざるを得ません(現環境で拓也がKBTIT呼びされることも、拓也が野獣先輩と絡むことも極めて稀です)。

確かに拓也は淫夢の派生コンテンツですが、度重なる文化的飛躍を経て現在では元の淫夢からはほとんど独立したコンテクストを形成しています。ニコニコ動画上ではだいたい2021年末頃から本格的な拓也ブームが到来しており、ここ一年以内に淫夢の最前線に触れていない人は現代的な拓也をキャッチアップできていません。それ以前の淫夢知識で止まっている人は認識をアップデートする必要があります。

既存淫夢コンテンツと拓也の最大の相違点はAI拓也は映像ベースではなく文章ベースの動画であることです。
拓也コンテンツは(拓也さんが出演したホモビデオというよりは)拓也さんがかつて執筆したブログを元にして成立しています。素材としてホモビデオ動画を用いることもありますが、基本的にはテキストがメインコンテンツです。背景の上に画面一杯に表示した文字を淡々と読み上げるというサウンドノベル風のフォーマットを取ることが多く、動画の切り貼りで成立している既存の淫夢動画とは全く異なる形式を持っています。

一般的な淫夢動画(左)と一般的な拓也動画(右)の比較
左: インタビュアーに拷問されても絶対に自分の事を話さない先輩 - ニコニコ動画
右:
AIの力で上位者『拓也』を創造する - ニコニコ動画

また拓也ミームは高度に独立しており、既存の淫夢ミームはほぼ通用しません。
拓也さんは(ホモビデオの台詞のみならず)ブログとしてテキストを残していることから拓也語録が非常に多く、拓也さんだけで他の淫夢語録に匹敵する質と量を備えています。よって拓也系動画では「チョーSだよな」などの拓也語録を用いるだけで十分であり、「イキスギィ」などの非拓也語録を用いる必要がありません。特にAIの流入以降はAIが拓也語録を生成するという自家発電が成立し、拓也ミームは雪だるま式に膨れ上がる一方です。
同じことは語録のみならず作品に登場するキャラクターにも言えます。つまり拓也動画に非拓也系淫夢キャラクターが登場することはまずありません。野獣先輩のように元々絡みがないキャラはもちろん、店長やポイテーロのようなホモビデオ上で接触のあるキャラですら拓也動画への登場は非常に稀です。代わりに登場するのは拓也の怪文書に登場したキャラクターであるマネージャーやマサヒコさん、及びAI拓也で生成された藍沢柚葉やホモイルカなどです。

総じて拓也カルチャーは元の淫夢と切り離された独自のミーム圏、古典淫夢知識ではまず歯が立たない新領域を構成していることに留意する必要があります。

 

AI拓也の歴史

(※ネット文化に関心がない人はこの節は飛ばしてもいいです)

AI拓也が成立したのは2021年11月頃ですが、大元となるコンテンツは2007年頃から存在しています。厳密に言えばAI拓也は怪文書の派生コンテンツである同人拓也の派生コンテンツであり、つまり「①怪文書→②同人拓也→③AI拓也」という流れを踏まえる必要があります。

 

怪文書について

ホモビデオ男優である拓也氏が2007年頃にブログに投稿していた文章、通称「怪文書」が全ての始まりです。複数存在する怪文書群は2017年頃からニコニコ動画上に投稿され始め、常軌を逸したストーリーや異常な文体から一定の人気を得ていました。

ウリで狂ったあと 投稿者: 拓也 - ニコニコ動画

後に同人活動の土壌となるための大きな特徴として、怪文書は内容と形式の両面であまりにも独特であるが故に却って模倣が容易であったことが挙げられます。
具体的には、どの怪文書も独特な語尾や言い回しを用いて肛門性交を中心とした性生活を描いているため同人活動の際にはそのフォーマットをなぞればよい、つまり「どんな舞台や展開であろうと独特の言い回しと肛門性交描写を押し込んでしまえば拓也として成立する」というハードルの低さは同人活動のみならずAIのラーニングにおいても技術的な優位点となっています。

 

同人拓也について

一部での怪文書人気に並行して、怪文書の独特な内容や言い回しを模倣して書かれた二次創作である「同人拓也」が出現し始めます。
同人拓也の存在自体はニコニコ動画上に怪文書が投稿され始めたのとほぼ同時期の2018年頃にまで遡ることができますが、一つの流れを作ったのは2021年5月に投稿された「台風接近で淫獣が増えるよね」だと思われます。

台風接近で淫獣が増えるよね 投稿者:ビルダー拓也 - ニコニコ動画

もともと怪文書は15年以上も前に個人ブログに投稿されたテキストであるために多くが散逸しており、「台風接近で淫獣が増えるよね」もタイトルの存在のみ確認されているが本文が不明という状態の怪文書でした。そこでファンユーザーがそれらしい内容を拓也らしく書いてみたのがこの作品です。実際の怪文書と遜色ない頭のおかしい内容は高く評価され、これを模倣した同人拓也が少しずつ増え始めます。 

そして2021年10月に投稿された同人拓也『支配するものされるもの』(『支配』)が以後の流れを決定付けました(原典跡地→)。個人的には拓也全史において最も重要な作品を挙げろと言われたらこれを挙げます。

【再うp】支配するものされるもの 投稿者:サーフ系ボディビルダー拓也 - ニコニコ動画

『支配』が革新的だった点は怪文書のフォーマットを忠実になぞりつつも完全にファンタジーに振り切ったディストピアSFを描いてみせたことです。
『支配』までは同人拓也は「怪文書をどれだけ模倣できているか」が評価軸であり、原典の怪文書と見分けが付かない程度のリアリティで書かれることが前提になっていました。
一方、『支配』では巧みな導入で隠蔽されつつも完全なSF世界に拓也が投入され、目的は明らかに「怪文書の模倣」ではなく「拓也を用いた創作」へとスイッチしています。軸足を移しながらもクオリティの高いSFを描いた『支配』によって認識が切り替わり、「拓也で創作をやる」という道筋が切り拓かれました。

 

AI拓也について

2021年10月に『支配』に触発された創作寄りの同人拓也ブームが到来すると同時にAIのべりすとがサービスを開始したことは人類史における奇跡の一つです。

同人拓也で創作活動を行っていたユーザーたちは創作支援ツールであるところのAIのべりすとにすぐ目を付け、2021年11月頃には早くもAIを利用した同人拓也が生成され始めました。これがAI拓也の成立であり、それに伴って既存の人が書いている同人拓也は区別のため遡及的に人力拓也と呼ばれるようになっていきます(当初は「ジェネリック拓也」「怪文書偽典」「別冊拓也」などと呼称がまちまちでした)。

まとめると、同じように見える拓也動画にも

  1. 怪文書:2007年頃に拓也氏が執筆し、2017年頃からニコニコ動画上に投稿され始めたブログ記事
  2. 同人拓也(後に人力拓也):2021年5月頃から淫夢ユーザーによって人力で生成された怪文書の同人作品
  3. AI拓也:2021年11月頃から淫夢ユーザーによってAIで生成された怪文書の同人作品

という三種類が存在しています。複雑な歴史のために相互参照関係は混沌としており、単に怪文書をオマージュしたAI拓也だけではなく、AI拓也から派生した人力拓也やAI拓也を元に作られたAI拓也(シンギュラリティ拓也)など様々なパターンが存在します。

また注意点として、人力拓也はAI拓也に置き換わったわけではありません。どちらも今に至るまで相互に影響を与え合いながら並行して投稿され続けています(ただし手間がかからないAI拓也の方が勢いが強い傾向があります)。

 

AI拓也傑作選

現在AI拓也は1000本近くの動画が投稿されており、だいたい全部見てきた中から時系列順に重要な作品を紹介します。単純な面白さやクオリティよりアイデアの独創性や手法の新規性を評価し、各動画の意義をそれぞれ解説します。

動画の内容は全て最初から最後まで終わっているので外では開かないでください。

【重要度指標】
★★★:これを見ずには語れない
★★☆:見ておいた方がよい
★☆☆:見てもよい

2021年11月『AI自動生成タクヤの評判』★★★

AI自動生成タクヤの評判 - ニコニコ動画

最古のAI拓也にして最多再生数を誇る記念碑的な動画です。

タイトル通り、かつて実際に掲示板に書き込まれた拓也の評判をAIに学習させることで偽の評判を生成しています。完全な創作というよりは「既に存在するテキストと連続しても違和感のない、本来は存在しないが類似したテキストを生成する」という拡張路線を取っている点は黎明期らしく、AIをゼロからの創作に用いるよりも既存テキストの変奏を生成する方がハードルが低いことを示唆しています。

この動画からは「国民全員でこいつを逮捕しろ」などが語録として定着しており、AIによって自動生成されたテキストであっても原典と同様にミームを形成できるという、最も基本的な文化ポテンシャルが示されています。

 

2021年12月『タクヤ依存症対策条例』★★★

タクヤ依存症対策条例 制定者:AIのべりすと - ニコニコ動画

「ボケ倒し」というAIの基本芸風を確立した初期の傑作です。

お堅い公文書フォーマットを用いて性的でインモラルな内容を述べるシュールなテキストが20分近くに渡って延々と表示され続け、そのギャップと意味不明さに対して視聴者がコメントで草を生やしたりツッコミを入れたりする構造になっています。

この「AIが淡々とボケてコメントが突っ込む(投稿者が突っ込むわけではない)」という構図は文章生成AIの弱点を逆手に取った活用法でもあります。
統計分析によって文章を繋ぐ現代的な生成AIは、ルールベースAIやオントロジーAIに比べて論理的な整合性や意味連関を保つのが困難であることが知られています。通常の文書作成であればそれは欠点ですが、娯楽領域においては「ボケ」として解釈することでむしろその精度の低さが面白さとして享受されます。とりわけAI拓也においては肛門性交や薬物使用のような馴染みの薄い概念を用いるため異常な文章が生成されやすく、なおさらギャップが強調されることになります。

また、人力でのボケ倒しと比べて、AIのボケ倒しは「ボケ側の笑いどころ意図をツッコミ側は意識しなくてもよい」という強みがあることが伺えます。
例えば、お笑いで芸人がボケ倒して視聴者に突っ込ませる場合、「芸人は自分がボケていることに気付かないフリをしているが、視聴者は実は芸人がボケていることを承知している」というかなりハイコンテクストな前提が暗黙に設定されます。よってツッコミは「芸人から提示されたボケを読み解く」という一種の謎解きによって成立する、やや高度な営みになります。
一方、AIによるボケ倒しは虚無から何の理由もなく生成されたゼロのボケです。背景に芸人側の意図が背負われていないため、視聴者はメタコミュニケーションから解放されて人それぞれにおかしいと思ったポイントに突っ込むことができます。この視聴者側の気軽さは非同期一方向コミュニケーションであるコメントシステムと相性がよく、これも「AIは意図を理解しない(し、消費者もそれを承知している)」という本来は欠点である部分がお笑いにおいてはプラスに転化する例と言えます。

 

2022年1月『AIを使って拓也さんを「ジョジョの奇妙な冒険」に登場させる』★☆☆

AIを使って拓也さんを「ジョジョの奇妙な冒険」に登場させる - ニコニコ動画

典型的な創作系動画の一つです。

拓也を一人のキャラクターとしてリアル・フィクション問わず様々な世界に登場させるものはAI拓也の中でも最もメジャーな動画ジャンルの一つです。他にも『AIで拓也を競馬界に登場させてみた』『AIで拓也さんを儒家にさせた』などの類似作品は無数に存在していますが、とりわけこの作品のように一般的には難易度が高いクロスオーバー作品も多く投稿されることは特徴的なポイントだと考えます。

通常、クロスオーバーなどで既によく知られた題材同士を掛け合わせる場合、題材が増えるごとに制作にかかる労力は大きくなる傾向があります。複数の文脈全てで整合して面白くなるようにウェイトを管理していく必要があるからです。例えば拓也をジョジョに出すとして、どんなスタンドを持たせてどのように活躍させるかは創作者の腕の見せ所ではあると同時に、労力の嵩むポイントでもあります。
その一方、AIにとっては文脈が増えるとむしろ生成は容易になる傾向があります。ユーザーとしては学習元に設定を詰め込むだけの作業で、AIにとっては生成する文章が限定されていくために解釈に合わない文章を出力する自由度が小さくなっていくからです。

つまり、やや乱暴な図式ではありますが、人力の場合は元になる設定が多い方が整合を取る労力が増していくのに比べて、AIの場合はむしろ生成文章が限定されて創作が容易になるという逆の傾向があります。これはAIによる創作はクロスオーバーなどの文脈横断的な営みを容易にすることを示唆します。

 

2022年2月『AIで拓也をHUNTER×HUNTERの世界で活躍させる【ハンター試験編】』★★★

AIで拓也をHUNTER×HUNTERの世界で活躍させる【ハンター試験編】 - ニコニコ動画

投稿者とAIの間での執筆セッションをエンタメに昇華した傑作です(再投稿前の元動画は2022年2月23日に投稿されているため2月扱いとしています)。

まず前提として、AI拓也では一般的に表示テキストにおいて「赤文字は投稿者入力、白文字はAI出力」という区別がされています。これは全てのテキストをAI出力に任せていると望まない方向に暴走したりするので、適宜投稿者が手を入れて方向付けを修正した履歴を示すものです。元々は「人力で書いた部分をAIが書いたと偽るのはよくない」という奇妙な誠実さによって発生したフォーマットだったのですが、これが「執筆セッションのエンタメ化」というAI拓也に特有の事態を引き起こすことになります。

この作品でもAIが白文字で大部分を書いている一方で、時折投稿者が赤文字で介入していることが示されています。

この作品は拓也がハンター試験に参加するという設定の二次創作ですが、白テキストにおいて生成AIが不合格や死亡によって拓也を葬ろうとしている一方、赤テキストで投稿者が介入して何とかリタイアを食い止めようとしていることが示されています。この様子は「AIとの喧嘩」「投稿者vsAI」などとコメントされ視聴者にも大いにウケており、ベタなテキスト表現よりも一段上のレベルとして、紅白色分けで示されるメタなコミュニケーション表現がエンタメとして消費されていることが伺えます。

この作品が示すのは、AI創作においてはテキストのベタな読みだけではなくメタな執筆模様もエンタメとしてパラレルに提示できるということです。一次的な文章のレイヤーでは拓也がハンター試験に受かったり受からなかったりする文章でしかありませんが、ここに介入のコンテクストを加えることによって投稿者とAIの間でのプロレスを同時に描くことができます。

そしてこの二重化を成立させているのは、AI自動生成は制作工程が可視化されるテキスト上でのみ行われるという特徴です。
これが人間とAIではなく人間同士の喧嘩であればそれが文章上で可視化されることは有り得ません。二人の人間が行う「拓也をハンター試験に合格させるかさせないか」という議論は実際に生成するテキスト上で行われるものではないからです。それは会話なりdiscordチャットなりで行えばよいことで、わざわざテキスト上でお互いに文章を書き換えあうことで意志を示すのは極めて不自然で、制作工程の表示というよりはそういう趣旨のパフォーマンス的表現としか解釈できません。
一方、AIはどこまでもベタなテキストの粒度でしかコミュニケーションを行えないため、テキストそのものが投稿者とAIの間の闘争の現場になります。これにより、執筆セッションそのものをテキストに繰り込んでベタとメタをまとめて提示する新しい道が拓かれます。

 

2022年2月『AIの力を使って拓也を核融合炉に飛び込ませてみた』★★☆

AIの力を使って拓也を核融合炉に飛び込ませてみた - ニコニコ動画

ボカロ曲『炉心融解』に合わせる歌詞をAI生成した音MAD路線の作品です。

単に歌詞をAI生成しただけではなく、AI拓也動画に特有の表現を色濃く引き継いで音MADに昇華したところが大きな特徴です。具体的には以下のようなポイントが挙げられます。

  • (『炉心融解』をもじったタイトルではなく)AI拓也動画にありがちなタイトルになっている
  • 本来ボーカロイド用途を想定されていないはずの読み上げ音声が歌唱している
  • 歌詞が投稿者入力とAI出力に応じて色分けされている
  • しかもその表明テキストも歌詞になっている(「赤:投稿者 白:AIのべりすと」)

単なるテキストとして歌詞の生成をAIに支援してもらうのではなく、既に確立されたAI拓也というより大きなAI創作文化単位でのポイントを楽曲に結び付けるという、高度な文化的活用を行った先進性を感じる作品となっています。

音MAD路線を更に推し進めた作品として2022年4月『マッタク・ニテイナイザー』があります。

マッタク・ニテイナイザー - ニコニコ動画

特に元楽曲にある謎の詠唱を拓也ラーニング済AIで勝手に拡張しているパート(0:45~)が秀逸です。「わかるようでわからない難解な語句の羅列」という新たに注目された現象を繰り込みながら(いわゆる松本人志現象→)、音MADでは有り得ないはずの「仕切り直し」を楽曲中に挿入するという前衛的な表現が導入されています。

 

2022年2月『AI拓也にYahoo!知恵袋の回答をやらせる』★☆☆

AI拓也にYahoo!知恵袋の回答をやらせる - ニコニコ動画

タイトル通り、AI拓也で外部質問サイトに回答させた様子を動画にした問題作です。

普通に迷惑行為であるため賛否両論の作品ですが、倫理を一旦脇に置くとチューリングテスト路線というアイデアに可能性を感じることは否めません。
本来のチューリングテストは「被験者は会話相手がAIであることに気付くかどうか」によって「AIが自然に喋っているか否か」を検証するものですが、しかしエンタメにおいては必ずしも人間の完全な模倣が目指されるものではないということは何度か触れた通りです。
むしろAI側が人間らしからぬ異常な受け答えをする、話が噛み合っているようで一切噛み合わないという異物感の方が娯楽領域においては評価されうるということがこの作品からは示唆されます。既存のものとしてはアンジャッシュやドッキリ番組に近いものとして、例えば何も知らないユーザーにやや不自然な応答をするAIと会話させることで何らかの面白さを見出すタイプのエンターテイメントは今後成立してもおかしくありません。

 

2022年2月『普樋の高■生・藍沢柚葉の曰屺 出力日:2022年1月9315日(拓)99:99:99』★★★

普樋の高■生・藍沢柚葉の曰屺 出力日:2022年1月9315日(拓)99:99:99 - ニコニコ動画

AI拓也を題材にしたメタフィクションの怪作です。この作品のテキストは全て人力生成されているため厳密には人力拓也ですが、AI拓也を色濃く踏まえた内容なのでここで紹介します。

この作品の主人公である「藍沢柚葉」はAI拓也でよくAI生成されているキャラクターの一人です。彼を用いて生成する側から生成される側へと視点を移し、投稿者がAI拓也の世界に介入するのではなく、投稿者に介入されているAI拓也の世界から見た事態を描写するという逆さまの表現が試みられています。
既に紹介したように、これはAI拓也においては投稿者とAIの関係は視聴者に意識されており、時にはそれ自体がエンタメとして消費されることを踏まえたものです。投稿者がAI出力文章を少し書き換えて方向性を修正する行為(一般的なフォーマットでは白文字文への赤文字文挿入)を「AI世界への介入」としてSF的に再解釈し、介入される側の視点からその異様さを描くメタフィクションに昇華しています。

また、AIによる生成の構図を踏まえた作品には2022年1月『ひとりぼっちのたくや』も挙げられます。

ひとりぼっちのたくや 投稿者:unknown - ニコニコ動画

こちらは挑戦的な動画構成によって生成を繰り返すAIの苦悩を語るメタ文学です。AI創作には生成主体自体を客観視する契機が色濃く存在することを踏まえ、従来AIに与えられてきたようなシンギュラリティイメージが組み合わされています。

 

2022年4月『AI2人に拓也さんについて議論させてみた』★★☆

AI2人に拓也さんについて議論させてみた - ニコニコ動画

文章生成AI同士に疑似的なコミュニケーションを行わせた作品です。
議論に参加するAIそれぞれに独立して異なる情報を学習させ、相互に入出力を繰り返すことで会話を再現し、投稿者及びユーザーはそれを見守るという形式になっています。

いわゆるマルチエージェントの知能システム(サブカル的にはエヴァのMAGIみたいなやつ)に類似していますが、

  • 生成AIを複数ウィンドウで開いて出力をコピペするだけでいちおう独立系を干渉させられるので低コストで実現できること
  • エンタメなので会話劇として面白ければ建設的な知見は必要とされないこと

の二点は生成AIのエンタメ活用として特筆に値する特徴です。

この動画でも基本的に話が噛み合っていない(しかし稀にロジカルに見える)議論が楽しまれており、入出力形式が同一の生成AIを手にしたらとりあえず疑似マルチエージェント構成を試してみるというのは良いアイデアのように思います。

 

2022年4月『AIを使って拓也さんをマリオ64のステージにする』★☆☆

AIを使って拓也さんをマリオ64のステージにする - ニコニコ動画

不条理路線の創作作品です。

既に述べた通り、AI創作はアイデアさえあればとりあえずのテキストが出力され、突飛で不可解な表現もむしろ面白がられる傾向にあるため、どんどん題材の過激化が進んでいきました。拓也さんを他の舞台に登場させる創作路線はアイデア争いがインフレしていき、最終的に概念にするという不条理路線に行き着いています。

今も不条理系作品は大きな勢力を成して『AIを使って拓也さんをSDGsにする』『AIを使って拓也さんを激エロハンバーグにする』などの類似作品が無数に存在しており、AIの基本芸風であるボケ倒しとの相性の良さ、AI創作による破綻を恐れない概念的飛躍の容易さが伺えます。

 

2022年5月『AIを使って拓也さんを放送作家にする』★☆☆

AIを使って拓也さんを放送作家にする - ニコニコ動画

この動画の内容そのものというよりは、この動画内で文章AIが生成した歌詞を音楽と複合させた楽曲「パラオナボーイ」が注目に値します。
パラオナボーイ」はAI拓也で標準的な楽曲として定着してAI拓也コンテンツの随所で使用されるようになり、音楽自動生成AIとの協働によって更に文化が深化したケースとなっています。

パラオナボーイ/さとうささら+インスト - ニコニコ動画

他にも2022年10月頃からはNovelAIを利用する路線のAI拓也も複数投稿されており、音楽のみならずイラスト方面からも創作内容を拡張する動きが見られます。

NovelAIにai拓也の評判を描いてもらった - ニコニコ動画

様々なメディアの生成AIが無料提供される昨今、text to musicなりtext to imageなりで同一の入力形式を持つ生成AIを動かすだけで済む創作のマルチメディア化が非常に容易であることが示唆されています。それぞれの間で必ずしも整合を取らずとも、とりあえず動かせば何かは出力されるのでイメージベースで面白さが広がっていくのも、何度も触れてきたような生成AIの反転した強みとして捉えられるでしょう。

 

2022年5月『AIのべりすとにAI拓也についてインタビューした』★☆☆

AIのべりすとにAI拓也についてインタビューした - ニコニコ動画

完全に擬人化されたAIのべりすとへのインタビュー形式の作品です。

生成AIを「文章を書いている人」として擬人化するイメージはかなり早い段階から存在しており、例えばAI出力文章が差別的な言動を始めた際に「AIくん!?」という弾幕が流れる光景はよく見るものです。それを更に推し進め、AIそのものをインタビュー対象として会話を行った内容になっています。

インタビュー形式で進行するフィクションはAIを用いない作品にも数多くありますが、生成AIを用いる場合は制作工程において実在の人物に対するものと全く同じように制作者がインタビューを行う体でテキストを生成できること、AIそのものへのインタビューが「実際に」成立していることが大きな優位点となります。
具体的には、ファンブック等でよくある架空のキャラクターにインタビューを行う体のテキストとは異なり、インタビュアーとAIの間にある緊張関係は誰かが整形したものではなく一次テキストとして表示されます。これもAIとの執筆セッション自体をエンタメ化するメタフィクションの一種と言えるでしょう。

 

2022年6月『AI拓也の雄膣ラジオ①』★★★

AI拓也の雄膣ラジオ① - ニコニコ動画

優れた企画力による傑作エンタメシリーズです。

ここまで紹介してきた作品は「生成AIの弱みを強みに転化する」という反転した方向性の動画が多い中、『雄膣ラジオ』は「AIの強みをそのまま強みとして活かせる企画を考案する」路線であり、企画力が頭一つ抜けていると感じます。

具体的には、AIのべりすとは「長期的な整合性を保つのは不得意だが、局所的な掛け合いは得意」「少しだけツッコミどころがあることを言うことが多い」といった特性を持っており、これらを活かしきるフォーマットとして「ラジオ形式」が選択されています。
ラジオは長いストーリーではなくゲストとの細かい掛け合いで成立するものですし、ゲストがややツッコミどころのある言動をしてMCがフォローするというやり取りも標準的なものです。毎回異なるゲストを招くので学習元を少し変えれば変化をつけやすく、続編の制作が容易であることもポイントでしょう。

創作フィクション派閥が概念路線に行き着いたように過激な方向に走る傾向が強い中、この作品では(AIを暴走させて楽しむのではなく)AIの暴走が緩やかに制御され、いかにもラジオらしく聞き流せる穏やかな会話劇をドライブしているところも異色の作品です。「手元にある素材の特徴を踏まえてそれが最も活きるフォーマットを考える」という企画力に裏打ちされた、学ぶところが多い名作です。

 

2022年7月『AIくんにタクヤ姫に登場した珍妙なアイテムについて解説してもらう』★★☆

人間がAIに不条理なテーマを与えるのではなく、逆にAIが生成した不条理な概念について人間が検討するムーブメントを成した興味深いケースが『たくや姫』及びその派生作品群です。

『たくや姫』は2022年2月に投稿されたAI拓也ですが、その中で『ウルトラマンフィギュアに精巣が入っていて萎えてる様子を収めたポラロイド写真100枚が入った封筒』などのあまりにも奇妙なアイテムが大量に提示されたことが後から話題を呼び、派生動画が複数作成されました。

たくや姫(竹取物語).ai - ニコニコ動画

例えば2022年7月『AIくんにタクヤ姫に登場した珍妙なアイテムについて解説してもらう』においては珍妙なアイテムの一つ一つについて再度AIに解釈を行う文章を生成させています。

AIくんにタクヤ姫に登場した珍妙なアイテムについて解説してもらう - ニコニコ動画

更には2022年8月に投稿された『レゴ・たくや姫』ではレゴによる珍妙なアイテム群のビジュアライズが試みられています。

レゴ・たくや姫 - ニコニコ動画

ここではAIが提示する意味不明な概念を逆に人間側のクリエイティビティで処理していくという方向性が逆転した事態が発生しており、ただ生成AIの意味不明さを笑うのではなく真剣に取り組んで深化させることの面白さが示されています。

 

2022年11月『「質問に答えるAI 」に拓也さんのことを尋ねてみた』★★☆

「質問に答えるAI 」に拓也さんのことを尋ねてみた - ニコニコ動画

新しい言語モデルAIに基礎的な質問を与えて答えを比較するベンチマーク路線の動画です。この動画ではCatchyが利用されていますが、同一投稿者によってChatGPT版なども作成されています。

通常はベンチマークと言えば正確さや適切さが評価されるものですが、この動画内では各種AIの返答に対する視聴者のコメントがエンタメ的ベンチマークを示すという構造になっています。

全体的にAI拓也特化学習を適用されたAIのべりすとが概ね異常な回答を返し、面白さとしてはそれが評価される傾向があります。やはり娯楽領域においては必ずしも高精度であることはメリットではなく、少なくともボケ倒しによるエンタメを望むのであればむしろ程々に意味不明なことを言う言語モデルの方が「精度が高い」ことになります。
一般的なベンチマーク測定で思われていることとは異なり、実は人間に寄せれば寄せるほどいいというわけでもなく、むしろ手頃なところでマージンを設けておくことの意義が伺えます。

 

AI拓也周辺トピック

補足としてAI拓也周辺のトピックに軽く触れます。

人力拓也との関係

人力拓也とAI拓也はどちらも怪文書の二次創作でありますが、それぞれで志向される傾向は異なっています。
人力拓也は特に初期はやはりディストピアSFである『支配』の影響が大きく、骨太な世界観やストーリーを持つ作品が主流でした。一方、AI拓也は意味不明なものも許容するアイデア勝負の不条理路線を目指す傾向が強いです。しかしAI普及以降は突拍子もない展開に進む人力拓也も増えてきており、AIの傾向性に人間の生成が影響を受ける実例と言えます。

特にこの趨勢を先行して象徴するようなコンセプチュアルな作品として、2022年2月に投稿された『人力で同人拓也のアイデアを考えさせてもらう』があります。

人力で同人拓也のアイデアを考えさせてもらう - ニコニコ動画

いかにもAIが生成していそうな内容をあえて人力で入力することで、AIが人間のクリエイティビティを模倣させるのではなく逆に人間がAI風の創作を試みる意欲作になっています。

また、前節で紹介したように内容が直接にAI拓也からの影響を受けた人力拓也も存在しています。いずれにしても生成過程としては独立していても文化的には明確に影響を与え合っており、一般的な現象として隣接した創作環境の間で干渉が生じる事態はAI拓也においても見て取れます。

 

人力疑惑の発生

イラストAI界隈ではイラストを人力制作と偽ってAIで制作するような「人力かと思いきやAI」というAI疑惑が問題視されますが、AI拓也では逆に「AIかと思いきや人力」という人力疑惑が糾弾される傾向にあります。

実際に人力疑惑によって削除された作品が『Aiを使って拓也さんを予備校講師にしてもらう』です。再投稿されていないため現在は閲覧できませんが、ニコニコ大百科のコメント欄に顛末が非常によくまとめられているのでそのまま引用します(→)。

1373
ななしのよっしん
2022/06/28(火) 12:43:55 ID: RyQ1Woe1+V
拓也ゼミナールとは
「Aiを使って拓也さんを予備校講師にしてもらう」という動画のことを指す

拓也達怪文書の登場人物を予備校講師にするという内容なのだが語録や構文の改変があまりに人間臭いにも関わらず白字だったため「書き込みは人力じゃないか?」と話題になった
それを受けて投稿者はテクニック紹介と題した動画を投稿したのだがそこで明かされたのがスクリプトの置換を駆使して出力したい文章をAIにひりださせるという形だけAI出力の実質人力入力と変わらない手法だった
そのような手法をとりながら人力疑心されると愚痴っていたため当然更なる追求を喰らい動画とアカウントの削除に至った

人力が疑われた文章が本当に人力だったという視聴者兄貴の人力疑心に拍車をかけた罪深い動画

こうした糾弾が発生するのは「視聴者は投稿者がAIを上手く扱っていることを評価しているので人力なら評価に値しないから」、つまりAI拓也は根本的にクオリティではなくAI活用能力を評価しているという前提があります。
そしてその前提は人力拓也との住み分けによって担保されているでしょう。単純な文学的クオリティとしてはAI拓也に勝っている同人拓也が無数にあるため、AIに単純なクオリティを求めてはいないということです。これはAIに勝るクオリティのイラストを描くのが一般人には難しいイラストAI界隈とは逆の事情であり、メディアの難易度に依存した面白い現象です。

 

まとめ拓也

色々な作品を紹介しましたが、総じてAI拓也に共通している特徴は「AIの持ち味をそのまま活かそうとしている」ことです。

通常の生成AIを用いた創作支援においては、最終目標を人間が書いたものと遜色ないハイクオリティな作品とし、生成AIをそのまま使うというよりはAIが出した文章案を適宜整形して自分の文章にするものが多いです。しかしAI拓也においては全く逆で、AIらしい不整合の残った作品を面白く活かす方向に考え、AIが出したものには手を加えずにそのまま使っていく傾向があります。
AIが出した文章をそのまま用いるスタンスはAI拓也文化全体に通底しており、意味不明な文章をそのまま投稿して楽しんだり、紅白のテキスト色分けによって人間が介入した部分は明示したり、AIではなく人力であることが明らかになった場合には激しく糾弾したりする色々な動きの根っこになっています。
そしてベタなテキストが破綻していることによって、却って高次の活用として執筆セッション自体をエンタメ化してAIとの喧嘩やAI同士の対談を楽しむなどのメタな運用が発生していきます。

AI拓也におけるテキストの破綻に対する無頓着さやメタ文脈への志向性は、正統な文学創作とは違う方向を向いているかもしれません。しかし様々なタイプの生成AIがメディアを越境して活躍していく変革のAI創作時代において、正統的な創作環境では有り得なかったAI拓也の試みの数々はとりわけエンタメ領野において時代に適合した新しい用途を無数に生み出すのではないでしょうか。

皆さんもAI拓也を見ましょうみたいな文章で締めたくなりますが、見るか見ないかで言えば見ない方がいいですね。

22/12/3 2022年6~8月消費コンテンツ

2022年6~8月消費コンテンツ

4ヶ月ぶりの消費コンテンツ更新で未だに夏の話をしている。

6~8月は理系出身者らしく技術系書籍を読んだり技術資格を取ったりしていた。

そろそろ真面目にKaggleやるかと思って名前にKaggleと付いている本を全部読むやつをやっていたが、完了しないうちにデータベーススペシャリストの試験日が迫ってきてそっちの勉強に移行してしまい、結局Kaggleには未着手のままで再開するかどうかは微妙なところだ。コンテスト形式ってあんまやる気出なくない?

メディア別リスト

アニメ(12話)

処刑少女の生きる道(全12話)

漫画(17冊)

カイジ24億編(1~17巻)

書籍(16冊)

データサイエンティスト検定(リテラシーレベル)公式リファレンスブック 第2版
ディープラーニング活用の教科書 実践編
深層学習教科書 ディープラーニング G検定(ジェネラリスト)公式テキスト 第2版
データサイエンティストの育て方
AI・データ分析プロジェクトのすべて
徹底攻略 データベーススペシャリスト教科書 令和4年度
分裂する現実 ヴァーチャル時代の思想
リーダブルコード
PythonではじめるKaggleスタートブック
データ分析が支えるスマホゲーム開発
データサイエンスの森 Kaggleの歩き方
はじめてのPython & seaborn
入門Python3
データ分析のための数理モデル入門
Kaggle Grandmasterに学ぶ 機械学習 実践アプローチ
pandasクックブック ―Pythonによるデータ処理のレシピ―

資格(3個)

応用情報技術者
G検定
データサイエンティスト検定(リテラシーレベル)

 

良かった順リスト

人生に残るコンテンツ

(特になし)

消費して良かったコンテンツ

データ分析のための数理モデル入門
応用情報技術者

消費して損はなかったコンテンツ

pandasクックブック ―Pythonによるデータ処理のレシピ―
処刑少女の生きる道
カイジ24億脱出編
データサイエンティスト検定(リテラシーレベル)
データサイエンティスト検定(リテラシーレベル)公式リファレンスブック 第2版Kaggle Grandmasterに学ぶ 機械学習 実践アプローチ
G検定
深層学習教科書 ディープラーニング G検定(ジェネラリスト)公式テキスト 第2版徹底攻略
入門Python3
リーダブルコード
PythonではじめるKaggleスタートブック
データベーススペシャリスト教科書 令和4年度

たまに思い出すかもしれないくらいのコンテンツ

はじめてのPython & seaborn
AI・データ分析プロジェクトのすべて
ディープラーニング活用の教科書 実践編
データサイエンティストの育て方
データサイエンスの森 Kaggleの歩き方

以降の人生でもう一度関わるかどうか怪しいコンテンツ

分裂する現実 ヴァーチャル時代の思想
データ分析が支えるスマホゲーム開発

 

ピックアップ

処刑少女の生きる道

異世界転生オタクがやたら勧めてきたから見たが、確かに見る価値があるアニメだった。全体的に逆張りし続けるのがかなり良くて見ていて飽きない。

ジャンルとしては異世界転生亜種だが、美少女主人公が異世界転生者ではなく異世界在住者というのがまず良い。そして「転生してくる日本人がチート能力で世界を荒らすのがクソ迷惑だから片っ端から殺す」というあまりにも露骨な異世界転生ものへのカウンター設定がとても良い。「転生者を殺したい主人公」と対になる位置に「異世界にワクワクしている典型的なオタク日本人転生者」であるヒロインが置かれており、主人公が表面的にはヒロイン(≒視聴者)が望んでいる異世界百合萌えヒロインを演じながら隙を見てヒロインを殺そうとしている関係は浅薄な百合ものへのアンチスタンスでもある。

ただ、「異世界転生における転生者の加害性」というテーマ自体はループを絡めて既にリゼロが提起している内容ではある(このブログでも何度か扱っている→)。視点を転生者から異世界者に変えるなどの工夫はリゼロの変奏として優れてはいるが、少なくとも一期の範囲では情報量不足でどのように発展していくのかが見えにくかった(中ボスとラスボスのどちらも主題とあまり深く関与しなかったのもある)。結局のところ主人公はヒロインと折り合いを付ける方向に着地しつつあること、ヒロインも一貫して主人公に協力的であることから、百合ものとして穏当な着地点に向かっているようにも見える。

ただ原作ラノベを読んでいるオタクによると一期以降の展開はもっと面白くなっていくらしいので、二期があれば見てもいい。暇なら抑えておきたい、ポテンシャルはかなりありそうなアニメ。

 

カイジ24億脱出編

賭博堕天録 カイジ 24億脱出編 17

賭博堕天録 カイジ 24億脱出編 17

Amazon

前に8巻くらいまで読んで、気付けば17巻まで出ていたので読み直した。もはやギャンブル漫画ではなくなって『最強伝説黒澤』的な人生漫画になってきているが、しかしそれがかなり面白い。

ここまでのシリーズで大金を求めて戦い続けてきたカイジが実際に24億を手に入れたあと、それでも人生は完結せずにその先が延々と続いていく様子が執拗に描かれる。10巻くらいまでは帝愛とのチェイスがエキサイティングに描かれていたが、それ以降は概ねカイジ有利で盤面が固定されて日常系っぽいものがダラダラと続いている。大金を入手したところでカイジは社会的なポジションを手に入れたわけではなく、帝愛に追われる立場で波長が合うのはどこまでも社会の隅で燻ぶるダメ男たちしかいない。

10巻以降の新たな展開として、敵である帝愛側の描き方も大きく変わってきている。今まで焼き土下座や指切りによってわかりやすく反社会的な悪の組織として描かれてきていたが、黒崎や遠藤を通して描かれる帝愛内部の実情はスピンオフのトネガワやハンチョウに近いものだ。それぞれがそれぞれの人生の中で人間味ある苦労を背負っており、帝愛の人々ですら泥臭い地続きの人生から逃れられていない。

これは単なる迷走や蛇足ではなく、ギャンブル漫画時代のカイジが持っていたテーマとも繋がっている。カイジがギャンブル中毒であることは今までのシリーズでも何度も描写されており、ギャンブルを続けることがギャンブル漫画の主人公としてのアイデンティティでもあった。黙示録編のように「結局ギャンブルに負けて金への渇望を維持する」という安直な末路は彼の役割をマッチポンプで延命させるだけであり、逆に「超大金を手に入れる大勝でギャンブルから離脱できるかもしれない」という局面にこそ真の葛藤が生じる。この漫画とカイジ自身がパラレルに落としどころを探していくという立て付けはギャンブル漫画の誠実な続編として興味深く、続きも楽しみにしている。

 

応用情報技術者

試験自体は4月に受けたやつの合格通知が6月に来た。もともと基本情報しか持っていなかったのでそろそろアップグレードしたかったのと、本命のデータベーススペシャリスト試験一部免除目当てで取得しておいた。

広く浅く膨大な範囲の知識を問う試験なので特に何が面白かったというわけでもないが、とりあえずうっすら技術的な会話に必要なボキャブラリーは身に付くので取っておいて損はしない系の国家資格ではある。いまどき大抵の会社でIT関連の知識が全く要求されないということはないだろうし、Twitterで技術的なトピックが話題になったときにちょっと調べればふんわり理解できる程度の知識は付く。

 

G検定/深層学習教科書 ディープラーニング G検定(ジェネラリスト)公式テキスト 第2版

G検定のGはGeneralistのG。ディープラーニングに係る諸々の内容をざっくりジェネラルに把握していることを保証する資格。

ディープラーニングを中心とした機械学習の標準的な解説はもちろん、歴史的な経緯も重視しているのが単なる技術資格と違って独特で面白いポイントだ。例えば「エニアック」や「ダートマス会議」など、人工知能に関連する歴史上の重要事項も抑えておくのは、技術のみならずジャーナリズムにも通用するジェネラリストの名に恥じない味わいがある。

ニューラルネットや様々な派生ネットワークに関する解説は思ったよりはかなり充実しており、様々な分野でのネットワークが20個以上も紹介されている。こちらも最先端の実用性というよりは歴史的なメルクマールとなったネットワークを抑えようとする思想が伺える。数式ベースではないにせよ、目的と特徴くらいは把握できるので自分で実装するのではなくざっくりディープラーニングの話をする程度ならこれで十分そうだ。

難易度も高くはなく、とりあえずざっくりディープラーニングを知りたい人にはオススメできる資格。

 

データサイエンティスト検定(リテラシーレベル)/データサイエンティスト検定(リテラシーレベル)公式リファレンスブック 第2版

あまりモチベーションは高くなかったが、思ったより芯の通った良資格だった。難易度も高くなく、データサイエンスに関心があるなら取っておいて損はしない。

分野特化的な他の類似資格と比べて、データサイエンティスト検定を名乗るだけのことはあって全体指針を定めるベースラインを提供するポジションであろうとしている気概が好印象。数学的な内容はそこそこに、データ分析結果をプレゼンテーションする際の図示のコツや業務中のマインドに至るまで一通りが網羅されている。今後も時勢に応じて内容を更新していくつもりらしく、発展性も十分にあるので他のレベルも整備されたときは一つのデファクトスタンダードになるかもしれない(今は最低レベルの「リテラシーレベル」しか存在していない)。

 

データ分析のための数理モデル入門

かなり良著。作者がちゃんとした研究者で、しかもいい人。

統計、機械学習、制御に至るまで様々な数理モデルを統一的に体系立てて並べ、状況に対してどれを選択すべきかを解説しており、分野横断の視点が得られる貴重な一冊。それぞれの解説は厚いわけではないのでこの本で全てを理解するのは無理があり、初学者はこれを読んで各分野を勉強してからまたこの本に戻ってくることになるだろう。

内容の特徴として、理解志向型(データの生成メカニズムを理解する)と応用志向型(手元のデータを元に未知のデータを扱う)のモデリングをしっかり分けた上でそれぞれのポイントを合目的的に解説し、各分野について漫然と学んでいるだけでは看過してしまう注意点を手厳しく指摘している。

とりわけKaggle本をいくつも読んでいる最中だったので、Kaggleで有効とされる手法が必ずしも常に有効とは限らないと釘を刺しているのは特に勉強になった。例えばKaggleでは特徴量エンジニアリングや欠陥値補完の作業が重要視されるが、それは応用志向型のモデリングだから役に立つというだけで、他の局面では基本的には推奨されないことが明言されている。加えて「定量的に十分な予測能力を持たないモデルにおいて、パラメータの値を細かくきっちり決める行為には意味がありません」とも語られており、パラメタ探索による精度上げゲームに陥りかねないデータサイエンスに警鐘を鳴らしてくれている。


pandasクックブック ―Pythonによるデータ処理のレシピ―

良本。pandasライブラリを利用する本やサイトは多いが、pandasそのものを深く解説しているのはけっこう貴重だ。

pandasの細かい要素型や処理挙動の注意、記法による計算速度の違いなどが細かく記載されている。pandasを扱う上で色々な記法があって混乱していたり、同じ処理に複数のメソッドが可能な場合に結局どれを使えばわからない場合などには役に立つだろう。他の本だとpandasは基本だけ軽く説明するか、細かい使い方はいちいち解説されずにサラッとコードだけ提示して流されがちだ。pandasを使うならとりあえず読んでおく価値がある。

ただレベル感は低くなく、プログラミングの一般的な用語や作法がわかっている人向け(この本からPythonによるデータ分析を始めるのはオススメできない)。

 

入門Python3

Pythonについては「退屈なことはPythonにやらせよう」でざっくり学んだが、あちらは「細かい文法はともかくとりあえず使えるスクリプトを書けるようになろう」というコンセプトだったため、そこでフォローされていないワンランク高度な文法を把握するために信頼のオライリーを一冊読んだ。具体的にはクラス、高階関数、デコレータ、ダンダーなど。

辞書みたいな厚さだが説明は平易でよくまとまっているので読みやすい。後半になるとあまりきちんと説明せずとりあえずライブラリ名だけ列挙して紹介で済ませているような節もあったが、それもPython仕草ということでまあ良いだろう。

なお書名には「入門」とあるが、プログラミング初心者のプログラミング入門という意味ではなく、プログラマー向けのPython言語入門の意だ。要求ラインはそれなりに高く、特に説明がなくてもポインタくらいはイメージできる人向け。

 

Kaggle Grandmasterに学ぶ 機械学習 実践アプローチ

コードを書く練習に使った本。ここに書いてある内容を滑らかに書けるようにkaggle notebookを回した。Python機械学習の基礎をコーディングする本は他にもいくらでもありそうだし、この本がベストかどうかはわからないが、たぶん必要な内容は概ね記載されているので別にこの本でも良いだろう。

ただ説明はそれほど丁寧ではない。きちんと解説してからコードを書くのではなく、解説そのものをコードで済ませるタイプ。既にPythonを扱える前提でライブラリ利用も見ればわかるだろor自分でドキュメント読めという感じであまりちゃんと説明されていない。特にNLP周りなどは説明がざっくりすぎたのとあまり関心も高くなかったので軽く目を通しただけでコーディングしていない。

 

徹底攻略 データベーススペシャリスト教科書 令和4年度

データベーススペシャリストの標準的な教科書。応用情報と被る午前Ⅰ試験の内容が多いので、既に応用情報を取得しているなどして午前Ⅰが免除or勉強済の人は別の本でも良いかもしれない。

データベーススペシャリスト教科書に関しては翔泳社のもの(→)が群を抜いて爆裂に良いので基本的にはそっちを理解することを目指すのが良いと思う(それはたぶん10月の消費コンテンツで書く)。翔泳社の本はかなり癖があるので他の本で補完する必要はあるかもしれないが、最終的には翔泳社を読まずにデータベーススペシャリスト試験に臨むのは有り得ない。

 

PythonではじめるKaggleスタートブック

Kaggle最初の一冊として読んだ。理論的にはだいたい知っている内容でも、やはりコードを書くとわかることは多い。

地に足の付いた解説が多いのが良く、とりわけ実行時間を考慮した進め方の効率にも触れられているのは勉強になった。例えば特徴量選択に比べればハイパーパラメタチューニングは優先度が低いので後回しでよいとか、アンサンブル学習は逐一実行しなくても最終的に分類器が出揃った段階で適用すればよいとかいう部分がそうだ。全てを一瞬で処理する数学的な書籍だけではわかりにくいが実践的には重要なポイントだろう。

 

リーダブルコード

コードを書く機会が増え、エンジニア界では有名らしいので読んでおいた。全体的には「最短時間で理解できるのが良いコードだ」というフィロソフィーの下でそれを実現するための様々なコツが紹介される構成で、体系的な理論というよりはテクニック集に近い。

俺は終始「自然言語と同じだな」と思いながら読んでいた。自然言語においても最短時間で理解できるのが良い文章だし、細かいテクニックについてもほぼ全てが共通する。例えば一度に多くを語ろうとしないこと、無関係の話題は分離すること、選ぶ単語が正鵠を射ているかにはこだわること、不要な単語を落とすこと、肯定形を用いること、熟慮した具体例を提示すること等々。

更に類推を重ねれば適切な関数の利用は重要なパーツを抜き出して別個に解説するという意味でAppendixの利用に相当するし、コメントの利用は補足の利用に相当する。コードでも自然言語でも恐らく読解の枠組みは概ね同じであり、コードの方が形式言語であるが故に注意点が明確になるのだろう。

 

はじめてのPython & seaborn

Kaggleで頻出するseabornライブラリがよくわからなかったので読んだ。技術的には特に優れたポイントがある本ではないが、とりあえず必要なことは網羅しているため目的の達成には支障なく使える。

結局seabornとはmatplotlibのラッパーであって、融通の利かないmatplotlibではダルいコードになるところをブッ飛ばして図示できるらしい。seabornで済ませられそうなところは素直にseabornにして、それで済まない微調整があればmatplotlibでやるのが良さそうだ。

この本だけの魅力として、著者が理系技術者ではなく文系教授なので全体的に技術者の文法で書かれていないのがかなり面白かった。コードをコードブロックで書かずに文中にベタ書きしたりスクショで済ませたりするし、入力後に反応がなくても焦らずしばらく待つ旨やBackSpaceキーの使い方などをわざわざ解説している。ページ全体から漂う1990年前後感に対し、2019年刊行で比較的新しい言語を解説しているというギャップが染みる。

説明の順序も技術的に標準的なものではなく、必要になるたびに都度都度導入するのが特徴的。フォントの話をしている途中にフォントごとにアクションを分岐できた方が便利だよねと制御構文if elseを初めて導入するなど、アクロバティックで自由な進行は面白く読める。比較的些事と思われる色やカラーパレットの変更方法について一章を割いて熱心に説明しているのも謎。

 

AI・データ分析プロジェクトのすべて

プロジェクトベースでデータ分析を解説する実務家向けの書籍。内容的にはデータサイエンティスト検定との重複が多い。

「理論だけでやれると思うなよ」と釘を刺す姿勢が一貫しており、不確実性の高い業務につきコミュニケーションや期待値コントロールの重要性が強調される。理論以外の企業活動におけるポジションとしてのデータサイエンティストが業務上でどう振る舞うべきか、求人票の見方やキャリア生成方法まで解説されている。

ただ、これはこの本に限ったことでもないのでここに書くのは若干アンフェアだが、EXCELに関しては認識が古いようだ。EXCELは表示限界の100万行程度しか扱えずいちいちグラフやEXCEL関数で整形しないといけないので本格的な分析用途には扱えない……という認識はけっこう誤っている。現代のEXCELには分析用の専用機能がデフォルトで備わっており、CSVやWebリソースからデータをフェッチして20億行程度なら取り込んだ上で複数のテーブルをマージしてグラフ化までをパイプライン化可能で、Office以上の追加投資なしで簡易BIツールとして扱えるポテンシャルを持っている。このあたりはPowerPivotの書籍などが詳しい(→)。

 

ディープラーニング活用の教科書 実践編

G検定で推奨されていたので一応読んだが、読んでもいいけど読まなくてもいいくらいの内容。実務的にどういう利用が可能そうか知りたければ読んでもいいかもしれない。

「実践編」じゃないver(→)も存在しており、それは5月の消費コンテンツに書いた。どちらもGPT(General Purpose Technology;汎用目的技術)としてディープラーニングを用いた事業事例を紹介しているのは同じ。あちらが自動化等で工数などの比較的些末な経営課題を解決するというマイナスをゼロにする方向性だったのに対して、こちらは新しい価値創造を試みるゼロからプラスへの事例が多く扱われている。

 

データサイエンティストの育て方

タイトル通り「組織としてどうデータサイエンティストを育てるか」を開設した人事向けの本だが、何故かデータサイエンティストは一貫して「優秀だが社会性に問題がある人間」として描かれており、業務内容がどうこうというよりは朝起きられないとか騒音が苦手とかいうADHD傾向とどう付き合うべきかみたいなことが延々と書いてある謎な内容。常識的に考えてそれは人によるのでは?

データサイエンティストというジョブが今よりもマイナーで一点突破の変人しかいなかった時代に書かれたものかと思ったが、2020年刊行なのも謎。ただ著者は経歴含めてきちんとしていそうなことは柔軟な文章からも伺え、どうやってこの本が生成されたのか謎が深い。

 

データサイエンスの森 Kaggleの歩き方

Kaggle入門系の一冊。理論的な内容やコーディングには一切触れずにKaggleの使い方やコンペの典型的な進行についてひたすら解説している点が他の類似書籍との特徴的な差別化点となっており、目を通しておく分には損しない。

コンペに使わなくても環境構築済みの分析プラットフォームとしても使えること、教育コースが用意されていることあたりは他の本にはあまり書いていないのでこれを読んで初めて知った。

 

データ分析が支えるスマホゲーム開発

2014年の本でスマホゲーム史からするとまあまあ古い。

本文中の時代認識としてはブラウザゲームからネイティブアプリへの過渡期くらい、怪盗ロワイヤルみたいなポチポチゲーだけではなくきちんとゲームとして遊べるものがこれから増えてくるくらいの時期に書かれたものらしい。

内容は悪くはないがとにかく取っ散らかっていてトピックの粒度もハチャメチャだ。チーム編成からドメイン知識からマーケティングからツール選択まで幅広く触れており、ユーザーの導線について述べたかと思えば技術的なツールの導入手順まで詳細に解説されていたりする。全てフォローしていこうという心意気は良いが、紙面がそんなにないのでどれも中途半端な説明に留まっており、時代が大きく進んだ今から見てあえてこの本を参照する必要はあまりないかもしれない。できることは何でもチャレンジしていた黎明期的な時代の熱量を感じるアイテムとしては良。

 

分裂する現実 ヴァーチャル時代の思想

現代的なタイトルに反して1997年の本。

よってタイトルの「ヴァーチャル」とは21世紀のVR時代を踏まえたものではなく、神戸連続児童殺傷事件が起きるような世界観を指している。この本に限ったことでもないのだが、20世紀末期頃の人文的な書籍ではゲームネイティブ・デジタルネイティブ世代やテレビメディアの影響力を指して「バーチャル」と言われていることが多い。今で言うバーチャルとはイメージが異なっていがちなので注意が必要。

当時のヴァーチャル観で何かわかるものがあればいいと思って読んだが、色々な哲学理論を引いてくる割には話題が取っ散らかっていて全体的な論旨の理解に苦しむ。大雑把にはクリプキ的な世界観からストア的世界観へという話なのだろうが、ストイシズムの神話的読解からリアルの話に着地する部分の記述が貧弱で最終的に何が言いたかったのかはよくわからない。

ただ、中盤での指示理論に関する話題は図式的にも整理されていてけっこう面白く読めた。特にクリプキが記述理論へのアンチテーゼとして行った「ソクラテスは哲学者ではなく羊飼いであった世界を想像できるから、ソクラテスは属性に依存せず直接指示可能である」という主張に対して、「それはソクラテスが有名人だから成立する指示であって無名人には成立しないし、本当の核心は有名か無名かではないか」というようなことを指摘していたのは目から鱗だった。

ソクラテスのような有名人の人生は「他の生き様であり得ることもできた」という意味で単なる存在ベースで語れるが、名前の残らない無名人の人生は「彼の人生における功績は彼自身が存在しなかったとしても別の似た人間が遂行しただろう」という意味で存在意義ベースで語られる。確かに!!

 

生産コンテンツ

趣味で書いている小説『ゲーミング自殺 16連射アルマゲドン』の進捗報告です(前回分→)。

6~8月は表紙イラストを描いて頂けるイラストレーター様への発注が済んでメールでやり取りする作業が主で、文章の方は新規作成というよりは読み直して気になったところを修正していく推敲作業のみやっていました。

この記事を投稿している12月3日時点では第60話くらいまで投稿しており絶賛毎日更新中なのでよろしくお願いします。

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キャラ紹介:生成AI導入前後

今まで進捗報告でのキャラ画像にはキャラメーカーを使っていたが(→)、NovelAIを導入したことでもっと自由にキャラクリできるようになったのでその前後を置いておく(左がキャラメーカーによる旧ver、右がNovelAIによるリライトver)。

けっこうキャラデザを保ったまま自由な挿絵が作れていて、やっぱりオリキャラが生成できるのはかなり良い。

22/11/26 お題箱回105:東大立て看、SF系創作、Vtuber、ゲーマゲetc

お題箱回105

493.LWさんが過去の記事で車椅子の問題を取り上げた際にマイノリティの戦略に評価を与えていました。一方でLWさんは自称するところ(普段の交友する人含め)冷笑世代であり、かつツイの冷笑界隈を嫌っていましたが東大のタテカンに微妙な反応をしており心変わりというか認識の変化があったのでしょうか。
大学での闘争はしょせんインテリのプロレスで(車椅子のように)社会に対し影響を与えないのでは...?みたいな感想を持ったのであれば自分も同じ考えです。ほかの根拠を最近新たに見つけたみたいな話があれば聞いてみたいです。

確かに僕は車椅子利用者のアジテーション戦略を評価する一方で、東大の立て看を巡る騒動は若干生暖かい目で見ています。理由も概ね仰る通りです。前者は人生のQOLを懸けて全ガチでやってる一方、後者はたぶん学生生活を彩るイベントの一つくらいの温度感しかないからです。

ただこれは客観的な根拠を提示するものではなく、僕の主観としてチー牛看板を糾弾する書面とか立て看を巡るツイートがあまりにもお粗末に見えたので「流石にこれは真面目にやってないだろ」と思っただけです。目の前で起きている事態に対して自分の信念と正義を考慮し尽くした果てに左巻きのポジションに行き着いたわけじゃなくて、たぶん昨日講義かなんかでフェミニズムを習ったからそのパッケージを適用してみた、大学内で起きている事件を題材にして定説を表面的に当てはめるレポートを書いてみた程度のものに見えました。

ただそれは全く悪いことじゃないです。「ハンマーしか持っていない人には全てが釘に見える」というあまり僕が好きではない格言がありますが、手元のハンマーで何を叩けて何を叩けないのかを理解する一番の近道は実際に叩いてみることなので、ハンマーを手にしたら一旦全部釘だと思って叩いてみた方がいいです。なまじ東大生はすぐ一定の権力を持ちがちですし、最悪なのはネットに放流した文章を燃やされるパターンではなく本職の人たちに囲まれて担ぎ上げられるパターンです。そういうことが起こらない安全圏にいるうちにトレモをしましょう。

そして最後に、これは保身のための安全弁ではなく本当に心の底から思っていることですが、何よりも一番ゴミなのは「若いうちに色々やっておきなよ」みたいなスタンスを取っているこの文章です。「相手にしないことに理由を付けて正当化する」という態度こそが真剣な知的営みを破壊する不倶戴天の敵です。自分の知的品位を大きく下げるのでこの手の感想は黙っているべきですが、お題箱に来た投稿には正直に答えることに決めているので書いてしまいました。

 

494.ジョジョの一部と二部、今読んでも普通に楽しめるの凄くない?

僕自身は今読んでも楽しめますが、さすがに令和最新漫画に比べると能力バトルはけっこうプリミティブで見劣りはして、十代の人が「さすがにキツイ」って言っててもまあわかるくらいのラインです。一方でエシディシに泣き喚かせるみたいなキャラの描き方や台詞回しのセンスは今見てもさすが!と思います。

 

495.AIだのアンドロイドだののシンギュラリティSF系創作への知見をより深めるためにデータサイエンスや情報システムを学びたいんですけどこういうモチベの初学者ってどこから突っついたほうがいいでしょうか?文系出身文系職で理系知識や理系的前提情報はてんで無いのですが…

いいですね! その道にガチで進むつもりは一切ないけどそれっぽい文章を出力できる程度の知識が欲しいみたいな気持ちはわかります。

本丸は間違いなく機械学習分野です。機械学習でできることの典型は「過去の株価変動データから未来の株価を予測する」とか「健康診断データから病気の有無を予測する」みたいな「データから何かを予測する」タスクで、そこから「過去のデータを元にして正しそうなことを判断して行動する」という一般的なAIやアンドロイドのイメージに繋がってきます。現代AIは統計処理であって魔法ではないというのがどういうことか、つまり「大量の足し算と掛け算を上手く組み合わせるだけで人間っぽい判断システムを作れるんだな」とか「AIが新しいアイデアを思い付いてるっぽくても結局のところ過去のデータを頑張って処理しているだけなんだな」みたいなことがある程度は数式ベースでわかってくるとSFに対する適切な距離感が取れるようになってくると思います。

あとは本当に情報知識が全くないのであれば、「2進数とかメモリとかネットワークとは何ぞや」みたいな一般的な情報理論の基礎もわかっていた方がよいと思います。これは野球漫画におけるルールブックみたいなもので、誰もいちいち説明しないけどわかっている前提で書かれているし読者もだいたいわかってるので共通言語として抑えていた方が安全です。

ちなみにこの質問が投稿されたのは今年の8月ですが、あれから3ヶ月近くで生成AI(イラストや文章を書いたりするAIのこと)が爆発的に発展するフェイズに突入し、AIイメージ情勢は急速な変容期を迎えつつあります。いまリアルで強烈な存在感を持っている生成AIを人文的に今後どう扱うかは相当難しいトピックになると思います。

まず生成AIも概ね機械学習の一分野ですが、他のAIに比べて技術的にけっこう難しいということがあります。理由は色々ありますが、とりあえずは出力の複雑さの問題と思ってもらってよいです。自動運転AIとか病気診断AIならせいぜい「右に行くか左に行くか」「やばいかやばくないか」くらいの0か1かの情報を出せば済むのですが、生成AIが出すイラストや言語はメガバイトとかの大きな情報量を持つため、AIの中身もそれに特化した複雑なものになってきます。

また、もっとアバウトなイメージについても変革期に来ていると思います。3ヶ月前なら最も大雑把な意味でのいわゆる知能システムって概ね「人間のように思考する機械」みたいなものを指していて、それはHMX-12マルチみたいな擬人化イメージで取り扱うことが容易でした。しかし今の生成AIは思考能力は特に備えていないのにも関わらず、人間の創造性を超越していそうなことが誰の目にも明らかになりつつあります。よって恐らく知能イメージもある程度は内省ベースから実用ベースに移行せざるをえなくて、感情を云々する古典的なAIのイメージがかなりトラディショナルなものになっていくというか、少なくともこれから生成AIが担っていく期待のイメージには追い付かない型落ちのものになっていく可能性は高いと僕は思っています(この段落は一般論ではなく僕が勝手に思っているだけなので真面目に受け取らなくてよいです)。

 

496.ミートハンマーという調理器具がありますよ!

ありがとうございます。僕が鶏肉をスタープラチナしていたときのやつですね。

まあ徒手空拳で済むのであればそれが一番早いので、ダメそうだったときにミートハンマーの導入を検討します。ちなみに鶏肉は毎週1kg食べていたら飽きてしまい今はスタメンから外されています。

 

497.資格取得が一段落したら資格Tier表作ってみてほしい基準なんでもいいから

結果待ちのデータベーススペシャリストと開催待ちのDSエキスパートを取ったら作ろうと思います。難易度・強さ・有用性とか色々ありそうではありますね。

 

498.ジョジョスタンド能力が1つ手に入るとしたらどのスタンドが欲しいですか?

ペイズリー・パークです。夢の無い答えですがふつうに人生で一番便利そうだからです。

この質問に答えるためにスタンド一覧に目を通したのですが、ジョジョのスタンドって思ったより戦闘だけに特化したものが多くて、バトルのない人生を豊かにしてくれそうなものが少ないですね。ザ・ワールドとかキング・クリムゾンは言うほど使い道ないし何回か使ったら飽きそうです。

 

499.『この現実世界で美少女になってもろくなことが無いので、全身整形技術みたいなものによって無料で美少女になれるとしても恐らく拒否します。美少女作品の世界に転移した上で美少女キャラとして振る舞わないと意味がないため、そういう意味で半分くらいは異世界転生欲求も含んでいます。』
この文章から、この現実世界に多くの価値は認めていないのかと思いました。一方でVtuberにはハマられていますよね?ここに矛盾めいたものを感じており、どういう心理なのだろうと不思議に思っています。

というのも、(個人的な偏見が多分に含まれますが、)Vtuberは2次元美少女をこの現実世界に顕在化させたような存在であり、これにハマるのは現実世界ベッタリで生きているオタクだと私は思っているからです。言葉を変えれば、現実世界に強い土台がないと不安になるオタクというか。たとえば創作物に現実の倫理観を適用して(考察ではなく)否定までしてしまうタイプがこれに含まれます。
その点、LWさんはそういうタイプではなく、広い範囲の可能世界をそのまま受け入れるタイプの方だというのが冒頭で引用した文章から見て取れます。
したがって、Vtuberキャラよりもアニメキャラに魅力を感じられる性格なんじゃないかと。なのにVtuberにどっぷり浸かっています。不思議です。なぜですか?

独りよがりで難しい質問になってしまいましたが、ご回答いただけると嬉しいです。

僕は現実世界にあまり価値を見ていないという部分は正しくて、単に「僕はVtuberを現実世界専門のキャラクターだとは思っていない」というだけです。

具体的には「Vtuberは2次元美少女をこの現実世界に顕在化させたような存在」「Vtuberにハマるのは現実世界ベッタリで生きているオタク」という部分に異論があります。実際、僕はVtuberの生配信は基本見ないですし、特に彼女らが現実であった出来事を報告する雑談とか現実で一堂に会するオフコラボは全く面白くないと思っています。

それよりも僕がVtuberの魅力を感じるのはコラボとか派生作品とかファンアートが行われるキャラクターIPとしてです。Vtuberがアニメやゲームのキャラと比べて明確に優位な点は二つあって、一つはキャラ単独で売る商業戦略によってキャラデザが超強い点、二つは固定のストーリーや世界観に束縛されない点です。Vtuberはキャラ単独での強度が最強のキャラクター形態であり、それ故にフィクションにも現実世界にも適合する汎用性を持っているというのが僕の見解です。現実世界にも適合できるということはフィクションに適合しないことを意味しません。

僕が現状でVtuberベストコンテンツだと思っているものはホロライブオルタナティブのPVで、これを見たときにホロライブの評価は決定的なものになりました。

www.youtube.com

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一見すると重厚なストーリーを持つ超大作RPGのアニメPVっぽいですが、「ここで描かれている断片的なストーリーには何一つ実体が存在しない」という欠落が最大の肝です。天使みたいな子が何故泣いているのか、和装の子たちが何故戦っているのか、彼女らが使っている魔法や能力は何なのかという物語や設定の細部は制作者も含めて誰も把握していません。

従来の漫画やアニメで重視されていた深い物語の一切が捨象され、異様に優れたデザインのキャラによる浅薄で表層的なそれっぽいイメージの上澄みだけが立派なアニメになることは、バックグラウンド抜きの単独で成立しているキャラクターの在り方として非常に象徴的だと思います。

 

500.LWさんは社会性に欠けている美少女が好きという認識は合っていますか?

合ってます。特に一番好きな社会性に欠ける萌えキャラの一人が『悪徳の栄え』の美少女主人公ジュリエットちゃんです。アナルファックやレズレイプは序の口、ウンコ食ったり殺人から死姦したりやりたい放題なジュリエットちゃんをよろしくお願いします。

 

501.LWさんは今現在、三次元の女性に興奮することはありますか?

画面越しの性的なコンテンツ、つまりAVではありますがAV以外では全くありません。リアルで女性を見てどうこう思った記憶はないです。

 

502.すめうじやゲーマゲの二次創作勝手に書いていい?

お願いします!!! ちなみにゲーマゲは言うて異世界転生最強チート能力主人公無双ラノベでどんな世界にでも行ける建付けになっているので、外伝とかコラボとか二次創作がしやすいってゲッタ~が言ってました。

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22/11/20 お題箱104:仕事、鬱病歴申告、橋本環奈etc

お題箱回104

小説投稿をしている間にだいぶ溜まってしまいましたが消化していきます。

482.“俺は小中高大つまらなくて社会人楽しい人間だから同じような不安を持つ就活生を励ましたい気持ちはあるが、周りに大学生が多いわけでもないのでn=1で無にアドバイスおじさんになってもな……って感じで発信する機会はない”

計数の後輩です。いつもブログ楽しみにしてます。これ需要あるので是非やってください。

ありがとうございます。最近は優秀な後輩のおかげで計数工学科のネームバリューが上がっており、僕が「東大計数出身です!」と言うときのパワーが上がっていてありがたい限りです。このまま医学部超えして神の学科になってください。

本題はこのツイートへのレスポンスですね。

計数工学科も超つまらなかったので精神薬をガブ飲みしながら何とか乗り切っていましたが、仕事は概ね楽しいです。理由は色々ありますが、最も直接的で大きいのは座学の時間が存在しないことです。

僕は座学がめちゃめちゃ苦手で、自分と相手の思考スピードが完全に一致していない限りは他に何もせず黙って座って長時間話を聞いているのが非常に苦痛です。既知の話が始まると関心を失って全然違うことを考え始めますし、逆に未知の話が始まると手元で証明とか解釈を始めてしまって、いずれにしてもすぐ話についていけなくなります。生まれてからずっとそんな感じで東大を卒業するまでやってきたので皆そんなもんだと勘違いしていたのですが、これがふつうにADHDか何かの典型症状で少数派らしいということに気付いたのは大学を卒業してからでした。

が、会社ではふつう座学の時間は存在しないのでめっちゃ楽です。ミーティングは受動的に黙って聞いてる儀式ではなく目的をもって能動的に参加するイベントなので、知ってる話ばかりなら手元のPCで関連事項を調べながら聞いていてもいいですし、知らない話が飛躍していて早すぎると思ったら一旦止めてもよく自由度が高いです。いずれにしても長時間に及ぶ一方的な口頭講義とかいう謎の情報伝達形式が存在せず、資料なり書籍なり会話なりチャットなりでカバーするのでそのストレスがありません。

 

483.大学院生から社会人になると何が解決しますか?

色々ありますが、例えば大学院で研究に関心が持てないとか成果が出せない問題は就職すると解決する可能性はけっこう高いと思います。単純に大学院での活動は世界に存在する活動全体のごくごく一部しかないので、大学院には存在しない活動に適性がある場合はそれにリーチする可能性が高くなるからです。あと大学院の活動は全世界にいる人類全体の知識という土俵で行われますが、会社の活動領域はそれに比べればかなり狭くて、局所最適解で立派に功績になるものが色々あってハードルが低いです。

あとは大学院で感じているプレッシャーの問題とかも就職すると解決すると思います。基本的に雇用されている社会人の責任は大学院生の責任よりかなり軽いからです。

大学院生は自ら志願して学費を支払って研究活動に参加しているので、全ての活動を自分の出資で行っていることになります。研究が上手くいかないことは人生が上手くいかないこととイコールで、結果の責任を全人格で負うことになり、修論が書けないストレスは大学院生に重く圧し掛かります。

一方、会社業務への参加は雇用契約に基づく金銭と労働力の交換なので、貰っている金銭の範囲を超えた責任は生じません。これはマインドの話ではなく数値的な事実の話です。会社員が凄い業績を上げてもせいぜい固定給が上がったりボーナスが増えたりするくらいで会社の利益がそのまま自分の儲けになるわけではないですし、逆に凄い損失を出してもせいぜい解雇される程度で会社の損害を自分で補填するわけではありません。人生を懸けて会社を動かしているのは経営層とか資本家で、会社員は雇用契約を介して提供される労働力に過ぎません。雇用契約に書いてある額面の範囲を超えた責任が生じることは無いので、人生が懸かっている大学院生よりはかなり気楽だと思います。

 

484.有酸素運動/筋トレ後にストレッチしてますか?オススメあれば教えてほしいです

運動後のストレッチはやりません。筋肉痛を軽減できるらしいですが、筋肉痛は嫌いではないので別に軽減しなくてもいいかなという感じです。

ストレッチをするのはジョギングとか縄跳びの前ですね。足が攣ったりするのを回避するためで、オススメとかこだわりは特になく、昔体育の時間にやっていたやつをそのまま適当に気分でやります。屈伸10回→伸脚10回→アキレス腱10回→肩入れ10回→十字肩ストレッチ10回みたいな感じです。

 

485.カードゲームがお好きということで、戦略性という共通点から、投資業務に興味はありませんか?
クオンツとして)証券会社でお待ちしております。

カードゲームとか戦略性というのもありますが、もっと直接的に統計学とかデータサイエンスが結構わかるのでその路線で証券会社とか投資業務もいこうと思えばいけるとは思います。ただ今のところは主にゲーム分野とかエンタメ系の仕事を探していて、何らかの事情でそれに就かなかったら検討するかもしれません。

この質問を溜めている間に無職になってしまったので職業の検討がけっこうガチになっています。おいおいこのブログで雇ってくれる会社を募集する可能性も普通にあるので、社長とか人事とかリファラルいける人がいたらそのときはよろしくお願いします。

 

486.職場に鬱の申告ってしてます?
いま就活中なんですけど、後でバレるリスクと鬱病のせいで就活で落とされるリスクのどっちを取った方が良いかアドバイス頂けると嬉しいです

たぶん進行形の鬱病じゃなくて既往歴の話ですよね? 申告していないし、する意味が無いのでしない方がいいです。

まず「後でバレるリスク」は概ね存在しません。完治しているなら後でバレても別にどうもならないからです。完治していないなら就活している場合ではないので治療を優先してください。

そもそも大前提として、病歴は犯罪歴と同じくらいセンシティブな個人情報です(既往歴による差別に繋がるため)。普通は聞けないし、聞きたい場合でも業務と極めて関連の高いケースに限ってそれを明確にした上で慎重に確認しなければならないはずです。万が一聞かれたとしても「センシティブな情報なので病歴は答えたくありません」とか「あまり答えたくありませんが、概ね健康体であり業務に差し障ることはありません」くらいのぼかした回答が許容されます。

そして聞かれていないのに自分から言うのはやめた方がいいと思います。「就活はロールプレイだから鬱病は隠そう」みたいな話じゃなくて、雇用判断の場で鬱病を申告することは「業務に関わる障害として鬱病歴が申告されている=鬱病歴のために何か配慮を要求されている」という解釈になるからです。職場に配慮してもらわなければ働けない精神疾患でない限り、業務に関係ないことを伝える必要はありません。本人は誠実さのつもりでも他の人からは単なるノイズです。

 

487.リュックの中にポリ袋入れる→ポリ袋の中に荷物入れる→ポリ袋の口を縛る
で防水

488.もうオルトリーブみたいな完全防水の製品使ったらどうですか?
あれずぶぬれで帰ってきても中はからっとしてて凄いですよ

僕が傘差すのが下手すぎて雨が降るたびにリュックとかカバンが濡れている問題ですね。ありがとうございます。

ポリ袋は現状かなり安定択で、リュック類には緊急時に全体を覆えるような大きなポリ袋を最低1枚は携帯しています。何度かそれで切り抜けた実績もあります。

オルトリーブを使うのも手ですが、高すぎるのでもう少しショボいやつでいいです。登山用の完全防水じゃなくても水が染みない材質くらいで良くて、ワークマンがある地域に行く機会があったら探してみようと思っています。

 

489.サイゼミに興味ありますが、リアル参戦する勇気がないのでライブ配信待ってます

ありがとうございます。

配信についてはdiscord内とか知り合い限定では部分的に行われているらしく、「なんか誰かがやってくれることもある」みたいな感じで僕もあまり把握していないのですが、やってくれる人がやってくれるなら検討したいと思います。

 

490.私もLWさん程では無いにせよホロライブの配信はあまり見ずにキャラクターとしてコンテンツを消費したいと思っているタイプなのでほろグラをはじめとした動画コンテンツや二次創作を中心に摂取しているのですが、ホロの二次創作漫画に対するアンテナが低くあまり良い人を見つけられていません。
もし誰かおすすめな人がいるなら教えてください。

二次創作漫画はTwitterで散発的に描かれたものがたまに流れてくるのをキャッチするだけで、固定クリエイターはあまり思い浮かばないですね。

たぶんそれをコンスタントに描いていたかもしれない層はもっと収益性の高い手描き切り抜き動画の制作に注力している気がします(「手描き 白上フブキ 切り抜き」とかでyoutubeを検索すると無限に出てきます)。

www.youtube.com

手描き切り抜き動画は一次創作か二次創作か微妙な立ち位置のコンテンツで、僕は積極的には見ないけどdiscordとかに貼られたらまあ見てもいいくらいの温度感です。

 

491.橋本環奈は可愛いと思いますか?
実在する芸能人に対してそういう感情はありますか?

492.橋本環奈さんの名前が出て驚きました
LWさんはマツコ・デラックスさんと橋本環奈さんの区別も付かない人種だと思っていたので

saize-lw.hatenablog.com

現実における美少女の例として適当に橋本環奈の名前を挙げたせいで謎の探りが入っています。

一般に可愛いとされている顔の造形をしていることはわかりますが、それはポストを見て赤いことがわかるのと同じでそれ以上の感情は特にないです。萌えキャラに向けるような情熱は一切ありません。マツコ・デラックスと橋本環奈の見分けはつきますが、それはマツコ・デラックスと非マツコ・デラックスを区別できるだけで橋本環奈を同定できているわけではないので橋本環奈の顔を頭に思い浮かべることはできません。

ちなみに男性芸能人は区別可能で阿部寛とか岡田准一みたいな彫りが深いやや年配のイケメンが好きです。バラエティ番組でイケメン俳優特集とかやってるときにVTRに出てくるジャニーズの男の子じゃなくて適当に雛壇に座ってる年季の入ってるおじさん俳優の方がよほどイケメンやないかいと思っていることが多いです。