LWのサイゼリヤ

ミラノ風ドリア300円

11/29 「プリンツ・オイゲン」は固有名か否か

・お題箱29

42.乗っかって悪いけど
神性は規定不可能性と聖性の2要素からなり、大抵は両者を併せ持つが、ファニーゲームの二人は徹底的に俗で、規定不可能性しか持たないところに特徴がある
という説明でどうでしょう
(聖性しかない美少女はゴロゴロしてるので、規定不可能性と聖性を同列に並べて良いかは微妙かも)

大筋で同意します。ファニーゲームが規定不可能由来の神性から構成されているという点は正しいと思います。が、微妙に見解がズレていそうな部分を二点補足します。

一つはファニーゲームに関する話の力点として、僕は彼らがキャラクターであるという部分を結構重視しています。非キャラクターまで含めるのであれば規定不能性しか持たないものも結構あるのですが(天災など)、キャラクターが神性を持つ場合は聖性の方を強く伴いがちです。
よって「大抵は両者を併せ持つ」という部分は「キャラクターは」という条件付きなら同意できて、LW的にはファニーゲームの特異性は「キャラクターでありながら規定不能性だけを持った」という言い方になります。

補足87:キャラクターと聖性の親和性が高い理由はキャラクター自体が記号的な記述によって秩序立てて構成された存在だからです。すぐ後にも書きますが、僕は聖性の起源を言語や象徴と同一の秩序化機構に見ています。

もう一つ、規定不能性と聖性は同列に扱ってよいかという部分です。
LW的にはそれらはコインの裏表のような関係にあります。認識論的には規定不能性は現実の混沌に、聖性はその秩序化に起源を持っており、一つの対象への二種類の解釈として生まれてくると考えているからです。ただし、それが成り立つのは現実系に限られており(ここで言う現実系とは「まさに我々のいるこの世界」の意です)、模倣に過ぎない虚構系では「現実の混沌は疑似的にしか存在しない」という理由で規定不能性と聖性は剥離可能になります。よって、聖性しか持たない美少女がゴロゴロしてる~みたいな話は現実系か虚構系かという違いに吸収されるべきです。


うーん、お題箱だから普段ほどはわかりやすく書かなくてもいいかと思ったんですが、これは多分回答になっていませんね。本編を近いうちにやるので待っていて下さい。その後にまた読めば多分ちゃんと説明になっていると思います。

アズールレーンの感想(嘘)

この前→、ソシャゲではキャラ・プロット・ワールドの三つのうちでキャラだけが突出していて、その結果としてアズールレーンが一瞬で艦これを滅したり百合ファンアートが増えたりする現象が起こるという話をした。
が、そもそも何故ソシャゲではキャラが突出するのかという原因の方の話を忘れていたのでその補足をする。

原因の大元にあるのはソシャゲ特有のガチャシステムで、商業的な理由でガチャからキャラを供給するというシステムを採用していることに尽きる。

それによって発生する事態として、まず一つにはゲームの進行がキャラ主導になるということがある。ユーザーは自分で引いたガチャから出てくる多種多様なキャラクターの組み合わせでゲームを進めるため、世界やプロットよりもキャラが強く構成するゲーム体験が発生する(アイギスの感想を書いたときに同じ話をしたので詳細は→)。あるいはもっと単純に、キャラそのものにお金を支払ったりギャンブルしたりするから愛着がクソデカくなるという話もここに入れていい。
要するに、ガチャ=キャラが商業的にもゲーム体験的にも中心にいるということがソシャゲコンテンツ内でのキャラの権力を増長させる原因の一つである。

今回はもう一つ全く別の原因として、「キャラ名」の変質という話をしたい。
MVFCTkyW[1]
これは俺の所有ユニット一覧だが、よく見ると同名のキャラが複数人いることがわかる。サンディエゴは3人、高雄は2人、プリンツオイゲンが2人、汎用型ブリが4人……。
これは単にガチャシステムがそういう風にできているというだけだ。ソシャゲではキャラがガチャから出てくることになっているので、運が悪ければ同じキャラが被ることはよくある。既に所有しているキャラはガチャから出さないなどという配慮をするゲームはほとんどない(たくさんガチャ回してほしいからね……)。
では、同名のキャラが複数人いるという現状をどう捉えれば良いのだろうか。つまり、この状況で誰でもいいけど例えば「プリンツ・オイゲン」というキャラ名が何を示しているのかという疑問に対しては二つの回答がある。

1.「プリンツ・オイゲン」は固有名であり、コピーが複数存在する
2.「プリンツ・オイゲン」は一般名であり、個体が複数存在する

それぞれの案について説明する。
「固有名」とは「対象を一意に同定できるもの」、「一般名」はそうでないものを指す。「ガスキー家のたまドラ」は特定の猫一匹にまで対象を絞る固有名だが、単に「猫」は猫っぽい動物全般を示す一般名である。

補足88:「固有名詞」「一般名詞」と言うと微妙にニュアンスがズレていて誤解されそうなので避けた。
今回重要なのは「名前が対象を一意に示しているか否か」なので、固有名詞であろうと対象を複数持つものは一般名扱いにしたい。例えば「セダン」は特定の車種を指す固有名詞だが、「俺の隣家にある窓が少し傷付いたセダン」という特定の車一台を示せないので一般名扱いとなる。


「コピー」と「個体」の違いは同一のオリジナルを参照しているか否かである。
コピーはオリジナルを参照して模倣しており、固有名はその模倣関係を担保すると同時にコピーの振る舞いを制約する。一方、個体はそもそもどれか一つのオリジナルという概念を持たない。持っている性質によって一般名で総称されるものの、それは振る舞いに対する制約ではない。

流石に分かりにくいと思うので、例を挙げよう。
MOTHER2の「ネス」は固有名であり、コピーが複数存在するパターンに該当する。ネスというキャラクターの入ったゲームは世界中に存在し、俺のGBAに入っているMOTHER2にも、ガスキーのスーファミに入っているMOTHER2にもネスがいる。しかし、それら複数のネスは(世界中の猫がそうであるように)多種多様な生涯を送っているわけではなく、オリジナルのネスを参照元に持ち、そのコピーに過ぎない。俺のネスがレベル10でガスキーのネスがレベル35だったとしても、それは見ている時期がズレているだけで、ネスはいつでも開発者の想定した少年を模倣し続けている。
一方で、「猫」は一般名であり、猫的な要件を満たすものを全て猫と呼ぶだけで、オリジナルの対象を模倣しているわけではない。フィクションとノンフィクションの違いではないかと思うなら、「クリボー」あたりがいいかもしれない。クリボーはマリオと違ってどこにでもゴロゴロしていて、何か一つのオリジナル・クリボーを模倣しているわけではない(ここで言う「模倣」とは現実のキャラデザや挙動プログラムではなく、作品内世界における振る舞いを示すことに注意)。

改めて「プリンツ・オイゲン」について検討する。
プリンツ・オイゲン」が固有名である場合、俺のドックにいるプリンツ・オイゲンたちはそれぞれ「オリジナル・プリンツ・オイゲン」のコピーである。想定されている少女像が明確に存在し、コピーは独立にそれを模倣している。コピーたちは、本来的に単一であるオリジナルの生涯をスクリーンに投影するかのように別々の時間軸で上映しているに過ぎない。
プリンツ・オイゲン」が一般名である場合、俺のドックにいるプリンツ・オイゲンたちは単なる別個体である。プリンツ・オイゲン的な要件を満たすキャラの総称がプリンツ・オイゲンであり、個体はオリジナルを参照していない。プリンツ・オイゲンの生涯は本来的に多様であり、それぞれの個体がそれぞれの人生を送っている。

どっち!?
もちろんこれは感じ方だから人によって違うが、俺の感性では圧倒的に後者だ。
右のプリンツ・オイゲンはロックしてるしハートマーク付いてるしレベル85だ。左のプリンツ・オイゲンは覚醒用に取っておいてるだけで、別に退役してもいい。「プリンツ・オイゲン・一生懸命育ててる方」「プリンツ・オイゲン・ガチャから出てきて余った方」と呼び分けられる別個体である。

補足89:ネスもカセットによってレベルをカンストさせたり不殺を貫かせたり、別々の生き方を歩ませることはできる。しかし、それは「レベルがカンストする世界の『ネス』」「不殺な世界の『ネス』」であり、たまたまパラレルワールドに飛んだ同一の個体『ネス』のコピーに過ぎない。彼らは生まれそのものからして別個体というわけではない。
パラレルな同一個体・そもそも別個体という区別を俺が恣意的に付けているだけだと思うかもしれないが、明確な根拠は無いので実はそれは正しい。強いて言えば同一の世界(ROM)に存在できるかどうかという区別を設けることもできなくもないが、感覚を盾に強弁する方が誠実なのでそうする。


その証拠というわけでもないが、アズールレーンでは最終進化したキャラには自分で勝手な別名を付けることが出来る。これは「プリンツ・オイゲン」は単なる種族名に過ぎず、一生懸命育てた個体は他の同一名の個体と区別するための命名が行われるべきだという感覚に合致する。

ここまで来て、ようやくキャラの存在論的な立ち位置に言及できるようになる。
固有名を持つキャラは単一の生まれを持つ存在であり、反復再生のみ可能な一回性の生涯しか持たない一方で、一般名を持つキャラはそもそも別個に生まれた存在であるから、何かを模倣する必要が無い。
この意味において一般名を持つキャラは世界との接続が非常に緩いというか、そもそも存在しない。個体ごとのバックグラウンドの同一性が最初から保証されていないので、どの世界にも属することができるし、独自の解釈でプロットを刻んでもよい。

まとめると、「ソシャゲのキャラが世界から遊離しやすい理由は、ガチャシステムによって複数体が同時に所有された結果、固有名を失った別個体になるから」という話でした。
以上です。