LWのサイゼリヤ

ミラノ風ドリア300円

19/9/7 アズールレーンクロスウェーブがガチで面白い

アズールレーン クロスウェーブ

017[1]
アズールレーンコンパイルハートのファンなので買ってクリアしました。
かなり面白かったです。まあ普段遊んでるしダイヤ代と思ってお布施しとくかくらいの気持ちだったんですけど、期待を遥かに超える出来でビックリしました。

正直に言って、買う前は全く期待していませんでした。
元々コンパイルハートは毒にも薬にもならないようなキャラゲーの量産を得意としているし、スマートフォンアズールレーンのノベルパートは率直に言ってかなりつまらないので、相乗効果で何も生まれないだろうという見込みでした。特に今回は原作とゲーム制作で会社が違うし、既存の試みから逸脱しない無難オブ無難なキャラゲーが供されることを予想していました。

が、アズールレーンクロスウェーブは今まで描かれなかった陣営の異なるキャラクターの絡みを積極的に作っていて、明石がエンタープライズを煽ったり、ジャベリンとプリンツ・オイゲンが手を組んだりします。その経緯も適当に組み合わせるんじゃなくて、キャラクターごとの思想的な差異がきちんと設定されていて、馴染みのあるキャラクターたちが非常によく動いているなあと楽しく見ることができました。
基本的にFD(ファンディスク)なので元々アズールレーンをやっていない人にオススメできるかはわかりませんが、スマートフォン版を遊んでいるなら買って損はしないゲームだと思います。

明らかに普段のコンパイルハートアズールレーンのライターよりも力量のある者がテキストを書いているように感じたので、僕にしては珍しくクレジットでシナリオライターを調べたりしました。
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恐らくコンパイルハート内製社員のシナリオライターKazumichi Muraseさん、ググってもヒットしませんが、LWが応援しているのでこれからも頑張ってください。

僕がキャラゲーの理想形として最も高く評価しているのが5章の展開なんですが、ネタバレを含むので追記に回します。
物語の核心部分のため注意してください。
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ざっくり全体のストーリーを復習すると、重桜、ロイヤル、ユニオン、鉄血のいつもの4陣営が「合同大演習」を開催し、各陣営がゲーム形式で景品「キューブ」の争奪戦を行う……という話です。

5章ではキューブが莫大な力を秘めたエネルギー体であることが発覚します。鉄血のビスマルクがその危険性を知らしめるためにキューブの力を使った爆撃パフォーマンスを行い、キューブの持つ軍事的ポテンシャルが演習参加者全員の知るところとなります。
これによってキューブは単なる大会景品ではなく明確な争奪対象となり、表面的には演習が続いているのに、各陣営がもはやゲームではなく本気でキューブを奪い合うという政治的な構図に移行していきます。強大な力を持つ「キューブ」をどう扱うかという点で各キャラクターの思想が分かれ、無数の派閥が形成されることになります。

これが単純な4陣営の争いにはならないというのが最大のポイントです。
イデオロギーが陣営単位ではなくキャラクター単位で設定されているので、所属陣営から離脱していくキャラクターも一定数いるし、時には異なる陣営のキャラクターが手を組んだりするんですね。陣営だけに依拠しないキャラクターごとの思想の違いをきっちり描いているというのが僕が最も感心したところです。これこそが本当のキャラゲーキャラゲーってこうあるべきです。

4陣営の中でも、最も自分の陣営に固執するのはロイヤルです。
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今回はクイーン・エリザベスは登場しないのでフッドが事実上のトップなのですが、彼女及びロイヤルの大多数は「キューブは全てロイヤルが管理する」という独占的な立場を取ります。
これってロイヤルがイギリス貴族だからなんですよね。封建制君主制ヒエラルキーの上の方で優雅にくつろいでいる連中なので、根本がエリート主義で独善的な発言にも迷いがありません。物腰の柔らかそうなイラストリアスユニコーンベルファストあたりもノータイムでフッドに賛同していくのが面白いところです。彼女らもティータイムを囲む仲間である以上、やはり貴族社会の恩恵を享受している一員であることが垣間見えます。

しかし、ロイヤル陣営の中でもジャベリンだけは特権階級意識に与しません。
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ジャベリンはエリート主義の貴族たちとは「考えが合わない」と述べてロイヤル陣営から離脱していきます。何度でも言うんですけど、ここで「ロイヤル陣営だから」という理由で全員をひとまとめにしないで、必ずしも所属陣営に同調しない在り方も描いているのがこのゲームの偉いところです。これは陣営ゲーではなくキャラゲーなので。
ジャベリンは王冠を付けてはいるけど、イギリス貴族ではなくイギリス庶民なんですね。ジャベリンはメイド隊ではないし、クイーン・エリザベスのお茶会に参加している感じもしないし、それよりは同年代の綾波とかラフィーと仲良くしてるキャラクターですから、貴族主義とは相容れないのも頷けます。
ここでジャベリンとプリンツ・オイゲンが組んでいるのも面白いところです。プリンツ・オイゲンも鉄血陣営からは離脱して「はぐれ者同士」としてジャベリンに合流するんですが、プリンツ・オイゲンは鉄血陣営に賛同しないというよりは、常に飄々とした「遊び人」=スキゾ体質なので特定の体制にコミットすること自体を嫌うのでしょう。ジャベリンはロイヤル貴族体制には付いていけないけど、だからといって代替案を提示することもできないという微妙な立場にプリンツ・オイゲンがシンパシーを示すのも納得がいきます。

ジャベリンを除くロイヤル勢が自国への誇りに基づくポジショニングを基本姿勢とする一方、ユニオン勢はアメリカ人らしくもっと現実的な観点からキューブを捉えていきます。
例えば、ユニオン陣営のうち、ラフィーとセントルイスは「使えるものは使えばいいじゃん」「何かもっといいものが作れるのでは?」という発想でキューブ活用派を形成します。
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テクノロジーそのものに善悪は無いとして実用性を重視するスタンスって非常にプラグマティズムで技術者気質ですよね。ロイヤル主流派が「キューブを独占できるか」という政治的な考え方をする一方で、ユニオン勢は「キューブを利用できるか」という経済的な考え方の方が優位です。ラフィーとセントルイスが組むのって結構意外ですけど、二人とも「眠い」「エロい」みたいな刹那的な享楽ベースで行動している節があるので、とりあえず何でもやってみる開拓者精神というところで相性が良いのかもしれません。

ここに合流してくるのが東煌陣営=中国人の平海です。
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キューブは「値打ちがあるから粗末に扱うのはよくない」という、ややステレオタイプな中国人の商売気質が平海にはあるようです。「キューブの価値をそれ自体で認める」という点において、商人肌の平海とプラグマティストのラフィー・セントルイスの意向が合致し、この三人が一つの派閥を構成します。平海・ラフィー・セントルイスってスマートフォン版でもここまでの話でも特に絡んでないのに、友情とか親愛じゃなくて思想と利害の一致だけで結託するのが面白すぎますね。同じテクノロジーに注目したアメリカ人と中国人が一緒に会社を興すっていかにもシリコンバレーで実際に起きてそうです。

しかし、ユニオン陣営もやはり一枚岩ではありません。革新派のラフィーとは異なり、トップのエンタープライズは極めて保守的です。
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エンタープライズはラフィーと真逆で、キューブ破棄派の筆頭です。意外にも破棄派にはポートランドサラトガが続き、ユニオン陣営の最大派閥を構成します。彼女たちは表面的にはラフィーよりもおちゃらけているように見えて、実際には「インディアナ・ポリス」や「アイドルとしての立場」のように永続的に守らなければならないものがあるために、そこまでチャレンジングに生きることはできず保守に寄るという立場の違いが表れています。性格的にはほとんど見えない思想の違いが行動によって表現されているのが素晴らしいと思います。
ただ、エンタープライズ勢力がキューブを破棄したいのは「扱いきれないから」という理由であり、利用可能性という軸でキューブを捉えているのはラフィー勢力と同じです。そこはやはりどちらもアメリカ人というか、プラグマティズム精神そのものは通底した上で、右派と左派で分かれる格好になっています。

また、誰しもが明確な立場を取るわけではなく、「無党派層」も存在します。
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このセリフ結構凄いですね。雪風は自分が考えないことに対して自覚的です(メタ認識!)。政治闘争ではなく実は哲学的な方面に親和性があるのかもしれません。山城も「全然わからない」とか言いながらここに入ってきて、雪風・金剛・山城の三人が重桜陣営から離れて無党派・マス・大衆層らしきものを形成します。確かに、人数が増えればそういう層は確実に発生します。

他にも綾波&Z23派閥とか鉄血派閥とか色々あるんですけど、重桜を中心とする主人公派閥が各派閥と戦いながら説得していき、最終的には穏当な共和制に落ち着いていきます。それは重桜=日本が軍隊を持たない民主主義だからというのは恐らく邪推で、ただ単にお祭りの落としどころとして最も妥当だったというだけでしょう(重桜ってどちらかというと戦前日本っぽいですし)。

さて、アズールレーンクロスウェーブが以上のような優れたキャラクター描写をできた背景には二つの条件があったと思います。
一つは、今回はゲームから指揮官を完全にオミットしたことです。指揮官がいるとどうしても全体をトップダウンで意思決定を行う軍事組織として描かざるを得なくなってしまいますから、キャラクターたちが個人的な思想を述べる余白が無くなってしまったでしょう。キャラクターに好き勝手なことを言わせるためには、一時的には離脱が許される程度には緩い連帯関係として陣営を描く必要がありました。これは僕の推測ですが、ロイヤル陣営にクイーン・エリザベスが登場しないのも似たような理由だと思います。彼女はロイヤルの女王として影響力がありすぎるので、迂闊に話に出すだけでロイヤル勢の言動・行動を過度に制約してしまう恐れがあったのではないでしょうか。
もう一つは、このゲームが新規IPではなく既存IPのFDであることです。ここが非常に微妙なところなのですが、新しいキャラクターを最初から何らかのイデオロギーに準じた存在として描くのは、実はそれほど面白くありません。キャラクターがそのイデオロギーの寓意であるとしか思えなくなり、キャラクターそのものに対する愛着が発生しなくなるからです。キャラクターの実存は本質に先立つべきです。アズールレーン クロスウェーブの場合は、既に成立しているキャラクターに対して新たに「こういう考え方をする人間でもある」という形で思想を補足したからこそ、「ラフィーってそういう発想するんだ~」みたいな新鮮な驚きが発生します。

過度な期待をされても困るので最後に補足しておくと、このゲーム自体は派閥がガッツリ分かれて長々と政治的な闘争を描くというようなストーリーではありません。1派閥あたり1イベントでざーっと立場の違いが提示されたあと、やはり1派閥あたり1戦闘でざーっと共和制の下に再編されていくくらいのスピード感で、思想の違いはストーリーの主題ではありません。
それでもキャラクター単位で明確な思想の違いを設定して陣営を超えた派閥形成を描写するというのは、大量のキャラクターが出演するキャラゲーのFDとしては十分すぎるほどのサービスで、アズールレーンファンとしては非常に面白かったです。