LWのサイゼリヤ

ミラノ風ドリア300円

18/9/14 最近読んだ本1

・最近読んだ本

Yubit映研講義で「本を読んだ知見を共有できるといいですね」的なことを言った以上、自分で読んだ本を開示する責任がある気がするので、最近(サイゼリヤ講義以降に)読んだ本について書きます。
前回明らかに初手で読めない本を勧めてしまった反省を生かし、理系高卒くらいを対象読者に想定した「初手で読める度」も置いておきます。

・オススメ度
☆☆☆:必読
☆☆:読むといい
☆:興味があるなら

・初手で読める度(初手度)
☆☆☆:事前知識不要
☆☆:少し調べながらで読める
☆:まず読めないので他の本から入って
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バーチャルリアリティ


オススメ度:☆☆
初手度:☆☆☆

VRの標準的な入門書。
VR技術はいま非常に盛り上がっているが、学問としての歴史が浅いので学術的な権威のある教授陣によって書かれたちゃんとした本はあまり多くない(雑多な新書は無数にあるが)。専門的すぎず日本語で読める教科書として貴重。
特に普遍的なコンセプトが解説されているのがありがたい。VRは大衆向けにエンタメとして消費されることも多く背景にある思想は軽視される傾向があるが(ゴチャゴチャしたことを気にせずに楽しく受容できるのは良いことでもあるが)、その分一般人と研究者の間の認識の溝は深い。特に「バーチャル」という単語の意味などはその最たるもので、今一般的に使われている「仮想的」という訳はほとんど誤訳が広まったようなもの。VRについて語る前にソリッドな知識を押さえたい人にオススメで、バーチューバーのことを喋るときにも役立つかもしれない(俺は役立てたことないけど)。

・なぜ世界は存在しないのか


オススメ度:☆
初手度:☆☆☆

わりと最近出た存在論絡みの哲学書。貧民なので買わずに図書館で予約したら、借りられるまで半年くらい待つ羽目になった。
形而上学にしても心理的構成主義にしてもラディカルな方向に行き過ぎると実感とズレるから第三の選択肢を提示しますというのは地に足が着いていて好感が持てる。ただ、結局のところ存在や意味は環境・文脈への依存性を持つということが核心にあると俺は理解したが、それがどのくらい新規性を主張できるのかという立ち位置まではよくわからなかった(内容自体は新しくないと思うけど、それが意味を持つ文脈は?)。

現代思想の教科書


オススメ度:☆☆
初手度:☆☆☆

そろそろ現代思想の枠組みくらいは見ておくかと思って入門書的な本を三冊読んだうちの一冊。
俺が読んだ中では初手ならこれが一番読みやすいと思う。4つのキーワードを挙げた上で細かいトピック色々を提示するという形式で、全体と部分のバランスがいい割にサラッと読める。
キーワードだけ思い限りワチャワチャ挙げてる半辞書みたいな入門書もよくあるけど、アレって通読しても頭に何も残らないんだよな。俺は別々のものを同時に覚えられないから、大枠として全体を貫くテーマから引き出してくるような形で記憶した方がいい。かといってフンワリだけ覚えても意味ないからある程度は細部を読み込む必要もあって、なかなかバランスは難しい。

現代思想入門


オススメ度:☆☆☆
初手度:☆

ビジネス書みたいな微妙なサブタイトルに反してかなり良かった。
メジャーなフランスだけではなくドイツとアメリカまで扱っているが、それぞれの密度が高いし文章がうまいので読みやすい。
最近ようやく理解したんだけど、思想って批判的継承によるアップデートというスタイルを取るので、たとえ反省や反発によって生まれた新思想だとしても旧思想との共通点と相違点を同時に持つことが多いようだ。この辺は内容というよりはどういう軸を与えるかによってきて、マルクス主義を文化の自律性の否定と解釈して構造主義のバリエーションとする人もいれば、そもそもイデオロギーメソドロジーで根底のスタンスが違うという人もいる。いずれにせよ固定点を作ろうとするとあまりうまくいかない。今までは理系的なアイデアにとらわれていて混乱することが多かったので、整理できてよかった。
マルクス主義を出発点に据えており、要求する事前知識はかなり多いため初手では読めない。この本に限ったことではないのだが、マルクス主義構造主義現象学あたりは既知としてあまり説明されないので適当な新書とかで先に勉強しておくと捗る(俺もかなり前になんか読んだはずだけど、書名はもう覚えてない)。

現代思想の冒険


オススメ度:☆☆
初手度:☆☆

密度が高いが、説明はやたら詳しいので多分このくらいが「気合さえあれば初手でも読める」ギリギリのラインのような気がする(ただ、今冒頭を読み返したらマルクス主義だけは説明がほぼないので事前に知っておいてほしい)。
全体的に矛盾含みの何らかの総体としての社会に注目しているところは面白くて読みやすいのだが、終盤でその跳ね返りとして実存論みたいな哲学寄りの議論を詳しくし始めたあたりは正直あんまり興味が無くて頭に入ってきてない。俺は貧民だから本は基本的に全部図書館で済ませるんだけどこの本だけどこにもなくて買う羽目になったので、その辺はまたあとで読み返そうと思う。

・文学理論講義


オススメ度:☆☆☆
初手度:☆

文学理論もやるかと思って標準的な入門書を二冊読んだうちの一冊目。
まあかなり良かったのだが、この本を読む限りは文学批評はほとんど現代思想のバリエーションという印象を受ける。どの理論も、近代的にナイーブな普遍的人間観をリベラル・ヒューマニズム(オワコン)として退けた上で、現代的な社会構築物としてテクストを解釈するという手続きを概ね踏んでいる。そのおかげで現代思想とオーバーラップして理解できてコスパは良いが。
思想的な知識は前提とした上でそれをどのように文芸批評に応用するかという実践論なので、事前知識の要求ハードルはかなり高い。例えば「ポスト構造主義」という章は「構造主義ポスト構造主義の違いは何か?」という話から始まる(両方知らないと詰み)。その分、微妙なポジションの違いから生まれる対立模様がリアルな手触りで書いてあるので、そのへんのニュアンスがわかると面白い。

・文学理論


オススメ度:☆☆☆
初手度:☆☆

文学理論の入門書二冊目。
どちらかといえば内容はこちらの方が平易ではある。章ごとに各理論を解説していく黄色い方に比べて、こっちは各理論の同異点を横切っていく水平的な内容なので合わせて読むとよい。
かなり丸く書かれていてどういうトピックがあるのか抽象的にあるだけ挙げて結論を出さないスタイルなので、多少は具体的な理論についての知識がないと何を言っているのかよくわからずに読み終えてしまう気もする。「1冊でわかる」っていうのは概ね嘘で、ある程度フンワリした知識がある状態で整理に役立つタイプの本だと思う。





続く。