・お題箱53
91.現代思想(特にオタク的な話と繋がりがあるもの)を一から学びたいのですが、何から始めれば良いのでしょうか…?
定期的にこの手の質問が来ますが、「現代思想(特にオタク的な話と繋がりがあるもの)」という曖昧な表現になるのは非常によくわかる話です。
今って批評とか小難しい話をゴチャゴチャしながらアニメを見るオタクが少数派になっているために、各人のボキャブラリーがまちまちのような印象を受けます。完全に独立しているわけではなくて、むしろ根っこの基礎教養は同じなんですが、どの方向に派生していくのかが人によって違うのでどこから入ればいいのかわからないという感じではないでしょうか。ニュー・アカデミズムの時代なら皆『構造と力』を読んでいて、ゼロ年代初頭なら皆『動物化するポストモダン』を読んでいたらしいんですけど、今ってそういう同時代的なイデオローグみたいなものがなくないですか? 僕が知らないだけであるんですかね?
というわけで、一つに絞るのは諦めて、目に付くインテリオタク(もしくはスノッブオタク)の系譜を大雑把に三つ挙げることにします。僕の狭い観測範囲を恣意的に括るので異論は色々あると思うんですが。
一つ目はゼロ年代批評の延長戦上にいるグループです。
具体的には東浩紀、宇野常寛、斎藤環、大塚英志、大澤真幸(+見田宗助)、宮台真司、伊藤剛などの人たちです。ここが一番ライトというか、アニメやゲームの話を直接してくれることが割と多いため比較的わかりやすくて楽しい層です。20~30代くらいの若いサブカルオタクはだいたいここから影響を受けているんじゃないでしょうか。僕もここが好きです。
東浩紀『動物化するポストモダン』が筆頭の古典で、全体として社会学的な話題を扱うことが多いです。例えばアニメなら「アニメの内容や消費態度が社会的な変化を反映している」的な話で、スタンスそのものの理解に苦しむことはあまり無いのがありがたいところです。彼らのほとんどはアニメ監督とかではなくきちんとした学者なので、アニメより専門領域の哲学や社会学について喋っていることも多いのですが、アニメについて書いている本から入って興味が湧いてきたらそういうのにも手を伸ばせばいいと思います。
二つ目がニュー・アカデミズム(ニューアカ)の残党のグループです。
ニューアカとは1980年代初頭くらいの日本で起きた現代思想ブームで(詳しくはwikipedia→■)、今でも40代以上の比較的老兵のオタクがゴチャゴチャした話を始めたらここが念頭に置かれていることが多い気がします。ゼロ年代批評と違って別にアニメの話はしないんですけど、サブカルオタクを含む素人インテリの中で構造主義とか記号論が共通言語になった経緯って多分ここから来ています。
最近だと、浅田彰『構造と力』を今向けにアップデートした的な文脈で新反動主義とか加速主義が繋がってきているらしいですね。当時のニューアカブームを牽引した雑誌「現代思想」も今年の6月号で加速主義特集をやっていましたが、千葉雅也や仲山ひふみが若手の後継者ということになるんでしょうか。この層は別にアニメオタクではないのでそれがメインの議題ではないんですけど、加速主義の話ってコズミック・ホラーとかシンギュラリティとかサイバーパンクみたいなオタクの話と相性がいいので、オタク的にも熱いコンテンツになりそうな気はします。Vtuberの話なんかも、そういうボキャブラリーでやると面白そうですね。
三つ目は美学・芸術学アカデミズムの系譜です。
絵画や彫刻のように紀元前からあるメインカルチャー芸術をきちんと扱うような正統な学問を流用して、アニメや漫画のようなサブカルチャーを語ろうとする層ですね。この層の動向に僕はあまり詳しくないんですけど、芸術学権威の肩書を持っていてわりとアニメやゲームの話をする人たちというと、松永伸司とか松下哲也とか三浦俊彦でしょうか。
2019年の今アニメ評論をきちんとやろうとしている在野の層、アニクリなどの批評系同人誌はこの派閥が強い印象があります。内容というよりは芸術形式としてのメディア論とか表現・演出に注目することが多くて、メインカルチャーとサブカルチャーの狭間くらいにあるメディアとして「映画」を非常に好むようなイメージもあります(違ったらすいません)。
芸術学って他の学問に比べて割と独自の専門用語やロジックを構築している感じがありますし、この層の人たちはその分野のアカデミックな論文として書きがちなので結構とっつきにくいですね。どこから手を付ければいいのか、この立場が導こうとする価値はどこにあるのかみたいなことはむしろ僕が知りたいです。
適当に三つ挙げて書きましたけど、これは本当に便宜上のものです。
これ以外にもサブカルオタクのバックグラウンドは色々あると思いますし、僕の独断と偏見で分けただけで境界は曖昧です。そもそもゼロ年代批評がニューアカの残党でしょとか、ゼロ年代批評って別にアニメを語るための運動じゃなくてアニメをサンプルとして利用してるだけだからそこにしがみついてずっとアニメの話をしてるのはわかってない素人だけだよとか、ツッコミどころも色々あるでしょう。
また、ここにきて身も蓋も無いことを言うと、いわゆる現代思想的な知識はどの層の人も基礎教養として持っています。特にフロイト+ラカンとかドゥルーズ+ガタリあたりはどこでもよく取り上げられますが、同じドゥルーズ+ガタリにしてもゼロ年代批評の人たちがポストモダン論として『千のプラトー』からリゾームの話とかを好むのに対して、ニューアカの人たちは人生論として『アンチ・オイディプス』からスキゾフレニアの話を好み、芸術学の人たちは映画論として『シネマ』を好むというような細かい方向性の違いはあるような気がします。
まあ、思想の勉強から入るのはモチベが上がらないと思うので、なんかオタクっぽい本を読んでわからなかったら初めて入門書を読めばいいと思います。僕は素人なのでそうやってます。僕が好きなゼロ年代批評的な派閥から最初に読むとよさそうな本を挙げておくと、東浩紀『動物化するポストモダン』、宇野常寛『ゼロ年代の想像力』、大塚英志『物語消費論』、大澤真幸『虚構の時代の果て』、宮台真司『終わりなき日常を生きろ』あたりです。
92.KSUって何の団体ですか?
京都産業大学の略です→■。僕と仲の良いカードオタクたちに京都産業大学出身者が多くて、その辺の人たちの総称として「KSU」が用いられています。
名前を借りているだけなので京都産業大学と関わることは一切ないですし、僕が京都産業大学に行ったことも一度もありません。
93.LWさんってオタクとしてはだいぶ珍しいタイプに入ると思うんですが、このような系統に進んだきっかけは何ですか?
珍しいですか?
そこのニュアンスはよくわからないですけど、ブログのお題箱にこの質問が来るということはブログを書いていることを指しているんだと仮定すると、僕は中学生の頃から無限にブログを書いているのでもう生まれつきでしょうね。