LWのサイゼリヤ

ミラノ風ドリア300円

24/3/15 お題箱回145:インターン談、順序統計量etc

お題箱回145

872.何かしら投資(資産運用)やってますか?

特にやっていません。

種銭が有り余っているわけでもないのに無職無収入で投資というのも馬鹿馬鹿しい感じがするので、就職してお金が入ってきたらとりあえずNISAで適当なインデックス投信あたりから始める予定です。

 

873.LWさんの場合実家無職で、趣味もお金が掛からないものが多そうなイメージ(図書館・温泉・昼寝など)ですが、1年間の無職期間で使用したお金の量はどれくらいでしょうか?

貯金は見ないのでわからないですが、失業保険の補填込みでたぶん200万円いかないくらいだと思います。

無職の間も働いているときと同じだけの額を実家に納めていてそれがだいたい100万円くらいなので、実家への上納金が最も大きな出費であることは間違いないです。

 

874.有職~退職~再就活とLWさんのツイッターをずっと追ってるのですが、休日は比較的値段の安い場所で過ごしたり、新弾が出てお金のかかるカードゲームは常に追っていたりと有職時と無職時での金銭的余裕が変わりない印象です。
現在のお金のやりくりは有職時の貯金から出しているのでしょうか?また、ご自身がお金をかける趣味や実用的なことは何か、よかったら教えてください。

有職時と無職時で金遣いが特に変わっていないのは仰る通りです。一点訂正すると「新弾が出てお金のかかるカードゲームは常に追っていたり」とありますが、唯一追っているハースストーンは勝てば無料で資産を増やせるリミテッドで賄っているので、課金はほとんどしていません。

現在使っているお金は全て有職時の貯金からです。お金をかける趣味や実用はスマホとか銭湯とかラーメンとかラノベとかパソコンとかダンベルとか雑多なありふれたものばかりで、何か考えがあって特にこだわってお金をかけている対象とかはないです。何か理由があって金をかけないわけではなく、金があってもやりたいことは特にないです。

 

875.前職はソシャゲのゲームプランナーをやっていたそうですが、最初からゲームプランナーのみを狙って新卒就活を行っていましたか?もしそうなら何故ゲームプランナーになろうと思ったのでしょうか?
また、ブログの過去記事などを読むと就活は落とされまくっていてあまり上手く行っていなかったという印象を受けるのですが、そういう状況の中で内定を獲得できたのは理由について自己分析でいいのでお聞かせいただいてもいいでしょうか。

最初からゲームプランナーを狙っていました。ふつうにエンタメ好きだからエンタメ業界で情報系出身を活かせるのがデジタルなゲーム分野で、実際に何か作る人よりは何を作らせるか決める人の方が向いていると思ったからです(技術は目的ではなく手段だと考える方)。

仰る通り新卒時の就活は上手くいっておらず、それは当時は社会の論理が何もわかっておらず面接の受け答えがゴミすぎたからです。就職してそれが一定わかるようになってから書いたこの記事は当時の僕を救うためのものでもあります。saize-lw.hatenablog.com

そんな状況でも内定を獲得できたのはたまたまインターンがある会社の選考だったからです。選考に3日間のインターンが必須で「新商品を企画する」という課題をやったのですが、とりあえず初稿の資料を作って出した段階でメンターに「もう資料が完璧だからコメントできることが何もない、この商品そのまま売るかもしれない」と言われてやることがなくなりました。インターンを通じて有り得ないくらい優秀だったため、面接のビハインドを補って余りあると判断されて内定が出たと思われます。

このインターンのエピソードはすっかり忘れていて過去の記事には「面接の受け答えが終わっててもマッチングする会社はある」みたいなことを書いたような記憶があるのですが、今思うとそれは完全に嘘です。たまたまインターンで実務能力を披露する機会があったおかげでもはや面接内容は関係なくなったというのが真相です。

だいぶ前にdiscordで知り合いの学生の就活相談をしていたとき、このインターンの話を何気にポロッと言ったら周りの社会人たちにめちゃめちゃ怒られました。実際にはただ能力が高すぎてどうにかなっただけなのに、それを言わずに「受け答えが適当でもマッチングする会社はある」みたいな間違ったことをブログに書くと、そんなに能力が高くない学生がそれを真に受けてしまって路頭に迷うから害悪度がかなり高いということです。それはそうなので今は反省しています。

 

876.受験数学の勉強の仕方良かったら聞きたいです。典型問題は出来るのですが東大や京大のような難関大になると難しくなります。
そういう大学で7,8割とりたいと思ったら才能あり気になってしまうのでしょうか?

難解大の問題でも基本的な枠組みはいわゆる典型問題と同じだと思います。回答や試行のパターンをいくつも学んでおいて目の前の問題に対して適用していくところは特に変わりません。

ただし数値を入れ替えただけみたいな典型問題に比べるとパターンが複雑で抽象的になっているので、どのパターンが適用できるのかを見抜いて正解に辿り着くまでのフローとか考え方を洗練させるメタ解法みたいなところが重要になってきます。

具体的に言うと、例えば「どうやったらこの問題を解けるのか」ということだけ勉強していても不十分です(パターンAで解けることが事後的にわかっただけでは試験会場でそれを思い付けるとは限らないから)。その理解は前提とした上で、「どうやったらこの問題の解法を思い付くのか」という再現性まで掴む必要があって、もし優秀な指導者が身近にいるならばそのあたりを聞いていけばイメージが掴めるようになっていくと思います。

ちなみに東大とか京大にただ受かるだけなら半分ちょっとくらい正解すれば十分だったはずです(7、8割まで目指すのはかなりハードルが高い)。

 

877.部屋は綺麗な方ですか?
あと掃除はどのくらいの頻度でやっていますか?

極端に汚くもなく極端に綺麗でもない平均くらいだと思います。

基本的に床に物はあまり置かないようにしているものの、リュックとか普段使うものはわざわざ壁にかけたりせず床に放り出してるくらいの感じです。掃除はまちまちですが週3前後です。

 

878.https://twitter.com/TumoiYorozu/status/1767753922876424381
統計検定1級の解答を聞きたいです。

この問題は数理的には視力検査で、「100面サイコロをn個投げたときの最大目(順序統計量)」の確率分布を10回掛け合わせて作った尤度関数で最尤推定を行えばいいだけです。

補足506:「視力検査」というのは「目が見えていれば解ける(解けなかったら視力の異常以外に理由が考えられない)」、すなわち「極めて簡単な問題」を指す表現ですがこれって一般的に通じるんですかね?

とはいえそんなことを1時間も考えるとも思えないので、これがコーディングの出題であることも併せて考えるに、たぶんコード上では計算量だかメモリだかデータ表現だかスケーリングだかに追加の指定だか問題だかがあって(例えば愚直に尤度関数をベタ書きすると数値がめちゃ小さくなって数値誤差でバグりそう)、そこを厳密解じゃなくてもいいからなんか上手くやるところが本質なのでしょう。

ただそれはもう実装の領域です。幸いにも「統計検定1級の解答を聞きたい」とわざわざポジションを指定してくれている以上、紙とペンで理論だけ考えていれば済む統計学的な回答は最初の一行で終わりです。

 

879.就活どうですか?

まだ進行中なので詳細は差し控えますが、順調にいくつか内定が出ていて三月中には終わるかなという見込みです。

 

880.カードゲーマーの調整会ってどんな事をやってるんですか?
参加者全員が冷徹なデュエルマシーンになって無駄話も休憩も無くひたすらデュエルし続ける感じですか?

タイミング的にこのツイートの話だと思いますが、別にそんなことはないです。休憩は特になくぶっ続けで遊んではいますが、普通に笑ったり大声上げたりしながらです。

とはいえ主目的は「楽しむこと」や「勝つこと」ではなく「ゲームを極めること」なので、そこはパンピーが集まってボドゲをワイワイ遊んでいるときの感じとはやっぱり違って、戦略とかプレイに関する議論はあちこちでよく発生します。

あと戦うときの大きな目的意識みたいなものは常にあって、人によって「色々なデッキを手広く触ってカード効果や戦略を把握する」とか「一つのデッキを何度も使って最適な動きを知る」とか「明確な強デッキを擦り続けて対抗戦略に倒されるのを待つ」とか理解を深める指針があって戦っている感じはします。使ってるデッキが弱くてボコボコにされ続けていても「まだ俺がこのデッキのポテンシャルを引き出せてないだけかもしれないから」とか言って限界を理解できるまで頑なに握り続けるムーブもよくやります。

 

881.予定はガチガチに固めますか?
私は分単位で予定を決めるも結局崩れてしまいます。

固めるかどうかは気分によりますが、固めた場合は問題なく遂行できる方です。

あと無職期間中にやってけっこう良かったのが「事後的に予定を固める」というやり方です。朝起きたら今日やりたいタスクの一覧だけ書き出して、順序とか時間とかは一旦気にせずに気が向いたものから着手します。そして一つのタスクに区切りを付けた段階で、何時から何時までそれをやっていたかを分単位で記録します。

そうすると今日何をどれだけやってきたのかが把握できるようになるので、次はまだあまり時間をかけていないものに着手したり、数時間作業していたことがわかれば休憩を取ったりと割と的確に動けるようになります。予定に縛られずに気分や状態に応じて臨機応変にやることを変えつつ、最初に書き出したタスクは満遍なく進められるといういいとこどりです。

 

 

何か買ってもらえると嬉しいです。

www.amazon.jp

24/3/14 お題箱回144:東大卒のガクチカ、バイオレンス・クリスマスetc

お題箱回144

862.レベルは遠く及ばないのですが、考え方や経歴はLWさんに近いな〜と個人的に感じているものです。
東大に理系で入って進振りで理学部に進んだのち合わなさすぎて文学部に転学部したのですが、ガクチカが全く存在せず就活に絶望しています。
なにかやっておけばとりあえず潰しがきくようなものはありますでしょうか。

僕は人事ではないので諸説あるという前提で差っ引いて読んでほしいですが、その経歴なら絶対もう既にあると思います。

無いわけないので逆に何でないと思うのかわからず答えにくいのですが、嘘吐きに「ガクチカで勉強関連はNG」「バイトやサークル活動に限る」みたいな嘘を吹き込まれているのでしょうか? 確かに「ガクチカで勉強の話をするのは微妙」という風潮はありますが、それは単位を取るための勉強しかしていないような大学生に限った話です。

これは単にコミュニケーションの問題です。大学を卒業見込みの学生が面接に来ている時点でそいつが「卒業単位を揃えるために大学の講義を頑張ったこと」は既にわかっているので、ガクチカを聞いて改めて「単位を取ることを頑張りました」と言われても手持ちの情報量が全く増えず、コミュニケーションとして成立していないということです(相手が既に持っている情報を考慮せずに冗長なコミュニケーションをする学生は採りたくない)。

逆に言えば、面接官が既に持っているだろう想定を超える熱量とか実績とかエピソードがあるなら勉強の話をしても構いません。特に(進振りで理一から文学部に行ったとかならまだしも)一度は進振りで理学部に行ったにも関わらずわざわざイレギュラーな手続きをして文学部に転学部したということは、その壁を超えるくらい高い関心やマルチな経験を持った上で決定を下したということだと思います。だから講義以外の余暇も使って専門書を読んだりフィールドワークをしたりした話をして、そういう経験が業務でどう活かせそうか適当に繋げて喋れれば問題ないでしょう。

補足504:Twitterでたまに見る「日本の就活では学業は全く評価されないので、学業以外の評価をするためにガクチカを聞いているのだ」みたいな言説は社不の妄言です。大卒を高卒より優遇して採用する時点で学業という評価軸が存在することは明らかです。そうではなく応募時点で既に卒業見込みだとわかっている学生に卒業見込みの話をされても困るという、単にコミュニケーション不全の問題です。

ただ一般的に言って大抵の組織では志願者には他の社員と協働する能力が求められていて、そこを実質的に補うのがガクチカでもあるので、勉強の中で他人と関係した経験も織り交ぜられた方が良くはあります。例えば難解な専門書を読むために友達と読書会をやったとか、文学部に所属しつつも理学部の旧友ともコミュニケーションして学際的な視点を育んだとか、転学部にあたって色々な研究室にアポを取って人脈を広げたとか、そういう要素があった方が評価されやすいと思います。

もちろん「なるほど、では学術と全く関係ない事柄で他に頑張ったことはありますか?」と食い下がってくる面接官もそれなりにいるとは思います。そこで戦うための手札を他に作りたければそこで初めてボランティアとかサークル活動とかフルマラソンへ挑戦とかを今からやってもいいですし、学業以外の経験を強く求めてくる企業にはマッチしないと諦めてもいいです。

補足505:「ガクチカのためにやったガクチカは評価されない」みたいなよくわからん説もありますが、別にそんなことはないでしょう。ガクチカのために動けるのも一つの行動力ですし、それで何を持ち帰ったかの方が重要です。取ってつけたような動機を無理に捻り出さなくても「就活が迫る中で学生生活で力を入れたことのレパートリーが乏しいことに気付き、将来に向けて自分の適性をよく知るためにもあえて興味が薄かったボランティアを頑張ってみて~」とか喋り始めればいいと思います。

いずれにせよ、少なくとも「ガクチカが全くない」ということは多分なくて、そういう質的な問題をクリアしたあとは「どういう手札をどこまで揃えておくか」みたいな量的な問題にシフトします。その上で選考って別にテストじゃなくてマッチングなので出された問いに全部正解を出さないといけないわけではなくて、いま持っている手札とマッチしない組織は切る(無理して手札を揃えない)という選択も全然ありです。

 

863.理学部から文学部に転学部したものですが、強烈に文学がやりたくなって転学部したわけではなく、理学部の必修にあまりにもついていけなさすぎて逃げの選択肢として転学部を選んだみたいな感じなので、少なくとも本心ベースではそこまで転学部に情熱はなかった感じです(逆によっぽどモチベがあったんだねと思ってもらえるのだとすればそこに合わせてお話を構成するのも一つの手かとは思いますが)

862の答えを書き終わった直後にこの訂正的な事情説明が投稿されたのですが、経歴だけ見た時点では(=履歴書チェック時点では)そういう期待をされるかもしれませんというサンプルとして862の回答はあえてこのまま残しておきます。

それでも東大生って基本的に自分の実績を過小評価する傾向がありますし、他に思い浮かばないか他のことへのやる気がなければやはり仰る通り転学部周りから組み立てるのが無難だとは思います。ちなみに過小評価しているというのは自信がないという意味ではなく、能力が高すぎて世間と評価基準がズレるという意味です。世間の凡人が半年くらい死ぬ気で頑張らないとできないことを一週間の片手間で出来てしまった挙句に「こんな簡単なことでは何の実績にもならないな」とか思っていたりします(念のための注:これは喩えではありません)。

本人がどう思っていようが、受験突破も込みで東大で通用する理系能力を持っていた上で途中から文系にシフトしてそれで問題なく卒業できる文理両道ぶりって外から見たらそれだけで全然バケモンです。本当についていけてないやつはもっと早い段階で死んでるしたぶん転学部自体できません。

 

864.「学生時代から根強く持っていたテーマの一つを完璧に完成させた漫画」、良かったら教えていただけませんか?

865.「学生時代から根強く持っていたテーマの一つを完璧に完成させた漫画を読んでそれ以降読む気が無くなった」
このツイートにある「テーマ」と「その漫画」について、
差し支えなければお聞きしたいです。

866.LWさんが「学生時代から根強く持っていたテーマの一つを完璧に完成させた漫画を読んでしまってこの話はもういいなと思ってそれ以降触れる気なくなった」と仰る【テーマ】って何だったのか、もし公にできることならお聞きしたいです。自分にはそのようなテーマがない人生だと気づきザワっとしました。よろしくお願いします。

867.> 学生時代から根強く持っていたテーマの一つを完璧に完成させた漫画

これってなんの漫画ですか?

868.テーマと、それを完成させた漫画のどちらも気になります。軽くで良いのでご紹介いただけると嬉しいです!

気になりすぎだろ! これの話ですね。

当該漫画は2023年2月にジャンププラスに掲載された南野夏雄『バイオレンス・クリスマス』です。幸いにも書籍に収録されていないのでWeb上で公開されています。全39ページと短いので今ここで読んでください。

shonenjumpplus.com

生物の解体でしか幸福を感じられない美少女がクリスマスにサンタから祝福を受ける話で、この作品で終わってしまったのは「本当にどうしようもない人は本当にどうすればいいのか」みたいなテーマです。似たテーマを扱った他の作品は細かいポイントがズレていて「わかってない」ので自分で書かないといけなかったのですが、この『バイオレンス・クリスマス』は完全に「わかっていた」のでもはや自分の創作でやる必要がなくなってしまいました。

例えばポイントの一つは、まず主人公が破綻してしまった理由が特に何もないことです。他の凡庸な作品なら主人公が抱える問題の裏には大抵は悲しい過去とかもっと根本的なトラウマがあってそれを解消することで異常もクリアされます(どうにかできるレベルのどうしようもなさでしかないのでどうにかできる)。翻って、サリーにはそういう根本原因が特にありません。回想でも最初から小動物を解体するシーンから入っており、それより以前には遡るべき過去を持ちません。本当にどうしようもない人というのは最初から先天的にどうしようもないのであって、「こういう理由でどうしようもなくなっている」という経緯を持っていないために解決の糸口もありません。

また、サリーがぶっ壊れているのは快楽の経路だけで、倫理観はむしろちゃんとしているということもよく描かれています。彼女は殺人そのものには罪悪感を持っているし、他者の痛みについても考えられるし、殺人対象も殺人鬼に絞ったりと色々頑張ってみてはいるのですが、結局のところどうしても解体をやめられません。サリーは人格的・倫理的には最初からずっとまともで、頭では既に答えがわかっているのにそれを踏み越えてしまうため、彼女の葛藤は理性的な次元では解決できません。何らかのエピソードを経て「こうすればどうにかできる」というロジックが浮上したとしても「それでもやってしまう」でいつでもひっくり返せるからです。

結局サリーは本当にどうしようもない人であるまま、サンタから「全てが美しい」という祝福を与えられることで物語は終わります。彼女が思い悩んでいた実質的な問題は何一つ解決されなくても、その存在が無条件に肯定されるというのは最大限に誠実な結論だと思います。本当にどうしようもない人が本当にどうしようもないまま、それでもなおその状態を祝福するということ。

自分語りにスライドすると、僕の一次創作でも当初は「本当にどうしようもないやつ」ばかりが主人公になっていました。

例えば『すめうじ』の主人公は「そこら中に蛆虫を湧かせる」という体質を持つ本当にどうしようもない成人女性だし、続く『ゲーマゲ』の主人公も「強敵を求めるあまり誰にでもゲームを挑んで虐殺せずにいられない」という本当にどうしようもないゲーマー女子高生でした。彼女らがどうしようもなさを温存したまま世界と向き合っていくことがテーマになっているので、体質や精神性のような問題そのものは最後までクリアされません。

ただ2022年12月に『ゲーマゲ』が完結したあとに2023年3月に『バイオレンス・クリスマス』が掲載され、そこで「このテーマは完成したからもう終わりでいいな」と思ったためにそれ以降は主人公のタイプが変わっています。一定の反社会性は未だに持ち合わせているものの、作品全体のテーマとして扱うほどではなくなったため、どうしようもなさはかなりマイルドになっています。

『にはりが』の主人公はシスコンすぎて自殺や殺人を厭わない悪性を持ってはいますが、ストーリーの中できちんと姉離れして友達を支援したり敵と協調したりすることもできるようになります。『うるユニ』の主人公も自分の初恋のためだけに街一つを危険に巻き込むことを躊躇しない一方、死者は出さないように気を配っているし自分なりに世界を思いやる友達(綺羅)と合流したりもします。

一応補足すると「本当にどうしようもない人」が主人公にならなくなった理由は『バイオレンス・クリスマス』だけというわけでもなくて、僕自身が学生時代は自分のことを本当にどうしようもない側だと思っていたけど社会に出て働いてみたらけっこう仕事楽しいし別にそんなことはないとわかったからというのも確実にあります。

めちゃめちゃ自分語りしてしまった! 一次創作を絡めて自分語りするのって自分語り界でも相当恥ずかしい部類なので、最初にあんまちゃんとツイートせずに無意識にぼかした理由が今わかりました。

 

869.過去のツイートを拝見する限り、上野千鶴子やセジウィックの著書を読んでおられるようですが、どのような動機で手に取ったのでしょうか。

偏見かもしれませんが、二次元美少女好きの男性はフェミニズム系の話題を忌避しがちなイメージがあるため気になります。

そこまで深い関心や動機があったわけではなく、「現代社会においてフェミニズムは一つのキーワードだし、ネットを鵜呑みにして語るのも気乗りしないので、ちゃんとした学者の本を少しは読んでおくか」くらいのモチベーションです。あと個人的な関心を強いて言えば、「ホモソーシャル」が悪徳のバズワードになって男が集まっているだけで叩かれる風潮は男子校出身者として不本意だったので、元々のロジックを確認したかったというところはあります。

「二次元美少女好きの男性はフェミニズム系の話題を忌避しがち」というのはまあ仰る通り偏見寄りのイメージではあると思います。声のクソデカい反フェミニズム派のオタクが悪目立ちしているだけで、特に何も言ってないオタクがしれっと上野千鶴子とかセジウィックを読んでいる比率は一般人がそうしている比率とそう変わらないと僕は思っています(ソースなし)。

 

870.ゲーマゲの桜井さんって日系ですか?

欧米圏と日本のハーフかクォーターという説はあります。というのも元々桜井さんはジュリエットと同一人物という裏設定があって、ジュリエットがドイツ系の血を引いていた設定が引き継がれているためです。

ただ同一人物設定と国籍設定は両方ともオフィシャルに生きている設定ではないので確度は微妙なところです(最悪破棄してもいい設定)。

 

871.確定申告してて思ったんですけど、ヴァルタルさんから白花への報酬(報酬ではない)って源泉徴収とかされてるんですか?

全くされていません。その場で渡して完結する非課税のお小遣いです。

そもそも正式な契約を介さずに公務員が個人に金銭報酬を伴う業を行わせていることに加え、ブラウの個性で商売をすること自体も禁止されているため、これは作中世界でもかなりの違法行為です。

ただヴァルタルさんは杓子定規な規則より現場の事情を優先するタイプの公務員なので、お互いにウィンウィンなら別にいいだろうと思っているし、実際そうやって場を綺麗に収めることに長けているので周囲からもスルーされているだけです。

 

 

何か買ってもらえると嬉しいです。

www.amazon.jp

24/3/13 お題箱回143:スマホカメラの補正AI、空白期間etc

お題箱回143

851.自分の発言が違う意図で解釈されると長文で訂正してしまいます。
ヤバ仕草すぎるのでいい加減やめたいのですが、なかなかスルーできず困っています。LWさんは日本語能力の乏しい意見や罵倒(ときたま自分とは違う属性への罵倒も含む)を受けたときと価値ある批判とできちんと対応をわけている印象があります。
スルースキルや、その両者の見分け方(文章を理解して送ってくれてる批判なのか判別がつかないものへの対応)などあれば教えていただきたいです。

うーん? 価値を見分けるみたいなことはあまり意識していなかったし、今考えてもよくわからないですね。

普通に言っていることを内容ベースで最大限汲み取って愚直に答えればよくて、「これは日本語能力の乏しい意見だから適当に答えよう」とか「これは罵倒だからそれなりに応じよう」みたいな特にネガティブ方面にパフォーマンスの方向性を決めて答えるとあまり上手くいかない気がします。日本語能力に乏しければ「よくわからなかったところは勝手に解釈しますが……」と書き始めればいいし、罵倒も同意できれば「一理あるところはあって……」、全然同意できなければ「特にそうは思わなくて……」でいいです。

ちなみにこの投稿も「自分の発言が違う意図で解釈されたときに長文で訂正するのをやめたい話」と「このブログでは色々な意見を見分けて対応を変えているように見える話」の繋がりがよくわかりません。間の論理が端折られているため、「このブログでは意図の解釈が正確に行われているので、投稿者側は訂正を行う必要がなくなっている」みたいな話なのか、「このブログでもよくツイートの意図などを長文で訂正していることがあるが、それをヤバ仕草にせず上手くやっている」という話なのかの二択から絞れないということです(どちらも不正解かもしれない)。

いずれにせよ対応の話を処理すればヤバ仕草の話も勝手に解決しそうな雰囲気があるので後者のみ答えれば両受けになるだろうと思ってそうしていますが、長文で訂正する仕草をやめるには最初から意図が正しく伝わる文章を書くのが一番の近道のような気はします。

 

852.スマホカメラの補正AIによる不思議な文字は「学習データをもとにして画像を生成するもの」による文字ではないというツイートを見かけました(ここではそれを便宜上その話題での生成AIの定義としていました)。スマホカメラの補正技術がどのようなものなのかは分からないのですが、例えばお絵かきAIでも使われるアップスケーリング技術に学習データは不要なのでしょうか?

いい質問ですねえ!!(池上彰

いまどきの精度の高いものであれば、写真の補正やイラストのアップスケーリングにもだいたい学習データが使われているはずです。もちろん技術には色々あるので一概には言えませんが、スマホカメラの補正AIも学習データを使用していないことは多分あまりないだろうという認識です。ただ「画像の補正」が「画像の生成」に該当するかはわからないので、その点においてその便宜上の定義に該当するのかどうかは不明です。

生成AIが門外漢にもわかりやすい形で露骨に学習データを使っているので「生成AIだけが学習データを使っている」という認識の人もTwitterではちらほら見ますが、それは明確に誤りです。生成AIは機械学習業界全体からするとむしろ割と新参で、生成を行わないAIにも学習データはバリバリ使われています。例えば写真を撮るときに人の顔を自動認識して枠を付けてくれるやつとか、写真に映っている猫とか虫の種類を教えてくれるやつも機械学習の産物です。

ちなみに「機械学習は学習データを用いる」は真ですが、「AIは学習データを用いる」は偽です。職人が勘と経験で頑張って作った分類ルールによって動作する分類AIなど、機械学習を行わないAIも存在するからです。

 

853.lwさんは就活の際留年や休学退職についてはどのように説明していましたか
自分も鬱で大学を留年休学しており4月から復学と同時に就活も始めようと思っていて参考にさせてほしいです
過去に鬱病歴をわざわざ申告する必要はないと述べておられましたがそれはそれで空白期間ができてどうしたものかと思っています

就活面接で空白期間について聞かれる意図は「人格や能力の部分で空白期間の存在は業務上のマイナスに繋がらないかどうか確認したい」なので、空白期間をどんな意図でどう有意義に過ごしてそれが仕事にどう繋がるかをガッと喋っています。

例えば直近の無職期間だと自己鍛錬していた内容について説明していました。ホームジム作って毎日筋トレたり、ファイナンシャルプランナーの国家資格を取ったり、自主ゼミを主催して拡大したり、趣味の創作を分析込みで頑張ったり、日本最速でDSエキスパートの攻略記事を書いたり、体力・金融・コミュニティ運営・趣味・データサイエンスなどなど一度しっかり土台を作っておけば今後長く仕事にも活きることをちゃんとやってました~みたいな感じです。

そういう仕事に繋がる有意義な経験があるならそれを喋ればいいし、そうではなく完全に回復療養がメインだったら普通に「鬱病の治療してました」でいいと思います。鬱病は医学的に認められている立派な病気なので、ちゃんとした会社ならそれで大きく評価が下がることはないはずです(まあ他が全く同じ条件で鬱病歴あるやつとないやつだったら後者を採るかもしれないですが……)。

「鬱病歴をわざわざ申告する必要はない」というのは「わざわざ」の部分が肝です。「聞かれてないし説明に必須でもないのに自分から勝手に鬱病歴を申告し始める」と「聞かれたことの説明に必須だから鬱病歴を申告する」とでは天と地ほどの差があり、前者はヤバいですが後者は問題ないです(面接選考は自分語り会場ではなくコミュニケーションの場なので)。

なんか不安になってきたので念のため釘を刺しておくと、面接の場で鬱病歴に触れる際にしっかり伝えるべきなのは「ちゃんと病院で治療を受けた上で既に完治していること」です。「鬱病の発症経緯や辛かった症状の詳細」ではありません。

「鬱病の原因とかってありますか?」みたいに聞かれたら「ちょっと親との関係が悪くてしんどくなっちゃったけど、まあ今は一人暮らしを始めて解決してます」くらいのことを最低限答えればよくて、「当時は親との確執がいよいよ表面化してきた時期で、元はと言えば子供の頃にスイミングスクールで自分だけアイスを買ってもらえなかったことが私の中でしこりになっていて……」とか自分史を語り始めるともう終わりです。

 

854.LWさんの普段のツイートや記事を見ていると感情の起伏が少なそうな人のように思えるのですが最近何か怒りを感じたことってありますか?

最近はハースストーンのバトルグラウンドくらいです。

これはよくあるゲーマージョークじゃなくて脳から口に血の味が流れてくるあの感じでマジでキレてます。特にセットアップが終わってここから自軍が拡大して面白くなってくるという局面で低確率引いて雑魚に負けたときが一番キレます。

まあメンタルケアをちゃんとやればキレないようにするのは簡単ですが、ゲームにキレるというのはそれだけ真剣に向き合っている証拠でもあって、この怒りの火種は失わない方が総合的に見て人生にとってプラスだと思ってあえて残しています。

 

855.「初音ミクはアイドルなので楽曲ごとに違うキャラクター性を都度付与される」っていう認識というかイメージ
マジのガチで持ってなかったですか

その設定は初めて聞きました。僕は初音ミク文化を通ってきていないので「歌い手用にお手本を提供してくれる裏方の人」くらいの認識しか持っていません。

wikipediaとかニコニコ大百科を読んでもあんまりクリティカルな記述が見つからないのですが、一部の界隈でそういう風潮があるとかじゃなくてけっこう一般的なアイデアなんですかね?

 

856.ボーカロイドMVに出てくるキャラクターが、既存のキャラ論を用いることでどのような存在であると論じることができるか考察し、またDECO*27のように同じ初音ミクでありながらボカロPVとしての性質を持つキャラ(https://amzn.asia/d/9WqUij9)がどんな存在であるか、わかりやすく説明してください
参考文献として、ボーカロイド文化の現在地(https://booth.pm/ja/items/5230389)に収録されている『才華 - MVキャラはどこから来たのか、何者か、どこへ行くのか——2020年代前半までのボカロMVについて——』が有用です

これマジでChatGPTに投げる文章みたいな投稿ですね。表面的には意見交換のような体裁を取っているものの、ロジックの筋道や作業の手順は強く想定しているものが既にあって、本質的な内容というよりは表面的な作業を代行させようとする意志を感じます。確かにChatGPTと喋るならこういう感じが最適解なのでAIネイティブのコミュニケーションってこんな感じになっていったりするんですかね?

そこまでわかっているなら自分でやってほしいので考察と論述はやりませんが、参考文献には一定関心があるので買ってくれるなら読むくらいの感じではあります。

 

857.カードゲームで禁止が出たときに@lw_ruがよくやってる適当にカード名だけ並べたツイートしてるやつ、毎回見るたび「これ系のツイートだけ普段の十割増しでおもんねえな……」って思ってたけど赤犬禁止になったときのはちょっと面白かった。
ところでTCGってワンピカードみたく原作知らなくても新規TCGだからやる、って層が多いことに今更気づいたんですけど、格ゲーみたいなもんだと考えたら案外そんなもんかもしれない。
トルネコの大冒険みたいなもん?

これ言うほど面白いですかね?

確かにIPソシャゲなどは原作ファン以外はなかなかやらないのに対して、TCGは知らないIPの作品でも普通にやる人が多い気もしますね。それはゲームから世界観とかストーリーのガワを剝ぎ取ったシステム部分にも関心があるからで、オリジナルIPに乗り換えても継続したトルネコの大冒険と同じだと思われます。

 

858.うるユニの振り返りをやって欲しいです。
以前のお題箱回答で消極的であることは承知ですが、一読者としては小規模でも裏話を聞きたいと思っています。

就活も落ち着いてきたのでうるユニ会と記事をやる予定です。

一次創作って一人で色々やってるだけならともかく他人を巻き込むことを作者サイドからやるのはめちゃめちゃハードルが高くて(自分以外の熱量が全く読めないため)、こういう「需要あります」みたいなアピールは「じゃあやりますか」みたいな流れを外向きに作るためにかなり大事です。

 

859.>昨日からラビットホール子のイラスト一生流れてくるの何起き?
ブルアカ最強公式絵師のmx2jさんが描いたのをきっかけに韓国最強絵師や大陸最強絵師が続々参戦したのが理由かと思われます
(回答・返信不要)

これですかね?

なんかよく引用RT元になっている動画は投稿自体は2月頭なので、これを呼び水にして動画が再発掘されたみたいな感じでしょうか。

パッと見た感じだと2日くらいで終わりそうなブームですが、ミクの日を経由して1週間経ってもまだまだイラストが流れてくる異常事態になっておりありがたい限りです。

 

860.LWさんは絵をガチれば神絵師レベルの画力を手に入れられると思いますか?
絵心というものがよく分からず、絵も勉強も結局トライアンドエラーなので頭の良い人は順調にステップアップできるんじゃね?と思ってます。

正直時間取ってガチればいけるでしょと思っていますし、僕もクリエイティブはセンスじゃなくて理屈と分析で戦えると思っている方です。

ただ僕が描かなくても神絵師のTwitterをフォローするかお金を出せばそれで済むので自分がやるインセンティブが全然なくて、やってもいないしやる気もない外野が余裕でしょみたいなことを言うとけっこうタコられる界隈なので大声では言いにくい話ではあります。

 

861.尊敬してる人物はいますか?

いないことはないと思いますが、こう聞かれて思い付く人はあまりいません。

絵が上手いイラストレーターとか業績が凄い研究者みたいな客観的に見て普通に凄い人を漫然とリスペクトするマインドはありますが、「俺の人生において特にこの人を尊敬している」みたいなこの手の質問への想定解になる特定人物がいないということです。そういえばもう新卒でもないのでこういうのを就活で聞かれることもなくなりました。

 

 

何か買ってもらえると嬉しいです。

www.amazon.jp

24/3/11 お題箱回142:音楽クリエイターについて、オールインについてetc

お題箱回142

841.一般に楽曲CDの音源の波形を加工したら同一性保持権の侵害になり得ると思いますがボイチェンAIを通す事はこの「加工」になるんでしょうか

法律には詳しくないので厳密なことはわからないですが、たぶんイラストと同じで「AIを通した音声データが元データとどのくらい似ていてどんな条件を満たしてしまうとどのくらいマズくなるか」みたいなことが現在進行形で決まりつつあるくらいの認識です。

 

842.私は聖書及びヤハウェ&イエス・キリスト至上主義のクリスチャンなんですが、lwさんは聖書や神、既存キリスト教等の聖書等を採用してる様々な宗教団体をどう思いますか?
後、できれば大まかな分類的なlwさんの主義派閥宗派、科学主義社会主義、有神論者無神論者、利己性利他性等を10段階で数値化したり割合(7:3みたいな感じで)等を教えてほしいです

僕はキリスト教徒ではないですし派生団体にも思うところは特にありません。

基本的には無宗教者ですが、何らかの意味での神的なものは存在すると想定する方で、有神論:無神論は3:7くらいです(キルケゴールに怒られそうですが……)。利己:利他は8:2くらいで、概ね利他的に振る舞う動機は最終的にはそれが己に利するからだと考えてはいますが、完全に利己的な選択に振り切れるタイプではありません。一般的には科学と社会は相反しないと思うのですが、自然科学と社会科学のどちらに人類の本質を見るかみたいな質問なら均等に5:5です。

 

843.好きなギャグ漫画を教えてください。
できれば理由も聞きたいです。

ハルシオンランチとかKILLER☆KILLER GIRLSあたりです。ギャグは常に傾向を突破していくものなのではっきりとした好みはありませんが、ギャグの裏にも厚い設定やキャラの信念があったりする方が好きかもしれません。

 

844.LWさんとおんなじ発想に至ってしまい困惑してます。わたしも先のツイートと似て
自分、男です。
今めっちゃ勃起(ボッキ)しています。
みたいな文言なら男判定取れたと思ってます。冷笑じみた変なユーモアを急に口に出すやつ…

確かにこれは男しか言わなさそうな説得力がありますね。

男子校コミュニティの話をするたびにたびたび触れていますが、やっぱり男しかいない世界の話って原理的に男にしか観測できないので(女性にも観測できる男コミュニティになった時点でやっぱりちょっと別物になるため)、部外者の語りはだいたいズレているし内部からの語りはだいたい合っていると感じることが多いです。

 

845.新版アフォーダンスはあとがきが興味深かった(言語研究のアフォーダンスなど)ので深堀りをしたい。

僕の記憶には残らなかったので今読み返したのですが、直接知覚説やルンバの喩えを含む20個近いキーワードの内容が新版で書き足されたと記載されていました。僕がこの本の内容だったと記憶していることほぼ全てが加筆らしいので、逆に旧版の内容がどうなっていたかは少し気になりますね。

 

846.最近主観としてはyoutubeでの音楽コンテンツの技術進歩に感動するんですが、あんまり世の中としては跳ねる気配を感じません。3Dアニメ,mmd,ボカロソフト(Synthesizer V)など要素技術的には凄いクオリティになってるし、実際いい動画も出てきてるけど、コンテンツ力ある箱的には従来止め絵+文字ビュンビュンが費用効果最適に見えます。
以前漁った感じTacitlyとか人声ですがいい感じだと思うんですがあんまり伸びないです。歌ってみた好きのLWさん的には在野音楽クリエイター活動に展望とか感じますか?

知識がなくてよくわからないのですが、ここで言う「在野音楽クリエイター活動」というのは実質的には動画クリエイターのことでしょうか?(音楽を中心とした動画コンテンツ全体を作る人のことを指している?) 「音楽クリエイター」と表現されている割には、要素技術として挙げられているものがほとんど動画要素であることからそう推測しています。

僕も音楽に付いている動画はそれなりには好きなつもりですが、挙げられているような要素技術には驚くほど関心がありません。Tacitlyも一通り漁ってみて個人的に良いと思う動画はありませんでした。

僕が好きな動画はこの辺で、技術的に凄い必要は特になく、重要なのは歌詞を語るストーリーテリングとして優れていることのようです。

youtu.be

www.youtube.com

僕が歌ってみたに求めているのはシンプルに歌なので、動画はその副産物的なポジションに留まります。止め絵一枚でも全く問題ないし、動画内容も歌詞を描いていたりと歌をエンハンスしているものは評価しますが、歌い手の3Dモデルが歌唱しているような映像には興味がありません。その人がそんな感じで歌っていることはわざわざ目で見なくても耳で聞けばわかるので、動画を見たところで歌に対して追加で得られる情報がないからです(元々かなり好きなキャラクターとかだったらギリギリ見るかもくらい)。

全体的に僕が好きなのは歌い手だけで音楽クリエイターにはあんまり興味ないです。最近のポケミクとかもめちゃめちゃ楽しみにしている割には初音ミクが歌ってる動画は一度も聞いたことなくて、黒兎ウルさんがポケミクを全曲カバーしているリストをウォッチしているので、これが更新されて初めて「新しいポケミクがリリースされた」と認識して聞きに行くみたいな感じですね。

youtube.com

 

847.ジャンププラスで今連載してる漫画で面白いと思ってるやつ教えて

ジャンケットバンク、スケルトンダブル、ゴダイゴダイゴ、トマトイプーのリコピン、Big Faceあたりです。ただ神漫画神更新とかツイートするほどではないし、接客無双やデッドプール:SAMURAIに匹敵するレベルで楽しみにしているものは正直今はないかもしれません。

 

848.最近話題の脚本家による原作改変の是非についてはどうお思いでしょうか?
個人的にはありだと思っています。
脚本家が意図して原作をつまらなくしよう、と改変することは無いと思います。
作品を映像化するためには莫大な金が必要であり、今の映像産業界ではその金をスポンサーから引っ張ってくるしかありません。
原作者は作品を無二の息子、娘のように思う方もいると思いますが、スポンサーは作品を数ある広告の一部としかとらえません。
また原作者が小説家の場合などは、映像にする際の勝手がわからないこともあるでしょう。
そういった原作と現場のクッション役として脚本家という職業があるように思います。
私自身もオタクの端くれとして、実写化、ドラマ化に苦い思いをすることも何度かありましたが、スポンサーに金を出してもらう、という構造が根底にある以上仕方のないものだと思いますし、その責を脚本家一人に負わせるのも違う気がします。
また、小説、漫画と映画では尺や現実的に撮れる絵などで制限が生じ、それに合わせるために適切に展開を改変する、というのもありだと思います。
LWさんはどうお考えでしょうか?
下手に発信すると炎上しかねない(というか確実にする)ので、リスクが大きいと感じられたら無視して頂いて結構です。
長文、拙文でお目汚し失礼いたしました。

概ねアグリーです。

saize-lw.hatenablog.com

投稿文ではスポンサーサイドとエンタメサイドの利害が対立すると捉えているようにも感じますが、前回のお題箱回では別に相矛盾しないと捉えることにも(それだけが絶対正義ではないにせよ)一定の理があるみたいなことを書きました。

 

849.カードゲームで強くなる方法を読みました。とても面白かったです。
カードゲーマーの戦闘民族エピソードでお気に入りのやつがあれば聞きたいです。

これですね。ありがとうございます。

saize-lw.hatenablog.com

カードゲーマーに限らず極まったゲーマーがやる究極ムーブである「オールイン」が昔からかなり好きです。「オールイン」とは「全て捧げる」の意で、例えば「世界を目指してスト6に半年オールインする」というのは「世界大会に出るために半年間を全てスト6に捧げる」という意味になります。

オールインにおけるオールとは本当に文字通りの「全て」であるため、学校に通っている場合はまず退学、会社に勤めている場合はまず退職することが最初の前提になります。そして睡眠や食事や風呂のような生存に必要な時間以外はスト6を半年間プレイし続けます。

「目的を達成するにしてももっと健全なやり方をした方が近道ではないか?」という説は根強くありますが、僕はそういう狂人のマインドでなければ辿り着けない領域があると信じている方ですし、オールイン経験者のことはかなり好きです。僕もいきなり映画100本見たりするムーブが出来るのは浪人時代に受験に一年オールインしたからではあります。

 

850.カードゲームが強い人たちって一日中カードゲームしてるんですか?

学生はともかく社会人になって一日中というのは現実的に不可能です(カードゲーム強い人も人生オールインまではしてない)。

ただMtGが強い人たちは「学生時代の有り得ないくらいのやり込みがあって今がある」みたいなことはよく言っていて、今もずっと一日中カードゲームしている必要はないにせよ、人生のどこかで一日中カードゲームしている期間があったことは強くなることの必要条件のような気もします(諸説あり)。

実際、周囲のゲーマーがよく使う言い回しとして「〇〇筋を付ける」というものがあります(例:「格ゲー筋を付ける」「カード筋を付ける」「読者筋を付ける」)。人生のどこかで一日中〇〇だけをするような期間を設けることによって〇〇の筋肉が精神的に形成されて、それはしばらく〇〇をやらなくなったら一時的に衰えたりはするけど、筋肉自体は最初に作ったものがずっとあるので鍛え直せばまた〇〇が扱えるようになるという世界観です。

逆に言うと全く筋肉が存在しない(一度もやったことがない)状態でちょっとだけ練習したくらいでは筋肉が形成されないので後に残るものが何もなくて、どうせやるなら一時的にやり込んで永続的な筋肉を作りましょうねみたいな考え方は一定真実であるように思われます。

24/3/9 お題箱回141:ゲームプランナーのKPI分析、日本語変数etc

お題箱回141

833.ゲームプランナーです。
KPIの分析に苦手意識があります。(売上、DAU、DRU、PU、ARPPU、課金率、継続率など)
仕事は数年続けていますが、分析方法は我流ではっきりと定まっておらず、実際の施策に活かせている実感もあまりありません。
LWさんはどのように分析していましたか。
参考にした書籍やサイト等もあれば教えてほしいです。

無職の身で仕事のアドバイスをするのは気が引けますが聞かれてしまったので答えます(聞き方的にコンシューマーではなくソシャゲ運営プランナーという前提で答えます)。

KPIには立場によって色々な見方があるので、KPI分析に着手する前にまず立場に応じた目的をはっきりさせましょう。ゲームプランナーはゲーム内容を企画する仕事なので、KPIを分析する目的はゲーム内容を改善することになるはずです。

しかし売上やDAUのような主要KPIは非常に粗い粒度での指標に過ぎず、それを眺めていてもゲーム内容とどうリンクしているかはほとんどわかりません。KPI自体が分析対象であるというよりは、KPIを呼び水にしてユーザーの動向を細かく深堀りしていくことになります。

そのためには、KPIの数値変動からゲーム内容の変動に至るまでのロジックをはっきり固める必要があります。自分が作っているゲームの仕組みはどうなっていてユーザーはどう遊んでいるのかを具体的に想像しながら、あるKPIの動きはユーザーがどこでどう動いた結果として生じたのかという仮説を立てて調べてください。

例えば今週の主要KPIのうちで売上が大きく減っていたとして、全体売上のグラフを眺めて唸るのは時間の無駄です。そうではなく、ゲーム内で売上を構成する要素を洗い出して、売上変動の内訳はどうなっているのかを具体的に調べましょう。仮にガチャとサブスクと単発商品があったとして、とりあえずメイン収入源である新ガチャの回転が落ちていることが判明したとします。

そうしたら次はガチャの回転が悪かった理由を調べます。不幸にもあんまり売れなかったガチャの目玉ユニットをユーザーがどう感じたり使ったりするかを想像して仮説を立て、Twitterやゲーム内チャットでテキストマイニングを試みたり、クエスト系のログにSQLを投げて新ユニットの使用率を調べたり、思いつく限りの方法でデータを引っ張ってきて仮説を検証してください(データを眺めてから仮説を立てる順序でもOK)。

例えばガチャの新ユニットの使用率が低いことがわかった場合、「新ユニットを引いた人も別にそんな使ってない→そもそも新ユニットはユーザーが使いたいと思うものではなかった」という理由が考えられます。ではなぜユーザーが使いたいと思わなかったのか。「性能は悪くないはずだが使い方が難しすぎたのではないか」という追加の仮説を立てたとして、それを検証する方法としては初心者と上級者のようにユーザー属性別でガチャの回転数変動を調べることが一つ考えられます。

もし運よく「上級者は普段通りによく引いているが、初心者はいつもより引いていない」という傾向が見つかった場合、「使い方が難しいユニットだったため、ゲームに習熟していたりコンボするユニットを既に所持していたりする上級者からの需要は高かったが、初心者は入手しても使えなかったり使い方がわからなかったりして引こうと思わなかった」という仮説がだいぶ固くなってきます。そこまで掘り下げられれば、初心者に向けてコンボ用のユニットを無償配布したり(無償なのでレアリティの低い劣化版とかでOK)、ユニットの使い方を公式Twitterで説明したりといった施策が考えられます。

ここに挙げたストーリーはほんの一例です。本当は最初に売上の内訳を調べる前にDAUやARPPUも細かくチェックした方がいいですし(例えばARPPUが変わっていないのにDAUが落ちて収益が下がっているなら本質的には収益というよりはユーザー離脱と流入減の問題)、実はガチャの回転が悪くなった理由はガチャの内容とは特に関係なくて来月の大型イベントに備えたユーザーの買い控えかもしれません。途中分岐は無限にあります。

ゲーム内容に留まらなくなってくる例も一つ挙げておくと、例えばDAUが減少していたとして、DAUのグラフを眺めて唸るのはやはり時間の無駄です。DAU減少としてモニターされる事象でも、背後で起きている事態が「新規登録者が減っている」か「既存ユーザーが離脱している」かではユーザーの動きが全く異なるので、まずそれがどっちなのか確定する必要があります。

仮に新規登録者がグッと減っている場合、それは広告のようなゲーム外の問題であることが考えられます。ゲームプランナーが広告出稿まで担当しているかどうかは組織によりますが、とりあえずその辺をやっているマーケティング担当者を特定して直近の事情を聞くのが最初のアクションになるはずです(しれっと予算が減らされてしれっと広告出稿数が減っているとか……)。

一方、既存ユーザーのリテンションが下がっている場合はゲーム内容の問題なのでゲームプランニングの管轄になります。どんな属性のユーザーがどの段階でどんな風に離脱しているのかを調べましょう(と簡単に書いていますが、これは概ねユーザー個別スケールでデータを見る羽目になるため相当しんどい作業になります)。もし初心者の離脱が目立つのであればゲーム開始当初のサイクルが上手く回っていないことが考えられます。例えば運営の長期化によってチュートリアル内容と実際のゲーム内容が噛み合わなくなっていたとしたら、チュートリアルを作り直す必要があるかもしれません。そして最悪なことに上級者が離脱しているのであれば事態は深刻です。エンドコンテンツの訴求力が落ちているのであればそれを作り直し、カムバックメールを送ったりして何とか上級者を呼び戻すことになるでしょう。

僕がイメージするゲームプランナーのKPI分析はこういう感じです。投稿文の「分析方法は我流ではっきりと定まっておらず」という言い方に若干の違和感があって、ゲーム内容の分析に我流も亜流もありません。常にそのタイトルのゲームプランナーが本流です。あるゲームについて一番詳しいのはそれを作っているゲームプランナーのはずで、通常業務では中身を構築するところを逆向きに検証するのが基本だからです。類似事例も探せば大いに参考にできるとは思いますが、本質的にはタイトルごとの個別具体的なゲーム内容からスタートすることを忘れると碌な結果にならないと思います。

あとこれは邪推かもしれませんが、KPIの分析に苦手意識があるのは利益を上げるための分析だと思って取り組んでいるからだったりしません? ぶっちゃけ「会社を儲けさせたい」っていう原動力で企画を作ってるゲームプランナーってあんまりいなくて、普通は「ユーザーを楽しませたい」とか「面白いゲームを作りたい」だと思うので、利益そのものには正直そこまでは興味ないというのは別におかしなことではないと思います。だから会社がちゃんと儲けてるか確認するためにKPIを見るんじゃなくて、ユーザーがちゃんと楽しんで遊んでくれている結果としてKPIが付いてくるくらいに思っていた方がモチベーションを保ちやすいと思います。売上そのものは興味なくても一生懸命考えた企画がちゃんと楽しまれているかどうかはゲームプランナーとして普通に気になりませんか?

ただ実際のところ、現場のユーザーログはそんなにしっかり結論を出してくれないし、込み入った分析の工数をなかなか取れないのがプランナーの悲哀ではあります。無職の部外者だから偉そうに理想を語れるだけで、日々の企画に追われているゲームプランナーがこういうことを落ち着いて考えて実行する気持ちと時間の余裕はなかなかないことも承知しています。しょうもない作業を何とか高速でやっつけてひねり出した時間でちょっとした成功例を作ってからチームを説得したりして工数を確保するのが現実的な動きになるような気もします。Good luck!

 

834.伊藤純也選手が性加害の疑惑によりアジア杯を戦っている日本代表から離れることになりましたが、この件についてなにか思うところはありましたか?教えていただきたいです。

そんなに興味ないですが、公的な判決が出てない段階で私刑みたいな形で社会的な制裁が発生する状況は普通にかなり良くないな~とは思っています。

別に警察や裁判所を含む治安システムが絶対に正しいとは思っていませんが、多少のエラーがあったとしても一応それを信頼してやっていくのが法治国家の最大公約数のはずで、性加害かどうかに関わらずあらゆる犯罪で判決前に干されるのは感心しません。

と、学生時代ならここで終わっていたのですが、とはいえ何も全てに対して判決が出るわけではないというのが人間社会の難しいところではあります。不倫のように犯罪ではなくても社会秩序を維持するために犯罪相当の扱いをされるべきようなイベントもありますし、特に人気商売であれば風評が生じた段階で「今後の収益低下が見込まれる」というだけの理由で一定キャンセルを受けることは資本主義の論理としてわからないではありません(全く健全ではないが、ステークホルダーにとっても生き死にが懸かっている状況で不利益を取ることを強要するのは難しい)。

ただそういう共感レベルの話になってくると、個人的には性加害疑惑に特有の共感できなさみたいなものは確実にあります。というのは僕自身が「そもそも異性と性的に接触しない」という選択肢を取れる側の人間なので、仮に冤罪だったとしても性加害疑惑が回避不可能な事故であるという印象があんまりないからです。

 

835.最近爆笑した経験ってありますか?

爆笑した記憶はあまりないです。めっちゃ面白いとき爆笑するタイプではなくて「それは面白すぎる」「今月で暫定一番面白い」とか言うタイプだと思います(オタク)。

 

836.ジバニャンとかツッパニャンみたいなキャラ好きなんですか?

かなり好きです。なんか男友達感があるキャラが好きかもしれません。

かわいいニャンねえ

マスコットキャラみたいなやつ全体的にかなり好きな方ですが、目がキラキラしてて直球で可愛いキャラよりは、目が死んでたり鈍そうだったりスレてたりするキャラの方が好きです。

ポケモンで言うとピカチュウとかプリンよりコダックとかヤドンの方が好きですし、ジュエルペットとかシナモロールとかミッキーマウスよりポムポムプリンとかリラックマとかくまモンの方が好きです。

 

837.資産どれくらいまで行ったら完全に仕事辞めて遊んで暮らしますか?

「人は資産が閾値を超えたら完全に仕事を辞めて遊んで暮らす」という前提の質問ですが、別に資産がどんだけあっても仕事を完全には辞めないと思います。週3勤務とかに縮小するにせよ、働いて社会とか新しい情報との接点を持たないと人生が先細りするのでちょっとは働いた方がいいです。

ただもう先が長くなければ先細ってもいいので、死期が見えてきたら完全に仕事辞めて遊んで暮らしてもいいかもしれません。そういう意味では金額というよりは年齢の問題で、60歳くらい?で2000万くらい?ですかね?

 

838.大学の公用語を英語にという話題で母語で学べる事の素晴らしさを説く発言を沢山見かけるのですが、その理屈でいけばプログラミングても日本語変数名を使えるとこは使っていく事を推奨した方が日本のプログラミング力を上げる観点でよいですかね?

概ね賛成です。日本語変数の利用についてはかなり諸説ありますが、僕は日本語変数を使った方が生産性が上がる(ことがよくある)というのは正しいと思う派閥です。

変数名ってめちゃめちゃ重要なのに英語に変換するところでエラー起きたり情報落ちたりするの普通に意味不明ですからね。ただ既に英語変数名が浸透していて無駄な混乱を避けるためにルールは統一すべきという事情もあるので、そこの折衝をどうするかというのが現実的な問題でしょう。

なんか一昔前は「英語を流暢に使えるやつはよく勉強してて偉い、英語も喋れないのはちゃんと勉強してない怠惰」という風潮一色だったのに、最近だと「アメ公が母語を世界標準にして楽してるだけ、非英語圏のやつが頑張って覚える必要ない」みたいなポジションも成立するのはいい時代になりました。これも機械翻訳の普及とリベラル活動の成果ではあって、僕も語学そのものにはあんまり興味ないのでそちらにこっそり肩入れしたい方です。

 

839.「カレーのレシピに風力発電は関係しているのか」というパンチラインで確信したんですが、最近のLWさんは物事を喩えたり、噛み砕いて説明する能力が明らかに高水準になっていませんか
文学的修辞やいわゆる美文とは違うけれど、厳密さをできるだけ損なわずに物事を簡潔な形に言い換えるのがシンプルに上手いと感じます
こうした言い換えや喩えの表現が可能になったのは、やはり小説執筆が影響しているのでしょうか?それとも何か他のトピックでしょうか?(仮にブログをただ書き続ける事で無意識のうちに鍛えられたとしても、在野の強キャラぽくてかっこいい)

ありがとうございます。確かに言われてみれば小説執筆が関係してるような気はします。

そもそも僕は格の低いライトノベルを志向しているので小説を書くにしても修辞とか美文にはあんまり興味なくて、基本的には伝えるべき情報を正確に伝える文章を書くべきだと思っています。

ただそれは「右腕を六十度上げた。手首を捻った。ボールを前方に投擲した。」みたいに物理的に正しい動作を書くこととは全く違います。というのは、人間が普段の暮らしの中で物理的な世界観で物事を捉えていることって基本ないので、そういう書き方をしても人間の認識が混ざった地の文としては別に全然正しくないからです。

結局「動物園で見た白鳥のネックカーブを思い出しながら意識して腕を滑らかに回したが、しかしボールは嘴のように鋭い直線で飛び立っていった」みたいに書かざるを得ませんが、これは修辞とか比喩が使いたくて使ってるわけでは全くなくて、人間が実際に世界を認識しているやり方に近付けて正しく描こうとした結果です。

そういう風に小説執筆時には「抽象的な把握や認識を、喩えや言い換えを総動員して正確に表現しなければならない」みたいな意識があって、それは修辞ではなく正確さを志向した結果であるため、小説以外で噛み砕いて説明する局面でも役立っているという事情であると思われます。

 

840.LWのサイゼリヤのアイコンは何ですか?

Living WallというMtGカードのイラストを元に自作したものです。水疱に埋まっている胎児を可愛い感じのキャラにしています。

カード

自作アイコン

Some fiendish mage had created a horrifying wall of living flesh, patched together from a jumble of still-recognizable body parts. As we sought to hew our way through it, some unknown power healed the gaping wounds we cut, denying us passage.

ある悪魔のような魔道士が、原形をとどめた肉片がごちゃごちゃに継ぎ合わされたこの恐るべき肉の壁を作り上げた。その壁を切り裂くが、謎の力によって傷口がふさがり、我らの行く手を阻むのだ。

 

(フレーバーテキスト)

Living WallはMtG屈指の猟奇カードとして知られていて、たぶん肉壁の素材に巻き込まれた妊婦の体内にいた胎児がそのまま壁に埋まっているみたいな経緯だと思われます。左下に描かれている大人の歯と比較すると体長5センチくらいしかないため、赤ちゃんですらなくて明らかに出生前というグロテスクさが特にお気に入りです。

 

 

何か買ってもらえると嬉しいです。

www.amazon.jp

24/3/6 全カードゲーマー、CROSS GEARをやれ!

お題箱から

832.CROSS GEARっていうカードゲームが結構面白いのでお時間ある際にカードゲームリテラシーの高いご友人と遊んでいただいての所感をお伺いしたいので、気が向いたら欲しいものリストに入れておいてほしいです(気が向いたときに確認して入ってたら買っておきます)
第三者なので案件ではないです

欲しいものリストからカードゲームが送られてきました。ありがとうございます。

補足501:MtG日本王者ではなくMtG世界王者でした(訂正)。

何度か遊んでみましたが、確かに相当面白くて周りのカードオタクたちからの評判もかなり良かったです。マイナーカードゲームには定期的に触れる機会を作っているのですが、過去に触れたその他全てより明確に優れていました。

「基本ルールは単純ながら奥が深くて飽きず、プレイ感には既存のカードゲームと異なる新鮮さがあり、フレーバーも芳醇で戦略のコンセプトが面白い」という大抵の新興カードゲームが自称するが別に達成できていないことを普通に達成していると言ってよいと思います。掘り尽くされたと思われていたカードゲームのデザイン空間にもまだこんな領域が残っていたんだなと感動しました。

内容はカードゲームですが商品としての立て付けは完全にボドゲで、1箱買えば全てのカードが手に入って2~3人で遊ぶことができ、パックなどの追加購入もありません。価格は3980円とカードゲームにしてもボードゲームにしてもそこまで高くないため、とりあえず買って遊んで損しないと思います(ノンアフィ・ノン案件)。

 

異常に速いゲームスピード

ルールをちまちま書くよりエッセンスだけ書くと、CROSS GEARの本質は「異常に速いゲームスピード」に集約されます。

補足502:普通のゲーム紹介なら「GEARLINK」「DRIVE」という二つの固有システム紹介から入るべきですが、本質はそこではないのでこの記事では触れません。

基本的には「毎ターン2つずつ増えるマナを使って美少女を召喚して殴っていく」というオーソドックスなマナ制カードゲームでありながら、マナ効率が異常に良いために全ての行動が速いです。そのため決着も早く、概ね3~5ターンくらいでゲームが終わるという音速ぶりです。

召喚が速い! 攻撃も速い!! 除去まで速い!!!

 

召喚が速い!

CROSS GEARのカードにはテキスト以外の数値は左上の一つしかありません。

このカードは左上の数字が「3」

カードゲーマーなら「ああ3マナのカードなのね~」と思うところですが、これはマナコストではなく戦闘に使う「パワー」です。ちなみにパワーは「1」と「2」と「3」の3種類があります。

マナコストは? どこにも書いていません。

じゃあどうやって唱えるの? パワーに関わらず全てのカードが1マナです

そう、CROSS GEARでは「どうせ全てのカードが1マナなのでマナコストを特に記載していない」というのが真相です。先攻1ターン目には1マナ捻ってどんな生物も1マナで投下でき、更には毎ターン2マナずつ増えるので先攻2ターン目には3マナ捻って3体投下できます。召喚が早すぎる。

マナコストが全て1である以上、「手札が重くて唱えられない」という手札事故は存在しません。それどころか「マナを溜めて高コストカードを出す」とか「マナコストが重いカードは強い」とかいう概念もありません。

全プレイヤーに確実なスタートダッシュが保証されているために後攻1ターン目から殴り合いを始められるのがCROSS GEARのスピード感です。

 

攻撃も速い!!

CROSS GEARでは当然のように召喚酔いがありません。全てのカードが場に出たターンから攻撃できます。

ただし代わりに攻撃には1マナが必要です。なんだ、それなら言うほど早くないんじゃ……と思ったところでさっきのカードをもう一度見てみます。

「ダメージは倍になる」というテキストに注目

さっき勉強したように、このカードのパワーは左上に書いてある「3」です。更にテキストに「相手プレイヤーにダメージを与える時、そのダメージは倍になる」と書いてあるので一発殴ると3×2=6点入ります。ちなみに初期ライフは20です(MtGやシャドバと同じ)

そろそろ何かがおかしいことに気付いてきたでしょうか。このカードは1マナで出せて召喚酔いせずに1マナで走れます。そして相手プレイヤーに攻撃が当たれば6点ダメージが入り、初期ライフ20点を14点まで落とします。つまり2マナあれば即座に相手ライフを1/3近く抉れることになります。いくらなんでもクロックが早すぎないか?

召喚と攻撃に必要なマナはカードによらず1マナであるため、「どんなカードでも1マナで召喚して1マナでそのまま攻撃できる」、つまり「2マナあれば空の場からどんなカードでも走ってくる」という異常な殴りバーストがCROSS GEARのスピードです。攻撃が早すぎる。

 

除去まで速い!!!

異常なスピードで毎ターン殴られていたらすぐに死んでしまうので当然CROSS GEARにも除去はあります。

「パターンわかってきた、どうせどんな除去呪文でも1マナで唱えられるんでしょ?」と思ったカードゲーマーは残念ながら不正解です。そもそもCROSS GEARに呪文は存在しません。「0マナ除去が生物に内蔵されている」が答えです。つまりどういうこと?

代表的な除去持ちカードを紹介します。

通称タップキル子

【攻撃時】のテキストを読んでください。「相手のダウン状態のアーツ1つを対象とし、それを破壊する」とは「相手のタップしているクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する」という意味です。この効果を使うために必要な追加コストは特にありません。

つまりこのカードは「攻撃時に無料でタップキルする」というパワー2の生物です。さっき確認したように「2マナあればどんなカードでも出して走れる」ので、これは2マナあれば「場に出て攻撃してタップキルして相手ライフを2点削って場に残る」という挙動ができる生物です。たった2マナで全てをやるんじゃない!

CROSS GEARにはこういう除去内蔵生物が多く存在しており、タップキルだったり火力だったり布告だったり色々な除去がオマケで誘発します。音速で殴るついでに無料で除去まで打つのがCROSS GEARのスピードです。わざわざマナを払って除去呪文を唱える必要はもうありません。

 

なぜ異常に速いゲームが成立しているのか?(オタク向け補足)

(この節は煮詰まったカードオタク向けの補足なので、煮詰まったカードオタクじゃない人は読まなくてもよいです)

バリアンスの異常な小ささ

ここまでCROSS GEARというゲームの異常なスピード感を紹介してきましたが、煮詰まったカードゲーマーが次に言うことはわかっています。すなわち「これ引きだけの運ゲーじゃね?」と。

その心配はわかります。手札事故が存在せず音速で殴って数ターンで終わるゲームなら、要するに相手より早く殴り切る手札を配られた人が勝つだけのゲームではないかと。早く終わるならドロー枚数も少ないのだから、初期手札の質が勝敗に強く影響するのではないかと。しかし完全に杞憂です

何故ならCROSS GEARではデッキ構築が6種類×5枚ずつ=30枚で固定だからです。ただでさえデッキ枚数が少ない上に各カードの枚数が多いため、引きムラはかなり起きにくくなっています。ドローやサーチや濾過も存在し、更にはダメ押しとして「1マナ払えば1ドローできる(1ターンに何度でも可)」というルールすらあるため、むしろ動きの再現性は極めて高いです(動きのバリアンスが小さい)。

 

カード玄人もニッコリ

デッキ構築方法についてもう少し詳しく書くと、CROSS GEARでは6人いるリーダーのうち2人のリーダーを選んでデッキを作ります。

1人のリーダーが持っているカードは3種類×5枚ずつ=15枚であり、リーダー2人を選択した時点で15枚+15枚=30枚のデッキ内容が確定します(6人のリーダーから2人選ぶだけでデッキ内容が決まり、デッキは6C2=15種類しか存在しません)。

そして選択したリーダーはゲーム開始時から公開されている、つまり自分のデッキ内容は相手に完全に把握されていることになります。

ここまでの情報を統合してみましょう。

  • バースト火力が異常に高い & 除去も異常に強い
    →相手の返しへのケアが必須
  • デッキ内容はお互いに筒抜け & 動きの再現性が高い
    →相手の動きがほぼ完全に予想できる

つまり、CROSS GEARは突き詰めれば「相手の動きを完全に把握した上で、切り返しのバーストと除去をケアして動くゲーム」になります。

「相手のリーダーの組み合わせだと返しにMAXで何点出せるのか」を計算した上でそれを削り切られないようにブロッカーを立ててライフ水準を維持し、「相手のリーダーの組み合わせだと返しにどんな除去が飛んでくるのか」を計算した上でそれが直撃しないように盤面を構築します。このために表面的なスピード感に反して1ターンはいくらでも濃くなります。

このように構築要素の代わりに知識とプレイングとケアで競えるあたりが競技志向のヘビーゲーマーもCROSS GEARを楽しめるゆえんです。極まった段階でのプレイ感は環境末期のゲームに酷似しており、アーキタイプごとに結論構築が既に共有されている状況において相手のデッキへの理解を武器にして全てをケアしながら動いていくゲームはカード玄人なら望むところでしょう。

補足503:最も近いのは知る人ぞ知る遊戯王の04環境です。

 

Flesh and Bloodに似てるかも?

ついでにディープなカードオタク向けの話をもう一つ重ねておきます。

冒頭に書いたように「基本ルールは単純ながら奥が深くて飽きず、プレイ感には既存のカードゲームと異なる新鮮さがあり、フレーバーも芳醇で戦略のコンセプトが面白い」を達成し、最近流行の兆しを見せているカードゲームにはFlesh and Bloodがあり、ルールは全く違えど魅力としてはCROSS GEARと一定似ているかもと感じています。

ポイントはいずれも「マジックザギャザリングからつまらない時間を無くしたゲーム」という点です。つまりMtG(を代表とするマナ制カードゲーム)での「少しずつマナを増やしていく時間帯」を追放したゲームデザインになっています。なおこの売り文句はこちらのFlesh and Blood紹介記事からの引用で、面白いのでオススメです。

note.com

もちろんFlesh and Bloodは毎ターンマナが増えるゲームではないし、ゲームが長引くと1時間かかったりもするのでプレイ体験はCROSS GEARと全くの別物ですが、手段は違えど目的は共通しているように思います。Flesh and Bloodはマナの生産手段を土地ではなくピッチスペルにすることで、CROSS GEARはカードとシステムに異常なマナ効率を与えることで、1ターン目から激しい攻防をスタートできるという速さの魅力が共通しています。

 

3980円で今すぐ買え!

最後の方はカードオタク向けの早口になってしまいましたが、返しのケア盤面とか深いことを考えずにとにかく速いゲームシステムに乗っかって予想外のリーサルが出たり出なかったりする大味なゲームとしてもかなり楽しめます。別にカードゲームに限ったことでもないですが、本当に良い作品は素人と玄人を両受けできます。

カジュアル層からヘビー層まで受けの広い斬新なカードゲームとして3980円は安い! 10連ガチャを1回我慢してこっちを買え!

普通にハマっているので次の日曜日に調整会をやって戦略編の記事も書きます(この記事は紹介編)。この記事に書ききれなかった魅力として美少女リーダーたちの戦略とフレーバーが噛み合っていてキャラ立ちが強いことなどもそっちで書く予定ですが、たぶん次回は既プレイヤー向けになるため気になる人は自分でプレイしておいてください。

24/3/3 ボーはおそれている チンポマン鬼つええ!

ボーはおそれている

だいぶ面白かった!

『ミッドサマー』も『ジョーカー』もまあまあ……という感じだったので期待は中の上くらいだったが、先発作品に比べるとエンタメ要素とスリラー要素のバランスがよくて最初から最後まで飽きない。

 

街の治安悪すぎて草

まず病的に心配性な主人公の世界認識が過剰に提示されるプロローグで引き込まれる。薬を服用したあとに水を飲まなかったくらいで死の恐怖を感じ、自宅に施錠していなかったくらいで部屋がならず者たちのパーティー会場になって全てが崩壊する、僅かな不安が悉く現実化していく様子はコメディ風味すらある不条理ムービーだ。

真昼間から全裸の包丁男がうろつく治安が悪すぎる世界は、現実世界そのものではなく彼の脆い精神世界を投影してもいるのだろう。実際、因果関係が破綻しているシーンは色々なところに大なり小なり挿入されている。例えば監視カメラの画面をリモコンで送ると未来が見えてしまったり、少女がペンキで乱暴に塗った壁には何故かボーの名前が描かれていたり、ここが尋常な世界ではないことの示唆には事欠かない。

そんな描写ばかりだが、しかし全編を通してどこが妄想でどこが現実かを知ることに大した意味もないだろう。結局、主人公からは世界がそう見えているというだけだ。独立して内面を持つキャラクターは主人公以外には一人も登場していないし、誰も彼もが主人公から見た限りでの戯画に過ぎない。そもそもタイトルからして『ボーはおそれている;BEAU IS AFRAID』だし、とにかく主人公からはそう見えていた(おそれていた)ことが一貫している。

主人公の内面を世界に投影しているからこそ、音声も込みで画作りが巧みで記憶に残るシーンが多い。例えば荒れ果てた部屋の中でミキサーだけが回り続けていたり、母の死を知って呆然とするボーの足元にまで風呂の水が溢れてきたりするシーンは印象的だ。凍り付いたように動かない世界が決して平穏なものではなく、隅っこで何か一つ二つ滲み出る液体のように不気味な影が蠢いている構図は確かに不安の原形質である。

 

エッチなのは駄目 死刑

序盤から節々で垣間見えていた破綻の気配は、軍人に追われて逃げ込んだ森で長尺の劇を見るあたりからいよいよ激しくなっていく。主人公が自らの内面に没入していくことはいよいよ自らのルーツを辿る旅が始まることでもあり、劇中劇において「自分に子供がいたかもしれない」という未来の可能性を見ることから遡及的にルーツへの疑念が始まるストーリーテリングは巧みだ。

というのも、主人公が神経症を患ったそもそもの原因は母親から「家系の男は心臓が弱くてセックスすると死ぬ」「父親もセックスしたときに死んでいる」と言われたことにある。男性器から快楽を得ることに対して死という根源的なペナルティを結び付けることで、その力を失わせる変則的な去勢不安が母親から与えられていると言ってもいい。いつもマリア像を持ち歩くマザコンの主人公は言いつけを信じ、幼少期に出会った女の子ともセックスしないままに別れてしまい、童貞のままで自信も持てずに罪悪感だけを強く感じるパーソナリティが培われていった経緯がある。

しかし劇中劇という妄想の中で(架空の)子供たちから「子供を作ったにも関わらず何故父親=主人公は死んでいないのか」と投げかけられたことで、「子供を作ると死ぬはずなのにどうして自分は生きているのか」という疑念の種が芽を生やす。これが彼の精神世界であることを踏まえてもっと正確に言うならば、「何故自分は射精すると死ぬと理解しているにも関わらず不条理にも子供と話す未来を空想できるのか」、更には「何故自分は母親を信じているにも関わらず母親の言いつけを棄却しなければ不可能な未来を空想するのか」。そこで父親らしき人物もちょうどよく登場する、いや、これも正確に言えば、父親が存在する=母親が嘘を吐いている可能性をはっきりと幻視したことになる。

そして疑念は解けぬまま実家に辿り着いたところで、かつてセックスしないまま別れた少女とも再会する。そこで強引なエスコートによって逆レイプ気味にセックスに突入し、遂にイっても死なないことを発見する! その生存が証明したのは母親がかけた呪いは完全な嘘であること、そして根本的な原因をクリアした主人公は病的な不安から解放されて健全な人生を歩めるようになるということ。もっとも、それは映画がここで終わっていればの話だが……

直後、このセックスすらも母親に仕組まれていたことが発覚する。このあたりからストーリーはトゥルーマンショーじみた内省的な舞台裏へと急転していき、いよいよどこまでも逃れられない罪悪感が前景化してくる。母親が語ることによれば、つまり主人公が母親に対して感じていることによれば、母親が底抜けに愛情深かったが故に却ってそれに応じきれなかったことによって根本的な挫折と罪の意識が生じているらしい。母親も所詮は他人のバリエーションであるということをついぞ理解できなかったがために他人との適切な距離感を得られず、魚に餌をやるように乞食にも施すべきだったという過剰な良心の呵責から逃れられない。

 

母は強し そしてエロし

ポップ精神分析じみたことを言えば、これは現代式の変則的なエディプスコンプレックスのように思われる。本来のエディプスコンプレックスにおいては子供は母親を性的に欲することを父親から禁止されて去勢を被ることになるが、しかし現代において父親は超自我として振る舞えるほど強権的な存在でもない。「友達親子」という流行語も死語になって久しいが、わざわざそんな表現をしなくなったのは親子関係が昭和の上下関係へと逆戻りしたからではなく、むしろ友達気分が当たり前になってしまったからだろう。

だからいまどき父親は去勢を施せないとして、しかしかといっていよいよ子供は父親になり替わって母親とセックスできるわけでもないのだ(母親の側にそのインセンティブがないから)。今度は母親が前もって父親を殺害しておくことによって子供から父性を得る機会を奪い去り、結局のところは子供を去勢してしまう。男根という性的な経路を失った子供はただひたすらに母親と同一化しようと試みるが、所詮は他人である母親に完全に一致することなどできようはずもなく、あとは母親が放つ無限の愛情に応えられないという罪悪感が空回るばかりなのだ。

補足499:ボーが少なくとも潜在的には母親に性的な価値を認めていたことは同級生に母の下着を提供したエピソードではっきり示されている。

特に屋根裏に潜む父親が謎の最強チンポマン(Tier S)と化して軍人(Tier A)を瞬殺したシーンは、母親が再構成した世界観における父親の立ち位置として非常にわかりやすい。圧倒的な暴力性能を誇るまさしく男根であるような旧世代の父親をこそ母親は前もって封印しておいたのであり、その封印によって母親が去勢した子供に唯一許される振る舞いはといえば、母親と一緒に恐れおののくことだけなのである。この母親の支配下で再編されたニューオーダーにおいても、子供がチンポマンになり替わることは依然として禁忌となる。

補足500:ところでこの記事の冒頭に貼ったポスター画像で正面から捉えたボーの顔が男性器のように見えるのは俺だけだろうか?

こうして見れば、ボー=ホアキンがオッサンであることに反し、意外にもこの映画で描かれた母親-男児関係は実にZ世代的というか、頑固おやじとしての父親が失われた時代においてはむしろ典型的なものであるようにも思われる。最近も就活で親に確認を取るオヤカクという言葉がニュースで紹介されていたが、セックスすら母親に支配されたボーの姿はそれに近しいものがある。

 

脳外科と泌尿器科に行こう(提案)

ところで、オープニングで謎に挿入されていた出産シーンは、罪悪感から抜けられなかった絶望的なエンディングに対応する明確な希望のアンサーであったのかもしれない。というのも、主人公が頭を打ったことで病的な人生が始まったのであれば、母との葛藤とかチンポマンがどうこうとかを一切合切抜きにして「主人公の頭がおかしいのは出生時に頭を打ったから」で全て済むからだ。母は真っ当に子供を心配していたし、不幸な事故でそうなっただけ。だとすれば、ボーのおそれは然るべき外科的な処置を受ければ完治する程度の話でしかないのかもしれない。

この精神的な混迷と物理的な外傷との対応については、中盤で外科医が主人公に対して「精巣の病気でキンタマが腫れすぎている」と謎のコメントをしていたことも思い出させる。これもやはりアクロバティックな仮説ではあるが、もし仮にボーが父親にチンポマンの幻影を見たりセックスを恐れたりする性器周りの不安を抱く本当の理由が「キンタマが腫れているから」というだけのことなのだとしたら、それに生来の不安症の気質や過去の記憶が結び付いて去勢不安を捏造していたのだとしたら。幽霊の正体見たり枯れ尾花と言うように、不安というのは意外とそんな程度だったりもするものだ。