LWのサイゼリヤ

ミラノ風ドリア300円

18/3/29 今期日常系アニメの感想

スロウスタート

ファーストインプレッション(→)では「主人公が浪人しているというコンセプトに合致するコミュニケーション不全がちゃんと描かれていて良かった(Cパートの最後に明かす構成もGOOD)」みたいなことを書いた。全話を通してもそれは概ね一貫していて評価は高い。
いわゆる日常系ってひたすらに均質な相互認識が媒介する「わかりあい宇宙」みたいな世界観(女の子同士が無限の好意の下でベタベタしていること)が多いんだけど、スロウスタートはそうじゃない。皆良い人ではあるのだが、それはそれとして認知の非対称性に起因するコミュニケーションの破れが常に起こっていて、浅い会話の中でそれがいつ崩れるのかわからない。

俺が一番好きなのは5話のCパート。
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主人公の花名ちゃん(コミュ障)がニコニコニコニコしながらなんか喋るんだけど、その内容が予想外だったためにかむりちゃんが「えっ!?」ってフリーズしてしまう(発言が的外れなわけではないが、かむりちゃんにとっては意外な見解だった)。それを受けて何故か主人公も「えっ!?」とか言って一緒に固まって、すぐに「あ、あの……ご、ごめんね……なんか……」とクソ適当に謝る。
コミュニケーションの失敗に対する耐性のなさ、なんのフォローも効かずに主人公を通してそれが即表出する緊張感がすごくいい。高校浪人で対人能力が底を割っている主人公は「どうしたの?」とかで適当に会話を繋ぐことができず、自分が失敗したことだけを感知して(何がいけなかったのかはわからないのに)とりあえず謝罪して強制終了してしまう。かむりちゃんにとっても謝られる理由は特にないので、困惑が連鎖していく。

あとその逆パターンで主人公の異常性がうまく回収されたのが3話の自宅を公開するところ。
主人公宅にいつメン三人が訪ねてくるんだけど、主人公はコミュ障すぎて友達が家に来たことがないので、玄関を自作の装飾で飾り付けて出迎えてしまう。
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常識的に考えて高校生でこれって普通ではないわけで、主人公はそれを妥当だと思う一方でコミュ障ではない他の三人にとっては異常っていうやっぱり認知の非対称がある。

ここ、どうやって処理するのかな~って俺はすごくドキドキしながら見てた。
一番安直な反応は三人が「すごーい」とか言って適当に喜ぶことだけど(ごちうさとかならそんな感じになりそうだけど)、それはコミュニケーション不全が発生しないわかりあい宇宙の力学なので、それが起こるとスロウスタートは凡庸な日常系に降格してしまう。理想的にはコミュニケーションを失敗するべきシチュエーションだが、主人公がまず動いていて他の三人がリアクションするという状況設定が問題になる。主人公が自分のターンを終えている以上、会話が失敗するとしたら他の三人の発言がそれを行わないといけないことになり、そうなると他の三人までコミュ障になってしまう。
この板挟みの状況でコミュ強勢はどう対応するのか!?と俺の注目が集まる訪問シーン、エーコちゃんの応手は「かわいいなあ~もう~」(だけ)で天才かと思った。これ完全解答だよね。主人公の異常性を無視するわけではなく受け止めた上でポジティブに回収していて、全く喜んでもいないのに上辺の会話が成立している。

後半戦はコミュニケーション不全が減って普通の会話をするようになってきたところがあるけど、それはそれで主人公のコミュ力が上がってきたという言い訳が立ってしまうので評価を下げる理由にはならない。
まあ、失敗しているならともかくとりあえず成功しているコミュニケーションがわかり合い宇宙のものなのかそうでないのか(失敗する可能性を秘めているのかどうか)って潜在的で目には見えないという話もあるが、六話くらいまでの振る舞いを見て俺は評価するという方向で落ち着いた。

ゆるキャン△

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こっちはスロウスタートみたいに露骨な失敗をしたことは一度もないけど(シマリンはコミュ障じゃないから)、無限の強度で繋がった人間関係が存在しなかったという意味ではやはりアンチわかり合い宇宙(この単語便利だな)系日常アニメだった。
ナデシコが風邪引いて脱落してもシマリンは単騎でキャンプ強行するし、シマリンはメガネ女が苦手だし、クリキャンは全員揃うのに各自の交通手段で現地集合だし、用事があるわけでもないのに「クリキャンに行かない」という選択肢があるし、斉藤さんにも入部を断るという選択肢がある(ラビットハウスのピクニック回には不参加の選択肢はない)。
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俺はシマリンは斉藤さんと一緒にいるのが一番いいと思うんだけど……皆はどう?

・小泉さん


一話がめっちゃ面白くて期待高かったけど、終わってみれば一話だけ見ればいいアニメだったような気もする。
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これは明らかにギャグとしてやってるから同じように語るのは微妙なものの、小泉さん周りの人間関係も均質ではないね。小泉さんは悠がどんなに頼み込んでも一緒にラーメン行ってくれないのに、メガネが誘うと普通に来るのは笑った。

6話と9話の失速ぶりで明らかになったことには、ラーメン関係の雑学とかラーメン食ってるシーン自体はそんなに面白くなくて、あまりラーメンに興味のない悠が絡むと面白くなりやすい。
それは別に俺が萌えおたくだからというわけではなく、漫画とアニメで進行速度を決定する権利が受け手側にあるかどうかが違うことによる温度差だと思う。たぶん原作漫画だと小泉さんがラーメン関係のことをダラダラ喋ってるコマってそんなにちゃんと見ない。とんこつがどうとかいう具体的な話をちゃんと把握するんじゃなくて「小泉さんがラーメン語ってる」くらいの認識で流せるのだが、アニメだと強制的に十数秒視界が占領されるから、小泉さんが喋っている内容にも耳を傾けさせられてしまう。
エロ漫画とかもそうじゃない?エロパートって実はそんなちゃんと読んでないから、エロアニメでエロシーンが延々と流れてるのを見ると「なんでこいつらずっとセックスしてるんだ……?」って引く。