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19/6/6 プロメアの感想 ヴィランとしてのバーニッシュ

・プロメアの感想

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まあ面白かった。女の子が可愛くて良かった。ルチア。

Twitterではプロメアは差別についての話だという見解を少し見たが、それはちょっと微妙な解釈だと思う。
つまり、「バーニッシュは被差別民の表象である」というところからスタートし、主人公は最初は体制側に所属してバーニッシュの弾圧に加担していたのだが、途中で差別構造に気付いて目が覚めてカーストを破壊したというような理解である。
この解釈だと、クライマックスがスッキリしないように感じる。地球を燃やすプロメアは革命の炎であり、最終的にバーニッシュが能力を失うのはヒエラルキーの平坦化ということになるのだが、この手続きではリオの暴力性能にかかるウェイトがあまりにも大きすぎる。被差別民が革命に成功するだけの暴力を持っていたというのが大前提になるから、暴力が勝っていたから清算できましたという葛藤の無い浅薄な話になってしまう。
また、差別に注目した読みでは「バーニッシュが虐げられている」という事態を出発点として考えざるをえないので、プロメア周りの設定を正当化することが難しい。「SF的な設定としてそうなっているから」以上の答えが得づらいのだ。例えば、「そもそも地球が爆発しかけているのはなんで?」「クレイがプロメアの力を搾取しようとすると地球の爆発が加速するのはなんで?」という疑問にあまり答えられない。「差別問題は地球の危機だから」という回答は可能だが、それは結論を先取りしている。

俺的には、バーニッシュは排斥されるべくして排斥されている集団に見えた。差別社会の無垢なる被害者ではなく、むしろ積極的に反社会性を持つヴィランの方が近い。
冷静に考えると、バーニッシュの思想は普通に狂っている。「燃えたいという炎の声が聞こえるので放火して回っている」とリオは洞窟で語った。「人を殺さないのがバーニッシュの誇り」という道徳的死生観で誤魔化そうとしてるが、放火してる時点で十分ヤバい。いきなり家燃やされて「逃げるための退路はあったからセーフ」とはならないだろ。そりゃ逮捕もされる。しかもこれがバーニッシュ過激派だけの活動というわけではなく、基本的にはバーニッシュは全員が炎の声を聞いていることはリオだって認めている。バーニッシュはとんでもないマルキチ集団であり、秩序維持という社会からの要請としても無差別弾圧政策は正しいと言わざるを得ない。

だったら、これってヴィランが抱え込んでる衝動とか欲望の処理方法みたいな話じゃないですか。
最初にリオが語ったバーニッシュの異常性って中盤でパラレルワールド設定とプロメアの性質に回収されたけど、それは別に異常性が一回性の設定に解消されたわけじゃなくて、根本的にプロメアが異常性=衝動=欲望の表象だったというところまで遡ればいい。こうすると、クレイがプロメアを搾取しようとして地球が爆発する理由も、欲望の制御不能性として理解できる。欲望を上から水路付けて都合の良いように使おうとしても、それは必ず暴発してしまうしうまくいかないということ。だから欲望は無意味に爆発させるしかなくて、それが唯一の解決策っていうのがクライマックスの解釈になってくる。

ここで気になるのは、最初にあった軋轢はクライマックスではどうなったのかということ。欲望の発散は社会と利害が相反するということが序盤から提示されているのに加えて、欲望を上手いこと制御して治めるのは不可能ということもクレイの失敗によって示された。では、クライマックスで欲望を発散したのにも関わらず社会を破壊しなかった(地球を燃やし尽くすと口で言っている割に、地球全体が大災害になっていない)のは何故か? ソリューションは何だったのか?
ここで主人公の存在が活きてくる。欲望は抑制できないけど相殺はできるのだ。社会を防衛することに執着する主人公がプロメアに感応した(一つの異常性として欲望の世界に参入した)ことによって、リオの欲望から社会を破壊する部分だけを打ち消すことが可能になる。

この、異常者には異常者をぶつけて相殺するという発想はバットマンのそれとよく似ている。バットマンではヒーローとヴィランが同根であることが主題になりがちだけど、プロメアではうまいこと綺麗に釣り合ってまとまった。それは焼き直しな上にご都合なだけなんじゃないかと言う批判は有り得るけど、俺はそうは思わない。その辺のバランスをリオとガロに象徴させて、アニメーションとかキャラクターでしっかり均衡させて見せたっていう演出の上手さに帰着して問題なく評価できる。